♬〜
学校の放課後。 シンジは屋上で1人、父親のお下がりであるカセットテープレコーダーで音楽を聴いていた。
仰向けで青空を眺めながら。
フッ
そんな所に一瞬、シンジの所に影が通り過ぎ彼は気になり身体を起こす。
「ん?」
すると、空からパラシュートでシンジに向かって滑空してくる少女が1人。
「どいてどいてどいてどいてー!!!」
「おわっ!?」
シンジは驚きながらも立ち上がり、その場からバックステップして向かってくる彼女を抱きとめる。 そして勢いを殺しながら左足を軸に左回転してパラシュートを2人の身体で巻き取っていく。
「お〜〜〜?」
そんな呑気な声を出す彼女。 パラシュートは全部巻き取られ、回転は止まり両足で立つ。
何回か回った所為か…彼女は目を回してしまった。
「あらららら〜、おろ?」
「ふぁ…ふぁいしょうふれすか?」
何とか回復した彼女は、声がこもったする方を見ると彼女の適度な大きさがある胸に挟まれたシンジの頭があった。 彼は彼女と顔を合わせようとしていたが、パラシュートのヒモによって巻きつけられている為に顔を上げれないでいた。
それを見た彼女は、シンジの頭にかかるヒモを下げてやる。
「ぷはっ」
やっと外の空気を吸えたシンジを見た彼女は…一言。
「君…面白いね♪」
何処かオモチャを見つけたような笑顔を見せた彼女であった。
繋ぐ線と線
サー
水が流れる音が聞こえてくる。 ジオフロント内に設置されているガーデンには、川に見立てたような配置に水路があり其処には少女が1人体育座りで座っていた。
「…アスカちゃん」
「………」
アスカを追いかけてきたシンジは、少し距離を置いて話しかけるがアスカは無言だった。 彼なりに今の彼女の心境を理解しているのか、余計な事は発さずに彼女の方からの返事を待つ。
「…なによ。 なんでついてくんのよ」
「それは…」
「なんで私が責められてるの! 私だって合わせようとしてるのよ!! なのになんで!?」
アスカは彼女なりに人と合わせようと必死でいた。 しかし、彼女は過去での事があって人との関わりは最低限しか行っていない。
その為に人と合わせるのが困難になっていた。
アスカの後ろ姿を眺めていたシンジは、ゆっくりと彼女に近づき横に座り込んだ。
「…アスカちゃん」
突然隣に座り込むシンジに驚くアスカ。 彼は顔を合わせようとせずに、独り言のように話始める。
「俺はアスカちゃんの過去に何があったのかは知らないし聞かない。 誰にだって向き不向きがあるよ。 アスカちゃんが必死になって俺らと合わせようとしてるのは感じているよ?」
シンジの言葉に耳を貸しながらも、黙ってアスカは聞いていた。
「アスカちゃん? 俺との最初の出会い覚えてる? 『私がエヴァ2号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレーよ。 サード・チルドレン、碇シンジ。 私は貴方を超えてみせる!』って言われたなぁ」
(…よく覚えてるわね)
アスカは自分でシンジ相手に、そんな事言っていたとしみじみと思い出していた。 だが、彼が何故そんな事を掘り出したのか理解出来ないでいた。
「俺ってさ…自分でもお節介焼きだと自覚してるんだ。 でも、俺は皆に必要されたいと思ってるから色々としてんだよね。 それに対して皆が喜んでくれてると俺も嬉しくなるんだよ。
だけど、何故か俺と競おうとする人間が少ないんだ。
だから…アスカちゃんのような人がいると俺は嬉しいんだ」
「えっ…」
実際に彼が第3新東京市に来てから、シンジにライバル心や対抗心を燃やす人間は居なかった。 それには理由があり、人当たり良く接する彼の雰囲気に、周りの人間はシンジとの関わり方は緩やかな物だった。
その為に彼と何かで競おうと人間が存在しなかった。 だが、そんな中アスカだけはシンジに対して対抗心を持っていた。 今のエヴァパイロットの中では確実にシンジが上位の存在なるだろう。
そんな彼を超えればアスカは目的の為に大幅に努力を重ねていた。 ネルフに来てからも、シンジの記録を塗りかえようと挑んでいたのは彼は知っていた。 努力を惜しまずに前向きに進み、シンジと言う壁を乗り越えようとするアスカ。 今まで居なかった存在に、シンジはアスカに好感を持てた。
「君が困っているなら相談を受けよう。
倒れているなら起こしてあげよう。
傷ついた時は癒してあげよう。
落ち込んだ時は支えてあげよう。
助けてほしいなら向かいにいくよ。
戸惑っているなら背中を少し押してあげるよ。
俺はアスカちゃんの壁として超える日を待ってる 」
「なんで…私にそんなに構うのよ。 バッカみたい…」
少し照れくさそうに頬を赤らめ、チラッとシンジの方を見てみると彼もアスカの方に顔を向けていた。 キョトンとしながらも。
「だって、アスカちゃんの事が好きなんだもん」
「なっ!!?」
余りにも無垢で損得を求めず、ただ単純にアスカの事を思っての一言だった。 それにアスカは、見事に顔を真っ赤になる。
彼女は、ある一件から時は過ぎ容姿は良い為に色々な男から浮いた言葉を数え切れないほど聞いてきたが…大抵彼女の性格が分かると手の平を返す。 その為にアスカは大抵の褒め言葉などは右から左に聞き流すようになっていた。
だが、彼女はシンジの事を多少なりと知っている為に心からの言葉だと理解してしまう。 加持にも褒められた事はあるが、好意を知らせる言葉は貰った事は無く…況してや同年代の異性からの言葉には衝撃が強かった。
「なななななっ…」
顔は熱くなり、頭の処理が間に合っていないのか彼女はテンパっていた。 そんな乙女な反応に彼は微笑み、顔は前に向かせて何処か遠い目をしていた。
「ミサトさんの家に一緒に住むようになってから、最初の方なんてね…自分の事は自分でやって。 何処か壁を感じていたんだ。 だけど、少しずつと任せられるようになっていく内に…アスカちゃんの表情が柔らかくなっていくのを見続けていたんだ。
そんな時にアスカちゃんが、ある日の晩御飯でハンバーグを出したら笑ってくれたよね?」
「………」
アスカは少し赤みを残しながら、シンジの横顔を眺めながら聞いていた。
(…確かに、私の好きなハンバーグが出た時は不意にも喜んだわね。 顔に出てたんなんて…)
幼い頃にアスカの母親であるキョウコ・ツェッペリンは、得意な料理がハンバーグであって彼女の好きな食べ物になっていた。
「食べた時も少し驚きながら、食べる速さが上がって美味しそうにお代わりしてくれて…あの時は嬉しかったなぁ。
本当の笑顔を見せてくれて、喜んでくれる君が好きになったんだ」
プロポーズに近い台詞に再びアスカの顔だけでは無く、身体中と言わんばかりに赤く染まっていく。 そんな中アスカは、ふと思い出す。
(あの時のハンバーグは美味しかったけど…何処かママと同じ味に近い物があったのよね。 シンジは私のママなんて知らないはずなのに…)
そんな事を思い出していると、彼はゆっくりと身体を後ろに倒した。 アスカは横になるシンジの顔を追いかけると、目と目が合い彼は柔らかい表情を浮かべる。
「俺の中では、今ミサトさんの家で一緒にいるアスカちゃんにレイさん、ミサトさんの事は家族だと思ってる。 大好きで…大切な…かけがえのない家族。
だからアスカちゃん…甘えてよ。 頼りないと思うけど、俺は君を支えていたいんだ」
シンジは悪意など一切無い笑顔をアスカに見せる。 それを見せられた彼女は…少しずつと心に纏っていた氷が暖かい熱によって溶かされていく。
彼と出会い、共にして彼女も知らないふりしていたが優しく照らす日向のように身を暖められていた事に。
それが彼の言葉によって、彼女が幼い頃から作り上げた形になった氷は水に変わっていく。 内から溶けた水は、彼女の瞳から長い間堰き止められた物を瓦解させて…外に溢れ出ていく。
ポロポロと一度出てしまった涙は、アスカの顔を濡らしていくが心は暖まっていく。
「本当にアンタ…バカよ。 出会ってから…そんなに…立ってないのに」
「時間なんて関係ないよ。 俺がアスカちゃんが思う気持ちは本当なんだから」
アスカは加持ですら少し壁を作り、本当に気を許す存在が母親だけだったが…今此処に気を許し頼れる存在が目の前にいた。 いつも笑顔を見せてくれて、一見自分と同じような外見だが男らしく頼もしい男の子が。
「グスッ…本当にお節介ね。 だけど悪くないわ」
「それは良かった」
シンジは身体を起こし、アスカの両目から流れる涙を右手の人差し指で掬い上げる。
その涙のように、彼はアスカの心を暗い底から掬い上げた。 その為、アスカは頭をシンジの胸に押し当てて身体ごと身を彼に預けた。
「アスカちゃん?」
「アンタの所為で泣かしたんだから…責任とりなさいよ。 疲れたから、少し寝るわ」
「ははっ、仰せのままに…お姫様」
シンジはアスカに押し倒されるが抵抗せずに再び身体を横にして、彼女の寝やすい体制になる。 目を閉じ彼の身体の上で余計な力が抜けた表情の彼女の頭を優しく痛まないように撫でて、彼も目を閉じ彼女の温もりを感じながら眠りについた。
(暖かい…心地いい…。 こんなにも男に触れているのに嫌悪感が湧かない。 …コイツなら信じてもいいかなぁ。
それにしても…あんな紛らわしいセリフ、シンジったら平気で言うんだから。
少し…本気に思ったじゃない)
アスカは目を開けて顔を上げ、彼の寝顔を眺める。 彼女の心境など知りもせずに呑気に眠るシンジの顔を見ていると、アスカは少しずつと睡魔が訪れ瞼を下ろして行く。
(あぁ…人に寄り添うなんて絶対に無いと思ってたけど…意外に……良いものね…………)
彼の体温を感じながら、アスカはシンジの寝顔を愛おしそうに見ていく内に彼女は夢の世界に旅たっていく。
☆☆☆☆☆☆
「結構…響いたわね。 シンちゃんの拳」
「そりゃあ、そうだ。 彼なりに葛城に伝えたい言葉を行動に乗せたんだからな」
アスカが訓練室から抜け出した後、シンジはアスカを追いかける際にミサトの腹部に拳を一度添えてからねじ込んだ。 力では無く技で放った拳は、ミサトの身体に衝撃を与えていた。
ミサトなりにアスカに発破をかけるつもりで言った言葉は、余りにも彼女の心に抉ったに等しい。
それを感じとったシンジは、敢えて言葉に出さずに傷を負わせず行動で表した。
「はぁ…最後までシンちゃんに面倒かけるなんて…。 大人して情けないわ」
意気消沈するミサト。 彼女も大人として立ち回っているが、今回に関しては作戦の中に保険で初号機を囮にするのがある為に焦っているのだ。
その所為か、普段言わない事も溢してしまう心境に陥っていた。
「彼も分かってはいる。 同じ過ちさえしなければ、許してくれるさ」
加持は軽くミサトの肩を叩き、弱っている彼女を励ます。 そんな所にレイはミサトの方に近寄ると、加持にとっては驚く事になる。
「葛城一尉…大丈夫です。 シンジ君は、誰かを責めたりなんかしません。 二号機の人…今は余裕が無いだけで帰ってきた時は元気になっていると思います。 シンジ君が私を支えてくれた…ように、二号機の人にも必ず…」
レイは自分なりに一緒に住むミサトを励まそうと、以前のレイにはあり得ないと言える行動だった。 それを目の当たりにした加持は、変わる前のレイしか知らない為に余りの変わり様に驚く事に。
(…本当に彼は関わった人間を良い方向に変えてくれる。 俺も…その1人になるかな)
加持は何処か遠い場所を見ているように…。
それから一 時間過ぎた頃、シンジがアスカと一緒に戻ってきてからミサトはアスカに頭を下げた。 それに対してアスカは、何も責めずに軽く返事をしてからは…彼女はレイの方に近寄り顔を合わせる。
「…何?」
「!?…」
突然近寄ったアスカにレイは、シンジと会う前のような能面に近い表情で口を開く。 余りの表情にアスカは、一度怯むが自分の中で決めた事を曲げるのはプライドが許さないのか…顔を引き締める。
彼女は今までレイとの交流を控えていた。 シンジとの関わりにより、幾分か柔らかくなっていたがアスカにはレイの事は少しばかり人形のような印象を持っていた。
その為にレイの事が苦手意識を持ってしまい、同じ場所に住む間柄ながら距離を置いていた。 何処かレイの人形ような雰囲気は、妻を失った時の父親と重ねて見てしまっていたアスカ。
だが、シンジのお陰かアスカは人との関わりを持とうと思うようになった。 目の前にある問題を片付ける為にも、アスカは今日から彼女なりの一歩を踏み出す。
そんな事を知らないシンジは、顔を合わせて黙る二人を見て少し慌てていた。 そして…
パンッ
「「「!?」」」
渇いた音が鳴り響く。
突然アスカがレイの左頬を引っ叩いた事に、三人は驚いた。 尽かさずシンジは二人の間に入ろうとするが、アスカの口が開く。
「悪いわね。 だけど…これで、アンタも私に手を出せるわね。 最初からアンタの事が気味悪いと思ってたのよ」
「……」
叩かれ赤くなる左頬を気にしていないのか、レイはアスカの目を合わせる。 何処か吹っ切れたのかアスカは、もう苦手に思えていたレイを普通に見れていた。
アスカは左頬をレイに差し出すようにして、親指で『此処だ』と言わんばかりに挿す。
「『レイ』、アンタなら分かるわね。 アイツが私達にして欲しい事が。 なら、平手でも拳でも私に喰らわせなさい。 それでおあいこよ」
レイはアスカに言われて、ゆっくりと右手を握りこむ。 それを見ているシンジは困っていた。 いきなりの展開について行けず、どう止めようか考えている時に彼の両肩を軽く乗せる人間が二人。
「彼女達がやりたいようにさせなよ、シンジ君。 あの二人も今のままじゃあ駄目だと思って、お互いを認め合う為に必要な事さ。
見守るのも…男の役目さ」
「…そうね、シンちゃん? 貴方のお陰で、あの二人が進歩しようとしている。 それを喜びましょう」
加持とミサトは、あの二人が今成長しようとしている事に気付いていた。 犬猿に近い仲では、息を合わせた所で所詮はその場凌ぎ。
だが、お互いに認め合えれば話は別である。 その者同士の心の壁が薄くなれば、言葉にしなくても分かり合える事が可能になる。 それが『息が合う』と言うだろう。
バキッ
そうしてレイはアスカに言われた通りに、渾身の右フックが唸る。 アスカの顎に的確な角度で入った為に、彼女は殴られた勢いとダメージによりよろける。 口の中が切れたのか、血を吐き出し口元を拭うアスカ。
「…ぺっ、良いモン持ってるじゃない。 これで恨みっこ無しね」
「…えぇ」
お互いに少し微笑み、名前で呼び合える仲になった。 その後引き続き訓練に戻った。
それからは、彼女達の動きが合わせられるようになり着実に三人の動きにはぎこちなさは無くなっていく。
その日の訓練は、大きな進歩がありキリが良い所で終了となった。
使徒再活動まで40時間が切られていた。
★★★★★★
使徒と戦う子供が訓練している中、暗い部屋でゲンドウはゼーレと会談されていた。
ゲンドウの周りには石版のようなモニュメントの映像が映し出されている。 12枚もあるモニュメントが全てゲンドウに向けられて、その中で01と書かれたモニュメントの下には映像で映された『キール・ローレンツ』の声が響く。
『碇君…今日はどうした? 突然私達を集めるなど、つまらない事では無いのであろうな』
「はい、とても大切な事で貴方達にお願いしたい事がありましてお呼びしました」
ゲンドウは一度頭を下げて感謝の意味を示す。 そして次の戦闘に備えて、ゲンドウは本題を持ち出した。 ゲンドウの頭上に色々なデータが映し出される。
「本日…貴方達にお渡したデータに入った物を作り上げる為に協力をお願いしたい為にお集まりさせて頂きました。
これらを用意するには、ネルフだけでは間に合わないのです」
『…ふむ、確かに中々面白いと見られる物があるな』
『これは新たな戦力に繋がると見た』
ゼーレは新たな兵器の詳細に、この先に新たな使徒との戦いで勝率が上がる兆しが見えたのか彼等に笑みを浮かべる。
2つの兵器の詳細データには、性能以外に兵器の姿が現れていた。
『マステマ』
サイズはエヴァとほぼ同じな大きさ。 特殊ガトリング砲に3枚のブレードが周りに搭載されている。 ガトリング砲を包むように搭載されたブレードフレームは、対象を確実に切断する為に超振動。 そして、最大火力であるN2爆弾が…二基。
近・中・遠距離の3つを対応を考えられた兵器である。
『ラバルトゥ』
見た目は三角錐に近い只のシールド。 しかし、このシールドは守るだけでは無く、正真正銘の兵器である。 シールドの内側には、様々な機能を内蔵されていた。 ラバルトゥはマステマよりは小さめのサイズである。
『碇君…これらは赤木博士が発明したと?』
「はい、その通りです」
『ふむ、流石だな。 科学者で開発部としても優秀。 素晴らしい、これらを完成すれば計画の進行が速まるだろう。
早速こちらで用意しておこう、健闘を祈る』
ブンッ
ゼーレのモニュメントが消える共に部屋は明るくなり、端で会談する前から立っていた冬月がゲンドウに近づき話しかける。
「良いのか、碇。 本来『ラバルトゥ』はシンジ君が発案した兵器であったのだろう? なぜ2つ共彼女が発案した話にしたのだ」
以前シンジはリツコに頼み事していたのは、自分が使いやすいと思っての兵器を作って欲しいとの事だった。 それに加えリツコも『マステマ』を発案したのだ。
「何…簡単な事だよ。 ゼーレの老人達に餌を与えない為だ。 シンジの価値を知らせるのは確実に悪手と言っても過言ではない。
余りシンジの事は表に出さないのが得策とも言えよう」
「大切にされているなシンジ君は」
冬月の言葉に、ゲンドウは少し微笑みながらも冬月には見せないように背を向けた。
しかし、冬月はお見通しなのかゲンドウの不器用さに笑っていた。
☆☆☆☆☆☆
満月が地上に光を照らす時間帯、海辺に強力なA.T.フィールドを展開されており肉眼でも確認できるほどのドームが存在した。
グチュグチュ
キチャ
プシッ
バリッ
ドームの中から歪な音が鳴り、波の音ともにその場所を支配していた。 その音には…どこか肉を裂いたり潰したりしている音に近かった。
N2爆弾により、身体の大半が焼き爛れ動きを止めた使徒。 自分で展開した結界のようにA.T.フィールドの中で、色々な箇所を操作しているのか身体の一部一部が動いては少しずつと再生されていた。
それと同時に使徒は身体を丸くさせて、身体の修復と…使徒の弱点と言えるコアが点滅していた。 他にも使徒の顔である仮面に4つの穴にも、不規則に光を灯したりしていた。
人類には、まだ使徒の正体など行動理由がはっきりとしてない相手。 しかし、使徒にも学習能力があるのかコアの光と仮面の穴から灯る光は何処か法則性があるのかもしれない。
使徒も次の戦いに備えているのか、その時まで自ら展開したA.T.フィールドの中で身を潜めていた。
ドクンッ
ドクンッ
ドクンッ
そして…少しずつと回復が終わるにつれて、使徒は脈動するように身体が震え始めた。
海には波の音に混じりながら、使徒の鼓動に近い音が鳴り響いていた。
★★★★★★
タンッ
タタタタンッ
タタンッ
ダンッ
3人の動きは揃って踊り終わり、見事息を合わせ最後の体勢で佇んでいた。
「良くやったわ、3人共。 これなら作戦実行出来るわ!」
ミサトの言葉に、息を切らしながらも彼等の顔は滲み出るように笑顔になっていく。 それにつられるように、3人は右手の拳を上に突き上げる。
「しゃー!」
「どんなもんよ!」
「ムフー」
上からシンジ、アスカ、レイの順に彼等は声を出す。 3人は1日挟んで訓練に集中し身体中から汗を流すほど、コンビネーションを磨いた。 残り15時間が切っていたが、彼等の動きは一致されていた。
形が歪の鉱石でも、研磨すれば形は整い見た目も良くなる。 3人と言う石も、少ない時間の中でお互いを磨き合い…今ここに立派な光る鉱石が誕生される。
「3人とも、お疲れ様。 この後は汗流して晩御飯食べて、明日に備えて就寝…わかった?」
この時の時刻は、20時ほどだった。MAGIの計算によれば、次の日の11時に使徒が再び活動すると予測されている。
ミサトの指示に、シンジは少しずつ息を整えてから手を挙げてから意見を述べる。
「あのミサトさん? その晩御飯は俺が作っていいですか?」
「大丈夫? 訓練で疲れたのに…晩御飯まで作るなんて、大変でしょ?」
「今回出そうとしている晩御飯は、余り手の込んでいない奴なんで」
シンジの言葉に少し悩むミサトだが、彼の好きにさせようと思い立った。
「なら、構わないわ。食堂の方にも話しといてあげるわ」
「ありがとうございます、ミサトさん」
そうして、3人は浴場に向かっていった。
汗を流し身体を綺麗にして、シンジは食堂のキッチンにエプロンを身に着けて食材の前に立つ。
「よし、今日はコイツらを使った飯にしよう」
シンジは風呂に入る前にミサトに頼んでいた物があった。 寸胴鍋である。
直径と深さがほぼ同じで円筒形の深鍋を、寸胴鍋と言われている。 汁物などを大量に作る時、大量に茹でる物がある時に用いられている。
元来、西欧の調理器具であるが世界的に広く普及されており、日本でも懐石料理や大衆食堂など給食等々で欠かせない物である。
そして、それを使い煮込む食材は…カボチャ・ナス・トマト・タマネギ・ズッキーニ・ピーマンである。
食材達を洗い、水を切ってからシンジは包丁を手にする。
カボチャを4分の1に切り分けて、ヘタや種を取り除きサイズを1.5cmほどに切っていく。 タマネギも同等に4分の1に切ってからバラす。 ピーマンはカボチャと同じ手順でヘタと種を取り除く。 ナスとズッキーニは乱切りして、トマトは横切り。
全て切り終わると、シンジは寸胴鍋の底にトマトを隙間が無いように敷き詰めてから塩を上から満遍なく振り掛ける。
その上にタマネギ・カボチャ・ズッキーニ・ナス・ピーマンの順に重ねていく。 野菜達の間には塩を挟んでいる。
鍋の上まで野菜を入れ終えたら、始めは中火で10分から15分。 後は、とろ火で20分から30分蒸すと完成となる。
だが、シンジはこんな事もあろうかと用意していた物があった。
使った材料。
強力粉…400g
砂糖…20g
塩…6g
牛乳…200cc
水…80cc
ドライイースト…4g
バター…20g
ボールに常温の牛乳と水を入れて混ぜる。 上からドライイーストを振り掛けて、自然に溶けて沈むまで置いておく。
2個目のボールには、強力粉と砂糖に塩をさっくり混ぜる。 そして最初のボールの中身を8割入れては混ぜ、残りも入れては混ぜる。 最後にバターを4つに切って入れ、手で握るように混ぜていく。
こねて丸めたらボールにサランラップで蓋をして、冷蔵庫に8時間ほど事前に低温発酵させていた。
野菜達と一緒に出来上がるように、パンも焼きあげていく。
「よっしゃあ、完成」
《野菜のさっぱり蒸し煮》と《手作りパン》が出来上がり食器に盛り付け、食堂のテーブルに座る方々に運び出した。
「本当に凄いな。 シンジ君、良いお嫁さんになれるな」
「いやいや…俺は男だから婿ですよ。 加持さん」
テーブルにはミサト・アスカ・レイ以外にも、加持・リツコ・マヤも席についていた。
「ありがとうね、シンジ君。 私達の分まで作ってくれて」
「本当に美味しそうですね、先輩」
「いえいえ、お気になさらずに。 後で良いので青葉さんや日向さんにも届けてくださいね」
全員に料理が行き届き、一斉にお辞儀をする。
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
そして食べ始まり、シンジは自分の料理に失敗が無いか確認していると…
「美味しー!!」
「何よこれ! 苦手なピーマンが食べられる!?」
「美味しいわ…」
「パンだけでもスープだけでも上手い。 だが、両方合わせても見事にマッチしている…流石だ」
「野菜は塩だけで味付け、じっくり滲み出た本来の野菜スープ…美味しいわ」
「先輩先輩! パンなんか、もちもちで甘いですよ! うーん、手が止まらない〜!」
上からミサト・アスカ・レイ・加持・リツコ・マヤと感想を述べていく。 皆が良い表情で食べているのをシンジは幸せそうに見て、彼も食べ続けた。
「「「「「「「ご馳走様でした」」」」」」」
全員が食べ終わり一息をついていた。 そんな中、加持はシンジに質問をした。
「シンジ君、中々美味い物をありがとう。 だけど…何故自分で作ろうと思ったんだ? 此処なら頼めるのに」
加持の質問にシンジは少し悩みこむ。 周りの人間は、加持の言葉に納得していた。 何故、訓練後に疲れた身体で自分で作り上げたのか。
「うーん…別に深い意味はありませんね。 此処の物も美味しいですけど、俺が作った物で食べてくれた人が喜んでくれたらなと。
あ〜、そう言えば野菜スープは訓練中にふと思いついた物ですね。 まさに俺とアスカちゃんにレイさんだなぁと。
1つ1つの食材に特徴があって、工夫すれば味が出せる。 これも今の俺達と一緒だと思ったんです。 1+1+1=3になる数式を…10にも100にも。
それを明日に見せますよ」
口の端を上げ自信に満ち溢れた表情をした彼に、周りの人間達は不思議と次の戦闘では負ける想像が出来なかった。
そして夜は満ちていき…明けていく。
空を駆ける船『ヴンダー』
サード・インパクトを発生して崩壊する世界。
その元凶であるサード・チルドレンの碇 シンジは組織名『ヴィレ』に身柄を捕らえられていた。
そんな中、彼は現状を大人達に説明された。 シンジは自分が起こしてしまった事を整理していると、突如に彼の後ろから扉が開かれて2人の女子が立っていた。
「アスカちゃん…」
「馬鹿シンジ」
お互いに名前を呟くとアスカは彼に近寄っていく。 シンジはアスカの隣に立つ人間を見て座っていた椅子から立ち上がり、アスカと同様に近寄る。
手が届く所まで近寄ると、アスカは右手を振りかぶりシンジに右ストレートを放つ。 しかし、彼女の拳はシンジには届かなかった。 シンジはアスカの左側をすり抜けて、もう1人の方に歩いていく。 そして間近まで寄ると、彼女を抱きしめた。
「マリ姉さん!」
「にゃんこ君」
シンジはマリを抱きしめながら、身体を持ち上げてクルクルと周りお互いに再開した事に喜んでいた。
そんな光景に大人達やアスカは呆然していた。
そんな世界があるかもしれない…お話。