呪術師じゃなくて、カースメーカーですけど   作:鳩胸な鴨

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釘崎野薔薇は知らずに受け継ぐ


呪術師目線でもイカれてた女(今更)

結論から言おう。逃げられた。

帳は、五条が超危険な花びらにボコボコにされたストレス発散で吹っ飛ばした。

花御は呪力の大半が尽き、回復しようにも隙のない連携に参り、樹木に溶けるようにして逃げた。

呪詛師と呪霊、それぞれ一名ずつ逃げられたものの、一人だけ捕まえられた…五条が超危険な花びらにフルボッコにされたため、八つ当たりされた…のは僥倖といえる。

 

死者は出た。

花御の行動はすべてが陽動であり、本命の真人が、呪具の保管庫を襲撃、更には特級呪物たる宿儺の指や呪胎九相図を強奪。

その際に、守衛を任されていた呪術師は、真人に殺された。

 

一方、生徒側は、それなりに負傷者はいるものの、甘く見れば全員無事だと言えた。

そんな中、カメコは、虎杖が提案した伏黒の見舞いに付き合っていた。

 

「いや、カメコまじスゲーんだって!

コイツ下全裸なのに、普通にドロップキックとかやるんだぜ!?」

「はぁ!?えっ、その下全裸なの!?」

「秘部にはシールを貼ってる」

「マジか〜…。おい、伏黒ぉ、元気出せよ。

目の前の女の子、全裸だぜ?」

「釘崎、お前オヤジっぽいよな」

「殺す」

 

そんな談笑を交わしながら、ベッドに広げたピザを皆で囲み、食べる。

半ばF.O.Eのような、歩く災害のような扱いを受けていたカメコにとっては、友人との食事は新鮮な感覚だった。

一方、カメコが全裸であることを知らされた伏黒は、ニマニマとバカにしたような笑みを浮かべる釘崎に容赦ない一言をかます。

キレた釘崎を虎杖がなんとか抑える横で、カメコは伏黒に問いかけた。

 

「大丈夫だった?あの種子、内臓ズタズタに引き裂くくらい痛かったけど」

「あ、ああ…。って、食らったのか?」

「大丈夫。自分に毒かけて、ソレ吸わせて腐らせて、無理やり引っこ抜いたから」

「や、それ致命傷じゃ…、呪力の反転か…」

 

なんて力技の解決法だ。

呪術師はイカれてる人間ばかりだが、その中でも一、二を争うレベルでイカれてる。

カメコがペイントレードでの黒閃を狙っていた関係上、仕方のないことではあるのだが。

ピザを頬張りながら、リスのようになるカメコに、釘崎がその指で突く。

 

「んみっ」

「しっかし、素はあんだけ口悪いのに、こっちだと大人しいのね」

「そーなんだよ、釘崎。

カメコ、地雷踏まなきゃ大人しいんだよ」

「その地雷が分かんねーって言ってんだよ」

「え?わかんない?コイツ、カースメーカーと世界樹の迷宮いじんなきゃ怒んねーぞ」

「虎杖が知識でドヤるの腹立つな」

「「同感」」

「酷くね!?」

 

ってか、世界樹の迷宮って何よ、と釘崎がピザを頬張りながら零す。

彼女は閉鎖空間育ちなだけあって、普段はパーティゲームで相手をボコボコにするのが楽しみという、女子としてはちょっとどうかと思う思考回路の持ち主。

RPGなど、ポケモンだけ対戦用にガチガチに育成するくらいだった。

まぁ、友人の父親にはいつも負けていたが。

 

「コイツ、入学1日目でしょ?

それで特級相手にして、生き残るどころか追い返すとかヤバくね?」

「…兄弟が頑張ってくれた。私がやったのは、強化と弱体化だけ」

「俺が黒歴史明かされてるみたいで恥ずいから兄弟はやめろ!!」

「なに、アンタら兄妹なの?」

「違う!!」

 

いたどりは しょうきに もどった!

先日の深夜テンションみたいなノリを、一気に恥ずかしく感じる虎杖。

もういろいろと手遅れなのだが、カメコに友情を感じているというのは本当だった。

 

「ソレは置いといて、コイツ居ると、すっげー戦い楽なんだよ。

相手を遅くしたり、弱くしたり。

反転術式?っての使えるようになったから、逆にこっちを強くできたりするし」

 

実際のところ、虎杖は、あそこまで戦いやすいと思ったことはない。

もし彼女のサポートが無ければ、あそこまで余裕を持って戦うことは出来なかった。

カメコの術式をザックリと説明すると、伏黒、釘崎の両名が、興味深そうにカメコに視線を向ける。

 

「効果範囲は?」

「私のは範囲じゃなくて、対象を選ぶ。

呪力を込めた分だけ対象が増える。

鈴を使えば、効果を増幅したり、安定させたりできる。いつもは使わない方が効くから使ってないけど。

効果は一定だし、大体6分で解けるけど、重ねがけすればさらに6分追加できる。

攻撃方法もあるにはあるけど、死にかけじゃないと碌に威力なかったり、射程が短かったりで条件付き」

 

正直、攻撃役にはなれない性能である。

ゲームなら話が違うのだが、ここは現実。

常時死にかけで動けるはずもない。

だが、条件さえ満たしていれば、特級すらも一撃で祓えるポテンシャルを秘めている。

 

「完全にサポート全振りか」

「や、それでもエグいわ。これから頼りにしてるぜ、カメコ。

アタシらにも楽させてくれよなー」

「ん」

「ピザを囲み、友情を育む…。青春だな、マイシスター」

 

釘崎が肩を組もうとすると、あの彫りの深い顔、東堂葵がいつの間にかカメコと肩を組んでいた。

釘崎は驚き、慌てて手を離し、虎杖は慌てて身構え、伏黒はぽかん、と口を開く。

 

「ブラザー、どうかしたの?」

「フッ、お前らの顔を見に来たに決まっているだろう?俺たちは魂で繋がった、ソウルブラザーズ。

ふとした時に会いたくなるのも、魂で繋がった兄弟の絆なのさ…」

「何コイツらキモっ」

「東堂のあのノリについていけるカメコはなんなんだよ…」

 

釘崎野薔薇、無意識に常識人呪霊の遺志を受け継ぐ。

東堂のノリに戸惑うことなく付き合うカメコに、皆が呆れ果てる。

先ほどまで普通に会話していたが、忘れてはいけない。

この女、恐らく東堂と同じか、それ以上のレベルで性格がぶっちぎりでイカれてる。

同じ愛に生きたせいでイカれた者同士、仲良くなるのも無理はない。

 

「ブラザー。ブラザーの友達も、無事だったみたいだな」

「ブラザーはやめろって。

まぁ、見ての通り。死んでなくて良かった」

「そりゃこっちのセリフだ、虎杖」

 

カメコと東堂のやりとりがアレ過ぎて、最早逃げる気すら無くした虎杖。

つい2ヶ月前に死んだものとばかり思っていた虎杖の言葉に、伏黒がツッコミを入れる。

死んでなくて良かった、というのは、心からの本音だ。

皆が少しの安堵を抱いていると、扉が開かれる。

 

「カメコちゃーん、あの三つ首ムキムキトカゲ強過ぎなーい?

カウンターでめっちゃhageんだけど」

 

そこには、携帯ゲーム機片手にパジャマ姿の五条悟がいた。

 

「同士五条。竜はヤバい。パターン覚えないと最大レベルでも死ぬ。レアドロは全然効かない属性でトドメ刺さないと出ない」

「はぁ!?なにそれ鬼畜じゃん!!カウンターのパターンだけ教えて?」

「ん。わかった」

 

携帯ゲーム機を囲みながら、カメコが五条と談笑を交わす。

その姿を見て、釘崎がつぶやいた。

 

「あいつ交友関係含めてブッチギリでイカれてるわ」

「お前も同類な自覚ある?」

「ブチ殺すぞ」

 

この状況を見た禪院真衣が暴走するまで、あと5分。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「あの気配。あの女、小僧と俺と違って、中に飼ってるな?」

 

宿儺の生得領域にて。

虎杖の視界に映るカメコを見つめ、宿儺が興味深そうに呟く。

興味の度合いで言えば、伏黒恵の方が圧倒的なのだが、カメコもその魂の希少性だけは評価していた。

が。ソレと共に、宿儺は脅威を知ることになる。

 

「くくっ…。『縛りのペナルティ』を蓄積させて、生み出したのか…。

魂を自分でどうこうできるあの女のことだ。

その程度の因果律操作など、容易いことだろう。

それで俺と同等の呪い…いや、『怪物』が少なくとも『六体』はいるのだから、見上げたものだ」

 

実のところ言うと、カメコは無意識に『喋らない』という縛りを設けて、ソレを破り続けている。

破ったことで生じるペナルティを、生得領域の中で蓄積。

それにより、世界樹の迷宮の最奥に、文明一つを滅ぼしたバケモノたちを生み出した。

 

「本当に、退屈しないな、女」

 

領域を持っている本人さえも、下手すれば死ぬ生得領域。

尽きない興味に、宿儺はゲラゲラと笑い声を上げた。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

交流会、1日過ぎて2日目。

現在、彼らは呪術云々関係ない…とは言えないが、極々普通の野球をしていた。

変則ルールではあるが、正直、殺伐した要素などかけらも無い。

毎年2日目は個人戦なのだが、五条が面白がって学長2人を出し抜き、団体戦である野球にしたのだ。

審判は、決めたくせにゲームしたいからとサボった五条の代わりに、無理矢理押し付けられた伊地知潔高が担当している。

皆が白のユニフォームに身を包む中で、一人だけが異様な姿をしていた。

 

「………あの子、ユニフォーム着ないの?」

 

そう。我らがカメコである。

彼女はどんな時も、あの姿をやめない。

風呂に入るときは流石に脱ぐが、寝巻き用のローブすらある程だ。

三輪霞が打ち上げたボールを、驚異の跳躍力でキャッチするカメコ。

全裸、大公開である。

秘部は隠されているものの、あまりに刺激が強いソレに、加茂、狗巻、真衣が鼻血を吹いて倒れた。

 

「歌姫。逆に聞くけど、彼女にユニフォーム着せられると思う?」

「あの子、東堂と兄弟って呼び合う仲よ?

同じく全く話聞かないだろうし、無理に決まってんじゃない」

「だよね」

 

歌姫の評価は、大体合ってる。

間違ってる部分と言えば、普段はある程度の話は聞くが、地雷を踏んだ時にのみ、手がつけられないことくらいである。

地元でも、半分災害扱いされていたのだ。

呪いでもない本人の性格なため、呪術高専が手に負えるはずもない。

 

「……入学初日で黒閃を経験。更には反転術式を会得って、随分と逸材ね。

禪院家あたりが、無理矢理娶ろうとしたりするんじゃない?」

「大丈夫大丈夫。今んとこ『病気で子宮摘出したから不妊症』って誤魔化してっから」

「アンタ一回死ねば?」

 

誤魔化し方がひどい。

しかし、不妊症ということにしておけば、血筋を大事にする御三家としては、迎え入れる意味がなくなるだろう。

五条は五条なりに、考えていたらしい。

因みに、カメコはバリバリに健康体である。

子供など、子供だけでサッカーが出来るくらいに産めるレベルで頑丈だ。

なんなら、人生で一度も風邪を引いたことがない。

医者に診察してもらったところ、「アホみたいに免疫がすごい」と言われた。

 

「願わくば、全員健やかに育って欲しいもんだね」

「………アンタがセンチメンタルなの、吐き気するくらい気持ち悪いからやめた方がいいわよ」

「歌姫、僕が何言っても怒らないとか思ってる?」

「怒らせたいから言ってんの」

「学生時代ぶりに泣かしてやろうか?ん??」

 

この後、歌姫は半泣きになるくらい仕事を押し付けられた。

泣かせ方がひどい。




残念ですが、呪霊くんは亡くなりました。

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