遊戯王 神秘眼の姫君   作:ヴィルティ

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これからに向けて

アルトマ王国とエイディーム国の国境の橋の襲撃。

その惨劇によって出来てしまった兵士の死体を姫、ハスキミリア、シオンは見ないように進んだ。

だが、闘いによって出来た死体が焼き焦げる嫌な匂いが残ってはいた。

 

「…………」

 

エイディーム国の国境境の近くにある村にたどり着くまで、誰も何一つ喋ることはなかった。

ただひたすら、何が起きようとしているのか、それを考え口に出すことはなかったのである。

 

 

エイディーム国領内の村『ディオーム』。

国境の一番近くにある村ということで、それぞれの国の商人が交流する村である。

 

「……ここはまだ襲撃を受けてないみたいですね」

 

オディアナがどこか安心したようにぽつりと呟き、シーアも同意だと言わんばかりに頷く。

民たちは何も知らず、ただ日々の営みを過ごしている。

少し離れた距離で、惨劇が起こっていたことなど何一つ知らずに。

 

「橋で起きたこと……教えた方がいいのかな?」

 

ハスキミリアがムゼロに尋ねるが、ムゼロは首を横に振る。

 

「余計なこと言って、平和な営みをしてる連中を慌てさせる必要はねぇぜよ……それにほら、耳を澄ませてみて」

 

ムゼロが促すので、ハスキミリアが話をしながら歩いてる中年男性2人の会話に耳を澄ます。

 

「……そういや聞きましたかな、エイディーム本国付近の村が襲われていることを」

「ええ、私も聞きましたよ。近いうちに本国も襲撃されるのではと噂されていますな。私はそれが嫌だからこそ急いでこの村に避難してきたということです」

 

 

「聞いての通り、人の口に戸は立てられない。エイディーム国が箝口令を敷いたかどうかは知らないが、情報は即座に伝わるもんだ。橋のことだっていずれは伝わるぜよ」

「そっか」

「それに、オディアナ姫様たちの目的はアルトマ王国を救うこと。俺たちはその目的を成し遂げさせるために付いてきてんだ。姫がどのような行動を取るか、その行動に付き従い、明らかに姫が間違った行動をしようとしてるなら窘める。今はそれでいいぜよ」

「……うん、分かった」

 

ハスキミリアが納得した顔になり、ムゼロがにっと笑う。

 

「ハスキミリアさん、ムゼロさん。どうかしましたか?」

 

オディアナは先頭で歩いていたが、ハスキミリアとムゼロが何か話をしてるということで気になり話しかけてきたのだ。

 

「何でもないさ。オディアナ姫、これからどうするおつもりぜよ?」

「……エイディーム国へ出向き、アルトマ王城に掛けられた呪いについて探る。ただ、その間に襲撃を受けた村などがあるなら……なるべくお助けしたい、です」

「分かった。ただ、シーアも同じことを言うだろうけど……あんまり無茶はしちゃいけないぜよ」

 

ムゼロがシーアの声真似をするが、あまり似ていない。

だが、なんとか似せようとした努力を感じてオディアナもハスキミリアもぷっと噴き出す。

 

「本当にシーアも同じことを言ってましたよ。シオンちゃんも。やっぱり昔からの仲なんですね」

「ああ」

「……だから、変なことをしても容赦する必要はないよな?」

 

シーアが少しばかり怒った表情でムゼロに蹴りを入れる。

だがその蹴りを肘で受け止めムゼロがニヤニヤと笑う。

 

「おっと、聞こえてたか」

「当たり前だ。後、全然似てなかったぞ」

「えー、そうかなぁ?」

 

そしてムゼロが再びシーアの口真似をして、余計に彼女を怒らせる。

だがそれを聞いていたオディアナ、ハスキミリア、シオンがくすくすと笑いシーアが顔を赤くしていく。

 

「まったく……」

 

だが、これで先ほどの惨劇のショックが少しでも和らぐのなら。

シーアはそう自分に言い聞かせ、ムゼロの無礼を許すことにした。

 

「まあ宿屋に行って美味しい飯でも食べようや。美味しい物は心も体も元気にするぜよ」

「賛成!」

 

ハスキミリアが即座に同意し、オディアナ一行は宿屋に向かうことにした。

 

 

「ふぅー、疲れたねぇ」

 

ハスキミリアがベッドで横になり、隣のベッドに座っていたシオンに話しかける。

 

「うん、結構疲れたね。でも、皆は今まで旅をしてきてこれ以上に歩いてきたんでしょ? すごいや」

 

シオンは体術を鍛えていたため、体力に自信はあるつもりだった。

だが、体術で使う筋肉と歩くのに使う筋肉は違う。

そのため歩きで筋肉が疲労し、足がだるく感じていたのだ。

 

「えへへ。でも、シオンさんってシーアさんの妹さんなんでしょ?」

「うん。似てないかな?」

「ううん、確かに性格は違うかなーと思うけど、顔立ちや……その、胸とか……似てると思うよ」

 

ハスキミリアが自身の胸をペタペタと触り、シオンの胸を見る。

ハスキミリアのペタンコ胸とシオンの巨乳とでは一回り二回りどころではなく胸の大きさが違う。

シーアも同じく巨乳であり、ハスキミリアも女の子らしく、胸の大きさに憧れていたのだ。

 

「ねぇねぇ、ちょっと触ってみていいかな?」

 

ハスキミリアが提案すると、一瞬シオンが面食らう。

 

「胸のこと?」

「うん、シーアさんはオディアナさんと一緒でずっと真剣な表情してたからお願いしづらかったけど、シオンさんは元気いっぱいな人だし、いいかなーって。大きい胸を触れば恩恵を受けられるかなーって」

 

ハスキミリアの提案にシオンは確かに一瞬驚いたが、すぐに頷く。

 

「うん、女の子同士だし別にいいよ。ただ、後でハスキミリアちゃんをぎゅっとさせたり頭撫でてもいい?」

「別にいいよー」

 

ハスキミリアがシオンが座っているベッドに飛び乗り、ハスキミリアの胸を両手で鷲掴みする。

 

「んっ」

「おおっ……やっぱり柔らかーい。でも、ブラしてるところはさすがにちょっと固いかな」

 

ハスキミリアはシオンの胸を遠慮なく揉みほぐす。

そして時折ハスキミリアの指がブラ越しとはいえシオンの胸の先端の突起に当たり、変な声を漏らさないように我慢していた。

 

「も、もういいかな?」

 

シオンが少しばかり顔を赤くし尋ねると、ハスキミリアがぱっと手を放す。

 

「うん、もういいよ。じゃ、遠慮なくハスキミリアを撫でたりしていーよ」

 

ハスキミリアがどんとこいといった感じでシオンに体を預ける。

 

「じゃ、さっき胸を揉んだ分こちらも遠慮なく」

 

シオンがハスキミリアの頭を撫でたり、ハグしたりする。

 

「くすぐったいよ、シオンさん」

「えへへ、さっき遠慮なくって言ったでしょ? シーアお姉ちゃん、いつも真面目だからこんな風に接すること出来なくて。で、ハスキミリアちゃん可愛くて、まるで私に妹が出来たみたいだよ」

 

シオンがそう言いハスキミリアの頭を撫でまわす。

 

(ずるいです。私も入れてー)

 

ハスキミリアの傍にドラゴンメイド・ラドリーが実体化しハスキミリアに遠慮なく抱き着いていく。

 

「ラドリー、くすぐったいよー」

 

 

(……う、うらやましいなんて思って)

(ティルル、隠さなくていいよ。私も同じ気持ちだから)

 

そしてハスキミリアの内心に潜んでるドラゴンメイドたちは素直にご主人に甘えるラドリーに嫉妬らしき感情を浮かべていた。

お嬢様を導くメイドらしく、常に冷静であれ。

だが、ラドリーは『ご主人大好き』という感情を素直にぶつけ、ハスキミリアもその感情をまっすぐに受け止めラドリーに接している。

素直にご主人に甘え、甘え返される。

それをティルルもパルラも少し羨ましく感じていたのだ。

 

だが、一方ハスキーは微笑ましい感じで3人のじゃれつきを見ており、ナサリーはハラハラした感じで見ていた。

 

(ラドリー、あんまりやりすぎちゃダメだよー)

(ナサリー、信じてあげなさい)

 

ハスキーがナサリーを宥め、微笑ましくも達観してる表情を浮かべてるのを見て、ティルルもパルラもチェイムも感心する。

 

(さすがはハスキー様)

(私たちのメイド長)

(あれぐらいの強い心……欲しいですね)

 

 

そんな風にハスキミリアとシオンが無邪気に戯れているころ。

 

「…………」

 

ムゼロは一人、部屋で銃などを磨いていた。

射撃者たるもの、常に最高の状態で武器を使えねば。

武器は『デュエルモンスターズ』の『闇』から授けられ、ムゼロの意思で実体化する。

だが、それでも常にいい状態で取り出せるわけではない。

ゆえにこうやって暇があれば整備することは必須なのだ。

 

他の仲間たちは女ということもあり、オディアナとシーア、ハスキミリアとシオン、そしてムゼロと別れて部屋を取っていた。

 

おかげで武器を整備するのに誰も邪魔が入らず、いくらでも集中できた。

もしこの場にハスキミリアがいたら、興味深げに銃などを見てきて、説明をしてあげたりで集中することが出来なかっただろう。

 

「……こんなもんぜよ」

 

銃などの出来を見て、ムゼロが不敵な笑みを浮かべる。

いつもだったら出来を確かめるため狩りに出かける。

夕食が終わったらいったんオディアナ姫の部屋に集まり、今後の予定を話し合う。

だが、夕食までまだ時間がある。

 

狩りで動物の肉を狩れれば今後の旅で他の仲間たちに肉を味わわせることが出来るし、オディアナ姫を狙う不届きな輩がいないか、探ることもできる。

オディアナ姫は純粋で優しい。

シーアが傍にいるとはいえ、姫という高貴な立場の人間の身柄を狙う人間は必ずいるはずだ。

しかも、今回の騒動。

 

「……ふふっ」

 

昔はシーアに拾われ、シーアとシオンと一緒にやんちゃもしたりした。

そしてアルトマ王国のとある村で村人たちの依頼を受けて色々なことをしたりもした。

 

常に自分の周りでは何かが起こっており、退屈することがない。

親殺しをして何もかも失って絶望していたあの時とは、もう違うのだ。

 

心の高まりを抑えるため、そして仲間たちの旅を円満にさせるために。

ムゼロは銃をいったん消滅させ、部屋を出ていく。

 

 

「おいしぃねぇ」

 

宿屋の食堂。

他の宿泊客たちもそれぞれのご馳走を楽しんでる中、オディアナ姫一行も食事を楽しんでいた。

ハスキミリアはカレーライスを美味しそうに食べており、それを見た数人の客がカレーを注文したりする。

 

(あんまり急いで食べると、服を汚しちゃうです)

 

ラドリーがこっそりとハスキミリアに忠告する。

 

(うーん……でもそうなったらそうなったで、ラドリーがお洗濯してくれるでしょ)

(いえ、ハスキミリア様。あんまりメイドに手をかけさせないのも立派な主人としての役目です。あれを御覧なさい)

 

ハスキーに言われ、ハスキミリアがオディアナとシーアを見る。

オディアナは服を汚すことがなさそうなサンドイッチを選び、ぱくぱくと食べる。

シーアも主人の食事に対して何も心配さず、ただエビフライを堪能していた。

 

(本当だ)

(まあ食べるものまで気を遣うのはやりすぎと言っておきますが……)

(うん、分かった)

 

内心でそんな会話を終え、ハスキミリアの食べるテンションが少し落ち着く。

 

((……?))

 

ドラゴンメイドとハスキミリアがそんな会話を交わしていたことも知らず、そしてテンションが落ち着いたハスキミリアを見てオディアナとシーアが内心何事かと思っていた。

 

そしてシオンはぱくぱくとナポリタンを食べつつ、こっそりと小型化したラディアンにナポリタンを分け与えたりしていた。

ムゼロは豪快にステーキを食べ、狩りで使った体力を補っていた。

 

 

「さてと……今後の旅の予定ですが、まずはここを目指します」

 

オディアナとシーアの部屋に全員が集まり、今後の予定を話し合う。

オディアナが指さしたのは『ブルト』と書かれた場所だった。

 

「この村から少し離れてるけど、近くの『マリモルト』という村はスルーか?」

「エイディーム国も私たちの国を襲った何者か……その仲間なのかどうかは分かりませんが、襲撃を受けてるとなると早いところ本国に向かった方が良いと思います」

 

その姫の意見を異を唱える者は誰もいない。

 

「数日間歩くことになると思いますし、明日は食料や水などを買い込み、野宿もします」

「ここは馬車は通ってないですからね。しょうがない」

 

シーアが頷くと、全員の顔を見る。

野宿に慣れてないであろうハスキミリアが意見をするかと思ったが、そんなことはなかったらしい。

 

「シオンさんは野宿とかって大丈夫?」

「ん、大丈夫。体術の訓練で山籠もりとかしてサバイバル体験もしたりしてるから、むしろ慣れっこだよ」

「我が妹ながら頼もしい」

 

シーアがほんの少しだけ笑顔でシオンを褒め、シオンがにこーっと満面の笑みを浮かべる。

 

「ただ……問題があるとすれば」

「そうだな。今回の問題を引き起こした輩やその仲間がエイディーム国にいると思う。オディアナ姫を極論闘わせないように私たちが前線に立つが、それでも姫が闘いの場に立つことはあると思う……そうなったとき」

「シーア、遠慮しなくていいよ。この中で私が一番、決闘の腕が低い、ってことだよね」

 

なんとかサイバを倒したりもしたが、それでも決闘に関してはまだまだ未熟な所が多い。

まだ明かさない過去で戦いに明け暮れたシーア、シオン、ムゼロは『デュエルモンスターズ』がもたらす『闇』を受け入れている。

おかげで彼らは息をするように人間離れした闘いをすることが出来る。

ハスキミリアは屋敷の中で引きこもっていたが、それでも『ドラゴンメイド』たちが力を貸し、パフォーマンスを発揮することが出来る。

オディアナ自身も『オッドアイズ』に選ばれたとはいえ、まだ駆け出し。

彼らと心も通い合わせておられず『闇』の恩恵を受けてるわけでもない。

 

「というわけでだ……ハスキミリアさん、シオン」

 

ムゼロが声をかけ、ハスキミリアとシオンが頷く。

 

「うん、分かったよ」

「相手がオディアナ姫とはいえ、手加減はしませんのでそのつもりで」

 

2人とも何を言われるかわかっているかのように頷く。

 

「まずは私から行くね」

 

ハスキミリアがシオンにそう声をかけると、デュエルディスクを出現させ、オディアナに対してにっこりと笑いかける。

 

「ええ……一切の容赦なく、かかってきてください」

 

オディアナもまたデュエルディスクを出現させ、ハスキミリアと対峙する。

 

(無茶か?)

(いや、姫が『オッドアイズ』のデッキを使えるということは、きっと……ただ、完全な覚醒には経験を積まなきゃいけない。姫の実力に近いのはおそらくあの2人だ)

 

ムゼロとシーアが3人に聞こえないようにそんな会話をしていた。

自分たちのような『闇』を受け入れ闘うまではいかなくても、これから待ち受けるであろう闘いに向けて、自分の身を守れる力を得てほしい。

力なき訴えは、ただの命乞い。

オディアナ姫の言うことは誰の心にも響く理想論で現実にする力もあるが、本人に戦う力がなければそれはただの命乞いの言葉にしかならない。

 

故に、言葉に見合うだけの『決闘』の力を身に着けることが今、オディアナ姫にとって必要なことなのだ。

 

 

「「デュエル」」

 

「オディアナ姫様とこうやってデュエルをするのは初めてだけど、手加減はしないよー」

 

ハスキミリアの目には、手加減しようとか、そういった遠慮の気持ちは一切見えなかった。

ただ、決闘者として目の前の相手を倒す。

その覚悟に満ち溢れていることをオディアナは察し、内心笑う。

 

「私のターン!」

 

(良かった。姫という立場の人物が相手でもハスキミリアさんは手を抜くことは絶対にしない。そんな相手と全力で闘えば、得られるものはある)

 

オディアナはハスキミリアの挙動に目を凝らす。

 

全ては、闘いを経て成長し、新たな道を踏み出すために。

姫という立場で守られるだけではなく、ともに闘えるようになるために。

 

決意を固め、オディアナ姫はハスキミリアのやる気を受け止めるため対峙する。

 

「私は『ドラゴンメイド・ラドリー』を召喚!」

 

(任せるです)

 

ラドリーがハスキミリアのデッキを手に取り、その上から3枚を墓地へと送っていく。

 

「ありがとう。魔法カード『ドラゴンメイドのお心づくし』を発動するね。墓地から『ドラゴンメイド・ティルル』を特殊召喚して、同じ属性の『ドラゴンメイド・フランメ』を墓地に送るね」

 

(ラドリー、お仕事ご苦労様)

(ティルルさん、一緒に戦うです)

 

「そしてティルルの効果発動。デッキから『ドラゴンメイド・エルデ』を手札に加えて、そして手札の『ドラゴンメイド・ナサリー』を墓地へ送るね」

 

ティルルがハスキミリアの手札をコーディネートし、次に備えさせる。

その動きが上手くいったハスキミリアがにこーっと笑う。

 

 

(これが、カードと心が通じ合った『決闘者』の動き)

 

オディアナは良い動きを見せられ、心が高鳴っているのを感じていた。

 

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