棺と踊れ、ジルバを刻め   作:ザタキシード

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蒼白

 

死体だらけ。

 

目の前にも、すぐ横にも、後ろにも、とにかく死体ばかりで埋め尽くされた世界が広がる。

 

ちなみに、仲間の、と言うよりも人間の死体の方が圧倒的に多い。

 

敵の死体も確かにあるが、ぱっと見た感じでは人間の奴の方が多く見えるし、恐らく間違いはない。

 

俺は、血とかミミズ人の体液で濡らされた「高い棺」を着込んで、その場に立ち尽くしている。

 

いつもの癖で、HUDを確認する。

 

とりあえず戦えるだけの弾薬類と機動用のバッテリーは揃っている。

 

レーダーで敵を探そう、と思ったがレーダー画面にノイズが走っていて使い物にならなくなっていた。

 

小さく舌打ちをして、肉眼で索敵を始める。

 

どこだ、敵はどこにいる?

 

ずいぶんと冴えた感じのする頭で、俺はそう考えた。

 

敵を探せ、と。

 

ゆっくりと、出来るだけ大きな音を立てないように俺は歩き出した。

 

地面に転がっている死体の陰を警戒しながら、移動を続ける。

 

目的地は、無い。

 

まず、ココがどこなのかすら俺は理解していない。

 

ただ、じっとしているのが怖かった。

 

周りはムラのない真っ暗で、遠近感覚が狂う。

 

でも、足を止める気にはならない。

 

今ここで立ち止まったら、何故か死んでしまうような気がしてならないのだ。

 

背筋が、やけに冷えたように感じる。

 

その時だった。

 

何度目になるかも分からない死体の山を乗り越えたとき、俺の視界の中に有り得ないモノが入り込んできた。

 

ソレ、いやソイツは力無くしかししっかりと地面に軸足を置いてソコに立っていた。

 

足元に血溜まりが広がっている。

 

ソイツは悪意のない笑顔を浮かべて口を開いた。

 

「久しぶりだな」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・タカオ。

 

その声を聞いた瞬間、俺の頭の中が真っ白になりかけた。

 

最後に、辛うじて頭の中に残った言葉は、何故。

 

何故ここにいる、何故生きている、何故、何故、何故?

 

「・・・・・・ココは・・・・・・地獄、か?」

 

辛うじて絞り出した質問をソイツはこう斬り伏せた。

 

「おいタカオ、その前に挨拶だろ。永らく会ってなかったんだからな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・アレックス」

 

「名前覚えてくれてたんだな」

 

当たり前だ俺が手に掛けた人間の名前は、頭の中に残っている。

 

そう言おうとしたが、ソレは喉元で抑え込んだ。

 

至って平然として、俺は別のことを訊いた。

 

「・・・・・・まあ、な。で、ココはどこなんだ?」

 

そんなに急くこともないだろ、と苦笑しながらソイツは言った。

 

「・・・・・・さあな? 俺も知らない」

 

空気を読んでいない、と言うより無視しているその解答に、俺はため息をついた。

 

「だが、現実でもねぇだろ?」

 

「それもそうだ。現実な訳がない。

案外、お前の言った地獄って言う表現は当たってるかもな、お前みたいな生きている奴には」

 

そう言って、アレックスは意味深な笑みを浮かべた。

 

その笑みは、あまりにも薄っぺらく、あまりにも冷酷だった。

 

「・・・・・・なあ、タカオ」

 

冷たい声が響いた。

 

「・・・・・・何だ」

 

「・・・・・・・・・・・・何で」

 

「?」

 

「何で・・・・・・・・・・・・俺を殺したんだ・・・・・・?」

 

その声が聞こえた瞬間には、アレックスの姿は既になかった。

 

代わりに、背後に突如として現れた殺気に、俺は反射で前へ飛び込んでそれから逃げた。

 

空を切り裂く音。

 

振り向けば、ソコには馬鹿みたいに大きく刃こぼれが目立つ鎌を構えた黒い布切れの塊みたいな靄がいた。

 

顔はない。

 

呼吸をしている風にも見えない。

 

だが、ソイツが俺に向けてくる殺気だけはしっかりと感じ取った。

 

・・・・・・・・・・・・殺される前に殺せ。

 

脊髄がそう判断して、俺は理性からかけ離れたところで武器を構えた。

 

携帯重機関銃を、それに向けて乱射する。

 

吐き出した弾丸は全てソレに吸い込まれていくように飛んでいく。

 

だが、手応えは薄い・・・・・・いやほとんど無い。

 

畜生め、俺はそう毒づきながらさらに短連射を続けた。

 

相手は、何も反応を示さず、こちらに向き直って鎌を上段に構えた。

 

間合いはまだある、届かない。

 

そう判断した瞬間だった。

 

・・・・・・ヒュン

 

常識的に考えて、ソレは完全に間合いの外であった。

 

届くわけがない、そう判断した瞬間、ソレが振り下ろしてきた鎌の柄が“伸びた”。

 

「な・・・・・・!?」

 

鎌の切っ先が俺の左肩から、右の腰骨までをしっかりととらえた。

 

体の、ありとあらゆる感覚が“無”になる。

 

死。

 

ソレを感じたとき、再び目の前にアレックスが現れた。

 

何も言わずに、ただ優しく冷たい笑みをその顔に付けている。

 

後ろから気配を感じる。

 

倒れ込むのに合わせてその方向を確認すると、ピンク色のブニブニとした質感の何かが見えた。

 

ああ、俺は今日ここで喰われる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うわぁっ!」

 

僅かな痙攣を感じて、俺は跳び起きた。

 

灰色のコンクリートで出来た壁と、鉄格子が視界に入ってきた。

 

目だけを動かして、周囲の状況を探る。

 

ココはどこだ? 俺が放り込まれた栄倉庫。

 

今は日中か夜間か? 外からの光が弱い。夜だ。

 

コレは現実か否か? ・・・・・・おそらく現実だろう。

 

体の感覚が戻ってきた。

 

どうやら、俺は肩で息をしている。

 

汗が滝のように、比喩ではなく本当に滝のように吹き出している。

 

汗で濡れたシャツが、背中に張り付いて不快感と寒気が否応なしに増す。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・アレックス」

 

何の気なしにそう呟いて、俺はさっきの質の悪い出来事を思い出した。

 

そう、アレックス、アレックスがいたのだ。

 

アレックスと言う情報を基点に、次々と俺はさっきまでいた夢の中の情報を思い出していった。

 

人間のとミミズ人の死体がごちゃ混ぜになった数々の肉塊の山。

 

周囲に漂っていた、吐き気を催すイヤな雰囲気。

 

常に笑っていた、アレックス。

 

形のない、黒い死に神。

 

そして、死。

 

『何で・・・・・・・・・・・・俺を殺したんだ・・・・・・?』

 

殺意にも似た不気味な空気を漂わせた、アイツの響き。

 

俺の中に、明確な答えなどあるわけがない。

 

恐怖に駆られて、俺は両の肩を抱き締めて震える身体をどうにか鎮めようと努力した。

 

大丈夫、大丈夫、俺はまだ生きている。

 

何度も俺は自分にそう言い聞かせた。

 

そう、俺はまだ生きている。

 

それだけで十分じゃないか。

 

俺は、コンクリートの壁にもたれ掛かりながらそう思った。

 

小さな格子窓から顔を覗かせる満月が、やけに蒼白い。

 

 

 

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