高専のグラウンドにて。
先輩たる真希…最近、妹から完全に身に覚えのない恨言を吐かれるようになった…体術をさばきながら、カメコは呟いた。
「真希先輩と真依ちゃんって似てる」
「そりゃ双子だから…って、なんで真依だけちゃん付け?」
「オフ会でよく話す。明るくていい子」
「「ぶっふぉ!!?」」
真希と釘崎の腹筋にクリティカル。
どちらかと言うと、ぐちぐちと嫌味を言うような、気の強い女なのだが。
笑い過ぎて過呼吸になり、動けなくなる真希に、流れ弾を喰らった釘崎。
ちなみに言うと、両者の認識は割と間違ってはいない。
真依は、ただでさえストレスに苛まれる環境下にいる。
唯一の癒しとも言えるカメコ相手には、ほぼ真逆の、素直な性格を見せるのだ。
尚、いつものツンケンした態度は、推しの高田ちゃんとカメコ以外に向けられる。
「わ、笑かすなよ…っ、ひひっ……!!あ、アイツが、いい子…ひひっ…!!年下に、子供扱いとか……、ふひひっ………!!」
「カメコ、ひひっ、アンタ、ぶはっ…、マジで…、くくっ、漫才師の……あはははっ、ぷくくっ、才能、ぷふふっ…、あるわ…っ!!」
抱腹絶倒。
普段、真依がどんな態度で彼女らに接していたか一眼でわかる。
笑い過ぎて立てていない。
ここまで来ると、真依が可哀想になってくるレベルである。
尚、彼女は交流会のあと、カメコとのツーショットを十五枚ほど撮った。
要望で、カメコをお姫様抱っこした際は、喜びのあまり解脱しそうな菩薩みたいな顔になっていたのを三輪にすらイジられることになった、とだけ伝えておこう。
「あの、真希先輩。笑ってないで稽古してください。釘崎も」
「…虎杖がクレバーな人でカッコいいとか言われたら、お前笑うだろ」
「…………ふひっ」
「伏黒、半笑いが一番傷つく」
パンダの一言に、伏黒が半笑いを浮かべる。
虎杖がソレに傷ついていると、ぴりり、と誰かの携帯が鳴る。
ベンチの上に置かれた荷物の中で、震えているのは、カメコのポーチ。
ソレに気づいた狗巻が、ポーチを手に、カメコに渡した。
「高菜」
「狗巻先輩、ありがとう」
「ツナマヨ」
カメコはポーチの中から携帯を取り出し、画面に映る連絡先を見る。
そこには、『ネクロちゃん』という名前と、メッセージが映し出されていた。
「夢黒から…。『坂本龍馬に会ったの!やっぱぜよって言うの!』…って、死霊は映らないって言ったじゃん…」
カメコにとっては、馴染みある名前。
しかし、高専生徒たちは聞きなれないその名前に、首をかしげた。
「ムクロ?誰だ?」
「妹」
沈黙、走る。
妹。自身より後に生まれた、同じ親の血縁の女のことを称する言葉。
その言葉をリフレインさせるとともに、意味を理解した面々は、素っ頓狂な声を上げた。
「「「「「妹ぉ!?!?」」」」」
「ツナマヨ!?!?」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「へぇー。妹可愛いじゃん」
「例によって全裸だな…」
死屍累々と化した男子を傍に、釘崎と真希がカメコの携帯を覗き込む。
そこに映るのは、これまた不健康そうな肌色の、細身の少女。
生まれて間もない頃に通り魔…カメコ母がコンクリに犬神家させて捕まえた…に傷付けられたという痛々しい傷跡を、コスプレに昇華したパーカー姿の少女が、そこに映る。
ただ、パーカーは開けっ広げにされ、全裸の秘部を肋骨のようなもので隠した姿。
どう考えても痴女である。しかも、中学もこれで通っているらしい。
「聞こうか。同類?」
釘崎がカメコに問うと、彼女は軽く頷く。
「うん。世界樹大好き。中でもネクロマンサーを愛してる」
そうなのだ。あろうことか、アホの巣窟たる華東家は三姉妹なのだ。
長女の名は桐子。リーパーというハンドルネームで活動する同人作家。彼女だけはまともな人間。後天性の神経性胃炎持ち。
次女はカメコ。言わずと知れた、華東家の元祖ドアホである。
三女は夢黒。ネクロというハンドルネームで活動するコスプレイヤーで、現在修学旅行中の中学3年生。無論、カメコの影響をガッツリ受けたためアホ。
生得領域で世界樹をブロッコリー感覚でポンポン生やすカメコほど気狂じみた愛を抱いているわけではないが、それでも魂の形をひん曲げるくらいには世界樹に、更にはネクロマンサーに愛のある夢黒。
結果、姉の桐子どころか、呪術師界隈も頭を抱えるアホ姉妹が爆誕していた。
五条もこの件は知っており、修学旅行から帰ってきたらスカウトする予定なのだ。
姉が楽しくカースメーカーをしてるのを見れば、即座に飛びつくだろうが。
「……性格は?」
「んー……。底抜けに明るい。お陰で素と演じてるの見分けがつかない」
「アンタ、キレるとわかりやすいもんね」
死屍累々と化した男子生徒を一瞥し、釘崎が言う。
彼らがこんなことになっているのは、伏黒の失言のとばっちりである。
なんと彼、あろうことか見え透いた地雷である「コスプレ」を言ってしまったのだ。
結果、64クッパ並みにジャイアントスウィングを喰らうハメになり、ソレに虎杖たちが巻き込まれたというわけである。
「あの子、ギャップ好きだから。ネクロマンサーのキャラボイスも明るい女声にしてた」
「アンタのハマってるゲーム…世界樹の迷宮だっけ?それでキャラボイスって、自在に選べんの?」
「作品による。ⅤとXは選択制、新と新2はストーリーモードのキャラだけボイス付き」
カメコは言うと、布教用に持っていた新・世界樹の迷宮のソフトを釘崎に渡す。
釘崎はそのパッケージを裏面までマジマジと見て、「絵柄かわいっ」とつぶやいた。
「ってか、アンタ結構金使ってない?大丈夫なの?」
「イベントの売り子で稼いでる。懐はあったかい」
「アンタが男だったら結婚してたわ。金で」
「釘崎さん、いつか悪い大人に金で丸め込まれないでね。友達がハードな方の『あのね』されると泣く」
「何言ってんの?」
良い子は検索してはいけない。
『あのね』は若き少年が見るには、アダルトで、どちらかというとダークな比率の方が高い話題なのだ。
「…にしても、あの子…。
同士五条が様子見に行ってくれたけど、旅行先でやらかしてないかな?」
「お前がそういう心配するとか、多分一番ブーメランだと思うぞ」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「あれは、マイシスター…!?」
「落ち着け東堂。
非常に目のやり場に困る格好なのは同じだし、なんなら顔の輪郭も似てるが、あれは華東芽衣子じゃない」
西宮桃に「ムッツリ鼻血くん」と揶揄われるようになった加茂が、暴走しようとする東堂をなんとか止める。
仕事で京都の街を歩いていた彼らは、華東芽衣子と非常に似た少女を見かけた。
重そうな棺二つを軽々背負い、土産選びに思案に暮れる彼女。
整えられた毛先に、痛々しく感じないようにメイクされた傷口。
チェーンや肋骨のような装飾で秘部を隠したその少女は、東堂たちの視線に気が付いたのか、軽く手を振った。
「ネクロちゃん、どーかしたの?」
「多分、ファンの人がじっと見てたの!ご挨拶かなーって思ったの」
「そっか。コ…んんっ。有名だもんね、カメコお姉さんと同じで」
「糸目の人、イケメンじゃない?」
「あ、ホントだ。隣は…顔はいいけど、なんか生理的に無理」
「こら、失礼なの!きちんと謝るの」
東堂葵、流れ弾を喰らう。
生理的に無理と見知らぬ女子に言われるのは、計り知れない変態の東堂でも、流石にこたえたらしい。
なんとも言えない表情を浮かべる東堂に、慰めようとその肩を叩く加茂。
なんやかんや、仲はいいらしい。
パーカーの少女は、巨大な棺を背負ってるのにもかかわらず、軽い足取りで東堂たちに近づく。
「ごめんなさいなの、顔の彫りが深い人」
「ぶふっ…」
「心配するな。気にしていない」
加茂が吹き出すのに対し、東堂は半目で睨みつける。
無論、ここで会話が終わるはずもない。
「お前、どんな女がタイプだァ?…おっと、男でもいいぞ。因みに俺は、尻と身長がデカい女がタイプです!!」
少女の友人、ドン引きである。
いきなり好みの異性を聞いてくる男など、不審者でしかない。
だが、忘れてはいけない。
ここにいるのが、あの華東芽衣子の影響をガッツリ受けた相当ヤバい女であることを。
「甘いの。私は私がタイプなの!!!!」
「……………っ!!!!」
デジャヴ。
自らの魂の兄妹が放った言葉が、東堂の脳裏で反響する。
ソレを理解していないと勘違いした少女は、続け様に語ろうとした。
「お前の嫁は画面から出てこない。
なら、お前がそのものになれば、彼女は自分のもの。故にお前はお前と結婚してる…。違うか?」
「あれ?やっぱりファンの人?…んー……、でも、イベントで見たことないの」
滂沱の涙を流し、とんでもない量の鼻水を垂らす東堂。
魂の兄妹よ、同じく愛に生きる者を見つけたぞ、と、空の彼方にいるカメコに向けて、念を送る。
尚、カメコは普通に昼飯の炒飯…虎杖の手作り…を食べてる。
「華東芽衣子。俺の、魂の兄妹…ソウルシスターの名だ…」
「えっ?お姉ちゃんと?」
「やはりか…。俺は東堂葵。お前の名は?」
「華東夢黒。ネクロって呼んでなの!」
「ネクロ…、いや、ソウルリトルシスターよ!お前の姉と同じく、険しい愛の道を生きる猛者よ…!!この奇跡の出会いを、ともに心から祝おうじゃないか…!!」
「なんかわからないけど、よろしくなの!」
2人は固い握手を交わし、ハグする。
夢黒とカメコの違い。
それは、夢黒は勉学においても日常生活においても、底抜けにバカなのである。
2人のやり取りに、「まぁ、カメコの妹だし」と納得する少女の友達。
それに対し、加茂はなんとも言えない表情を浮かべた。
「華東芽衣子の周りに、マトモな人間はいないのか……?」
残念ながら、神経性胃炎持ちの姉くらいしかいない。
華東芽衣子の家族構成は五人家族。
下二人がとんでもなくアホになってしまったため、アホカウントされそうな常識人が長女。現在、嫁いで行ったため沖縄暮らし。
三女はカメコの悪影響受けに受けまくったネクロマンサー。こちらも全てを世界樹に捧げてはいるものの、姉ほど縛りがキツくないので世界樹を生やせなかった。付き合うと楽しいタイプの子。
次女、我らがカメコ。本編通りのキチガイ。
五条悟が濃すぎて胃痛を感じるくらいに濃い家族。
追記。真依さんの名前普通に誤字ってたので修正しました