呪術師じゃなくて、カースメーカーですけど   作:鳩胸な鴨

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その繋がりを、誰もが愛と呼ぶ。


愛で繋がったアホどものせいで花御がヤバい

『真人。私に何か用ですか?』

「君にしか頼めないことがある、花御」

 

遡ること、1日前。

森への畏れから生まれた呪霊…花御の同胞である真人が、深傷を負って帰ってきた。

木々と戯れていた花御に、真人の傷は動揺するほどのものでもない。

彼のことだ。どうせ、呪術師の最後っ屁に油断したのだろう。

そんなことを思いながら、花御は真人の言葉に耳を傾けた。

 

「見かけたらでいいんだけど、ボロボロのローブ着て、鈴を首に提げたガキの女の呪術師を、殺して欲しいんだよね」

『………?自分で始末しないのですか?』

 

花御が問うと、真人は少しだけ不満そうな顔を浮かべた。

 

「効かないんだよ、僕の術式。

魂を『世界に近い何か』で固定している。

この程度で済んだのは奇跡だ。

あそこに5秒触れるだけで、10回は死ぬね」

『………っ!?』

 

真人が体験した殺意。

まるで、世界そのものが立ち入る者を拒むかのような、過酷な生得領域。

世界樹の迷宮というゲームは、エンカウントする雑魚ですら、殺意が高い。

それこそ、最終層に入れば、雑魚敵すらも即死攻撃をバンバン使ってくる程度には。

カースメーカーはその世界に生きている。

カメコはそれに憧れ、愛によって魂の固定化、更にはそれを守護するように、世界樹の迷宮瓜二つの生得領域が展開しているのだが、真人はそんなことを知るはずもない。

兎に角、彼女は真人にとっては天敵なのだ。

それこそ、虎杖悠仁と組めば、なす術なく殺されてしまう。

 

「でも、幸いなことに、アイツは魂に触れない限りは、宿儺の器ほどの脅威性がない。

領域展開を使えるくらいの練度がないことも、ラッキーに入るのかな?

全身に呪力を纏ってるし、花御だったら余裕だと思うよ」

『………分かりました。もし見かけたら、始末して差し上げましょう』

 

そんなことを知らないカメコは、普通に虎杖たちと鍋を囲んでいた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「帳…?なんで今……?」

 

昼だというのに、まるで逢魔時のような、怪しい暗さが辺りを包み込む。

虎杖が疑問を口にすると、カメコが口を開いた。

 

「敵襲…可能性、大。

ブラザーにかけた呪言を解く」

「流石はマイリトルシスター、聡いな」

 

カメコが鈴をちりん、と鳴らすと、東堂の体にのしかかっていた脱力感等が一気に払拭される。

流石は気持ち悪い輩同士、もう兄妹の契りまで交わしている。

虎杖もそれにツッコミを入れないあたり、完全に染まり切ってる。

 

「……バラバラに、それぞれ強いの、いる。

同士五条殿なら余裕。でも、私たちが相手するの、無理」

「五条先生は同士なのな…」

 

呪力操作により、相手が持つ呪力を感知することで、索敵を行う。

その中で、一際強い存在が、学生と思われる大小さまざまな呪力とぶつかり合うのを感知した。

 

「…一番キツいのが近くにくる。

ブラザー以外の他の人だとキツい。川の方に着地する。向かうべき」

「呪力操作による索敵か…!

流石は俺が妹と認めた女だ!!」

「世辞はあと。早く向かう、ブラザーズ」

「「おう!」」

 

カメコの指示に従い、東堂、虎杖がそれぞれ駆け出す。

会ったばかりとは思えぬ完璧な陣形を見下ろしながら、なんとか呪詛師から逃れていた呪霊がつぶやいた。

 

『ヤッパアイツラキモッ』

 

尚、この呪霊、2秒後に戦いの余波で死ぬ。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「アンタ焦らなさすぎじゃ無い!?

何そんな余裕かましてんのよ!!」

 

帳の前にて。

侵入できない五条はというと、その場で寝転がってゲームを始めていた。

ソフトは勿論、世界樹の迷宮…その二作目。

六層の花びらに殺されかけている局面でスリープさせていたため、五条は現状を整理し、なんとか立て直そうとコマンドを打ち込む。

これには、歌姫も楽巌寺も怒った。

 

「少しは帳を払うかなんか試したらどうなの!?ねぇ、ちょっと!?聞いてる!?」

「大丈夫っしょ!カメコちゃん居るし!

あ゛っやべこいつ強っ!?睡眠に縛り入れて来んなし!!!あ゛ーっ!!ブシ男頼む逃げてくれ頼むからあ゛ぁーーーーーっ!!せぇぇぇぇぇーーーーふっ!!!」

 

めちゃくちゃ楽しんでる。

非常事態なのに、普通にゲームをするくらいには余裕があるらしい。

アリアドネの糸で帰還したことで、ホッと一息つく五条に、歌姫が抗議の声をあげる。

 

「はぁ!?あの子にアンタほどの仕事できないでしょ!?あの子、今日入学よ!?」

 

五条が出した名前は、あろうことか、今日入学したばかりのぺーぺーの少女である。

いくら後天的に術式を手に入れたとて、その強さには、懐疑的なものがあった。

実力差があればほぼ効かない状態異常。デバッファーとして機能するしか無い戦闘能力。

地域一つの呪霊を全て祓ったとはいえ、そもそも強い呪霊が居なかったというのがオチだろう。

歌姫と楽巌寺は、そう睨んでいた。

 

だが、それは大きな間違いである。

 

「正直いうとね、僕、彼女とだけは戦いたく無いんだよ。情とか抜いて、本気で」

「は………?」

 

五条は言うと、軽く告げた。

 

「歌姫。お爺ちゃん。『ゲームを現実に持ってこられる』ことほど、怖いモンないよ?」

 

そこに込められた意味は、五条悟と華東芽衣子しか知らない。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

『……………っっっ!?!?!?』

 

伏黒恵と禪院真希に迫っていた花御は、強烈な気配を察知した。

その気配は、呪力云々では無い。

呪霊ではなく、『大自然そのもの』とも呼べる気配が、近づいてくる。

真希の首を絞めていたツタを離し、降り立った影を見る。

そこに居たのは、宿儺の器。

これも確かに脅威ではあるが、違う。

花御がそちらを見ると、真人に言われた通りの姿をした少女が佇んでいた。

 

『アレが、真人の言っていた…!!』

「………?」

「あれ?狙い、俺じゃねーの?」

「シスターが狙いか…!!」

 

自然から生まれた花御は、カメコが薄らと溢れさせている『凄まじい自然の気配』と、それとは別の『宿儺に匹敵する程に禍々しいナニカ』を感じ取っていた。

冷や汗を垂らしながら、花御はじっ、と瞳なき眼でカメコを見つめる。

駆けつけたパンダたちが、負傷した伏黒たちを背負うのを尻目に、花御は口を開けた。

 

『あなたですね?真人の「無為転変」を返り討ちにしたという、魂の持ち主は』

「真人って……!!テメェ、あのつぎはぎ野郎の仲間か!!!」

「落ち着いて、虎杖くん。

激情=死。これが真理。友達には死んでほしく無い」

「…………悪い」

 

飛びかかろうとする虎杖を制し、カメコが喉に呪力を通らせる。

相手もまだ仕掛けてこないあたり、こちらの動きを待っているのだろう。

つまり、どんなことをされても対応できる自信がある、ということ。

 

「真人…、つぎはぎ…。ああ、あの痴漢。

あなたと同じバケモノっぽかったから、攻撃したけど、お仲間か」

『やはりか…。これは僥こ』

「《足違えの呪言》」

 

鈴の音と共に、呪言が放たれる。

増幅装置の役割をしている鈴と共に放たれた呪言は、能力低下を一定にする効果を持つ。

これにより、速度が二割減したはず。

カメコはデバフ専門職。隙があればデバフを撒くのが仕事である。

 

『なっ…!?体が、重いっ…!?』

「鈴の音…!まさか、さっきのは…」

「鈴無しだと、効果に振れ幅がある。

今までは鈴無しの方がよく効いたから使ってなかったけど、あれ相手だと使った方が良さそうだった」

 

カメコが言うと、驚愕に目を剥いている花御の目の前で水飛沫が上がる。

虎杖が地面を叩いたことによって生じたそれに、普段なら即座に周りを警戒していただろう。

だが、カメコの呪言の効果で、思ったように動けない花御。

結果、虎杖の放った拳は、花御の体に吸い込まれるようにあたった。

 

が。その程度の打撃で、タフさが売りの花御に、傷が付くはずもない。

 

『………同じ呪言使いでも、傾向が違う。

なるほど。これは厄介だ』

「効いてな…いや、決まってない…!!」

 

不意打ちでも、全然効いていない。

いや、違う。虎杖が狙っていた『現象』が、起きていないのだ。

虎杖はすぐさまに距離を取り、カメコが距離を詰める。

至近距離で呪力を込め、攻撃を放つ。

 

「《ライフトレード》」

『ぎっ…!?』

 

ここでのライフトレードの効果は、生命力ではなく、『呪力の吸収』。

吸収した呪力と自らの呪力が掛け合わさることで、自動的に反転し、傷の回復を促す。

カメコ自身は呪力の反転が使えないうえ、反転した呪力の操作を知らないため、これを用いて反転術式は使えない。

呪力の塊である呪霊にとっては、最も避けるべき攻撃。

三級の呪霊であれば、この一撃で呪力が尽きて死ぬこともザラだ。

射程範囲が極端に狭いのが欠点だが、切り札よりも使い勝手はいいだけマシである。

 

『……っ、厄介なのは、女の方…!!』

 

カメコに向けて、地面から種のようなものが射出される。

伏黒恵の腹に突き刺さったソレと同じもの。

常に呪力を纏っているカメコにとっては、天敵とも呼べるソレ。

が。カメコはソレに向けて、呪言を放つ。

 

「《病毒の呪言》」

 

放たれたソレにより、即座に朽ちる種子。

種子の状態では、毒に耐性はないらしい。

しかし、意識を向けなければならない、というのが厄介。

数を放たれれば、カメコは終わる。

が。それだけの隙を与えなければいいだけの話である。

カメコが接近するだけで、花御の意識はカメコに向く。

あとは虎杖が、『現象』をおこして、その意識を一気にそちらに向けるだけだ。

 

「ヘイトがシスターに向いている…。

成る程、ブラザーが『アレ』を狙っていることを悟らせないためのヘイト稼ぎ…!!

余計な手出しは無用…か…!!」

 

東堂の解説に応えるように、カメコが背中にある巨腕に呪力を込める。

ライフトレードの構え。

最も受けたく無い攻撃に、花御が身構える。

その後ろでは、虎杖が焦りながら、拳を叩き込んだ。無論、決まらない。

 

「《ライフト…」

『ふんっ!!』

「がふっ……!?」

「カメコ!?」

 

完全に虎杖をいない者としてあしらい、カメコがライフトレードを放とうとするのを、腹部に蹴りを入れることで止める。

呪力でガードしてはいるものの、中は全裸。

痛いことには変わりない。

げほ、げほ、と咳き込みながら、カメコは鈴を手に、呪言を放つ。

 

「《力祓いの呪言》…げほっ、げほっ!!」

『……っ!?今度は、力が……っ!?』

 

びちゃびちゃ、と吐瀉物が足元に落ちる。

だと言うのに、カメコはそれを気にすることもなく、花御に全神経を注いでいた。

虎杖はソレを心配して、声を張り上げる、

 

「カメコ、だいじょ」

「ブラザー!!」

 

と、東堂がソレを遮るように、虎杖の顔を平手打ちする。

花御の注意がそちらに逸れるも、カメコの攻撃を警戒し、無視した。

 

「シスターの姿をよく見ろ。

彼女は焦っていない。攻撃も、最低限のみしか放っていない。何故だかわかるか?」

「………俺が、決めるのを待ってる」

 

実のところ、カメコがライフトレードを連発しないのは、距離の関係だけではない。

しっぺ返しを喰らえば死と同義なのだ。

だから、信じて待っている。虎杖悠仁が、一皮も二皮も剥けて、花開く時を。

それが、カースメーカーが最も輝く瞬間であるのだから。

 

「そうだ。要であるお前が焦ってどうする。

怒りや焦り…。お前のその気持ちは、呪力の出力に関係するが、ミスを連発するキッカケにもなり得る」

 

会った時間は関係ない。信じられるなら、もうそれは魂で繋がった兄弟なのだ。

そんな超理論で繋がったアホたちに中てられた虎杖もまた、兄弟の言葉に耳を傾ける。

虎杖悠仁は、ノリだけで生きられるタイプである。

 

「友を傷つけられ、俺とシスターとの蜜月の時に水を差され、シスターが傷つく中で成功できない自分への不甲斐なさで、お前が焦り、怒るのも無理はない。

だが、それは一旦おさめろ。それは、シスターの愛に応えられる感情ではない。

お前が抱くべきは、『愛』だ。愛する全てへ向ける感情を、破壊を振り撒く輩に叩き込む拳へと変えろ」

 

重ね重ね言おう。彼ら、最も付き合いの長い虎杖とカメコでさえ、ここ数日の間で会ったばかりである。

愛を語り合うほどの仲ではない。

だというのに、虎杖の胸には、自分の仲間と呼べる者への『愛』に満ちていた。

 

「……そうだ。それでいい」

「サンキューソーマッチ、ブラザー。

行ってくるよ」

 

カメコと花御が激闘を繰り広げる中で、虎杖は全身全霊で集中する。

隙は見えている。あとは放つだけ。

ソレに気づいたカメコも、鈴を鳴らし、半ば叫ぶように呪言を放つ。

 

「《軟身の呪言》…!!行って、兄弟!!」

「おうとも、兄弟!!」

 

アホとアホで繋がった絆が、花御に襲いかかる。

打撃との差、ほぼ無しの一撃が、柔らかくなった腕へと放たれた。

 

『がぁ………っ!?!?』

「《黒閃》…っ!!!」

 

黒閃。呪力と打撃の誤差をほぼ無くした状態で炸裂することによって、空間に歪みを発生させる。

その威力は、通常の2.5乗。

 

炸裂した黒き閃光が、花御の体を大きく削った。




虎杖はたぶん、ノリだけで生きていけるタイプ。

カメコの生得領域は世界樹の迷宮。その奥にいるのは?

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