Abissale solitudine -海の底に消えた鍵-   作:紅 奈々

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標的7【雲雀の尋問】

―― ――

 

 「君さ……確かに僕は、「いつでも応接室に来て良いよ」とは言ったよ?

 だけど、そんな満身創痍で来いと誰が言ったんだい? しかも何でそんなに制服がバリバリに破けてんの?

 どんな生活を送ったらそんな事になるのさ?」

 

 璃王が応接室に入るなり、璃王の姿を見た雲雀が有り得ない!と言いたげに眉を吊り上げて声を上げた。

 弾丸のように浴びせられる質問の嵐に、璃王は放心しかける。

 

 あれ、お前キャラ何処行った?と璃王は思うが、取り敢えずそれはスルーで。

 

 (まぁ普通、制服はバリバリに破けて血塗れの生徒が来たらそうなるよな)

 

 そう思って、璃王は思い直す。

 そもそも、普通はそんな生徒は来ないだろうが。

 

 「制服破けてんだ、寄越せ。

 あと、ついでに包帯」

 

 璃王は面倒臭そうに雲雀に手を差し出す。

 

 並中で雲雀に堂々とそんな事が言えるのは恐らく、璃王だけだろう。

 もし、璃王以外の生徒がそんな事を言おうモノなら、即咬み殺される事は必至だ。

 

 ふぅ、と溜息を吐いて雲雀は立ち上がると、「その前に訊きたいことがあるんだけど」と、璃王の手を引いて近くのソファーに璃王を放り投げる。

 不意打ちを食らった璃王はそのまま、皮張りのソファーに身体を沈めた。

 

 「なにす――っ!?」

 

 璃王が立ち上がる前に背もたれに璃王の肩を押し付けて、彼の動きを封じた。

 あまり手荒い事をするつもりはなかったが、直接訊いてもいつものようにはぐらかされると思った雲雀は、強硬手段に出る事にしたのだ。

 

 躊躇う事もなく、雲雀は璃王のシャツを剥いだ。 その服の下の肌を見た雲雀は一瞬、目を瞠る。

 璃王は特に動じる事もなく、無言でただまっすぐに雲雀の目を見返す。

 

 「君さ……尋常じゃないよ、これ。

 僕が君を咬み殺したなら解るけど。 誰にやられた?」

 

 服の下は、古傷の上から付けられたような無数のまだ新しい傷痕や、さっき付いた血が滲み出ている傷口がそこかしこ白い肌を覆うように付いていた。

 

 満身創痍――まさにそんな言葉が浮かぶくらい痛々しい傷。

 生傷の方は、今さっきついた様な傷だった。

 

 「さぁな」

 「何で隠そうとするんだい?」

 

 雲雀の問いにしらばくれる璃王。 そんな彼の目を見れば、綺麗な藍色の目が暗く沈んでいた。

 

 元々、入学してきた時からその目には昏い過去を反映しているかのような、感情を押し殺した様な沈んだ目をしていた。

 

 それが最近になって、また一層沈んでいるのだ。 それも、疲弊感を漂わせて。

 璃王本人は無自覚なのか、それとも知らない振りをしているのかは分からないが、彼が過去に傷を負い、その上で更に傷付いているように見えるのは気のせいではないだろう。

 

 じっと見つめてくる黒曜石の目を璃王はじっと見つめ返す。 言葉がつっかえて出てこない。

 今の現状を話すことは出来る。 だがそれは、自分が雲雀を頼るみたいで嫌だった。

 

 それだと、あの日の自分と同じじゃないか。 自分が弱かった所為で守るべき者も守れなかった非力な自分が嫌で、環境を変えたくてここまで来たのに。

 結局は何も変わらないのか。

 

 「君がこの学校に来た時の事、覚えてる?」

 

 いつまで経っても何も言わない璃王に、雲雀は言葉を掛けた。

 

 忘れる筈がない。 あんな出会いなんか、この学校でないとある筈がない、と璃王は去年、雲雀と出会った時のことを思い出した。

 

 「君は僕と同じかそれ以上の強さを持っているクセに戦おうとはしないから、僕が守ってあげると言ったじゃない。

 確かに、君には僕に守られる理由はないだろうさ。 でも、君に関しては何かをしてあげたいと思ってるのは本当だよ」

 

 雲雀は璃王の手当をしながら言った。

 雲雀と璃王は、過去に何回か手合わせをしていた。 その度に「面倒くさい」「嫌だ」と躱されていたが何回か挑んでいる内に断る方が面倒くさくなったのか、手合わせしてくれるようになったのだ。

 

 手合わせして思ったのが、璃王は強いが戦うことを好んではいない様子だという事。

 ただ、戦っている時は時折うっすらと笑っている時があることもあるから、戦い始めたら楽しくなるのだろうか、と言うのが雲雀が璃王と戦って思った事だった。

 

 そして、時折見せる哀しげな顔に雲雀は自分がこの子を守ってあげないと、と思い始めた。

 その時に雲雀は「あれ」と思いながらも「きっと、兄が弟や妹を守りたいとかそういうヤツ」だと思うようにしていた。

 「弟可愛い的なあれじゃないか」と。

 

 手当を終えると雲雀は、璃王を抱き締める。

 

 「え、ちょ……きょ、恭……?」

 

 いきなりの雲雀の行動に璃王は絶句する。

 そんな璃王の動揺などお構いなしに、雲雀は璃王を抱き締める腕に力を入れた。

 

 いやいやそんな、恭。お前は男色だったのか?何だお前、何なんだぁぁぁあああ!?と璃王は混乱する。

 

 小さい子供を抱きすくめるのはまだ解る。 だが、これは見方によっては……いや、どんな見方をしてもこの状態は雲雀が同性愛者のようにしか見えない。

 

 勿論、璃王にはそんな気は無い。

 どうした、何があったんだ、恭ぉぉぉおおお!?

 

 「君……僕にまだ嘘吐いてる事があるでしょ?」

 

 雲雀に問われて、璃王は首を傾げる。

 自分の出自と本業以外は彼に隠していることはない。 そのどちらも、彼には“知る必要はない”ことなので、話していないだけだ。

 

 沈黙している間も、何かを確信したような雲雀の黒曜石の瞳と目が合う。

 徐に口を開いた雲雀の言葉に、璃王は驚愕するのだった。 

 

 「――例えば、君が女だって事」

 

 雲雀の突然の言葉が耳に突き刺さって、璃王は動揺した。

 

 

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