呪術師じゃなくて、カースメーカーですけど   作:鳩胸な鴨

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一つのものを愛することを、誰が馬鹿に出来ようか。


私は私がタイプだ

時が過ぎ。

京都姉妹校交流会が始まった。

森の中に解き放たれた呪霊を仕留め、それぞれの学校が仕留められた数を競う。

それが、交流会にて設けられたルールであった…はずだった。

 

結論から言おう。全員、呪霊のことを完全に忘れている。

 

カメコも無論、完全に忘れてる。

自身を馬鹿にした…カメコがそう思ってるだけ…『究極メカ丸』と、『西宮桃』を打倒すべく息巻いていたのだが、割り当てられた役割は「東堂葵の弱体化」。

京都校の生徒でも、指折りの実力者たる東堂を相手にするには、体術最強の虎杖のみでは不安極まりない。

運が悪ければ、即倒されてワンサイドゲームと化す。

そこで、相手の弱体化に特化したカメコに白羽の矢が立った。

普段のカメコであれば、承諾したふりをして、即座にそれを破ったことだろう。

 

しかし、カメコは「コスプレ」と言われたこと、更には競技のルールを忘れるほどに、強烈な対抗心を抱くことになってしまったのだ。

 

何が言いたいかというと。

 

「お前、どんな女がタイプだ?

因みに俺は、尻と身長のデカい女がタイプです!!特に長身アイドル高田ちゃんを全身全霊で愛してる!!!

アイドルの恋愛禁止には彼女と結婚したいから反対派だ!!!」

「甘いな。私は私がタイプだァ!!!!」

「……………………は???」

 

こういうことである。

 

初対面の人間を性的嗜好で判断する東堂に、高らかに愛を叫ぶカメコ。

虎杖は短いながらもそれなりの付き合いで慣れたのか、「ああ、やっぱりな」と動揺していない。

流石の東堂も、この答えに唖然と口を開く。

カメコはそれを「理解していない」と勘違いし、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。

 

「私の嫁は画面から出てこない!!

だから結婚できない!!ならば、私が彼女そのものになれば、彼女は私のもの!!!だから、私は推しになった私と結婚しているのだ!!!

わかりやすく言ってやろう…!!私は今この瞬間も、この姿になることで、文字通り全身全霊で彼女を愛してる!!!!

そう、人生…いや、魂さえも彼女への愛として捧げてる!!!!

故に答える!!!私は私が超絶ウルトラハイパーデリシャスミラクル大大大大好きだァァァァァァァアアアーーーーーッッッ!!!!!」

「何言ってんのお前」

 

虎杖には何一つ理解できない。

腹の底から叫ぶ愛に、東堂はというと。

 

「Congratulation…!!女の趣味が悪いとか、もはやそういう次元ではない…。

華東芽衣子…、いや、マイフレンド…!

お前の愛に生きるその姿、気に入った!!」

 

滂沱の涙を流しながら、賞賛を送っていた。

流石は京都校一気持ち悪い男。

推しに愛を捧げる姿に、感動に打ち震えながら、理解を示す。

東堂もまた、「自分が女であったなら、絶対に高田ちゃんになるべく高田ちゃんっぽいファッションをしていた」ような人間である。

アホとバカの固い握手に、置いて行かれた虎杖は、「ぇー…」と微妙な表情を浮かべる。

 

「さぁ、虎杖!!お前はどんな女がタイプだ!?」

「………強いて言うなら尻と身長のデカイ女。

見た目で付き合うなら、ジェニファー・ローレンスがタイプ」

 

話題を振られた虎杖は、淡々と答える。

それに対し、またしても涙を流し、空を仰ぎ見る東堂。

 

「どうやら、俺たちは…三人合わせて、親友同士…らしい」

「今会ったばかりなのに!?

ってか俺とカメコも会ったばっかだよ!?」

 

ここまで混沌とした空間があるだろうか。

以前経験した領域展開も、あれはあれで混沌としていたが、ここでは混沌の意味合いが違う。

愛と愛が交錯する中、虎杖の困惑は止まることを知らなかった。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「…ホント、なんだったんだろう、あの女」

 

さざなみだけが音を立てる、浜辺にて。

寛ぎながらも思案に暮れるのは、つぎはぎの肌が痛々しく見える男だった。

彼は正確に言えば、男ではない。

言うならば、「人の形をした呪い」である。

彼…真人が思い浮かべるのは、戦力の調達として、人間を襲おうとした時のこと。

彼の術式『無為転変』により、人体を改造すべく、近くにいた全身が呪力で溢れた人間に手のひらで触れた、ただの一瞬だった。

 

「あんな魂、見たことがない」

 

まるで、『世界そのものに包まれている』かのような、そんな魂。

弄ろうにも、覆っている物が全力で真人を殺しにかかる。

結果、触れただけで、真人の手はズタズタになっていた。

それだけならまだいい。

弄ろうとしたことに気づいたあの女が、悪魔のような形相を浮かべた光景が、脳裏から離れない。

 

『《ライフトレード》』

 

無情な波動が、真人に襲いかかった時の情景が目に浮かぶ。

そこそこに重い一撃だった。

死にはしないが、両面宿儺にやられた直後に食らえば、かなりの痛手になりうる攻撃。

直撃した腹をさすりながら、真人は笑みを浮かべる。

 

「でも、『花御』相手なら、アイツは無力。

確かに訳わかんなすぎて怖かったけど、気にするほどでもないか」

 

彼女は、全身が呪力で覆われていた。

決定打も殆どない。ならば、タフさと「呪力に対して有効打を持っている」彼の仲間を送り込めば、彼女は確実に負ける。

送られてきた情報によると、なんの因果か、彼の仲間を派遣した先に、その女がいる。

これで天敵は一人消えた。真人は安心から、笑みを浮かべて、ジュースを口にした。

 

「ん、美味しい」

 

確かに、彼の思惑は当たっている。

しかし、彼は知らない。カースメーカーの本当の役割を。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「あの華東って子、服に呪力が通ってるけど、アレはなんなの?」

「んー?『原作再現』で、本人が呪力を服に通してるんだよ。

カースメーカーの禍々しさを出したかったって本人が言ってたよー」

 

教師が集まる一室にて。

生徒たちが乱戦を繰り広げる光景を見つめながら、歌姫が五条に問う。

カメコの服…というか、ローブには、彼女の呪力が通っている。

これにより、ローブに仕込んだ巨大な手のひらを動かすことが出来、更には強固な防護服と化す。

流石に、五条のような無敵化効果はないものの、非常に強力な武装だと言うことには変わりない。

……尚、カメコは知らないが、これによって彼女の服は、呪具になりかけてる。

 

「何よ、そのカースメーカーって」

「かぁすめぇかぁ…とな?年寄りには横文字は聞き慣れんわ…」

「僕がハマってるゲームに出てくる職業。

あの子、オタク拗らせて呪術師になったの」

 

端的に言うと、歌姫と京都校の学長、楽巌寺嘉伸は、互いに訝しげな表情を浮かべる。

一方で夜蛾学長はというと、慌てて五条の口を塞ぐべく、口に手を当てて「喋るな」とサインを送っていた。

が。そんなこと、最強であり自由人のこの男には、知ったことではない。

それに、上にはもうバレているのだから、今ここで明かしても問題ない。

 

「端的に言うとね、オタク拗らせに拗らせまくって『後天的に《生得術式》を会得』しちゃったんだよね!!」

「ぶーーーーーーーーっ!!!!!」

「んなっ……!?!?」

 

歌姫が飲みかけた茶を思いっきり吹き出し、楽巌寺が驚愕に目を見開く。

それが不可能なことくらい、呪術師であれば誰だって理解できる。

しかし、現に映像に映る女は、確かに呪言を駆使して虎杖をサポートし、東堂と渡り合っていた。

 

「う、嘘おっしゃい!そんな馬鹿なこと…」

「や、マジマジ。パンピー家系から生まれたパンピーが呪言とか使えるわけないでしょ」

「夜蛾、これは真実か?」

「…………ええ。まぁ、えっと、はい」

 

夜蛾は、穴が開きそうな程の胃の痛みを堪えながら、その言葉に首肯する。

終われば入院か、と思いながら、溢れ出る冷や汗を拭く。

それが地域一つの呪霊を、容易く全滅させているのだ。

呪術師界隈として、これほどプライドが傷つく出来事はそうないだろう。

楽巌寺はモニターにチラリと映るローブの端を見つめた。

 

「宿儺の器の件といい、厄には事欠かんな、夜蛾」

「じゃ、代わってくださ」

「それは無理」

 

楽巌寺、心の底からの同情であった。代わるのは御免被るが。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「………ほぉ。面白い女が居たものだ」

 

虎杖悠仁の中にある、両面宿儺の生得領域にて。

両面宿儺はニタニタと笑みを浮かべながら、外の出来事を見守る。

面白い。虎杖のサポートをしている、華東芽衣子という女は、宿儺にとって、興味の対象でしかなかった。

 

「歪だ…。とても歪な、それでいて極限までに完成されている魂…。

魂を芸術作品として作り替えたな?

しかも、自らの魂を…!!」

 

愉快だ。これほどまでに愚かで、これほどまでに馬鹿げていて、そして、これほどまでに解らないことをする人間がいるとは。

堪えることの出来ない笑いに悶えながら、宿儺はガラスケースの奥にある芸術作品を見つめるように、華東芽衣子に視線を送る。

 

「なんとか魂だけ抜き取れないものか…。

魂の加工、そして固定化…。呪術師として、これほど興味が尽きんことはない」

 

久方ぶりの呪術師としての興味の対象。

そんなことを知らないカメコは、戦闘中にくしゃみをしていた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「だから、一網打尽にするって言ってるだろう!!真依、少しは聞き分けろ!!」

「無理!!私、カメコさんを襲うとか無理!!もしも、もしもあのご尊顔に傷付けたら、私自殺してやるから!!」

「ねぇ、もう真依ちゃん外していいんじゃない?あの子相手じゃこの調子だし」

『……だな』

(や、真依さんの言う通りだよ…!もう襲うのやめよう…!?殺すのは反対するけど、やらなきゃダメなら誰か一人がこっそりやればいいじゃんもう…!!)

「やだ!!カメコさんとは話す!!」

「「「『面倒臭っ!!!』」」」

 

その頃、虎杖を殺すように命じられた京都校の面々はというと。

ただでさえ一人、言うことを聞かないのに、そのうえさらにもう一人の暴走を止めるのに必死だった。




愛は性癖さえも超えた。
勢いで言ったため、デリシャスが入ってしまったが、兎に角カメコはカースメーカーしてる自分が大好きです。何故ならカースメーカーで、愛する自分だけの嫁だから。

ちなみに。カメコ本人は東堂と会って2秒で肩組んで歩けるレベルで相性がいい。

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