棺と踊れ、ジルバを刻め   作:ザタキシード

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何故、何故、何故

 

あのクソ生意気な新人が配属されて、今日で2週間が経過する。

 

特別大きな戦闘があったわけではないが、それでも何度か小規模な戦闘は発生した。

 

大抵は、敵の威力偵察集団の迎撃と殲滅だった。

 

まれに、連中の群からはぐれた小規模な集団がこちら側の警戒網に引っかかって、それの迎撃任務もあった。

 

それら全ての戦闘に、俺達の分隊が出動した。

 

無論、例の新人も一緒に、だ。

 

腹が立つことに、アイツは腕が立つ。

 

こればっかりは、俺も認める。

 

あいつは、類稀な戦闘センスを持ち合わせている。

 

なるほど、あんな態度がとれるわけだ。

 

後で聞けば、アイツは実戦経験こそほとんど無いが、伊丹要塞にいた頃は戦闘演習などで優秀な成績を残していたそうだ。

 

どんな戦い方をしていたのかまでは分からなかったが。

 

だが、現状を鑑みるに、恐らく極端に前衛的な戦い方をしていたのではないか、俺はそう予測を立てた。

 

根拠は2つ。

 

敵との距離を詰めすぎる傾向がある。

 

周囲の味方の動きをあまり把握していない傾向がある。

 

これらだ。

 

あの小娘もとい新人は、敵と肉迫して叩きのめす、そんな戦闘をしていた。

 

素早く移動し物陰に隠れ、頃合いを見て飛び出し、敵と相対して、それを徹底的に叩く。

 

奇襲戦法に近い戦い方だ。

 

あのやり方は、確かに有効な戦法だ。

 

特に、バディがいなくなった状態で、なおかつ敵が押され気味の時は。

 

だが、現状は違う。

 

俺を含めて16人の戦闘員で構成された分隊で、各班が指揮官の指示で動き、可能な限り安全で効率的な戦闘を構築する。

 

2班で、1体の敵を確実に仕留める。

 

それらを死角から襲う個体があれば、他の班がそれを牽制し、仕留める。

 

兎に角、連携を重視した戦い方が、この分隊の基本だ。

 

いや、基本的にどこの部隊でもこの理屈は同じだろう。

 

だからこそ、尚更そのやり方に従わず、1人だけ出過ぎた戦い方をする、あの新人が俺達にとって足手まといなのだ。

 

射線に入り、彼我の間に無理矢理割り込み、状況をかき乱しまくるのだ。

 

それでいて、あいつ本人はしっかりと敵を殺している。

 

正直、邪魔なのだ。

 

そして、それは俺だけが思っていることではない。

 

他のメンバーにも言われた。

 

あの新人の暴走をどうにかしろ、と。

 

出来るなら既にやっているさ、俺は言われる度にそう返した。

 

俺個人も、本人に向かって何度も言った。

 

その度に返ってくる返事は、すみません気をつけます、

の一点張り。

 

噛みついてこない分、逆に腹が立つ。

 

そして、次の戦闘では、やはり気を付けていないのだ。

 

あの新人は、自身が戦闘の邪魔になっていることを、全く自覚していない。

 

そして一昨日の戦闘後、俺はキレた。

 

「手前ぇ、どうしてそう、いつもいつもこっちの射線を塞ぎやがる!? 邪魔がしたいのか、あぁ? それならいっそのこと、軍人やめてローンレンジャーでも気取ってろ!!」

 

あの戦闘で、ついに負傷者を出したのだ。

 

怪我をしたのは、この分隊の古参兵の1人である、萩原軍曹だ。

 

あの新人が、1人で踊り狂っている間に、彼らの班も丁寧に敵を片付けていた。

 

だが、あの2人の後ろから、仕留め損ねた敵が襲いかかったのだ。

 

俺は、それに気が付いて、反射で銃口を、あの2人に襲いかかる敵に向けた。

 

そして、ことは起きた。

 

あの小娘が、こっちの射線上に入りやがったのだ。

 

その結果が、萩原軍曹の一時離脱だ。

 

前にも言ったが、分隊において1人の損失は、中隊における1個小隊の損失に等しい。

 

つまり、作戦遂行能力が著しく損なわれるのだ。

 

1人の馬鹿のせいで。

 

「クソ・・・・・・!」

 

分隊の事務室にある、俺のデスクで俺は毒づいた。

 

俺以外には、誰もいない。

 

他の同僚も、あの新人も。

 

この分隊の中で、俺が孤立していないことは俺自身にとって唯一の救いだ。

 

たまに、教育係がしっかりしていないから、と謗られもするが、それは甘んじて受ける。

 

確かに、俺の新人教育が行き届いていないが故の不祥事だ。

 

それは、一切否定できない。

 

どうやったら、アイツは俺達のやり方に馴染む?

 

デスクにつきながら、俺は考えた。

 

何が気に喰わない、どこが駄目なんだ、どうやったら俺達の業に従ってくれる?

 

一切、わからない。

 

教育係として、何より曲がりなりにもアイツのバディとして、情けないことこの上ない。

 

「胸くそわりぃ」

 

俺は、そう言いながらデスクに突っ伏した。

 

その時、扉が開く音がした。

 

数人の足音とともに。

 

「お、ジャジャ馬の調教、ご苦労さん!」

 

「ちょ、伍長言い方が・・・・・・」

 

同期の長門伍長と、後輩に当たる淵田兵長だった。

 

「俺が本物の調教師なら、もっと上手くやれてる」

 

俺は、拗ねたような口調でそう返した。

 

「ま、そりゃそうだな。いやぁ、にしてもあの嬢ちゃん、動きだけは良いセンスしてるよなぁ」

 

長門が、俺の態度には何も言わずに、腕を組み頷きながら言った。

 

「そうですね、僕の同期でもあんな動き方出来る人はいませんでした。下手したら、そこんじょの教官よりも上手いかも」

 

淵田も、考え込むように俯きながら言う。

 

「連携能力がなけりゃ、ただの無能だ」

 

俺は、2人のやや好意的な評価をバッサリと切り捨てた。

 

お厳しいことで、と軽い調子で返してきたのは無論長門だ。

 

「その無能を、問題を起こす前に直しきらなかった俺も、また同じくだがな」

 

自嘲気味に、俺は言った。

 

萩原軍曹の離脱には、正直かなり堪えている節がある。

 

分隊の基幹を、戦線から引き剥がしてしまったのだから、俺の指導不足で。

 

すると、俺の肩に筋肉質な手がのっかった。

 

「皆ああ言っているが、誰もお前を恨んじゃいねぇ。お前も、そう気に病むな」

 

同情とか、そう言う感情を含まない、至って平淡な口調で長門が言った。

 

「そうですよ、萩原軍曹も何のかんので笑って流してくれてますし」

 

「・・・・・・・・・・・・そうだな。過ぎたことは悔やんでも意味ねぇしな、話を戻すか」

 

「彼女の連携能力の欠如、ですね?」

 

淵田が言った。

 

その通りである。

 

今重要なのは、アイツの抜群の戦闘センスなどではなく、もっと基本的な、協調性なのだ。

 

軍隊という、連携の塊の中で協調性が無い輩は、邪魔以外の何者でもない。

 

「業に入っても業に従わねぇのが問題なんだよな」

 

「確かに、空気読んでいない感じはしますね。まるで、彼女1人だけで戦ってるみたいだ」

 

淵田が、今度はかなり的を射た言い方をして俺の意見にのった。

 

「周りを頼りにしていない、と言うか、我々が元よりいないものだと思っているような・・・・・・」

 

「何かなぁ、俺達を信用してないよな、あの嬢ちゃん」

 

信用していない、か。

 

「何でそう思うんだよ?」

 

「ん? そんなの、だって、連携をとることを頑なに拒むなんて、仲間を仲間と思ってないからだろ。じゃなきゃ、普通はあんな独りよがりな戦い方はしない、て言うか出来ない」

 

「・・・・・・・・・・・・なるほどな」

 

一理は、ある。

 

「何がだ?」 

 

俺の考えをいまいち理解し切れていない長門が、間抜けな声で聞いてきた。

 

まったく、コイツは鋭いのか鈍いのか、よく分からない奴だ。

 

まあ、そんなことはどうでも良い。

 

話を先に進めなければ。

 

「伊丹要塞の教育隊にいたんだよな、アイツ」

 

「多分な。詳しく知りたいなら、あの嬢ちゃんの個人データ覗かせてもらえばいいだろ」

 

「そう、だな。そうしてみるか」

 

俺は、2人に礼を言って事務室を後にした。

 

俺は、アイツのことをほとんど知らない。

 

何をするにしても、情報がその後の結果を左右する。

 

まずは、アイツについて知ることからだ。

 

己を知り、敵を知らば、百戦危うからず、と昔のえらい人も言うくらいだ。

 

俺は、人事課事務室まで歩いた。

 

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