Abissale solitudine -海の底に消えた鍵-   作:紅 奈々

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 シャマルは基本的に原作通りの女好きですが、リオンに関しては“小さい時から診ている”と言う事、そしてリオンの両親(特に父親の方)やその周りの“リオンを可愛がっていた人たち”がおっそろしいのでリオンは突撃ラブハートの対象外。

 手を出したこと(たとえナンパであっても)が知られたら、どんな目に遭わされるか分かった物ではないので。
 下手したら、騎士団も敵に回すことになりかねない。

 シャマルも命は惜しいのです。医者だから。


第2楽章 正午Sterzare
標的1【猫呪抑制薬】


 「トライデント……シャマル……」

 「よぉ、璃王。 どうした? んな死にそうな顔して。

 美人が台無しだぞ?」

 

 真っ青な顔で額に脂汗を浮かべながら、璃王は保健室に訪れた。

 いつも通りの朝を迎えていた筈の今日は「いつも通り」とはいかなかったのだ。

 

 登校中にいきなり、酷い吐き気と何とも言い難い気持ち悪さを感じた途端に頭痛と胸の痛みに襲われた。

 

 呪いを抑え付ける薬の副作用にしては酷すぎる、と思った璃王は教室へは逝かずに保健室へ来た、と言う訳だ。

 それを璃王はシャマルに苦しい呼吸の中で説明した。

 

 「お前はまず、漢字の勉強からだな」

 「俺の学校へ「いく」は「行く」じゃなくて「逝く」だ……っげほっ、ごほっ!……うぅ……」

 

 呆れた様に言うシャマルに反論すると、喉が痛くなるような苦しい咳に襲われ、璃王はソファーに倒れた。

 

 息を吸う間もない激しい咳にソファーでのた打ち回る。

 口を覆っていた手には喀血したと思われる血がベットリと掌全体を紅く染め上げるように付着していた。

 掌の血を見て、璃王は戦慄する。

 

 (これって……!?)

 

 ――何で呪いが末期状態になっているんだ!?

 璃王は混乱すると共にまた襲いかかってきた胸の激痛と頭痛に意識が薄れていく。

 

 頭が割れるように痛い。 押し潰されるみたいに胸が痛い。

 痛みで呼吸がままならない。

 

 「はぁ……っ、ぐっ、うぅ……」

 

 あまりの痛みにさっきよりも脂汗が吹き出て、背中がぐっしょりと濡れて気持ちが悪い。

 さっきよりも長く続く発作の様な激痛に璃王はソファーの上でのたうち回った。

 

 尋常でないほど苦しむ璃王の様子を不思議に思い璃王の傍に寄ると、シャマルは璃王の額に触れる。

 

 「すげぇ熱じゃねぇか! 脈も早ぇ。

 つかお前、痣も広がってんじゃねぇか!」

 

 璃王の手首に指を当てると、璃王の脈の速さにシャマルは眉を顰めた。 黒い痣も手の甲から首筋にまで広がっており、シャマルは緊迫した声を上げる。

 

 8歳の頃から璃王の事は診ていたが、ここまで酷い症状が出る事はなかった。

 璃王が侵されている呪いの末期症状。 シャマルや璃王の前の主治医の見立てではあと10年、早くてもあと6年は大丈夫な筈だった。

 

 それが昨日今日で突然、急激に進行しているという事は……?

 

 「お前、昨日暴れたりしてねぇよな?」

 

 シャマルの問いに璃王は首を振って拒否した。

 

  「昨日は……依頼、受けてねぇよ……」

 

 絞り出すような璃王の言葉を聞いて、シャマルは猜疑的な目を璃王に向けた後、璃王の服を剥いだ。

 黒い痣は右半身に(まだら)に広がっており、呪いが末期まで進行しているのが一目で解った。

 シャマルの目が険しくなる。

 

 「この傷! お前これ、どうした!?」

 「え……? あ、なん……でも、ねぇ……っ」

 

 痣よりも先に目に付いたのは、璃王の体中にあるまだ新しい傷痕だった。 その傷痕を見て、シャマルは眉を顰める。

 傷のことを問われた璃王は昨日のことを思い出し、咄嗟に嘘を吐いた。

 

 別に、山本を庇ったわけじゃない。ボンゴレの一員とは言え、一般人同然の山本に押し飛ばされて窓を突き破ったなんて、死宣告者として格好悪すぎて言えるかよ。

 “ヴェルベーラ・ヴァルフォア”の後継者としての沽券にも係わる。

 

 そんな璃王にシャマルはこれ以上何も追求せずに立ち上がった。

 

 「お前がいつも定期的に服用・投与している薬な。 あれは血管を通して全身に作用する薬ってのは知ってるな?」

 「あぁ……」

 

 シャマルの言葉に璃王は頷く。 小さな時から、シャマルや前の主治医に何度も何度も聞かされていた言葉だ。

 シャマルは説明しながら、薬瓶の並ぶ戸棚を漁る。

 

 「正常に作用している状態ならお前の呪いを抑える役割を果たすが、ちょっとの衝撃でその薬は呪いの進行を抑える「薬」から呪いを急激に進行させる「毒」になる事も、フィアちゃんから説明されていたな?

 俺も重ねて説明したよな?

 だから、投与して二十四時間は安静が必要な事も話したよな?」

 「……あぁ」

 

 シャマルの言葉に頷く璃王。 これも、小さい時から耳に(たこ)ができるくらいにシャマルの口から出てきた名前の女医から聞かされていた。

 

 そこで、シャマルの額に青筋が入る。

 

 (やべっ、地雷踏んじまった)

 

 思った時には既に遅く、シャマルは顔に般若を降臨させていた。

 

 「お前なぁ!! 何故直ぐに来なかったんだ、このドアホ!!」

 「薬を投与……したのが、予定、日……より、早かっ、たから……別に良いか……と、思った……んだよ!」

 

 シャマルの剣幕に怯むこともなく璃王は言った。 まさか璃王も、大した事のない怪我でこんな事になるとは思っても居なかったようだ。

 

 璃王の言葉にシャマルは呆れた様に頭を抱え、白い包み紙と水を持ってきた。

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