Abissale solitudine -海の底に消えた鍵- 作:紅 奈々
それは、よく晴れた春から夏に変わるくらいの季節だった。
その時璃王は一年A組に在籍しており、その時に行われた学校行事の宿泊学習では沢田綱吉、獄寺隼人、笹川京子、保坂理絵奈と同じ班だった。
班を作って初めはその班の中で仲良くなっていこう、とかいうのが目的の行事だった気がする、と璃王は思い出す。
自分の境遇もあり宿泊学習には行かない予定だったのに雲雀に脅されたのだ。
「学校行事をサボる毎に璃王は風紀委員のパシリね」と。
それも、一日二日ではなく1ヶ月単位だ。 そんな面倒くさい事を1ヶ月もしたくはない。
璃王は渋々行くしかなかった。
幸い、危惧していた風呂の問題も「体に傷があるから」と言って他の生徒の不快感への配慮という事で、ユニットバスが利用できたことは不幸中の幸いだった。
問題なく一泊二日の宿泊学習も終わる頃の出来事だった。
その夜にこそっとテントを抜け出して昼間見つけた湖へ行った。 思った通り、夜の湖面は月を映して、昼間とは違った顔を見せている。
そこで璃王は誰も居ないことを確認して、歌を口ずさんだ。
「君と離れて僕を探して 幾千の世を歩いた
何を目指して誰を信じて 誓ってはまた揺らいだ」
璃王の家系は、特殊な呪いを受け継ぐ家系。 それと同時に特殊な声質を受け継いでいる家系でもあった。
その名を
O.C.波は制御が難しい為、幼少の頃からそれを制御する訓練を受けている。
璃王が時折、歌を口ずさむのはO.C.波の制御の訓練の為だった。
「夕闇には牙を剥けど強くない そう強くはない」
歌う璃王の声は何処か寂し気で、輝く星を映すその瞳の奥には、深い孤独の色が垣間見える。
夜の景色と相まってその姿は、今にも消えてしまいそうな程儚げにも見えた。
「君に背を向けて久しく 満天の星空が寂しい――」
不意に人の気配がして、璃王は歌うのを止めた。 闇の中を注視すれば、そこには暗がりでも解りやすいピンクの髪が見えた。
そのピンクの髪の人物は保坂理絵奈だった。 彼女は璃王に近付いてくる。
「あ……あの、さっき、璃王君が出て行くのが見えて……」
じっと無言で見つめられて、保坂は言葉を探す。 漸く出てきた保坂の言葉に璃王は暫く黙った。
「……誰」
目の前に居る女子の名前を思い出せない。 一応、班のメンバーの名簿には目を通したが、名前と顔が一致しない。
そもそもこの頃は、雲雀と草壁の名前しか覚えていなかったのだ。
それよりも、面倒くさいことになった。
何故、璃王がわざわざ人目の付かない所で、それも誰もいないかを確認した上で歌ったのか。
璃王の操るO.C.波は、人によって重篤な被害が出てしまう事がある。
万が一のそれを避ける為に人目がない事を確認したというのに。
目の前の女生徒は何もないというようにキョトンとした様な不思議そうな表情で璃王を見上げてきた。
「え……? あ、あたしは理絵奈よ……保坂理絵奈。
同じクラスで同じ班の……」
「ふーん」
やや舌足らずな喋り方で言う保坂の言葉に璃王は素っ気なく返す。
どうも、この女は苦手だ。 初めて話した時はそんな印象を持っていた。
何だかすっかり気分も害された感じがして璃王は立ち上がると、テントへ戻ろうと歩き出した。
そんな璃王の服の裾を掴んで、保坂は璃王を引き留める。
「あ……あの、璃王君……」
ピンク色の目を伏せ、モジモジと恥ずかし気な仕草を見せる保坂。
言葉を躊躇うのは言いにくい事なのだろう。
「その……っ、あたし、初めて会った時から璃王君のことが好きです……!
つっ……付き合って下さい!」
保坂の言葉に璃王が振り返ってみれば、告白してきた張本人は顔を茹で蛸のように真っ赤にして上目遣いでこっちを見上げていた。
弱気なピンクの目と目が合う。
その顔を見ても特に何とも思えない。
女に告白されても嬉しくないのは当然だ。 璃王には同性愛の趣味はない。
しかし、長身で肌も白く、ぶっきらぼうだが整っている顔をしている璃王は何処からどう見てもイケメンそのもので、一目惚れをする女子生徒も少なくはない。
その上で璃王は一度、学校の行事の親睦会でライブをさせられている。
それも相俟ってこの時の璃王の人気は半端無かった。
「恋愛事に興味はねぇ。 そんなことは他の奴にでも言うんだな」
その日は冷たく突き返して、何事も無かったかのようにテントへ戻った。
その時の保坂の表情を見る事もなかった璃王は、保坂がどのような表情で遠ざかる璃王の背中を見つめていたのかを知る由もなかった。
それから程なくして、保坂理絵奈から細かい嫌がらせを受けるようになった。
嫌がらせと言っても本当に些細なことで、気になる程のような事じゃなかったので、璃王は気にしていなかったのだ。
@璃王のスペック
身長:170cm
体重:50㎏
(杜撰な食生活+その割に運動量がエゲツナイ+太りにくい体質も相俟って体重は軽め)
髪は腰に届きそうな程長い紫みを強く帯びた群青色、目は瑠璃色で目つきが悪い。
右目を前髪と眼帯で隠している。
無類の甘党。
@保坂のスペック
身長:155cm
体重:50㎏
薄ピンクの背中辺りまでの髪に、同色の大きな目が特徴。
外見だけは可愛い。 お前もう喋んな、マジで。息だけしてろ。
中身がエゲツナイ。