Abissale solitudine -海の底に消えた鍵- 作:紅 奈々
シャマルが璃王を本名で呼ばないのは、本人の意思を尊重しての事。
シャマル「まぁ、確かに身バレして騒ぎになるのは面倒臭いよなぁ」
何気にリオンの事もちゃんと考えてる良き医者なのですよ。 女誑しだけど。
「起き上がれるか?」
シャマルは璃王に声を掛けると、テーブルに包み紙と水を置いて璃王に手を差し出す。 それを無視して璃王は背凭れに手を置いて起き上がった。
起き上がる時にくらり、と頭と視界が揺れて、込み上げてきた吐き気に噎せ返った。
「これは、お前に投与している薬よりも最も強力な薬だ」
説明しながら、シャマルは璃王に包み紙を手渡す。 包み紙を開いてみると、緑色の如何にも体に悪そうな粉末が盛られていた。
襲い掛かる身体症状の所為で、目の前の人が飲んではいけなさそうな粉末を見ても、顔を顰める余裕すらない。
そんな璃王の心境を置き去りに、シャマルの説明は尚も続く。
「お前の愛しの前主治医であるフィアちゃんが開発した、お前の呪いと同じ毒素を持った薬でな……」
「服毒自害でもしろと」
シャマルの言葉に璃王が小さく呟くと、その呟きが聞こえていたのか、プチッと何かが切れる音が聞こえた気がした。
説明が途中で中断されたのでシャマルの顔を見てみれば、シャマルは額に青筋を浮かべ、またもや般若を召喚している。
(おいおい、あんまり怒りっぱなしだと中年期になったら血圧上がって血管切れるぞ。
梨●プシャーッ!じゃなくて、鮮血プシャーッ!になるぞ。 何だ?それでふ●っしーに対抗するのか?シャマッシーか?笑えねぇー……」
璃王は苦しいにも関わらず、そんな事をふと思ってしまった。
「おい、途中から口に出てるぞ。 ったく、誰がシャマッシーだ、俺はあんなキチ梨と対抗する気なんざなぁ……って、んな話はどうでもよくてだなぁ!
お前、「毒を以て毒を制す」っつー言葉を知らんのか? 悪いモノは悪いモノで牽制するって事なんだがな。
今し方、それしか方法はねぇんだよ。 若しくは次の定期投与まで苦しむか、だ」
シャマルの言葉の意味は理解できる。 つまり、毒を飲んで毒を殺せ、と。
とにかく璃王は、次の定期投与まで苦しんでいたら死んでしまうので、この怪しい薬を飲んでみることにした。
(怪しいが、背に腹は代えられないな……。 この劇薬を飲まないと死ぬんだったら、飲んでやるか」
「劇薬って人聞き悪ぃな、おい!」
シャマッシーは取り敢えずスルーの方向で、とにかく璃王はシャマルが何か言っていても関せずに薬を飲んだ。
(うぇ、まず……。 何だよこの、青汁をもっと苦くしてキシリトールをぶっ込んだようなこの味は……)
まるで、どこぞの女医が出してくるジェノサイド飯のようだ。
込み上げてくる吐き気をどうにか堪える。
口の中に酸味が広がるが、これは本当に飲んで大丈夫なモノなのか。
(これ、本当に薬か?シャマッシーは俺を殺す気か?
つか、何気にシャマッシーにハマった。 よし、次からはシャマッシーと呼ぶ決意をしよう」
璃王はそんなどうでも良いような決意をした。
「変な決意をするな!」
(さっきからシャマッシーは人の心を読んだかのようにツッコミを入れてくる……。
シャマッシーはふなっ●ーと違ってどうやら、読心術が出来るみたいだ。すげぇな」
何故かシャマッシーと会話が成り立っている事に衝撃を受ける。
璃王がそんな事を不思議に思っていると、「お前、口に出てんだよ!!」とシャマッシーが呆れた様に言った。
「だぁぁぁぁぁぁああっ!? 地文での俺の名前がシャマッシーになったじゃねぇか!
つーか、んなことはどうでも良い……いや、良くないんだが、今はそれどころじゃなくてだな!
とにかく良いか、璃王。
毒が相殺されるまで……つまり、明後日の昼まで絶対に安静にして腹と腰には衝撃与えるなよ!?」
何か一人ツッコミして騒がしいなぁ……と、璃王が思っている間にシャマルの説明が始まった。
(つーか、世界観壊すなよ)
そんな事を思いながら、璃王はシャマルの言葉を聞く。
「この薬は初めに子宮に作用して仮妊娠みたいな感じで毒素を育てるからな。 明日には軽く腹が出ている状態だ。
毒が相殺されたら腹は引っ込む。
この薬は男にとっては毒にしかならないが、女にとっては薬にもなる。
ただし、衝撃を与えなければの話だ。 良いな?絶対に安静にするんだぞ!」
シャマルは念を押すように説明した。
とんでもねぇモン飲まされた……と後になって気付いたって遅い。
(後の祭りってこの事だな……)
璃王は説明を聞きながら、そんな事を思った。
「はいはい、要するに腹と腰に衝撃与えなきゃ問題なし、だろ」
気だるげにそう言いながら璃王は窓を開けて、その窓枠に足を引っ掛けた。
それを見てシャマルが「いやいやいや!?」と声を上げる。
「俺の話聞いてたか、お前――ってあぁ!!
ったく、彼奴にゃ絶対子供を作らせられねぇな、一日持たずに胎児が死んじまうぜ!
子供が出来たとしても、ベッドに括り付けて強制入院モンだな!」
シャマルが止めようとした時には既に璃王は窓から飛び降り、地上へ着地していた。
彼奴の将来の旦那は苦労するだろうなぁ、と、璃王が飛び降りて外へ向かってはためいているカーテンを見ながらため息を零した。