Abissale solitudine -海の底に消えた鍵-   作:紅 奈々

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ここから、少しだけ過去編に入ります。



【閑話】回想Incubo
標的1【微睡みの中の記憶】


 璃王は、微睡(まどろ)みの中で虐めの理由を考えていた。

 別に璃王にとっては下らなくどうでも良いことだが、ふと考えてしまったのだ。

 

 虐めについては何とも思っていない。

 「虐め」よりも過酷な迫害を受けていた彼女からすると、一般の学生が行うような「虐め」とやらは「馬鹿やってんな」くらいにしか感じられないのだ。

 

 

 朝、教室に入れば頭上に降ってくる水。

 ――暇人。 んな事してるから頭悪いんだろうが。

 

 机の落書きに関して。

 ――馬鹿丸出し。

 

 授業中に投げられる石入り紙くずやその他の危険物。

 ――んな事してる暇あるならノート取れよ。

 

 

 今までされてきた事を思い返して、それに関して感想を付けていく。

 

 そこまで思い返して、ふと、ウチのクラスに授業をまともに聞いている奴が居ないことに気が付いた。

 

 (おいおいおい、ちゃんと授業聞いてやれよ、40分間ずっと独り言言ってる教師が可哀相じゃねぇか)

 

 そこまで思うと璃王は「俺も人の事を言えなかった」と思い直す。

 璃王も教師の話は全く聞いていない。 というか、殆ど聞く必要も感じない。

 

 

 ふと、自分がやられている事を思い返していたら、何故だか父親の顔が脳裏に浮かんできた。

 

 (“僕”がこんな目に遭ってると知ったら、お父様はキレ散らかすだろうか……)

 

 過去の事はあまり覚えていないが、両親――特に父親は輪をかけて親馬鹿だったと思う。

 剣術の稽古以外は璃王や妻である璃王の母親に対して滅茶苦茶甘く、過保護だった気がする。

 

 (……なんて、馬鹿らしい。 その両親だって僕が殺したも同然じゃないか。

 僕が生まれてさえいなければ――)

 

 そこまで考えて、璃王は寝返りを打つ。

 

 それはもう、生まれてしまったからには考えても仕方のない事だ。

 今更、自ら死のうとも思わない。 かといって、生きている理由も特になくて……。

 

 (……、止そう。 考えたってどうしようもない事だ)

 

 体を丸めて璃王は再び、現状を思い返して感想を付ける作業を始めた。

 

 

 保坂理絵奈の気色悪い芝居。それに騙され、そこから生まれる下らない“トモダチゴッコ”。

 ――反吐が出そうだ。

 

 別に、人と人との間に生まれる“友情”とやらを否定して侮辱するつもりはない。

 よくつるんで遊ぶ人の事を“友達”というのなら、そう言う人間は璃王にも居るのだから。

 それを“友”だと呼ぶのなら、毎日話しかけてきて、遊びに誘ってくるあのコンビニのアルバイト店員も、雲雀恭弥もその“友達”という物にカテゴライズされるのだろう。

 

 雲雀の場合は良く分からん絡み方をしては来るが、先ほどの事も含めて彼にはこちらを害する気がないことは態度から見ても分かる。

 

 保坂らの場合、保坂が害されたからとこちらを敵視してくるのはまぁ、仕方ないにせよ。

 問題は、自分がされた事を一々大袈裟に騒ぎ立て、彼らを炊き付けてその矛先を自分に向けてくる事である。

 それで“友情”とやらを確認しているのか。

 

 なんにせよ、それは額縁の外から眺めている璃王が「くだらない」と思ってしまうのは致し方がない事だろう。

 璃王の目から見ても、彼女たちの“友情”とやらは一人を標的にすることで芽生えている一種の集団ステリ―。

 薄氷の上を踏んでいる様な脆い関係の上で成り立っているモノなのだから。

 

 もし、璃王の無実が証明されたなら。

 彼女らの“友情”も取り巻きの彼らの“同情”も全てリバーシのように引っ繰り返る事になるだろう。

 

 (まぁ、今はその“無実”を証明するような証拠もないのだが)

 

 それに、そう言う手を打つのも面倒くさい。

 かといって、手加減の手の字もできない璃王が暴力を振るってくる彼らに抵抗する訳には行かない。

 

 そうなれば、現状の原因の発端となっている保坂をどうにかしなければならないが――。

 

 

 (そう言えば……)

 

 璃王は暗闇の中で思う。

 

 何で俺は保坂から嫌がらせを受けてんだっけ?

 そもそもの原因が思い出せない。

 

 (あれは確か、中一の時……だったか?)

 

 璃王は、去年の“あの日”の出来事を思い返そうと記憶を手繰り寄せた。

 

 

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