棺と踊れ、ジルバを刻め   作:ザタキシード

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ヒトとヒトが殺し合う戦争。
なんと愉快な戯れだろうか。
恐らく人類は、そんな愉快な戯れをする余力を無くした瞬間、滅亡を確信するのだろう。
今、正に、そんな状況だからこそ言えることだ。
遊び時間など、ヒトには残っていない。



湿気た牢屋

 

果たして、俺は一体何をしたのか。

 

独房の中で、出し抜けにそんな自問をしてみた。

 

隣の独房では、あの新入りがカビ臭いベッドの上で横になっている。

 

寝ているか起きているかは、どっちでも構わない。

 

で、俺は何をしたのか。

 

隣の独房で休んでいる新人を、撃った。故意に、明らかな殺意を抱いて。

 

何で生きているか、最後にアイツに向かって、しっかりと狙い、きっちりと当てたのに。

 

簡単だ、最後にこめていた弾は、赤色のペイント弾だったからだ。

 

何故撃ったのか。

 

独房にぶち込むためだけの、荒削り感丸出しの臨時軍法会議、そこで不愉快そうな表情で眉間を揉む大河原曹長にそう訊かれた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうしてだろうか?

 

真っ平らな、含みも疑いもない平然とした思考で、俺は疑問した。

 

確かに、アイツには怖い思いー死の恐怖だーを教え込んでやるためだ、と言う大儀と名文は、あった。

 

だが、それだけだ。

 

怖い思いをさせたいなら、顔面の目の前で、空撃ちをしてやればいい。

 

別に当てる必要性は、ない。

 

まず、撃つ必要性そのものが、かなり希薄だ。

 

あの時、俺は何て言ったけっけな?

 

あまりにも、空々しい、心にもない何かを口走っていた気がする。じゃないと、まず忘れない。

 

詰まるところ、撃つ必要はなく、撃った理由も特にないのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・はぁ」

 

コンクリートの天井を見つめる。

 

湿度も、温度も地味に高く、不快感が高まるばかりだ。

 

あと今日を含めて、2日間はここで過ごさないといけない、そう考えるととてつもなくウンザリさせられる。

 

言われたとおり、言葉を借りれば“調教”をしただけなのに、何故俺はこんな目に遭わなくちゃならない。

 

思考回路が、無限循環にはまったことを、俺は悟った。

 

ため息のような深呼吸を何度かして、思考をクリアにし、それ以上考えることを止めた。

 

小さな鉄格子の窓の外を見る。

 

雲が見えているが、それも白く、基本的に明るい。

 

晴れだ。

 

ささやかに流れ込んでくる風は、やはり湿気と熱で浸食される。

 

独房に放り込まれて、今日が2日目だった。

 

昨日、俺がココにぶち込まれたとき、すでに雨は上がっていた。

 

でも、湿気だけはカッチリ残っていて、その一部はこの簡易留置庫にもこもったのだ。

 

で、その湿気が抜けきらないまま今日の今に至る。

 

なるほど、サウナと揶揄されるわけだ。

 

実際、汗が所狭しと滲み出ている。

 

汗でシャツが背中に張り付き、さらに少し生温くなって、この上ない不快感を覚えた。

 

気持ち悪ぃ・・・・・・・・・・・・

 

何を思ったのか、無理矢理飲み直した言葉だ。

 

「脱ぐわけにも・・・・・・いかねぇな」

 

戦闘服の上着は、すでに脱ぎ捨てていた。

 

残るは、このシャツだけだが、隣にいるとりあえずの女性のことを思いだして、脱ぐのを思いとどまる。

 

本音を言えば、全裸になりたいところだ。

 

何もかも、包み隠さず全裸になって、水風呂に心おきなく浸かり尽くしたい。

 

できれば俺好みのオンナが一緒にいれば文句はない、と考えるのは俺が男の証拠だろう。

 

さらにため息を付いて、硬いベッドに腰を下ろした。

 

ギチギチと、耳障りな軋む音がさらに不快指数を上乗せする。

 

不意に、隣の同房で寝ている新人が寝返りを打った。

 

本気で寝ていやがった・・・・・・

 

俺はそう思うのと同時に、何となくその寝顔を観察していた。

 

・・・・・・・・・・・・見てくれだけは良いんだがなぁ

 

自分でもびっくりするぐらい、俺は残念そうに、心の底から残念そうにそう思った。

 

本当に、見てくれだけは良いのだ。

 

なるほど、長門伍長が珍しく「嬢ちゃん」と、そこんじょの女性兵士とは分けて呼ぶわけだ。

 

普段あの男は、「お前」かその人の固有名詞でしか呼ばないのだ。

 

ひどいときは、かなり汚らしいあだ名を考えて、それで本人を呼ぶのだ。

 

呼ばれた奴としては、たまったものではなかっただろう。

 

他人事のように言えるのは、その人その人が全員俺のバディではなかったからだろうか?

 

それにしても、ほんと見てくれだけは良い。

 

何も知らずに、ロマンス溢れる場所で出逢ったなら、もしかすると俺は一目惚れしていたかも知れない。

 

・・・・・・・・・・・・何を考えているんだ、俺は。

 

急にそう思って、俺は頭を降った。

 

それで、俺の中の全ての煩悩が吹き飛ばされるのだ、と言わんばかりの勢いで。

 

汗が、きらきらと光りながら飛び散る。

 

ふぅ、と一息ついて俺はベッドに寝転んだ。

 

放り出した戦闘服の上着を、どうにか探り当てて、その左胸ポケットから煙草の箱を取り出した。

 

中から、1本の煙草をつまみ出して、くわえる。

 

いつものように、火はつけない。

 

くわえたまま、深く息を吸い込んで、吐き出す。

 

いつもと変わらない、ひどく酸っぱくてもやがかかったような独特の臭いが口の中にこもる。

 

・・・・・・・・・・・・暑い。

 

目をつむって、さらに息を肺一杯に吸い込み、少しためてから、勢いよく吐き出した。

 

何度かそれを繰り返す。

 

その行為が、8回目を迎える頃、徐々に眠たくなってきた。

 

9回目。

 

吐き出す感覚とともに、薄れきった俺の意識も放した。

 

・・・・・・・・・・・・暑いな・・・・・・。

 

寝よう。

 

どうせやることは無い。

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