思い付いちゃったから最初だけ書いた。
彼女は強いか、強くないか。
道行く人に聞けば、きっと殆どの人は強いと答えるだろう。
速いか、速くないか。
これも、きっと速いと答える人間が殆どのはずだ。
しかし、
(私に万感の喝采は与えられない)
ターフの上。威風堂々と立つ彼女は、今ここで間違いなく勝者だった。
並ぶ猛者達を押し退け、ねじ伏せ、遥か後方に置き去りにして、先頭にてゴールした。
勝ったのは彼女だ。この会場にいる誰もが、それを認める。認めざるを得ない、圧巻の強さで勝負を制した。
しかし、
(そうだろうさ。今日、勝ちを望まれていたのは私ではない。ここに立っていて欲しかったのは、私ではない)
黒い髪を風に靡かせ、彼女は腕を組んだ。
今日、このレース。とあるウマ娘が勝てば、歴史的快挙となるはずのレースだった。
そのウマ娘は速かった。きっと誰もが、今日この瞬間に歴史的な瞬間に立ち合えると信じていた。
(私に歓声は無い。あるのは落胆、溜め息、あるいは、吐き捨てられた悪口か)
異様な空気。
彼女が勝つレースは、高い確率でこうなる。
他に出場していたウマ娘達は、その空気に居心地の悪さばかりを覚えていた。
(まぁ、仕方無い。何度もこんなことが続けば、素直に応援なんてされるはずもない)
クツクツと笑う。
尖った歯が見え隠れするその笑みは、誰がどう見ても悪役そのもの。
いつからか、こんな役回りになってしまった。
偉業を止めた。栄光を奪った。感動を潰した。
無論、彼女にそんな意図は無い。ただ、勝ちを望んで、実力で勝ち取り続けただけだ。
その結果が今であるならば、あえてそれに乗ってやろうと彼女は更に笑みを深くする。
「今日、勝ったのはこの私だ。ヒールだろうとアンチレコードだろうと好きに呼べばいいさ」
踵を返す。
モノが投げられないだけマシなのだろうな、と。
他のウマ娘達の横を通りすぎながら、小さく呟く。
「ヒールはヒーローに倒されるのがお決まりだけど……
」
何人かが、その言葉に耳を動かして反応する。
「果たして、この中の誰が私を倒してくれるのかな」
これは、最後までヒールとしてターフを走り抜けた一人のウマ娘のお話。
「そんな性格してるとは自分でも思うけどねぇ」
「そもそも、私だって自分からこんな風に売り込もうだなんて思ってなかったさ」
「うーん……何が悪かったかって? 運でしょ。誰かが悪いとかじゃないよ」
「まぁ、これはこれでアリなんじゃないかなって思ってたりもするんだ」
「メンタル面の心配は皆から腐るほどされたのは、少し面白かったし」
「何より……誰もが認める舞台で私を倒す者が現れれば、彼女はその瞬間ヒーローだ」
「面白いだろう? 私というヒールがいる、すなわち」
「確実に、未来にヒーローが生まれるんだから」