棺と踊れ、ジルバを刻め   作:ザタキシード

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恐怖を知れ 3

走る途中、何度も転けた。

 

理由は、俺が一番よく分かっている。

 

さっき、死にかけたときの恐怖が今になってきているのだ。

 

殺される、喰われる、死ぬ、俺が。

 

さっきから、ずっと頭の中でこの事実だけが浮かんでは消えて浮かんでは消えてを繰り返す。

 

足が震える。

 

汗で背中がビショビショだ。

 

歯がガチガチと鳴る。

 

垂れる汗と鼻水が、顎当て用のクッションに染み込んで、不快感が高まる。

 

息は荒く、心拍数はかなり跳ね上がっている。

 

183回/分。

 

病院に行ったら、間違いなく高血圧だと診断されるような心拍数だ。

 

空は曇っている。

 

所々が一瞬光って見えるのは、おそらく気のせいではない。

 

天候が崩れる前に、この戦況をどうにかしたい。

 

「畜生、コイツ等全員第4分隊の兵士じゃねぇか。全員死んでやがる」

 

「コイツ等の不運はあとから同情してやれ、今はあのクソ新人が先だ」

 

「了解だ」

 

死体の山を登って、さらに進む。

 

たまに柔らかい感覚が足の裏に来る。

 

足を取られて転けそうになるが、どうにか気合いで持ちこたえた。

 

体勢を立て直したその瞬間だった。

 

「・・・・・・いた」

 

「淵田?」

 

「見つけました、ここから2時の方向に68mの地点に友軍反応1、恐らくイリス兵長です」

 

「あの嬢ちゃんやるなぁ」

 

「あのクソアマ・・・・・・!」

 

俺は指定された方向へ勢い良く飛び出した。

 

目の前に据えるのは敵の山。

 

薬莢を踏み潰し、味方の死体を踏みつけ、爆壕を飛び越えて、襲い来る敵は腕力で無理矢理払いのけるか機関銃で撃ち殺し、場合によってはスパイクショットで中から粉微塵にして、兎に角走った。

 

そこに、何の感情も存在はしない。

 

任務だからという建前もしかり。

 

本能だけで動いていた、そうしなければならないのだ、と叫ぶものがあったから。

 

敵の山を切り開いていくと、次第に進むにつれて死体の山が行く手行く手に現れてきた。

 

「お、嬢ちゃんだ」

 

長門が指し示す先には、確かに1人で踊り狂う新人の姿があった。

 

俺は、手当たり次第に敵を撃ちながら彼女のもとまで走った。

 

「おい馬鹿野郎!! 一端後退して原隊に合流しろ!

何考えてココでやり合ってるかは知らんが、これは上官命令だ、早く退けっ!!」

 

彼女の背後に回り、俺は怒鳴った。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

返答は、無い。

 

「嬢ちゃん、天城の言う通りだ、ここは退くんだ」

 

「新入りっ!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・ちっ。イリス兵長、後退し、原隊に合流します」

 

渋々射撃を中断して、彼女は異同を始めた。

 

「長門、淵田! 退路を開け、俺が援護する!!」

 

「分かった!!」

 

すると、2人はまるで教科書のお手本のように見事な連携で敵を薙ぎ倒していった。

 

片方が、敵の足下を撃って敵を前傾姿勢にさせる。

 

そして、もう片方が敵の弱点の1ツである背中のコブの部分を撃ち抜く。

 

それの繰り返しだ。

 

1体、2体、3体、4体、5体、6体・・・・・・

 

次々と生暖かい肉塊が出来上がって、敵の血路が開きだす。

 

俺は、味方の撃ち漏らしの始末やバックアップに専念しながら進んでいく。

 

立ちはだかる敵の壁。

 

それは、越えても越えても、まだ出て来ては俺達の行く手を阻んでくる。

 

「まとめて片付けたい、天城!」

 

現状に痺れを切らした長門が、俺に打開を託した。

 

「射線空けろ、無反動砲をブチ込んでやるっ」

 

FCS画面を表示させ、90mm無反動砲のロックを解除する。

 

右肩から、砲を引き出してレーザー照準器を作動。

 

HUDに照準用のドットが表示され、数10m先の敵の山の中心に合わせる。

 

「発射!!」

 

ロケット弾が白い尾を引いて狙った先へ飛んでいく。

 

着弾、刹那、爆発。

 

敵の肉片やら、体液やらが空中に飛び散り、ボトボトと落ちてくる。

 

黄色い体液は、雨のように降り注ぐ。

 

それは、俺達にも容赦なく降り懸かりバイザーを汚す。

 

「畜生、イエローアウト!! 復帰させる、少し待ってくれ」

 

俺のバイザーはかなり体液で汚された。

 

その場で片膝立ちになり、手でバイザーを強く拭う。

 

ゴムのすり切れたワイパーでこすったように、バイザーの汚れが薄く広がる。

 

「くそっ」

 

さらに乱暴にこする。

 

すると、途端にバイザーの汚れが少しずつ自然と落ちてきた。

 

ポツリ、ポツリとバイザーの汚れが澄んで、流れ落ちていく。

 

「雨だ」

 

淵田が呟いた。

 

刹那、雷轟。

 

「いよいよマズくなってきた、天城、まだか!?」

 

「・・・・・・・・・・・・回復した!」

 

俺は立ち上がった。

 

通信機にノイズが走る。

 

『緊急連絡! 爆撃機部隊は天候の問題により離陸不可、爆撃機部隊は離陸できない! よって、民間人の避難完了後は砲兵部隊の支援砲撃の下、装甲歩兵部隊が殲滅戦を行うものとする!』

 

突然の凶報。

 

俺は、それの意味をほとんど本能で感じとった。

 

最悪のケースの1歩手前。

 

「はっ!? 爆撃機が上がれないだと!?」

 

「天城、今はそんなことは気にするな、後だ、 走れ!」

 

振り返る俺の後ろ襟の装甲板を、長門がひっ掴んで、俺を引きずる。

 

「兎に角走れっ!」

 

薬莢を、死体を、内臓を、クソを、肉片を、血溜まりを、オイルを、戦場を踏みつぶす。

 

全てを踏みつぶしながら、俺たちは走る。

 

情け容赦を知らない雨に打たれながら。

 

敵の包囲を何とか抜けて、俺達は本隊へ合流した。

 

「天城、長門、淵田、及びローレンツ、只今戻りました。指揮下には入ります!!」

 

大河原分隊長は、了解の意を示すため、ビーコンを2回点滅させた。

 

「現在、我々の置かれている状況は非常によろしくない。最悪だ。避難が完了しても、砲兵部隊のしみったれた砲撃の後、俺達が盛大な尻拭いをしなきゃならん。雨で足場も悪くなりつつある。各員、残弾に気を付けながら戦え、良いな!?」

 

「Yes,boss sir!!」

 

「分隊を再展開する。私の班と第5班は中部後方、第2~4班は左翼に展開、第6~8班は右翼に展開。他の分隊と連携して、敵の殲滅を優先しろ。第5班は遊撃班として行動、撃ち漏らしを始末しろ。散開!!」

 

「天城、何体でも撃ち漏らして良いぞ。俺と淵田がキッチリ全部喰い潰してやる」

 

「そんときゃよろしく頼む」

 

俺は天城班に、つまり第7班に所属し班長をしている。

 

部下は1人、しかもクソ生意気な新人だ。

 

「良いか、新人。俺のことを軽蔑しても構わん。だが、今回ばかりは俺の言うことを聞け、良いな、命令だ」

 

「・・・・・・」

 

「ローレンツ兵長、復唱!!」

 

「・・・・・・ローレンツ兵長、伍長の命令に従います」

 

不本意そうな口調であったが、今はどうでもいい。

 

と言うより、軍人がこんな命令を復唱しなきゃいけないということ自体が異常だ。

 

これが平時なら、小1時間ほど説教をしているところだが、今はそんなことも言ってられない。

 

むしろ、強力な味方がこっちの命令を聞くようになった分、喜ばしいくらいだ。

 

「命令、前に出過ぎるな、味方の射線に入るな、1人で戦うな。以上、復唱!」

 

「ローレンツ兵長、前に出過ぎません、味方の射線に入りません、1人で戦いません・・・・・・そんなの無駄ですよ、私1人で戦った方がマシです」

 

「手前ぇの愚痴は後で聞いてやる、今は言われた通りにしろ!」

 

このクソガキが、今になって噛みついてこなくてもいいだろうに。

 

「おい、天城! ソイツを大人しくさせとけよ、射線に入られちゃかなわん」

 

「調教師の仕事サボってんじゃねぇぞ!! 死ぬのは俺達なんだ」

 

「お前等は引っ込んでろ!!」

 

そんな野次も飛んでくるが、今の俺にとっては、もうどうでも良い音でしかない。

 

だから返事もしない。

 

お前等はお前等で生き延びる努力をしろ、こっちはこっちでしっかりと仕事をこなすだけだ、そんな意味を込めて左手を銃の形にして敵の方を指し示す。

 

「死ぬなよ!」

 

向こうも、こっちの意志を汲み取ってくれたようだ。

 

流石に、長い間同じ分隊で過ごしただけはある。

 

ある程度のところまで来た。

 

敵の集団は、減ったとはいえまだ多い。

 

俺達は塹壕に飛び込んだ。

 

泥水が跳ね、脚部の装甲を汚す。

 

 

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