『作戦本部より各隊へ! 先程、攻撃ヘリ部隊の投入が決定された。部隊の侵入経路の関係で、支援砲撃は中断。増援到着まで約10分! それまで耐えろ!』
朗報とも凶報ともとれる内容だった。
あと、10分もの間、支援砲撃なしに耐え凌げだと、ふざけるな馬鹿が。
あの支援砲撃があって、何とかこの戦線を維持できている状態なのに、それをしょっぴいたら、一瞬で崩壊しかねない。
増援がくる頃には、ここはもう突破されている可能性があるってのに。
それが、現状を見るにつき思ったことだ。
現実味がなさ過ぎる、と。
だが、それをどうにか耐えきったら、味方のヘリ部隊があのミミズ共を蹴散らしてくれる。
なんとも魅力的な話じゃないか。
普段ならば、俺達装甲歩兵とヘリ部隊は、互いにスコアの取り合いをする間柄だ。
しかし、戦闘がこうまで長引くと、もはやスコアなどクソ食らえなのだ、俺達にとっては。
敵がほしいならいくらでもくれてやる。
好きなだけ殺させてやるぜ、畜生共。
今回ばかりは、張り合う気力も火力も人間の数もない。
俺にしたってそうだ。
「高い棺」のバッテリー残量もだんだん心細くなってきたし、残弾数なんかは、もっと心許ない。
正直、このままでは生き延びられる気がしない。
分隊のメンバーの数は変わっていないが、他の分隊はほぼ壊滅状態だ。
むしろ、よくこの状態で持ちこたえられたものだと誉め称えてやりたいくらいだ。
友軍の残存数、56名。
第1、2、3防衛線から離脱した残存部隊は、撤退ルート上でロスト。
まあ間違いなく、敵に喰われたのだろう。
最初は600人もいたのに、今となっては、その10分の1も残っていない。
そんなになっても、よくここまで耐えられたものだ。
塹壕に隠れながら、グレネードを投げる。
グレネードの残りも、あと僅か。
機銃の残弾数も、100発を切っている。
無反動砲は、弾切れ。
スパイクショットは壊れた。
今俺が、本気でほしいものは遅れてやってくる救世主などではなく、支援物資だ。
主に、弾薬類とバッテリー。
だが、いくら望んでも、無いものは無い。
ならばどうするか。
今あるものを使って、時間までどうにか生き延びるだけだ
畜生、やってやる。
何がどうなってでも足掻き続けて、生き延びてやる。
「手塚兵長!」
俺は、すぐ左にいる、同僚の手塚に声をかけた。
「何でしょうか、伍長!?」
「お前、今あと何本弾倉残ってる?」
その質問を聞いて、手塚は弾倉ケースを覗いた。
「今のを含めて、4本です!」
「1本俺に寄越してくれるかっ!?」
「分かりました! 伍長、投げます!」
手塚はそう言うと、ケースから弾倉を1本取り出して、
俺に投げてきた。
上手い具合にキャッチ。
「感謝する! この貸しは必ず返すっ」
「覚えておきます」
受け取った弾倉を、スッカラカンになったケースの中に放り込んだ。
コレで、残弾数は137発になった。
これなら、ギリギリ戦える。
塹壕に身を隠しながら、俺はレーダーディスプレイをメイン画面に表示した。
索敵半径を、2kmから最大の25kmに拡大。
周辺状況を確認。
レーダーの中心、つまり俺がいる場所。
その周辺は、ほとんど赤のドットで埋め尽くされていた。
友軍を示す緑のドットは、ほとんど見えない。
ようするに、俺達はかなり押されている。
敵の数は、見る限りは1000以上はいる。
とことんクソッタレな状況に陥ったらしい。
これも全部、ふざけた天候としみったれた砲撃しかしてこなかった砲兵部隊のせいだ。
いつか、人間の方は殴り倒してやる。
戦線から10km後方に砲兵部隊陣地(FB)が3つある。
作戦当初より、陣地移動をしていないことに関しては、まあ誉めてやるとしよう。
てっきり、尻尾ではなく砲身を丸めて一目散に逃げ出すものだと決めつけていたのだ。
連中には、その前科があるからそう言うのだ。
まあ、今となってはどうでも良い話だ。
FBの更に後方にそれなりの規模の友軍反応があった。
しかも、こっちに移動している。
例の、増援部隊に違いない。
それを拡大して、詳細を調べる。
攻撃ヘリ12機、支援観測ヘリ3機、強襲ヘリ6機、輸送ヘリ6機の大規模なヘリ部隊だ。
所属は、統合陸軍アジア方面軍近畿方面航空団第8攻撃ヘリコプター隊。
レーダーには、その略号であるUA-A/キ-8攻隊と、表示されている。
俺は、背中にゾクリと冷たいものが走るのを感じた。
それは、恐怖ではない。
昂揚だ。
強力な味方が来てくれる、と言う事実と、そこから連想した勝利の景色を確信したことから来る、武者震いだ。
レーダーの索敵半径を元の2kmに戻した。
目の前に迫り来る、敵の群を見据える。
「前線の皆様に御連絡いたしますっ!」
突然、通信回線に無理矢理誰かがねじ込んできた。
「こちら、統合陸軍近畿航空団第8攻ヘリコプター隊。あと5分弱でそちらに攻撃隊が到着します、それまで持ちこたえて下さい!」
正体は、増援部隊だ。
あともうすぐだ、あともうすぐでこの戦いに転換期が来る!
そう思ったときだった。
不意に、空気が揺れるのを「高い棺」の装甲越しに感じた。
空気を切り倒す、独特の音。
力強いエンジン音。
見えなくても分かる、存在感と威圧感。
そして、見下ろされているような、奇妙な感覚。
そして、ソレは俺達の上を飛びすぎた。
「観測ヘリ・・・・・・!」
アレが来た、と言うとはつまり、誘導ビーコンを落としていくのだ。
敵襲弾のまっただ中に。
そして、俺の予想は見事に的中した。
味方の観測ヘリが、空中から複数の誘導灯を投下した。
レーダーで確認する。
すると、オレンジのドットが、計12個、レーダーに写る。
それらが投下された場所は、俺達が展開している塹壕から30m前方。
絶妙なポイントだ。
「各員へ警告! 味方の観測ヘリが誘導ビーコンを投下した! 投下地点は、我々の戦線より30m前方。塹壕から飛び出るなっ!!」
大河原分隊長だ。
あの人も、誘導ビーコンが投下された場所を把握しているのだ。
仕事が速い。
俺は、御意を示すため、自身のビーコンを2回点滅させた。
雨は止まないし、視界も悪い。
だが、我慢してやる。
あと2分だ。