息子から突然言われた一言。一体どうすればいいの?
「……母ちゃん、俺勇者なんだ」
夕御飯を食べながらそんな事を言う息子に、箸と茶碗を持つ手はそのままに、思わず固まってしまいました。……なんと言うことでしょう。
「それで、俺は魔王を倒すため召喚されたってわけ。夏休み中、実はずっと向こうの世界にいたんだ」
目の前が真っ白になりました。受験勉強のストレスでしょうか、そんな妄想を現実と認識してしまうなんて……。 今まで息子に気付いてやれなかった自分が不甲斐なくて涙が零れます。
「え、何、急に泣き出しちゃったりして!?」
……でも、泣いてばかりはいれません!
「だってお前、クルマに撥ねられて……?」
「いやいや、俺はこの通りピンピンしてるよ!」
私はお茶を一口すすってから、落ち着き払った口調で続けました。
「召喚されたと言っていたけど、どうしてあなたが選ばれたの?」
「え?」
もし私が勇者を召喚するのだったら、少なくとも普通の男子高校生は選びません。
「母ちゃんも突然こんな事言われたって、混乱するだろ? 俺、今日はもう寝るからさ、母ちゃんも寝た方がいいよ」
それだけ言うと、息子は自分の部屋に向かいました。一晩あれば、息子を説得する内容をじっくり考える事が出来ます。
それにしても、息子は気が利くいい子です。なのにどうして勇者だなんて言い出したのでしょう。原因が私だとしたら、一体どうすればいいのでしょう。
「勇者様!会いたかった!」
「ちょ、静かに! カオル!」
私の朝は、けたたましい叫び声によって起こされました。寝起きで頭を振り、時計を確認すると午前3時。
洗面所へ行って顔を洗ったところでふと気付きました。今、女性の声がしなかったでしょうか。この家には、私と息子と旦那以外いないはずです。それなのに、女性の声が、息子の部屋から聞こえます。
そーっと覗いて見てごらんと誘われたような気がしたので、息子の部屋を覗くと、黒髪美少女を押し倒していました。はっ、これは、不純異性交遊!?
「勇者様のお母様ですか? お初にお目にかかります。カオルとお呼び下さいませ」
お辞儀をした女性は、丁寧な挨拶に育ちの良いお嬢様だと分かります。おとぎ話で見かける、人魚姫の服がそのままドレスになったような衣装を着ています。でも、私はいったいどうすればいいのでしょう。
私は若い男女の営みを邪魔してしまったのでしょうか。いえ、でもさっき「勇者様」と……。息子も王女がどうのと言っています。世間には様々な性嗜好がありますし。
息子からハンカチを渡されます。こんなにいい子なのに、どうして……。
「お義母さま! 泣かないで下さい! もしや勇者様との結婚に喜んで……!」
「カオルちょっと黙ろうか」
女性はよく分からない事を口走っています。嫌な考えが頭をよぎりました。
……もしかして、女性も、頭おかしい人?
◇
病院の一室では、二人の男女が話し合っていた。一人は医師、もう一人は看護師である。
「ところで、薫さんの調子はどうですか」
看護師から聞かれた医師は電子カルテを見ながら続ける。
「まだ思い込んでいる部分はあるけど、快方には向かっているよ」
「ただ、まだ私のことを『カオル』って呼んだり、お茶を飲むと慌てふためいたりする仕草はしますね」
「そうか。どうぞ~」
そこへ一人の女性が入ってきた。
「薫さん、調子はどうですか?」
薫と呼ばれた女性は縦に首を動かす。そして、スケッチブックを見せる。
「へぇー、そのドレス丁寧ね」
看護師からそう言われ、薫の表情が明るくなる。そこにはものすごく細緻なマーメイドドレスが描かれていた。
「あげる!」
「嬉しいけど、そんな高いものは受け取れないよ」
その微笑はすごく丁寧で上品さが醸し出されていた。
「じゃあ、失礼しました」
薫はお辞儀すると何も言わず部屋から出て行った。窓際のカーテンが優しく揺れていた。
いかがだったでしょうか。
後半部分は夢オチか、はたまた……?