棺と踊れ、ジルバを刻め   作:ザタキシード

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恐怖を知れ 1

 

『第2防衛線、突破されました! 第3防衛線接触まで、後約500秒!! 残存兵力、ルートBを使って本陣へ退却中!』

 

「高い棺」の中で、俺はそのオープンチャンネル通信を聴いた。

 

「この様子だと、後20分もしない内にココまできそうですね、敵の集団」

 

淵田兵長が、少し緊張したような微かに震えた声で、こっちに話しかけてきた。

 

「コレだから、経験の無い連中に出しゃばって欲しくなかったんだよ、畜生め」

 

俺が返す前に割り込んできたのは、長門伍長だ。

 

「おい、淵田。とりあえず唾を飲んで深呼吸しろ。3回だ。そんで、少し目ぇ閉じてからもう一度開け」

 

俺は、淵田のチャンネルに直接介入して言った。

 

「え、何を?」

 

「良いからさっさと言われたとおりにしやがれ!」

 

何が何だかよく理解していない淵田に、俺は有無を言わせぬ口調で怒鳴った。

 

ヘッドフォン越しに、淵田の深呼吸音が聞こえる。

 

「・・・・・・ちったぁ落ち着いたか?」

 

「はい」

 

「なら良い。確かに、あの素人共が連中の相手をしているなら、本当に後20分もしない内に、この最終防衛線まで押し寄せてくるだろうな。だが、それがどうした? いくら連中の数が多かろうと、俺達の仕事は変わらん。徹底的に叩きのめす、それだけだ。他にあるか? 緊張なんて、するだけ無駄だ」

 

俺は、諭すように言った。

 

そのつもりだが、こういう時に限って自分の言葉選びの雑さに、少々腹が立つ。

 

「天城伍長、私語は極力慎んでください」

 

「ぺーぺーの新米が何言ってやがる。そう言うことを言いたいなら、まず手前のことを見直してからにしろ」

 

新人の、イヤに生真面目なお咎めに対して、俺は嫌みったらしく返す。

 

全く、忘れがちだが素人はコッチにも混じっているんだった。

 

他のところのことも、あまり悪く言えないな。

 

まず、ことの始まりからだ。

 

本日0250時、警戒偵察機が敵集団の集結をレーダーで確認。

 

俺達は、すぐさま叩き起こされて作戦会議室へ走らされた。

 

そこで、俺達は今回の作戦内容を聞かされた。

 

内容はこうだ。

 

10km間隔で防衛線を4つ展開し、それぞれで敵と交戦し、敵集団の物量と勢いを減らせるだけ減らせる。

 

最終防衛線の後ろで控えている、民間人居住区の避難が完了するまで持ちこたえることが、この作戦の主目的だ。

 

目的を完遂したら、あとは陸軍の砲兵部隊の砲撃と空軍の絨毯爆撃で片付ける予定だ。

 

で、現状だが。

 

避難完了率は、まだ5割も満たしていない。

 

戦闘は、開始してからすでに30分を過ぎている。

 

敵は、もうほとんどすぐそこまで来ているのだ。

 

この作戦に投入される戦力は、俺達が所属する大隊の全ての戦闘部隊だ。

 

数の上では、600人の装甲歩兵がこの戦闘に突っ込まれているのだ。

 

しかし、そのほとんどは実戦経験の少ない、素人同然の兵士ばかりで、正式な戦力としてカウントするには、少しばかり抵抗がある。

 

で、案の定、防衛線はことごとく破られて、あと1枚突破されたら、次は俺達の番だ。

 

「避難完了率は今どれくらいなんだ・・・・・・?」

 

長門伍長が誰に言うでもなく口にした。

 

「現在、48%が避難完了している。あと3分もしない内に50%避難し終えるだろう」

 

そう返したのは、我らが分隊長こと大河原曹長だ。

 

「何、前で出しゃばってる馬鹿共が頼りにならないことくらい、お前等全員知ってるだろう。こんなこと言ったら萩原に怒られるな。良いか、今回の我々の仕事は後ろが良しと言うまで戦い続けることだ。簡単な話だ。肝に銘じておけ」

 

『Yes,boss sir!』

 

俺を含めた、その場にいる全員がそう応答した。

 

俺は、機関銃の安全装置を解除しチャージングハンドル を引いて、薬室内に初弾を装填した。

 

HUDに、照準用のレティクルが表示される。

 

端の方にある兵装表示には、

『Gun full     400/400《lady》

 90mmGun full 7/7     《rock》

 Hand-G full   10/10   《lady》

 Spikeshot full  10/10   《rock》』

とある。

 

つまり、いつ敵が来てもしっかり返り討ちに出来る状態にあるのだ。

 

「各員よく聞け。第3防衛線の維持力はあてにするな。もう、いきなり敵が来るものだと考えろ。で、敵が来たときの対応手順だが、まず前衛分隊が無反動砲で牽制攻撃を開始する。そして、距離が詰まってきたら即時後退して本陣に合流。で、そこからは我々の仕事だ。後退する友軍が、本陣と合流するまでの間、敵を出来る限りくい止めることが、我々の仕事だ。分かったか?」

 

『Yes,boss sir!!』

 

「よろしい。・・・・・・ふん、早速防衛線が崩れだしたな」

 

レーダーを見ると、ディスプレイには友軍を示す青のドットが敵を示す赤のドットに押されて、だんだん両翼端から丸められている様子が表示されていた。

 

味方のドットが、次々に消えるか、死亡を示す黄色のドットに変わっていく。

 

「これじゃあ、まるでリンチだ」

 

長門伍長が言う。

 

「・・・・・・・・・・・・クソッタレ共が・・・・・・!」

 

俺は、刻々と変わりゆくレーダーディスプレイを見つめながら、吐き捨てるように言った。

 

そして、間もなく第3防衛線は崩壊した。

 

「大河原曹長、後方の避難完了率は!?」

 

俺は、怒鳴るように訊いた。

 

「現在、54%。慌てるな、天城」

 

「・・・・・・すみません」

 

俺達は、少なくともあと30分は戦わなければならない。

 

その現実が、さらに体を重くさせる。

 

・・・・・・・・・ほら、来た。毎度お馴染みの恐怖の震えだ。

 

足が、疲れているわけでもないのに笑ったようにガクガクと揺れ、呼吸が少しずつ浅くなり、心臓が畏縮しそうな錯覚に襲われ、手は小刻みに震える。

 

怖い。

 

死ぬことが、怖い。

 

「・・・・・・怖いんですか?」

 

暗くなりそうな視界が、とたんに正常に戻った。

 

あの小娘だった。

 

「伍長、怖いんですか? 戦うことが」

 

「・・・・・・うるせぇ、黙って前向いてろ」

 

「でも、伍長のバイタルデータが明らかに異常なんです」

 

「良いからっ! 黙ってろ」

 

良心かどうかも分からない新人の忠告を、俺は怒鳴って遮った。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「死ぬのを怖がってなにが悪い」

 

これが本音だ。

 

人間、誰でも死ぬことが怖くない奴なんて、いない。

 

自殺志願者でさえ、遺書を残すのだ。

 

怖がっていないわけがない。

 

「・・・・・・・・・・・・伍長」

 

新人の小娘が言った。

 

「・・・・・・・・・・・・前から言おうと思ってたんですけど」

 

「・・・・・・何だ?」

 

思わせぶりな口調に、俺は不愉快さを露わにしながら聞き返した。

 

「あなた」

 

 

 

「兵士むいてないですよね、見損ないました」

 

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