Abissale solitudine -海の底に消えた鍵-   作:紅 奈々

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標的2 【雲雀恭弥】

 いつの間にか寝落ちしていた彼は、首元にくすぐったさを感じて意識を浮上させる。

 閉じた瞼の裏に感じる光に彼は、朝が来たのだと憂鬱を感じた。

 

 眠たい目を擦って薄く目を開けるが、そのぼやけた視界には何も映らない。

 気の所為か、と彼はまた眠りに入る。 まだ起きなくても良い時間だ。

 まだ、お布団と仲良くしていたい。

 

 「ンッ……」

 

 眠りの闇に落ちようかと言う時に彼はまた、首元でモソモソと何かが蠢くのを感じた。 それは首全体を這いずり回るかのように蠢いて、その気持ち悪さに彼は寝返りを打つ。

 しかしそれは、いつまでも纏わり付いてきた。

 

 「っ……擽ったい……ってば!」

 

 あまりの擽ったさに彼が飛び起きてみれば、彼の首が横たわっていたであろう場所にアリゲータが居て、アリゲータは主人である彼を黒豆のような円らな目で見上げている。 その目は「早くエサを寄越せよ」と訴えかけていた。

 

 (毎回思うが、どうやってケースから出てきてんだ?)

 

 昨日は確かにケースに入れて寝た筈だ。

 

 ケースは大きめの金魚の水槽を使っており、天井まではおよそ二十センチ、掌サイズの鰐が脱走しようができない筈である。

 アリゲータの脱走は今一番の彼の悩みだった。

 

 それはさておき、彼はアリゲータの好物、キャットフードを紙皿に盛ってアリゲータを机に乗せた。

 漸くお待ち兼ねの朝食にアリゲータは待ってましたと言わんばかりに紙皿まで這っていき、キャットフードの山を裾から頬張っていく。

 

 この姿のなんと可愛い事か。 凄く癒やされる。

 そう思った所でふと、“あの人”のことを思い出した。

 別の召喚獣を買っていた時にそれを言ったら、彼に可哀相なモノを見る目で返されたっけな、と、いつぞやの記憶を思い返す。

 

 “あの人”が居なくなって相当な時間が過ぎたな。 あれからもう、6年が経った。 自分だけが成長し、ここに居るのだと思うと、とても複雑な心境になる。

 そんな思いを払拭するように彼は、学校へ行く準備を始めた。

 

 ―― ――

 

 学校へ向かって歩いていると、目の前にそこそこ大きな建物が見えてきた。

 ここからはその建物の敷地だという様に門が建っている。 ここは、彼――神谷(こうや)璃王(りお)が通う並盛中。

 今は誰もその門を潜る人間は居ない。 それもそうであろう、今は授業中である。

 璃王が校門を潜った後、「ねぇ」と、低い声が聞こえた。

 

 声の方を向けば、1人の男子生徒が立っていた。

 短めに整えられた髪は漆黒で、髪と同色の瞳は鋭く光る。 肩に学ランを羽織り、その袖には風紀委員会の証である「風紀」と刺繍されている腕章が着けられている。

 両手にはトンファーを持っており、今にも襲いかかってきそうな雰囲気だ。

 

 メンドイ奴に絡まれた。 璃王はその顔に陰鬱な色を見せる。

 

 「君、今日も遅刻だよ」

 

 璃王に声を掛けると、彼は璃王に近付く。 璃王はその場に立ち止まった。

 

 「キョウ……」

 

 雲雀恭弥。

 並盛最強にして最凶の不良の頂点に君臨する、並盛中学風紀委員長。 「並盛の不良風紀委員長」が彼の代名詞だ。

 尤も、璃王に言わせれば唯の戦闘狂だが。

 

 不良で風紀委員ってどんなだよ。 不良の時点で風紀もクソもあるかよ、真面目な不良かよ、と言うのが璃王の雲雀に対する第一印象だった。

 今では互いに気を許している仲だ。 少なくとも、クラスメイトよりは。

 

 「学校は遅刻する為にある。

 そもそも俺には、義務教育なんざ必要ない」

 「遅刻する理由としてはマイナス点だよ。

 まぁ、君だけは遅刻もサボりも許している僕は甘いんだろうね」

 

 璃王の言葉に雲雀は眉を顰め、その後でふっと軽く笑う。

 変な奴だ、と璃王は思った。

 普段はサボっている生徒を見ると、直ぐにそのトンファーで「咬み殺しに」行くクセに。

 「だから……」と、雲雀は言葉を続けた。

 

 「いつでも応接室に来なよ、璃王」

 「気が向けば、な」

 

 やっぱ変な奴だ。 璃王は雲雀とそんなやり取りをすると、校舎へ入っていった。

 

 (初めて会った時から何となく気にしてたけど……やっぱり、まだ警戒されてるみたいだ)

 「ミードリータナービクー ナーミ―モーリーノー♪」

 

 遠ざかっていく璃王の背中を暫く見つめ、思考に耽って肩を落とす雲雀。

 そこに、飛んできた黄色の小鳥が歌いながら、彼の肩に止まった。

 彼はそれを気にする事もなく、校内の見回りの為に歩き出す。

 

―― ――

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