「勝手に見損なってろ。だが、これだけは言っておくぞ。俺達の邪魔をするな」
そう言ったのが、つい20分前だ。
そして、今。
目の前に広がっているのは、敵や味方の死体、死体、死体。
血溜まりが広がり、地面は赤黒いシミで覆われ、味方の死体の周りには内臓が溢れ、破れた小腸から糞がこぼれている。
誰のとも分からない右腕が足下に転がっている。
『第2分隊全滅!! 残存戦力107!』
通信機にその声が響く。
「クソッ! あとどれくらいかかるんだ!?」
「現在避難完了率83%だ。持ちこたえろっ!!」
「ファック! ジェイキンスが喰われたっ!」
「第3分隊、後退する!」
「こちら第4分隊、敵に囲まれた! 場所は右翼中間点、誰でも良い、支援を! これじゃあ全滅するっ」
『避難完了率85%』
「いやだぁ、食べないでくれぇっ!」
オープンになった通信機には、どこかで戦っている誰かの悲鳴が絶えることなく垂れ流される。
戦況は、芳しくない。
「誰だ、畜生! 射線にはいるなっ、邪魔だ・・・・・・
ウワァァッ!?」
ノイズが耳に響く。
「何っ!?」
射線にはいる馬鹿は、あの人間をクソなめた態度をとる、クソ生意気な新人しかいない。
「あの馬鹿がっ! よそに行ってまで邪魔してんじゃねぇぞ!!」
俺は、レーダーディスプレイをHUDのメイン画面に表示して、バディのビーコンのあるところへ移動を始めた。
「天城伍長、どこへ行く!?」
呼び止めたのは、萩原軍曹だ。
「持ち場を離れるな、戦線が崩れるぞ!!」
「あの馬鹿が、よそ行って引っかき回してるから、連れ戻しに行く! アレを放置したら戦線維持どころじゃなくなるっ」
俺は、戦闘音で声がかき消されないように精一杯大きな声で怒鳴った。
「・・・・・・長門班を同行させる! 長門伍長、淵田兵長を連れて天城の援護を」
少しの思案の後、萩原軍曹は俺に長門班をよこした。
「あのじゃじゃ馬娘を連れ戻せ」
「了解」
俺は、合流してきた長門と淵田と共に、あの馬鹿の元へ走り出した。
浅い塹壕を鈍重に走り、敵を見つけたら、その瞬間に機関銃を撃ちまくり蜂の巣に仕立てる。
仲間の死体に何度か足を取られ、転ける。
その度に毒づきながら立ち上がり、再び走り出す。
「クソォ、あの嬢ちゃんはどこで迷子になってる!?」
「・・・・・・敵の多い場所に移動してやがる」
「なんの冗談ですか!?」
「今の俺に冗談言うような理性はねぇっ!!」
怒鳴りながら、さらに走る。
アイツは、俺のことを軽蔑すると言った。
敵を目前にして、ビビる俺を。
つまり、アイツは表面上では敵を畏れないと宣言しているのだ、その真偽は別にして。
ならば、あの生真面目のことだ。
まあ間違いなく有言実行をしているに違いない。
いつも通り、周囲の状況を省みずに、だ。
とするならば、あの小娘が今いる場所と言えば、敵がよく集まっている場所しかない。
・・・・・・・・・・・・あの馬鹿が・・・・・・!
胸の中で、俺は罵り散らした。
クソッタレな新人に、そんな新人を寄越しやがった人事局に、そして何よりもこんな戦いを強いる敵に。
ありったけの怒りと嫌悪をこめて、罵った。
『第4分隊、全滅! 残存戦力76!』
俺は耳を疑った。
第4分隊が全滅した、だと?
確かに、レーダーディスプレイを見る限り、右翼中間点には、もう友軍の反応が見えない。
これは、思った以上に事態が悪い方向へと動いている。
このまま行けば・・・・・・・・・・・・全滅する。
そうなれば、俺達の後ろにいるまだ逃げ切れていない民間人達が、ことごとく敵に喰われる。
今、ここで繰り広げられている以上の惨劇が起きることは、明らかだ。
「・・・・・・急ぐぞ!」
俺は、走る歩幅を出来るだけ広げ、さらに走った。
何が何でも急げ、急いであの馬鹿を引き戻せ。
俺は自分に言い聞かせながら走り続けた。
塹壕の中を、大地を、死体を、血溜まりの上を、兎に角走った。
そうしなければならないと思ったから。
「天城、危ないっ!!」
俺は、長門の警告に対して反応が遅れた。
そして、デカい何かに押し倒された。
背中に、鈍い衝撃が走る。
「!!」
敵だった。
資料写真でしか細かい部分を見ていなかったが、いざ目の前にしてみると、コイツ等はもっとグロテスクで気色悪く、そして凶悪だ。
八つ目ウナギみたいな牙だらけの口から、粘液質の体液が垂れ、俺の「高い棺」の上に広がる。
・・・・・・殺される。
脊髄だけでそう悟った。
左腕を振り上げて、敵のわき腹に押し付けた。
「さっさと喰わねぇからこうなる」
左腕に、衝撃。
すると、あてがっていた敵の横腹から黄色い体液が飛び散った。
一瞬遅れて、破裂。
全身に、敵の肉片が飛び散る。
ただの重たい塊をどけて、立ち上がった。
パイザーにこびり付いた肉片を払い落とす。
「行くぞ」
立ち尽くす2人にそう言って、再び走り出す。