呪術師じゃなくて、カースメーカーですけど   作:鳩胸な鴨

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制服は意地でも着ない。


新入生、華東芽衣子

「「「「「…………誰?」」」」」

 

東京校五人の声が重なる。

彼らの目の前には、ボロボロのローブを羽織り、拘束具をつけた少女。

幸薄そうな顔に、細い手足、やつれた顔など、健康そうには見えない体。

我らがカメコが、そこに立っていた。

 

「少し事情があってな。『今日』入学した一年生、華東芽衣子だ。

地域一つの呪霊を片手間に全滅させる実力者だ。今回の交流会でも役に立つだろう。

………くれぐれも、彼女のことを『コスプレ』と言わないように。手がつけられん」

「よろしくお願いします」

 

夜蛾の紹介に合わせ、頭を下げる。

五条には「サプライズしな〜い?」と誘われたが、虎杖と同じケースに入るのが嫌だったので辞めた。

せめて、第一印象は「無口な女」と認識されたい。

そんな願望を抱きながら、近づいてくるメガネの少女を見上げる。

 

「……こんなちっこいのが?地域一つの呪霊を全滅ゥ?」

「おかか」

「俄には信じられねーな」

 

正確に言えば、呪言で同士討ちさせただけなのだが。

そんなことを思いつつ、カメコはローブから手を出して、皆に握手を求めた。

その手を真っ先に取ったのは、やけに人間っぽい手をしたパンダだった。

 

「オレ、パンダ。よろしく、芽衣子ちゃん」

「………よろしくお願いします、パンダ先輩。

あと、カメコって呼んでください」

 

まんまパンダだった。

パンダかどうか定かではないものの、遠目で見ればパンダなため、パンダということにしておこう。

こうしてカースメーカーにパンダが並ぶという事実に、カメコは若干嬉しくなった。

世界樹の迷宮には、『ペット』という職業…かどうかはわからないが、アタッカーとしてもタンクとしても運用できるキャラクターが存在する。

ペットのキャラクタービジュアルの中には、まんまパンダのイラストがあり、パンダも世界樹の迷宮の登場人物だといえよう。

 

「で、めい…や、カメコはどんなコト…」

 

と、茶髪の柄の悪そうな少女が問おうとした、まさにその時だった。

石段を登る足音が、多く聞こえてきたのは。

カメコたちがそちらを見ると、京都校の面々が姿を現した。

 

「…なんか聞いてたより増えてません?」

「コスプレ?」

「……………え゛っ!?うそっ!?

あの再現度がめちゃくちゃ高いカースメーカーって、『カメコ』さん!?!?」

「テンション高いな、真依…」

『あれだろ。待ち受けのツーショット。目の前のコスプレイヤーだ』

「あー……」

 

無自覚にカメコの地雷を踏んでしまった京都校の生徒の二人。

彼らに悪気は微塵もないのだが、カメコは青筋を浮かべながら、ピクピクと眉を動かしていた。

 

「今私のことコスプレっつったかトトロのメイちゃんを極限までグレさせたよーなチビとアニマトロニクスの出来損ない」

「あ゛?」

『アニマトロニクスが何かは知らんが、とりあえず馬鹿にされたことはわかった』

 

まごうことなきコスプレヤンキーである。

今にも飛びかかろうとするカメコを、夜蛾学長がなんとか羽交い締めにして抑える。

 

「伏黒、アニマトロニクスって何?」

「ジュラシックパークのあのリアルな恐竜の中身。ロボットってやつ」

「へー。CGじゃ無くてロボットだったんだ。

TSU○AYA行って借りてくるから、終わったら上映会しよーぜ」

 

少女…釘崎野薔薇と、その同級生、伏黒恵がそんな会話を交わす傍らで、真依と呼ばれた少女が京都の二人を宥める。

何を隠そう、カメコは毎年恒例のあのイベントに参加する大手サークルの売り子なのだ。

その完成度の高いカースメーカーのコスプレは、コアなファンを生み出している。

無論、ファンは全員が「コスプレ」が禁句とわかってるため、カースメーカーとして扱うが。

 

何が言いたいかというと。

禪院真依は、その「コアなファン」なのだ。

 

普段は一途なドルオタ、長身アイドル高田ちゃんの大ファンである東堂葵を散々馬鹿にしているものの、その実は彼を馬鹿に出来ないほどに熱烈なファンだった。

経緯は省くが、真依から見れば運命的な出会いを果たしたことで、彼女は堕ちた。それはそれはもう、コスプレイヤー界隈ではそれなりの規模のファンクラブを創設してしまうほどに堕ちた。

家のことで、一般人なら確実に病院にお世話になるレベルの重圧が普段から襲い来るせいで、癒し属性のある高田ちゃんにハマりかけるほど、彼女は元よりそういった適性があった。

尚、彼女は皆にバレてないと思っているが、普通にバレてる。

何故か姉の真希にも、その後輩の釘崎にも普通にバレてる。

東堂は幼児が拘束具をつけたカメコの見た目に、「女の趣味が悪い」と、ズレた感想を抱いているが。

 

「はーい、内輪で喧嘩しないの…って、真依は何してんの?」

「ああ…。私、カメコさんと同じ空気吸ってる…。……はっ!?ここにカメコさんがいるってことは、呪術師になってるの!?

え、嘘!?同業者!?……パートナー契約今のうちに結べないかしら…?」

「……落ち着きなさーい。休日の東堂みたくなってるわよ」

 

妄想に耽る真依に、京都校の引率教師、庵歌姫が軽くチョップをかます。

他の皆はと言うと、品定めするように、夜蛾に羽交い締めにされるカメコをまじまじと見ていた。

 

「離せこの蝶○!!ビンタでもしてみろや!!髭剃ったら特徴グラサンくらいしかなさそうな見た目しやがって!!」

「落ち着け、華東!!後で戦えるから、今は矛先をしまえ!!」

 

虎杖ほどではないものの、かなりの馬鹿力である。

彼女は、怒りで砲丸を素手で握りつぶしたことがある程の怪力。

曰く、「どんな奴でも文句つけてきたらボコボコにできるように鍛えた」とのこと。

これで体が細いのだから、人体の神秘とは凄まじいものである。

……魂の形が、愛によって強制的に固定されているのも要因の一つだが。

 

虎杖も、防御の初動ドンピシャのところで、普通に封じられてボコボコにされたのだ。

カースメーカーにはあるまじき物理戦闘能力である。

尚、彼女は呪術を使う際は、この体術を殆ど使用しない。

単にこだわりの問題である。危機が迫れば、普通に破る。

 

「アタシらより新入生のあいつが引くほど血気盛んだから、なんか逆に冷静だわ」

「つか、五条先生どこだ?

この時期の新入生ってことは、どーせあの人絡みだろ」

 

悪い意味で信頼されてる。

皆が五条の姿を探すも、「どうせ今回も遅刻だろう」と結論づけたその時だった。

 

「ごめーん!お待たー!!カメコちゃんなんかしてなーい!!?」

「悟ぅぅううっ!!早くこの問題児をなんとかしろぉおおおっ!!!」

 

間の抜けた声と共に、台車に大きなケースを置いて爆走する五条が現れたのは。

台車のスピードを殺すと、五条は未だ羽交い締めにされ、暴れているカメコを一瞥し、「うわっ」と声を漏らす。

ガチで引いてる。どちらかと言うと引かれる側だと言うのに。

 

「やあやあ皆さん、お揃いで!

僕、最近あるゲームにハマっちゃったせいで昼夜逆転しちゃって、普通に寝坊しちゃいまして〜♪

京都の皆には布教がてらゲームとソフトをプレゼントしまーす!

あ、歌姫のはないよ」

「要らねーよ!!ってか最近働いてないって聞いたからなんだと思ったらゲームかよ!!仕事しろ二十八歳児!!」

 

ケースから京都校生徒の人数分のゲーム機とソフトを取り出し、一人ずつ渡す。

タイトルは無論、世界樹の迷宮である。

なるべくとっつきやすいように、と、気を利かせてストーリーのある新・世界樹の迷宮を選んでいる。

 

「五条先生、いや、我が同志よ…。

新の方を勧めるとは…。なかなかどうして、布教を理解している…」

「急に大人しくなるな。怖いから」

 

先ほどまで暴れていたカメコも、これにはニッコリと笑顔を浮かべる。

旧作なら評価は高かったが、さすがに3のつかない携帯機用ソフトは古く、とっつきにくいという英断。

夜蛾の拘束を最も容易く抜け出し、カメコは五条と固い握手を交わした。

 

「…………仲良いな、あいつら」

「で、東京の皆さんにはこちらっ!!」

 

握手を交わしたのち、まるでマジシャンのように振る舞う五条。

それと共に、台車に乗ったケースが開き、虎杖が中から現れた。

 

「はいっ、おっぱっぴー!!」

「故人の虎杖悠仁くんです!!」

 

空気が凍りついた。




五条悟、半ニート化。他の術師に仕事を押し付ける頻度が増えた。
パンダ先輩って、ペット枠で世界樹スキル覚えさせてもいいと思うんだ。

カメコ個人の特性…愛による魂の固定化。寿命は変わらないものの、身体的には、これ以上の成長も老化もない。

結論。アホの愛はやっぱり凄まじかった。

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