棺と踊れ、ジルバを刻め   作:ザタキシード

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過ぎた戯れ

 

塹壕に入り込んでから、さらに20分弱の時間がすぎた。

 

絶え間ない銃声と悲鳴、爆発。

 

味方のドットがことごとく消えていく。

 

「バレルが焼けて来やがった・・・・・・」

 

「交換しますか?」

 

「・・・・・・ああ、援護頼む!」

 

「カバー」

 

俺は塹壕の陰に隠れ、機銃からバレルを外した。

 

水溜まりに落ちたバレルは、水を蒸発させ、湯気を立たせている。

 

水溜まりが沸騰している。

 

こんなに熱を持つまで撃ち続けさせていたのか。

 

その事に若干驚きながら、腰に装着されたバレルケースから予備銃身を掴み出した。う

 

バレルを装着し、固定ハンドルを本体の溝にはめ込む。

 

「復帰するっ!!」

 

俺はそう言うと同時に、機銃を短連射させた。

 

小気味良い反動が、肩を押す。

 

「敵集団、左翼に偏りだしました。私が・・・・・・」

 

「お前は動くな、ここで迎え撃て! 左翼の敵は左翼が片付ける、俺達は俺達の仕事をするんだ!!」

 

そう怒鳴りつけながら、次の標的を探す。

 

手当たり次第だ。

 

兎に角、敵を撃って撃って、撃ち殺しまくる。

 

トリガーにかけた指をゆるめるつもりなど、微塵もない。

 

躊躇すれば、俺が死ぬ。

 

躊躇うな、トリガーを引け。

 

恐怖で押しつぶされそうになる俺自身に、何回同じ暗示をかけた事やら。

 

「避難はまだ終わらないのか!?」

 

「天候悪化の関係で、更にもたついてるようです」

 

「畜生がっ!!」

 

腹立ち紛れに、俺はグレネードを敵の群に向かって投げ込んだ。

 

少しずれて、爆発。

 

泥やら水しぶきやらが飛び散る。

 

殺した敵の数は、おそらく2体が良いところだ。

 

手応えが薄い。

 

敵の重心集団を潰せれば、あるいはかなり足止めが出来るのだが、それもうまくいかない。

 

重心集団とは、敵の前衛集団の中核を握る、特攻隊長みたいな役割を果たす存在である。

 

それは、敵のどこに配置されているのか、規模はどれ位なのか、と言った疑問を抱かせるが、特にそれらに決まった配置も規模もない。

 

言うなれば、勘で探り当てるしかないのだ。

 

もういっちょ無反動砲でも喰らわせるか、そう考えたときだった。

 

『民間人の避難完了!! これより2分後に砲撃を開始、着弾は発射より8秒後! 各員警戒せよ』

 

待ち望んだ朗報が、やっと聞こえた。

 

「やっと来やがったか・・・・・・!!」

 

披露や恐怖、緊張で俺の口はかなり正直になっていた。

 

思ったことが、すぐに口に出てしまう。

 

口角がつり上がるのが分かる。

 

俺は今、かなりニヤケているだろう。

 

あともう少しで終わる、あともう少し我慢すれば戦女神が俺達に微笑んでくれるのだ、と心のどこかで安堵しているのだ。

 

少し目が泳ぐ。

 

そのとき、俺の目が止まった。

 

それは、相も変わらず敵の山だ。

 

そこんじょの敵の群と、何ら変わりない。

 

変わりないのだが、違和感を感じるのだ。

 

・・・・・・アイツ等、雰囲気が違う。

 

それを感じとるのは、人間にほんの少しだけ残された野生の勘か、あるいは第6感か。

 

兎に角、俺はその数体の群に気を取られるのだ。

 

俺は、ほとんど無意識に無反動砲の照準をその群に合わせた。

 

トリガーを絞る。

 

発射。

 

雨のせいで、弾道は見えないが弾頭がソイツ等に向かって突き進む様子は、やけにしっかりとみえた。

 

刹那、爆発。

 

敵の肉が飛び散る。

 

焦げた死体がゴロリと横たわり、前半分が無くなった死体がそれに乗り上げていた。

 

前半分の死体の断面から、「高い棺」の右腕のパーツが僅かに見える。

 

そのパーツの持ち主に言ってやった。

 

「ファック、殺してやったぜ! 喜べ戦友!!」

 

戦場にありながら、俺は両腕をあげて喜びを露わにした。

 

敵の勢いが、ガクンと落ちたことがよく分かる。

 

さっき潰したのが、重心集団だったのだ。

 

やったぜ、仇はとってやったぞ、どこぞの誰かさん!

 

心の中で俺は叫んでいた。

 

俺の精神状態は、正常ではなかったが、かといって狂っているわけでもなかった。

 

言うなれば、俺はハイになっていたのだ。

 

死の恐怖と、銃声に晒されすぎて。

 

兎に角、今の俺にとっては、全てが馬鹿みたいに楽しそうに写る。

 

『砲撃開始30秒前! 各員塹壕へ退避!』

 

通信によって、俺は正気を取り戻した。

 

砲撃がもうすぐ始まる。

 

俺は、塹壕に身を隠しつつ銃だけをだして、めくらめっぽうに乱射した。

 

どうせ前に味方はいない。

 

いるとしたら敵だけだ、何の問題もない。

 

薬莢だけが、頭の上から降ってくる。

 

薬莢が落ちた場所からジュウと水分が蒸発する。

 

足下の温度が地味に高い。

 

ばらまかれた薬莢のおかげだろう。

 

『砲撃開始!! 着弾まであと7秒! 6、5、4、3、2、1、弾着今!!』

 

かすれた口笛のような音が聞こえ始めた直後、爆轟が響きわたった。

 

ズシンと震動が腹に来る。

 

『次弾発射まであと20!』

 

俺は立ち上がり、兎に角撃ちまくった。

 

死ね、死ね、死ね、シネ、シネ、しね、しね、しね

 

何でも良いから、兎に角今の内に殺せるだけ殺しておかないといけない気がしたのだ。

 

それはただの思いこみかも知れない。

 

だが、そう感じるのだから仕方がない。

 

トリガーを引き絞る度に、やや強い反動が肩を押す。

 

バレル交換をして間もないのに、また銃身から湯気が立っている。

 

人と人が殺し合う戦争が普通だった時期にいれば、俺は真っ先に狙い撃ちされていただろう。

 

だが、今、俺達人類の敵は、飛道具は持っていない。

 

あるのは、圧倒的な物量と、地味にしぶとい生命力だけだ。

 

ガチンとさめた金属音が響いた。

 

弾切れだ。

 

頃合いかと思って、俺はもう一度塹壕に身を隠した。

 

素早く、空になった弾倉を外して、新しい弾倉を装着し、チャージングハンドルを引いた。

 

あと、コレを含めて2本しか残っていない。

 

舌打ちをしようとした瞬間、通信機にノイズが走った。

 

『発射! 8、7、6、5、4、3、2、1、今!』

 

さっきよりも近い場所に砲弾があたった。

 

泥や敵の肉片が塹壕の中にも落ちてくる。

 

たまに、味方の装備や一部も降ってくるが、今はもうそれどころではなくなっていた。

 

着弾位置が、あまりにもこちらにより過ぎているのだ。

 

「ちっくしょ、砲兵部隊の連中は俺達までバラバラの黒こげ死体にするつもりか!?」

 

俺はそう罵った。

 

顔を上げれば、砲撃で出来たクレーターは塹壕から10m離れているかいないかのところに出来ていた。

 

敵の死体も、そこのあたりに転がっている。

 

死体が壁になっていてよく見えないが、その後ろには更に多くの敵の集団がいることはレーダーを見ないでもすぐ分かる。

 

「ここまで来られたら、ひとたまりもねぇぞ・・・・・・」

 

俺は、放心したように言った。

 

ほとんどヤケクソになって、俺はグレネードを力一杯に遠くまで投げ込んだ。

 

運が良ければ、数体の敵はコレで殺せる。

 

そう考えた直後、爆発。

 

あと敵はどれ位いる、砲撃はまだか、左翼に展開した友軍はどれ位残っている、残弾はあとどれくらいだ、戦線はどこまで後退している・・・・・・

 

煮える頭の中で、更にこれらの疑問が脳を焼き切ろうとがんばっている。

 

俺は馬鹿か。

 

高卒で軍隊に入るような学のない俺が、一体そんなど頭で何が考えられるってんだ、畜生め。

 

そんな小難しいことを考えるくらいなら、今やるべきことに全力を尽くせ、このクソッタレが。

 

そう自分に言い聞かせて、あらぬ方向に伸びた思考回路を無理矢理切り落とした。

 

戦場で集中力を欠いたら、ソイツは一瞬で死ぬ。

 

今、俺が生き延びているのはある種の奇跡だ。

 

さっきから、ずっと色々なことに注意を逸らし、しかも柄にもなく小難しいことを考えたりして、集中の文字が全く浮かばない状態だ。

 

左手を握りしめて、脳天をどついた。

 

集中しろ、俺。

 

そう自己暗示をかける。

 

頭がビリビリと痺れ、視界が少しだけ鮮明になる。

 

感覚が戻ってきた。

 

と、同時に通信機に連絡が入る。

 

『砲撃中止、砲撃中止!!』

 

 

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