『アルトマ』と『エルディーム』
同じデーリング大陸に存在してる国である。
その領土はどちらかというと『エルディーム』の方が大きいと言えるだろう。
「へぇー」
エルディーム王国領内に入る前にハスキミリアがどのような国なのかを尋ね、ムゼロが丁寧に解説していた。
その前ではオディアナ、シーア、シオンが先に歩きながら辺りの様子をうかがっている。
「でも、それならエルディームがアルトマ王国に侵略戦争なんてのを仕掛けててもおかしくないよね?」
「アルトマ王国の王族をはじめ、不思議な力を使う魔術師たちが作る果実酒のおかげですね。もしアルトマ王国が滅ぶような真似となれば、大人ならば誰でも虜になる美酒が飲めなくなる。事実、アルトマ王国やアルトマ王国領内で作られた果実やその果実で作られた果実酒は他の大陸の大きな国にも輸出され、その貿易で得られる利益で莫大な富を得ている」
ムゼロがそんなことを呟きながらにやりと笑う。
「ムゼロさん?」
「おっと失礼したぜよ。味を思い出すだけでも幸せな気持ちになっちまう。そんな果実や果実酒を作れる国に侵略をかけ、滅ぼそうものなら……たちまちそれらの虜になった国や大陸全てを敵に回す。エルディーム国はそれが分かっているからこそ領土をこれ以上増やそうとはしない」
「なるほどー」
ハスキミリアが納得したようにうなずくと、ムゼロがはぁと溜息をつく。
「だからこそ、今回のアルトマ王城が謎の茨で滅ぼされかけたのは解せねぇぜよ。もしこのことが知れ渡れば、確かにオディアナ姫たちが懸念してるように他国からの侵略も起こるかもしれない。だが、その事件を起こした奴は他の国や大陸を敵にまわしちまうことになる。今回の事件を起こした連中は、それすらも恐れぬほどの力の持ち主なのかもしれない」
ムゼロが想像力を働かせあらゆる可能性を考えながら呟くと、ハスキミリアがぽつりと口を開く。
「難しいね……」
「オディアナ姫たちはあくまで城を襲った謎の茨の原因を突き止め、城の人たちを元に戻そうとしている。もしただの呪いの一環で茨を消滅させられるならそれでもいいが、その呪いをかけた何者かの存在を突き止めない限りは意味がない」
「そっか。呪いを一時的に解いたとしても呪いを掛けた人が生きてるんじゃ、また呪いを掛けられちゃうだけだもんね」
「その通りだ。姫様たちは呪いを解いて無事に国を復興させることで、呪いを掛けた何者かを再びおびき寄せ、そこで迎え撃つ、という考えもあるかもしれない」
ムゼロがそんなことを考えるが、それは悠長な考えだと思う。
いずれの襲撃も深夜に行われた。
呪いだけを解いたところで再襲撃を狙わせたとしても、また深夜に呪いをかけられたのでは逃げられる可能性が高い。
それでは本当の意味の解決になっていない。
「オディアナ姫たちはどう考えてるんだろ?」
「とりあえず、聞いてみるか」
ハスキミリアとムゼロが先を歩く3人の元へと行く。
「オディアナ姫様~」
ハスキミリアがとことこと歩き、オディアナ姫の横に来る。
「どうしました、ハスキミリアさん?」
「オディアナ姫様は今回の旅で、呪いを解く方法を探すんですよね?」
「ええ、もちろん。実際、呪いをかけた何者かは城で呪いに掛からなかった者たちを始末するため、使い魔を置いてました。自然発生ではなく、意図的にかけられた呪いであることは確かです」
「その呪いをかけた人物を探して倒した方が早くないですか? 一時的に呪いを解いただけじゃ、また襲撃を受けて呪いを掛けられちゃうんじゃ」
「この呪いがどんな効力を持つ呪いなのか分からない以上、時間は残されてないものだと私は考えています」
オディアナがきっぱりと告げると、ハスキミリアが首をかしげる。
イマイチ理解できてないと判断したオディアナが言葉を続ける。
「呪いに囚われた人は今は植物状態となって眠っていますが、もし命を蝕む系の呪いだとしたら、早いところ呪いを解除しなければ死んでしまうかもしれない。それなのに、呪いをかけたのが誰なのかもわからず当てもなく探し回るのは非効率的だと思いませんか?」
確かにオディアナの言うとおりだとハスキミリアは納得した。
隣で話を聞いていたムゼロも一理あると頷く。
呪いの効力が不明瞭である以上、呪いをかけた人物を探すよりも呪いを解く方法を探した方がより確実だ。
「それにだ。わざわざ城や村をあっという間に茨で包み込むほどの呪術を掛けるほどの人物を倒したところで、その強力な呪いが解けるとも限らない。それに仮に呪いをかけた人物を見つけ、呪いを解け、なんて言っても素直に言うことを聞くような奴とも限らない。だったらまずは呪いに対する策を探した方がよっぽど効率がいいというのが私と姫の見解だ」
シーアが姫の考えを補足するように説明する。
確かに呪いをかけた人物を倒したら芋弦式に呪いも解けてハッピーエンド、なんてのは虫が良すぎる話だ。
「なるほど」
ハスキミリアが納得したようにうんうんと頷くと、オディアナがにっこりとハスキミリアに笑いかける。
「だから『エイディーム』にたどり着いたら、呪いを解く方法を探します。エイディームは超常現象などの研究がアルトマよりも遥かに進んでいます。だからこそ、今考えられる限り呪いを解く方法を見つけられる可能性が一番高いというわけです。だからハスキミリアさんも、エイディームにたどり着いたら呪いを解く方法を見つけるお手伝いをしていただけると嬉しいです」
「分かりました」
ハスキミリアがいい返事をしたのを聞き、オディアナ姫がにっこりと笑う。
「お姉ちゃん、見て。オディアナ姫とハスキミリアちゃん、まるで仲の良い姉妹みたいだね」
その様子を見ていたシオンがほっこりとした顔でシーアに尋ねる。
そのシーアもまた微笑ましい物を見るような笑みでオディアナ姫とハスキミリアの様子を見ていた。
「ああ、そうだな。姫は自分よりも年下の男女と関わる機会はまったくなかったからな。妹が出来たみたいで嬉しいのだろう」
オディアナは15歳。
そしてシーアは18歳であり、シオンは16歳。
シオンはシーアの妹ではあるが、それでもオディアナより年上。
故にオディアナは常に年上としか関わる機会がなかったのだ。
「仲良し姉妹という意味ならシーアとシオンも同じだろう?」
ムゼロが2人に尋ねると、シオンがにっこりと笑う。
「うん、私もお姉ちゃんのことが大好き」
「……まっすぐ言ってくれるね」
シーアが少し照れたように顔を背けると、ムゼロがこっそりとシオンに耳打ちする。
「あんな態度をしてるけど、シオンが無事だとわかる前、誰よりも必死で慌ててシオンの事を心配していたのはシーアだぜよ」
「わー、ムゼロ! 余計なことを言うな!」
シーアが慌ててムゼロの口を塞ごうとしたが、シオンがにっこりと笑いながらシーアに抱き着いていく。
「ありがと、お姉ちゃん」
「う……」
シーアが抱き着いてきたシオンの頭をやさしく撫でてあげる。
(にしても、可愛らしい女の子ばかりゼよ。オディアナ姫はアルトマ王国領内だからこそ特に問題なく旅をつづけられたが、王国から外に出ればその身を狙うゲスイ輩もいるはず)
ムゼロがオディアナとハスキミリア、そしてシーアとシオンのことを見ながらそんなことを考える。
(シーアがオディアナの身を守るから大丈夫だと思うが、シーアもシオンも顔も良ければ胸もいい。それにハスキミリアちゃんもまだ未成熟でドラゴンメイドたちが守ってくれているが、顔だちは整っているし、年下趣味の男にはドストライクな見た目をしてる。正直、エイディーム王国領内に入ったら、俺がこの中で一番年上の男として、4人を出来る限り守らねーといけねぇぜよ)
ムゼロが女の子4人を見つめ、どこか保護者気分でうんうんと頷く。
そんなムゼロを見て、ハスキミリアがとことことムゼロの元へと近づいていく。
「どうしたの、ムゼロさん?」
「ああ、こんなに可愛らしい女の子たちが揃ってるんだから、男として守らないとなー、と思ったぜよ」
(ちょっとムゼロさん、お嬢様を守るのは私たちドラゴンメイドの役目ですよ?)
ムゼロが呟くとほぼ同時にティルルがハスキミリアの後ろに現れ、唇を尖らせる。
「ああ、分かってる。でも、ドラゴンメイドたちも可愛らしい女の子ばっかりなんだし」
(何を言ってるんですか。あくまでメイドとはいえ、ドラゴンですよ。人間がそんな私たちを邪な目で見るわけがないじゃないですか)
ティルルが反論するが、ムゼロがはぁとため息をつく。
「オディアナ姫たちから話を聞く限り、屋敷にこもりっきりだったらしいから分からないと思うが、人間の欲ってのは時には歪んだ性癖すらも産むぜよ。俺は違うが、もしかしたら」
(そ、そんなことないですよ)
ティルルが否定するが、先ほどよりもきっぱりとした口調ではなく、どこかしどろもどろになっていた。
しかも耳が少し赤くなっており、人間に好意を持たれる可能性があるのではないかと思いドキドキしてるのだろう。
(……どうやら、守る対象が増えたみたいぜよ)
ムゼロが決意を更に固め、旅を続けていくことを決める。
「……あのー、ハスキミリアさん、ムゼロさん。そろそろ先に行きますよー」
そしてオディアナがハスキミリアとムゼロに声をかけ、慌てて2人がオディアナたちの後を追った。
「もうそろそろアルトマ王国とエイディーム国の境となるエイトマ川の大橋だな」
それから更に歩き、結構大きな川が見えてきた。
そしてその川を繋ぐ橋が『エイトマ大橋』である。
「この橋を渡れば、いよいよ」
「ええ、『エイディーム』領内です。ここから先の村は今までと違い、オディアナ姫様は優遇されるわけではないですからね。むやみな行動はなるべく控えられるように」
シーアがしっかりとオディアナに釘を差し、オディアナが頷く。
「お姉ちゃんの言うとおりだけど、お姉ちゃんがしっかりオディアナ姫様の護衛をしてるんだから大丈夫だよ」
「シオンの言う通りでもあるんだけどね。でも、何事にも絶対はないからね。シーアの言うことも間違ってないわ」
シオンの言葉を聞いたオディアナがシオンを諭す。
「さてと、早速橋を渡ると……ん?」
ムゼロがその視力で橋の上で起きている異常に気づく。
見ると、エイディーム国側の橋の出口側に兵士らしき人影が2つあった。
そしてその兵士の前に、紫色のマントを着た銀色の髪の男が立っていたのが確認できた。
「オディアナ姫、あの橋って門番みたいなの置いてたかぜよ?」
「そんな覚えはないですが」
「ムゼロ、何か見えたのか?」
「ああ、橋の向こう側にエイディーム国の兵士らしき人物がいて、誰かを足止めしてる」
ムゼロからの報告を聞き、オディアナたちの顔に緊張が走る。
今までは誰でも気楽に通ることが出来る橋だったはずだ。
だが、通行人の邪魔をしてるとなると、さすがに何事か気になるというものだ。
「急ぎましょうか」
「うん」
シーアが先頭に立って駆け出し、オディアナたちがその後に続く。
シオンが殿を務め、後ろから誰も来ないかを確認する。
「ここから先は通さないぞ」
「そうだ。エイディーム国領内の村が夜のうちに破壊された。幸いなことにエイディーム城に被害はないが、これ以上余所者を通すなとのエイディーム国王陛下からのご命令だ」
兵士たちが橋の上に立つ銀髪の男にそう告げ、槍を構える。
「参ったね……」
銀髪の男は少し面倒くさそうに呟く。
「……ったく、あのジジイがアルトマ王城を手にかけ、そしてあいつがエイディーム国に侵攻をかけたのに、こんなにも早く衛兵を出してくるなんてね。エイディーム国はアルトマ王国よりも平和ボケしてなかったってわけか」
「どういう意味だ!?」
アルトマ王城に手をかけたという単語に兵士たちが反応し、銀髪の男が兵士たちを見る。
(アルトマ王城の襲撃を受け、その襲撃を受け動揺したアルトマ王国領内の民がエイディーム国領内に逃げ込んできたところを、エイディーム王国領内を襲っているあいつが襲撃し、エイディーム王国領内とアルトマ王国領内の民を害し、兵力を削ぐ。それが今回の計画の一部だが……その兵士が邪魔してるせいでアルトマ王国の民たちが逃げ込んでこないとするならば)
銀髪の男がはぁと溜息をつき、デュエルディスクを左腕に出現させた。
「俺の言葉の意味を知りたけりゃ、俺を倒せ、ということだ」
「な、貴様!?」
「こ、ここは俺が行く」
兵士の1人がデュエルディスクを構え、銀髪の男の前に立つ。
「おお、やる気盛んで何よりだ」
「貴様の名はなんだ!?」
「……デスティアス。さぁ、行こうか」
「「デュエル」」