Abissale solitudine -海の底に消えた鍵- 作:紅 奈々
三時間目が終わったと同時に璃王は席を立った。
理科室を出ようと歩き出した時、突然獄寺に蹴り飛ばされ、壁に背中を打ち付ける。
それでも容赦なく璃王は、そのまま獄寺に壁に押し付けられた。
鉄筋コンクリートの固い壁に背中を押し付けられ、璃王は小さく呻く。
「てめぇ、十代目の悪口言うなんざ上等じゃねぇか、あぁ!?
保坂を殴ったにも飽きたらず、今度は十代目をターゲットにしようってか!?」
「本当なの、理絵奈ちゃん!」
獄寺の言葉に沢田は驚愕し、後ろにいる保坂を振り返る。
問われた彼女は涙ながらに「本当なの~」と、いけしゃあしゃあと
その甲高い声に璃王はイラッとくるものを感じる。
「理絵奈さっき、璃王君に呼ばれてぇ~っ……屋上行ったら、「消えろ雌豚」って、殴られたのぉ~っ! グズッ」
璃王の目にはそれは「嘘見え見えの芝居」としか映っていない。
それもそうだろう、先程まで保健室で寝ていた璃王には十分なアリバイがあるのだ。 保健室を抜け出すにしろ、シャマルの目に付く。
仮にシャマルの目を盗んだ所で、短時間で教室若しくは理科室に行って保健室に戻るなんてできる筈がない。
少し考えれば解りそうな事だが、璃王にアリバイがあることを知らない沢田達は保坂の演技にまんまと騙される。
そう、璃王は保坂に陥れられ、クラスで虐めを受けていた。 尤も、それは客観的な見方で、璃王から言わせれば「虐め? 何それ美味しいの?」だそうで、璃王の目には「馬鹿やってんな」くらいにしか映っていなかった。
「俺はさっき、保健室行ってたんだ。 そいつを殴れるワケねぇーだろ」
「見え透いた嘘だな。 彼奴は女しか保健室に入れねぇーんだよ」
璃王がアリバイを主張するも、それは獄寺に鼻で笑われてしまった。
主治医はシャマルの為、璃王は幼い頃から度々世話になっていた。
日本に移住した今では主治医がシャマルに変わったので、シャマルはとある医者を除いてこの世で唯一、璃王の体質に合った薬を作れる
シャマルが璃王を受け入れ拒否していたら、今はもうこの世に存在していない。 それは璃王が一番よく知っているが、それを獄寺達は知る由もない。
「うわ、嘘吐くとかサイテーだな」
何も知らない獄寺や山本は、璃王が嘘を吐いていると決め付ける。 実際、二人には璃王が嘘を吐いているとしか思えなかった。
「シャマル先生は女好きの養護教諭で、保健室には女しか入れない」という事は、この学校の生徒たちの間では既に知れた事実となっている。
この学校の生徒の中でも、彼と面識のある獄寺隼人、沢田綱吉、山本武はDr.シャマルの女好きの事は良く知っていた。
山本は軽蔑した様に吐き捨てると共に、璃王を突き飛ばす。
途中で踏ん張れなくて璃王はたたらを踏み、窓に体をダイブさせその体を廊下の床に叩き付けた。
パリーンと硝子の割れる甲高い音が響くも、この時間帯は誰も理科室の前は通らない為、誰も来ない。
そもそも、誰かが来たところで璃王への
硝子の破片の中心には硝子が所々に突き刺さり、全身が血塗れの璃王の姿があった。
「っつっ……」
璃王が起き上がると、細かい破片がバラバラと光を反射させて煌めきながら背中や頭から床へ落ちていく。
咄嗟に頭を守ったお陰で顔には傷があれど、頭は無事だった。
立ち上がって璃王は保健室……ではなく、応接室へ向かう。
「おい、逃げるのか!?」
そんな獄寺の怒号が背中に投げられるが、璃王は知ったことか、と気にせずによたよたと応接室へ向かう。
弱い犬程よく吠える、とはよく言ったモノだ。
――さて、応接室に恭は居るだろうか?
居たら面倒だろうなぁ……。
哲くらいなら、
「クソ……
先ほど、山本に突き飛ばされてたたらを踏んだ時に足を捻ったのか、歩く度に足首に痛みが走る。
璃王が通った廊下には、璃王の血が点々とその痕を残していた。