「洗礼をするなとは言わない、俺もあれは
好きだからな。
だが、ココまでやって良いと言った覚えも
ないわけだが・・・・・・これは一体どう言うことだ?」
大河原は、うんざりしているような目で俺を始め、
俺にボコボコにされた奴等を睨む。
その目には、明らかに仕事を増やしやがって
バカ共が、と言う恨みの色が滲んでいた。
「天城軍曹があまりにも手強かったため、私も手加減をせずに挑んでしまいました。あの場で、自粛を命ぜられる立場にありながら、それをせずに事態の悪化の一端を担った自分に、全ての責任があります」
そう言ったのは、一番アザの少ない立川だ。
「貴様の指導力不足に関しては、あとで俺から
直々に責め立ててやるから、今は良い」
大河原はそう言ってため息を付きながら、
デスクの上にたまっている書類の束の中から
1枚のつまみ出した。
それは何ですか? と俺達は目で訊いた。
大河原もそれに気づいたようで、分かったよと言わんばかりののっそりした態度でそれを読み始めた。
「第3師団播磨防衛戦第1即応連隊第3大隊第2戦闘隊第1分隊。今週末を持って解散、第3師団特設機動大隊への編入を命ずる。第3師団師団長」
普段は落ち着きのある声が、今回珍しく怠惰感を満載にしている。
「この間の戦闘で、第1大隊がほとんど壊滅したのは理解しているな?」
大河原が、並ぶ俺達をジロリと一瞥して言った。
無論、それくらいは俺も他の奴等も理解している。
何せ、第2戦闘隊で残ったのはこの分隊だけだ。
他の戦闘隊にもいくつか残った分隊はあるそうだが、基本的に半壊、ないしは事実上の全滅ばかりだ。
そう言った点で、俺達の分隊は凄まじく幸運に恵まれている。
負い目も、かなりデカいのが着いてくるが。
「で、俺はそう言った事務的な仕事を滞りなく完遂しないといけないわけだ。何せ、必要書類が多い。多い上に、表記ミスも絶対に許されない」
平らな口調で、大河原が言う。
その顔に表情はなく、それはつまり・・・・・・
「そんな大変な身の上の俺に、これ以上の仕事を増やすとは良い度胸だ・・・・・・・・・・・・歩兵装備フルで駐屯地外周を2時間、5周以上走ってこい」
姿勢を崩さなかった分、俺達は顔を必要以上に強ばらせた。
・・・・・・・・・・・・マジか。
「走り終わったら反省文も提出しろよ」
脳味噌筋肉には、これ以上にない罰がここに下された。
しなだれたようすで出て行く俺達の背中にさらに追い討ちをかけるのは、大河原の苛立ちの象徴か。
・・・
「ちゃんと、各自で考えてかけよ」
普段かは揺るぎない声は、こう言うときに脅しに使える。
声は言外に語る。
セコい真似したら、もっと酷いことになるぞ、と。