棺と踊れ、ジルバを刻め   作:ザタキシード

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死にたがり

 

「本日1000時付けで播磨防衛線第1即応連隊第3装甲歩兵大隊第2戦闘隊第1分隊に配属された、イリス・ローレンツ兵長であります。移動前は、伊丹要塞にいました。足手まといにならないよう努力します!」

 

そんなことを言いながら、整列した俺達の分隊の前で挨拶をする少女がいた。

 

イリス・ローレンツ、階級は兵長、年齢は 19~23と言ったところか、兎に角幼い雰囲気が抜けきらない印象が強い。

 

で、配属は俺達の分隊。

 

補充要員を必要としているのは、どこの部隊でも同じ事で、無論この分隊も必要としていた。

 

だが、とたんに俺は嫌な気分になってきた。

 

この間、俺のバディが死んだ。

 

名前も覚えていない。

 

戦闘開始直後に、スパイクショットが暴発して上半身と下半身がサヨナラしたのだ。

 

で、俺はまたバディがいなくなって、

補充要員を求める羽目になったのだが。

 

それが、まさか女になるとは、一体誰が想像できた?

 

少なくとも、俺は想像できなかった。

 

いや、意図的に考えていなかった、の方が正しいか。

 

戦争に参加するのは男であれ女であれどちらでも構わない。

 

何せ戦争だ、性別で分け隔てするような紳士的な余裕など無い。

 

だが、戦場は別だ。

 

男の世界なのだ。

 

性別の分け隔て、じゃなく、ソコに立って血を流して汚れる役は男でないといけないのだ。

 

女にやらせるような仕事では、無い。

 

俺はそう信じていた。

 

だが、そうもいかないようで彼女はこちらへ近寄ってくる。

 

やめろ、こっちへ寄るな。

 

その思いも、口にしていないから彼女には伝わらない。

 

彼女が、俺の前で立ち止まり、直立不動の姿勢をとった。

 

「貴方が、私の新しいバディになる方ですね?」

 

「・・・・・・らしいな」

 

「イリス・ローレンツ兵長であります。

よろしくお願いします、天城・タカオ伍長」

 

そう言って、健気な雰囲気を漂わせ彼女は敬礼をした。

 

俺も、反射で返す。

 

が、頭の中は不満と不安でいっぱいだった。

 

何で女だ、やめてくれ、と。

 

「あ、あと。女だからって甘く見ないで下さいね?」

 

その言葉も、よく聞く台詞だ。

 

そして、俺が知っている内でそんなことを口走った奴は、たいがい早死にするか病院送りにあって復帰も出来なくなるかのどちらかだ。

 

「甘く見ねぇよ」

 

確かに、甘く見た記憶はない。

 

だが、その言葉を信頼した記憶もまた同じく無い。

 

つまり、バディとして数える気がないのだ。

 

女が戦場に出てくるのが嫌なわけではない。

 

ただ、女に戦って欲しくないだけだ。

 

それは、単なる俺の愚かしい前時代的な考えかも知れない。

 

だが、本心なのだ。

 

だからこそ、言う。

 

「戦闘中、俺を頼りにするな。死ぬぞ」

 

そしたら、彼女が死ぬ確率も下がる。

 

俺が嫌な思いをせずにすむ。

 

一石二鳥じゃないか、そう自己満足に浸っていた時だった。

 

「馬鹿言わないで下さい」

 

そう言われた直後、乾いた音が響いた。

 

右頬に、遅れて痛みが乗ってきた。

 

「上官への暴力に関しては、後でいくらでもお咎めを受けます。ただ、これだけは勘違いしないで下さい。

私は兵士です。いつ死のうが、兵士である限り戦場で死ねるなら本望、変な気遣いは無用です」

 

淡々と出てくる言葉。

 

変な抑揚がない分、むしろリアルに聞こえる。

 

だが。

 

その主張を飲むわけにはいかないのだ。

 

努めて冷静に、そして冷めた声で言う。

 

「お前の言いたいことはよく分かった。

だが、その手の言葉はもう聞き飽きたし二度と聞きたくもなかった。同じ事を言って死んだ奴は、俺のバディにも沢山いた。お前も、その仲間か?」

 

理不尽で滅茶苦茶なことを言っているのは、俺も充分承知している。

 

だが、ここで引き下がるわけにもいかないのだ。

 

俺が辛い思いをしないためにも。

 

「戦場で死ねるなら本望? ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ、新入り。死にたいなら今ここで殺しても一向に構わねぇが? 手前ぇ命を何だと思ってやがる」

 

痺れる右手をどうにか握りしめながら、俺は言った。

 

向こうは、凄く心外そうなそして明らかな反抗心をこめた目で俺を睨んでいた。

 

殴りたい衝動に駆られたが、それは理性で抑え込んだ。

 

今まで、足手纏いにならないよう頑張ります、そう言って死んだ兵士は何人も見てきた。

 

だが、誰1人として戦場で死ぬのが本望、とは言わなかった。

 

みんな、死ぬことを怖がっていた。

 

だが、この小娘はどうだ。

 

戦場で死ぬのが本望だと、良い目をして言いやがる。

 

ふざけたことを言うな。

 

俺は、死なないために戦ってるんだ。

 

死ぬのが本望なんて、考えたこともない。

 

かつて、俺のバディをつとめた奴らも、全員だ。

 

「天城伍長、そこらへんにしておけ。

ローレンツ兵長、貴様もだ。口を慎め」

 

ピリピリした空気を無理矢理おさめたのは、俺達の分隊長たる大河原・幹久曹長だ。

 

有無を言わせぬ、重圧を秘めた柔らかい声を前に、俺は矛を収めた。

 

恐らく、この女にはいくら言っても理解されない。

 

どこかでそう感じていたから、案外早く切り替えが出来た。

 

「・・・・・・すみませんでした。

天城伍長、持ち場に戻ります」

 

そう言って、俺は分隊の事務室を後にした。

 

怒りで頭がヘンになりそうになる、とは正にこうイうことなのだろう。

 

廊下を歩きながらも、頭の中でさっきの言葉が流れる。

 

戦場で死ねるなら本望です。

 

「・・・・・・ふざけんな・・・・・・!!」

 

壁を殴りつけた。

 

拳の皮が少しめくれ、鈍い痛みがじんわりと残る。

 

俺は死にたくない。

 

だから、敵を殺すのだ。

 

死ねるなら本望、そんな言葉何をどうされても口にしたくない。反吐が出そうになる。

 

戦場は、殺し合うための場所であり生き残るための場所だ。

 

そこに、戦って死ねるなら本望、などとほざく奴が混じったとしよう。ソイツがいる陣営は負ける。

 

生きることへの執着が無いやつが混じると、そこはすぐに戦力が低下するからだ。

 

分隊にとって1人の損失は小隊にとって1個分隊の損失と同等なのだ。

 

そんな風に、命を軽く見る奴が俺のバディだというなら、俺はそんなバディはいらない。

 

1人で戦った方が、よっぽど長生きできる。

 

そうこう考えている内に、俺はいつの間にか建物の屋上まで上がっていた。

 

一番近い手すりにもたれ掛かり、空を見上げた。

 

どうにも、今の俺にとっては例えどんなものであろうと神経を逆撫でする要因にしかならないらしい。

 

誰もいないことを良いことに、俺は盛大な舌打ちをして手すりから離れた。

 

収まりきらない不愉快な気持ちを抱えながら、俺は分隊の事務室へ戻った。

 

 

 

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