「わぁ」
アルトマ王国より少し遠くに存在している村、『アルトヴァ』。
そこにある少し大きな家の2階の窓から、顔を覗かせている少女がいた。
少々赤色が混じった黒き瞳が、星空を映し出していた。
「綺麗な星空。シーアお姉ちゃんとオディアナ姫様も見てるのかな」
アルトマ王城で働く姉。
3年前ぐらいにたまたま城を訪れていた姉がオディアナ姫と仲良く遊んだことをきっかけに、兵士として城に仕えることになった。
最初は一般兵として、そしてシーアが持っていた1枚のカードがアルトマ王城に補完されていた『魔術師』のデッキと共鳴したことでデッキを得て、やがては王族護衛隊隊長という偉い立場になった。
「……さてと、そろそろ寝ようかな」
シーアの妹である、シオン。
彼女はシーアと2人暮らしをしていたが、姉がアルトマ王城に仕えることになった際、姉は城で暮らすことになりシオンがこの村に残ることにした。
シーアは城へ一緒に行こうと提案したが、シオンは当初姉であるシーアが城に仕えることに反対していたため、半ば意地でこの村に残ったのである。
シーアはその後忙しくなりなかなかこの村には帰ってこないが、それでも姉が姫と一緒に元気でやっていると信じてやまなかった。
「ん?」
だが、村の中で嫌な気配を感じた。
その瞬間。
村を、紫の茨が覆い包みこみ、シオンの意識はそこで消えた。
「もうそろそろ次の村だよね、シーア?」
「はい、オディアナ姫」
オディアナが横を歩いていたシーアに尋ね、シーアがこくんと頷く。
「シーア、どことなく嬉しそうだな。やっぱり故郷はいいもんだぜよ」
「え、そうなの?」
ムゼロがシーアを少しだけからかうように言うと、隣を歩いていたハスキミリアが食いつく。
「ああ、次の目的地である『アルトヴァ』はシーアと妹であるシオンが生まれ育った村だ。俺がシーアと関わりがあった際、何度か訪れたっけな」
「へぇ、シーアさんの故郷なんだ」
「ああ、そうだ。だが、別に里帰りとかそんな浮ついた気持ちで訪れるのではないのだ」
シーアがそう言うが、どこか無理をしてる感じなのは誰の目から見ても明らかだった。
「……素直になってもいいのよ、シーア」
「オディアナ姫まで……あくまで今回は一時的に訪れるだけなのですから」
(オディアナ姫様の言葉にも頑なとは。こりゃ素直になる日は遠いぜよ)
ムゼロがやれやれと言わんばかりの顔をしていたが、シーアがそれに気づくことはなかった。
「シーアさんの妹ってどんな人なんですか?」
「んー、シーアと違って素直な所が可愛らしいかなどげばぁ!?」
ムゼロが素直な感想を述べた瞬間、シーアのキックが彼の背中に炸裂しムゼロは近くの樹まで吹っ飛ばされていった。
「な、ナイスキックだぜ」
「別に私と比較することはないだろう、なぁ?」
シーアの顔は明らかに不機嫌だった。
可愛らしいと褒められることはまずないのはこの性格上分かってはいるが、こうもはっきりと第三者から口にされてしまうと腹が立ってしまうものである。
「うぅ……後、姉よりも格闘センスはすげぇぜ」
ムゼロがよろよろと立ち上がりハスキミリアたちと合流しようとしてる中、解説を加える。
先ほどのナイスキックよりも凄い格闘が出来るのか。
ハスキミリアの中のシオンの姿が、なぜか道着を着たシーアらしき人物となった。
「素直で可愛いけども、格闘センスはあのシーアさんよりも上……どんな人なのか、結構気になってきました」
「だろ?」
ハスキミリアとムゼロが楽しく会話している中、シーアが憮然とした表情となり、それをオディアナが宥める。
数日間の旅でムゼロの性格を理解したのか、ハスキミリアはムゼロを仲間として認識し、持ち前の明るさで彼と接していた。
ムゼロもまたハスキミリアの純粋な心と触れてあっさりと親しくなっていた。
だが、それでもシーアとどういう関係だったのかはまだハスキミリアは教えてもらえていなかった。
そんな3人の様子をオディアナ姫はいつもニコニコと笑顔で見守っていた。
城の中で姫として真面目に振舞ってる中でこんなやり取りは今まで見たことがなかった。
それにシーアがムゼロに対して少々暴力的な面を見せてはいたがそれもまた今まで見たことがない一面だったので新鮮な気持ちでそれを見ていた。
「オディアナ姫? 何かおかしいところでもありますか?」
そしてそんなオディアナを見てシーアがそうやって尋ねてくるのも結構定番となってきた。
「ううん、大丈夫。さ、早いところ行きましょう」
そしてそうやって誤魔化して皆を先導する。
これがムゼロが仲間になってから数日間の旅でテンプレと化した流れだった。
「もうそろそろ村が見えてくるはずなんだが……!」
そして自身の故郷である『アルトヴァ』が見え始めたころ、シーアの顔色がみるみる変わっていく。
「な、なんだありゃ!?」
「え?」
ムゼロもハスキミリアも遠目からだが、村に起きてる惨状が目に見えた。
「嘘でしょ? アルトマ王城だけじゃなかったんだ」
オディアナは、今まで訪れた村は特に何も問題が起きておらず、少し安心していたのだ。
だが、その安心は無惨にも崩れ去ることとなってしまった。
アルトマ王城だけでなく、アルトマ王国領内の村である『アルトヴァ』までもが、アルトマ王城に起きた惨劇と同じ事態となってしまっていたのだ。
「い、急ぎましょう!」
オディアナが言うよりも早くシーアが駆け出し、3人が慌てて後を追う。
「は、早い」
だが、シーアの足がハスキミリアが予想していたよりも早く、見る見るうちに距離が離れていく。
この旅に出るまでハスキミリアは今までほとんど屋敷の外に出なかったので、走れるほどの体力はなかったのだ。
「大丈夫か?」
そんなハスキミリアを心配したムゼロがハスキミリアの傍にやってきて尋ねる。
「う、うん……早くシーアさんを……はぁ、はぁ……追いかけなきゃ」
「いや、さすがに置いていけねぇって。かといってオディアナ姫も一人には出来ないし、しょうがねぇ」
ムゼロがいきなりハスキミリアをおんぶする。
「え、え、えええっ!?」
まさかいきなり男性におんぶされるとは思っておらず、みるみる顔が赤くなっていく。
「ちゃんと捕まってろ、だぜよ!」
そしてそのままムゼロが勢いよく走っていく。
少しでも手から力を抜けば振り落とされてしまいそうなのでハスキミリアがぎゅっとムゼロの肩を掴む。
そしてあっさりと少し前を走っていたオディアナとシーアに追いつく。
「ムゼロさん、ハスキミリアさんをおんぶしてるんですか」
オディアナとシーアがハスキミリアをおんぶしてるムゼロを見る。
ハスキミリアの方は赤くなってる顔を見られたくないのかムゼロの背中に顔を埋めていた。
そしてムゼロはそんなハスキミリアに仕えてるドラゴンメイドたちからの羨望と怒りを感じつつもオディアナ姫に話しかける。
「申し訳ないですが、さすがにオディアナ姫様まで一緒におんぶってのは俺の体面積が大きくないんで無理です」
「いや別に大丈夫ですよ」
「そもそも私が許可するわけがないだろう」
オディアナが言うのとほぼ同時にシーアが厳しめな声で言う。
シーアが先行したのをオディアナが追いついた。
ムゼロにはそれが少し意外に感じられた。
「意外と姫様、運動神経いいですねぇ」
「ここ最近歩いて旅してたからかしら。それに視察とかで村を見て回ったりもするから」
「なるほど、ちゃんと運動はしてるんですね。それなら納得だ」
そんな会話をしつつ『アルトヴァ』の村の入口にたどり着く。
村は全て紫色の茨で覆われており、中に入ることすらほぼ不可能な状況になっていた。
だが、そんな中でオディアナがとある事に気づく。
「これってもしかして」
本来の村の入口から少し右にずれた所に、大人1人なら通れそうな穴が空いていたのだ。
この惨劇が起きた村の中に侵入した人がいるのか。
それとも、村の人たちはこの穴から脱出し無事に逃げおおせたのか。
「……調べてみないと、いけないな」
シーアが穴の中から村へと入っていく。
「私も付いていくわ」
「怪我しないよう気を付けてくださいね」
シーアがオディアナの手を取り、丁寧に中へと招き入れる。
「よし、じゃ俺たちも行くぜよ」
「う、うん……お、降ろしてもらっていいかな」
恥ずかしさからか小声でハスキミリアが呟くと、ムゼロがかがみこみハスキミリアがゆっくりとムゼロの背中から降りた。
「よし、では改めて行くぜよ」
ムゼロが穴の中へと入っていく。
そして少し遅れてハスキミリアも穴の中へと入っていった。
「……なんてことだ」
村はすっかり紫色の茨で包み込まれており、茨の隙間からほんのわずかに太陽の光が差し込む以外、暗くなっていた。
目で見えないというわけではないが、歩きづらいのは否めなかった。
そんな中、シーアが勝手知ったるといった感じですたすたと歩く。
「シオン」
大事な妹の名を呟きながら歩いていく。
「シーア」
オディアナ姫もそんなシーアを心配し、隣を歩く。
さっきは本当に我を忘れて姫を置いて走り出したが、すぐに姫に追いつかれて以降は姫と共に行動し、今もこうやって姫の傍から離れないようにしていた。
そしてシーアとオディアナ姫がとある家の前にたどり着く。
2階の窓が開いており、その中に茨が侵入していた。
シーアが扉に巻きついていた茨を切り捨て、扉に手をかける。
「……行こう」
そして意を決したように呟き、家の扉を開く。
その中には、かつての自分の家の姿はもはや残っていなかった。
自分の部屋も居間も何もかも、紫色の茨で覆いつくされていたのだ。
「なんてことだ」
シーアの声から悲痛が感じ取れ、オディアナが優しくシーアの肩に手を置く。
ムゼロもハスキミリアも惨劇に愕然としながらもゆっくりと探索を続ける。
「2階にシオンの部屋……あの窓から茨が侵入していたから……」
シーアの声に不安以外の感情が感じられず、足取りもさっきと違い躊躇いがちだった。
茨が敷き詰められた階段をなんとか上がり、シオンの部屋の扉を開く。
「シオンっ!」
シーアがシオンの名を呼んだが、返事が返ってくることはなかった。
「……誰もいない?」
部屋の中は茨で覆いつくされ、窓ガラスも割れて破片が茨の上に乗ってこそいたが、人の姿は影形もなかったのだ。
「シオン、シオン!」
シーアはそれでも妹の名を叫び続ける。
「シーア、落ち着いて。この部屋には誰もいないですよ」
オディアナがシーアを窘めると、少しシーアが平常心を取り戻したのか息をつく。
「確かにこの部屋にはいないし、他の場所にもいなかった……じゃ、シオンは一体どこに行ったんだ?」
シオンが家にいない。
たまたま村の外に外出していたから無事、と一言で言えない。
村の他の場所で茨に取りつかれ眠ってしまっているのか。
そんな風に考えていると、外から物音が聞こえてきた。
「一体なんだ?」
シーアが茨で敷き詰められた階段を降りていき、残りの3人もシーアに続いていった。
家の外に出ると、薄暗い中で2人の人物が対峙しているように見えた。
「ちょっと待てよ。こんな酷い場所にすでに人がいたとはな。まさか俺と同じ同業者か?」
「そんなわけないでしょ! 確かにこの村に何が起こったか分からないけど、あなたのようにコソ泥を働くつもりなんかない!」
聞こえてきたのは男の声と……シーアにとっては誰よりも聞き覚えのある声だった。
「シオン!?」
「今の声……お姉ちゃん!?」
シーアがシオンの声のした方へと走っていくと、シオンが心の底から安心しきった顔をした。
「シオン、無事でよかった」
「うん……なんか昨日の夜、いきなり茨が窓の外から流れ込んできて……気づいたら村が茨に囲まれてたの。で、誰か無事な人がいないか探してたら、あの男が他の人の家からマニィや宝石を盗んでたのを見つけたの」
シオンが男の方を指さすと、男があっけらかんと笑う。
「はは、たまたまこの村に来たら茨に囲まれて何事かと侵入してみたら、人が茨に絡みつかれて眠りに着いてるじゃねぇか。これは金品を手に入れるチャンスだと思ってね。こっそりと盗みを働いていたら、その娘に見つかってな」
その口ぶりからしてみる限り、どうやらこの男が村を覆った茨に穴をあけて侵入した犯人だとシーアは確信した。
そして同時にこの茨を巻き起こした犯人でもないと分かり、少しだけがっかりする。
「だが、見つかった以上とんずらさせてもらうと」
「待ちなさい」
オディアナがきっぱりと告げると、男がげっと声をあげる。
「お、おおおおオディアナ姫!? どうしてこんな所に」
「……私たち王族は村を、民を脅かす悪人を決して見逃しません。こんな惨状にある村に侵入し、民を助けることを一切せず、挙句民の生活を成り立たせる金品を盗むとは……絶対に許しません」
「く、くそっ」
男が踵を返し逃げようとした瞬間。
「おっと、逃がさないぜよ」
「コソ泥さんは退治しないといけないですね」
ムゼロとハスキミリアが男の退路を絶つように立っており、男があたりを見回す。
「く、くそ」
男がやけを起こしたのか、一気にオディアナに向かって走り出す。
「そうはいかないよ!」
「ああ、そうだ」
だが、シオンとシーアがオディアナの前に立ち、男を牽制する。
「な、なら……うおおおおっ!」
男が叫ぶと同時に男の手に決闘盤が現れる。
「それは」
「へへ、どーだ。俺様はこいつの力を使って財を集めてきたんだ。さぁ、痛い思いをしたくないのならさっさとどくんだな」
「そうはいかないよ。ここは私が闘う」
だが、シオンは臆することなく男の前に立つ。
「シオン、お前は」
「大丈夫、私はお姉ちゃんの妹だもん。見てて」
シオンがすっと左腕をかざすと、手首辺りに決闘盤が装着された。
「シオンも決闘者に!?」
全員が驚いていたが、その中でもシーアの方がひときわ驚きが大きかった。
大事な妹がそのような力を持っていたとは到底思っていなかったからだろう。
「ほう、お前も決闘者だったのか」
「ええ、そうよ。この村の財産は皆の物なの。コソ泥であるあなたが持って行っていいものじゃない! 私の力であなたを止めてみせる!」
シオンが叫ぶと同時に決闘が開始される。
「「デュエル」」