金属製プレートの上にのせられているのは、焼きベーコンとキャベツが挟まれた黒パンが2つ、スクランブルエッグ、ポテトサラダ、そしてデザート代わりの野菜ビスケットが3枚。
これで意外と高カロリーな組み合わせで、確かこれ1つで2300kcalだったりする。
そんな見た目の量に反して太る要素が満載のプレートを持ちながら、俺は空いている席を探していた。
急拵えの食堂は、やはり前身が体育館だったということもあり人口密度が異様に高い。
気持ち程度にしか開いていない通路は、両端から攻めてくるパイプイスの背もたれのせいで更に狭まっていて人1人が通れるか通れないかの瀬戸際だ。
それが分かり切っているからこそ、配膳列の手前の方に体格が比較的ふくよかな兵士が集注しているのだろう。
迷惑この上ない話だ。
舌打ちを堪えながら、極端に狭い、通路と言うよりも隙間と言った方がしっくりくるそこに無理矢理体をねじ込ませていた。
ガタガタと、さも迷惑そうにイスをずらす音が、どうにも耳に障る。
クソ迷惑な思いをしてるのはこっちだって変わらねぇんだよ!
口に出そうになるのを、無理矢理喉元で押しとどめて飲み込む。
口に出したら、色んな物が飛び散るカオスになりかねない。自重は大事だ。
不愉快極まりない環境にもまれながら移動をしていくと、不自然に出来た空間と出会った。
違和感のある席の空き方だが、今の俺にはどうでも良いことで、座れるならどこでもござれだ。
真隣と真正面にムサいオヤジを臨む席には座りたくもなかったので、少し集まりから外れた席に腰をかけようとした。
が、座ろうとした席の隣には既に誰かが座っていた。
まぁいい、構わない。
「隣、失礼します」
相手の階級章を見ていなかったので、無難な丁寧語で言った。
「あ、天城軍曹」
腰を落ち着けて、さぁ飯を食おうかと構えたその時、その声が聞こえた。
そして、その声には聞き覚えがあった。
と言うより、良く知っている声だった。
「・・・・・・あぁ、この辺りの不自然な空間の理由が良く分かった」
食事時、不作法極まりないのは分かっていながらも、それでも俺は盛大なため息をつき突っ伏した。
「何でこんなに避けられてんだよ手前ぇ」
「・・・私が望んだ訳じゃありません。皆が勝手に遠ざかるんです」
「まぁ、だいたいの予想はつくがな。大方、この間の話が良くない形で広まったって、そんなとこだろ」
それを言うと、隣に座っていた先客ーーイリスはジロリと俺を睨んできた。
「知ってるなら言わないで下さい」
「予想がドンピシャだとは思わなくてな」
少しばかり嫌な空気になりかけたので、俺はここらでいったん話を止めて食事にありつくことにした。
今のご時世、こうやってちゃんと生鮮食料品の味を感じられるのも軍隊だけだ。
その事に微塵も有り難みは感じないが、それでも俺にとっても食事は数少ない楽しみだ。
わざわざ悪い空気の中で食う気にもならない。
黒パンのサンドイッチを1つ平らげたところで、俺は再び口を開いた。
「・・・・・・最近は落ち着いたか?」
「んぐっ・・・・・・何がですか?」
咀嚼中に話しかけたらしく、無理矢理飲み込んで少しばかり苦しげな声だ。
「・・・・・・この話を口にするのは俺も甚だ不快なんだがな。この間のヤツのことだ」
「っ」
「まぁ、今の手前ぇの顔見る限りはもう武器を握らせても安全ではあるみたいだが」
「・・・・・・訓練から無理矢理外したのはあなたでしょう、天城軍曹」
「そりゃ、手前ぇに武器持たせんのが危険極まりなかったからだ。俺だって、バディのせいで怪我するなんて真似はしたくねぇよ」
「・・・・・・」
思い当たる節があるのか、向こうは不機嫌そうに黙り込んでしまった。
「・・・・・・話がそれたな。もうそろそろ、お前を通常業務に戻す頃合いかと思ってな、それで確認を取ろうかと思ったんだが、ど「行けます」
言い終わる前に被せられた。
「行けます」
隣を見ると、だいぶ正気に戻った2つの目が俺を見据えていた。
真偽を探るように、俺はその目の奥を見据え返した。
・・・・・・揺らいだ。
「・・・・・・まだ無理だな」
「っ! どうして!?」
机をたたいて、イリスは抗議してきた。
周囲がその音に気づき静まりかえる。
居心地の悪い数々の視線が、俺達の方に集注する。
「・・・・・・すみません」
渋々といった風にイリスは座り直した。
徐々に周囲の喧噪が戻ってくる。
「・・・・・・ん~、そうだな・・・」
少しばかりわざとらしく、俺は周囲を見渡す仕草をした。そして、それらしいところで視線を固定して口を開いた。
・・・
「・・・・・・ぁ、アイツ等だ」
「!?」
「ほらな、まだ立ち直れてないだろ」
「っ!」
「精神的に立ち直れていないヤツに武器持たせることの恐ろしさは教育期間中に教えられただろ」
言外と言うには随分と分かりやすい表現で、俺は言った。
返事は、無い。
「俺には、お前が感じた恐怖とかそのテの感情は理解出来ん。だが、俺もそうだが分隊の皆がお前の復帰を望んでる。俺も出来る範囲で手伝うから、早く立ち直れ」
言うだけ言って、俺はそそくさと飯を頬張ってその場を離れた。
後はアイツ次第だ。