オディアナがデュエルをしているころ。
「…………さてと」
暗闇の中、一人の少女がくすくすと笑いながら手にしていたメダルをピンッと空中へと弾き飛ばす。
「次はこの街で暴れてきなよ……」
コインがカラカラと音を立てて地面に落ちる。
その瞬間、コインから闇が溢れ出す。
夜がもたらす闇により、その異様な光景に誰も気づかない。
「私はカードを1枚伏せてターンエンドだよっ」
ハスキミリア LP8000
モンスター:ドラゴンメイド・ラドリー ドラゴンメイド・ティルル
魔法・罠:セットカード1枚
手札:2枚
「私のターン」
オディアナにターンが移り、勢いよくカードをドローする。
(確か『ドラゴンメイド』はバトルフェイズに入った瞬間に下級のドラゴンメイドが手札か墓地の上級ドラゴンメイドに変身する。その変身を繰り返してアドバンテージを取るデッキ)
ハスキミリアが闘う様子を一度見ているため、動きの傾向は理解していた。
「私はフィールド魔法『天空の虹彩』を発動します。そして手札のペンデュラムスケール4の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』をペンデュラムスケールにセッティングして『天空の虹彩』の効果を発動します」
オディアナが効果発動を宣言した瞬間、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの光の柱が音を立てて割れ、その光の破片が1枚のカードと変わる。
「『天空の虹彩』は1ターンに1度このカード以外の表側表示のカードを破壊してデッキから『オッドアイズ』と名の付くカード1枚を手札に加えます。『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』を破壊して私が手札に加えるのは『EM オッドアイズ・ユニコーン』。そして私は『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚します」
ぴょんぴょんと飛び跳ね、ボロ衣装を着こんだピエロがオディアナの場に現れる。
「ドクロバットが召喚に成功したことでデッキから『オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン』を手札に加えます。そして私はペンデュラムスケール8の『EMオッドアイズ・ユニコーン』とペンデュラムスケール1の『オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン』をペンデュラムゾーンにセッティングします」
2つの竜が光の柱を形成し、オディアナがペンデュラム召喚するための布石を整える。
(さぁ、オディアナ)
(早くペンデュラム召喚を)
光の柱の中からオッドアイズたちがオディアナに声をかける。
オディアナは分かってるとばかりに頷き、EXデッキの1枚のカードに手をかける。
「ペンデュラム召喚。EXデッキからおいでなさい『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』」
オディアナに呼ばれたことで二色の眼を持つ赤き竜が天井に向かって咆哮を上げる。
「ひゅー、あれが姫が操る『オッドアイズ』のペンデュラムのエース」
「ああ」
ムゼロが口笛を吹きながら赤き竜が降臨するのを見届け、シーアも頷きながらオッドアイズが降り立つのを見る。
次に戦う予定のシオンはオディアナの闘いっぷりを観察するため、集中してデュエルの様子を眺めていた。
「バトルフェイズ」
「バトルフェイズに入ったスタートステップに『ドラゴンメイド・ラドリー』の効果を発動。墓地の『ドラゴンメイド・エルデ』に変身するよ」
ラドリーの周りに水が吹きあがり、水が彼女の体を包み込む。
水が彼女の周りから消えたとき、ピンク色の肉体を持つ竜が君臨する。
「そしてティルルも同じ。墓地の『ドラゴンメイド・フランメ』に変身するよ」
ティルルの周りに炎が噴き上がる。
その炎が消えたとき、ティルルの姿は赤き肉体を持つシュッとした竜に変身していた。
「これが『ドラゴンメイド』の変身……」
「さぁ、エルデの攻撃力は2600でフランメの攻撃力は2700。オディアナ姫の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の攻撃力を上回ってるよ」
「……『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で『ドラゴンメイド・エルデ』に攻撃します」
オッドアイズがすぅと息を吸う。
その瞬間、オッドアイズ・ユニコーンの光の柱が緑色の光を放つ。
「その攻撃宣言時に『EMオッドアイズ・ユニコーン』のペンデュラム効果を発動します。『オッドアイズ』モンスターの攻撃宣言時に、場の『EM』モンスター1体を選び、その攻撃力分だけ攻撃をする『オッドアイズ』モンスターの攻撃力がアップします」
ドクロバット・ジョーカーがすっと手をかざすと緑色の光がジョーカーを包み込む。
その緑色の光をオッドアイズが吸い込み、緑の光を纏ったブレスを吐きつける。
「エルデ!」
ハスキミリアが命じると、エルデが対抗するべく白き光線を口から放つ。
だが、味方の援護を受けたブレスがあっさりと光線を飲み込み、エルデの胴体を貫く。
「攻撃力4300のブレス。相当なもんぜよ」
ムゼロが感心しているが、シーアがにっと笑う。
「それだけじゃない」
「『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』は相手モンスターと戦闘を行った時、その戦闘ダメージを倍にするわ。だから4300から2600を引いた数値1700の倍」
「3400もダメージを受けるってこと!?」
ハスキミリアが叫ぶ中、オッドアイズの放つ闇のブレスがハスキミリアを飲み込む。
「わあああっ」
ハスキミリア LP8000→4600
「ドクロバット・ジョーカーの攻撃力ではさすがにフランメには勝てませんね」
「なら、バトルフェイズの終了時に永続罠カード『リビングデッドの呼び声』を発動するね。墓地から『ドラゴンメイド・エルデ』を蘇生。そしてエルデの効果で墓地の『ドラゴンメイド・ナサリー』を守備表示で特殊召喚するよ」
ハスキミリアの場で甦ったエルデが白き光に包まれ、ナース服を着たドラゴンメイドに変身していた。
「結局場のモンスターを減らせませんでしたか」
オディアナが少しがっかりしたように呟くが、ハスキミリアは別にうろたえたりせず、むしろドヤ顔でオディアナ姫を見る。
「私の『ドラゴンメイド』たちを甘く見ちゃダメだよ、オディアナ姫」
「ええ、分かってますよ。メイン2、私はカードを2枚伏せてターンエンドです」
オディアナ LP8000
モンスター:EMドクロバット・ジョーカー
EX:オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン
魔法・罠:セットカード2枚 EMオッドアイズ・ユニコーン オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン
手札:1枚
「次は私のターンだね」
ハスキミリアが勢いよくカードを引き、手札と場を見比べる。
「よーし、私は『ドラゴンメイド・チェイム』を召喚するよ」
(お任せください、ハスキミリア様)
銀色の髪が映えるドラゴンメイドが現れ、黒きメイド服のスカートを揺らしながらぺこりと頭を下げる。
「チェイムの効果でデッキから『ドラゴンメイド』と名の付く魔法・罠カード1枚を手札に加えるよ」
「その効果にチェーンして永続罠カード『デモンズ・チェーン』を発動します。相手のモンスター1体を対象にして発動し、そのモンスターは攻撃できず効果が無効になるわ」
オディアナの場から紫色の鎖が飛び出していく。
そしてチェイムが紫色の鎖に絡みとられ、身動きが取れなくなった。
(う、ううっ)
「チェイム!」
「そう簡単にサーチ効果は使わせませんよ」
オディアナが得意げに言うと、ハスキミリアが少しだけ困った顔をした後、手札と場を見比べる。
「しょうがないか。私は手札の『ドラゴンメイド・エルデ』を捨てて手札の『ドラゴンメイド・ラドリー』を特殊召喚」
(再びラドリーにお任せなのです)
ラドリーがデッキトップから3枚を墓地へ送る。
「さすが。バトルフェイズに入ってラドリーは墓地の『ドラゴンメイド・フルス』に、ナサリーは墓地の『ドラゴンメイド・エルデ』にそれぞれ変身して」
(了解です)
(分かりました)
ラドリーが水に包まれ、ナサリーが光に包み込まれる。
それぞれの体を包む光と水が消えていた時、ラドリーは青き肉体を持つ竜に、ナサリーはエルデに変身していた。
(よーし、バトルモードです)
(さっきはしてやられたけど、今度はそうはいきませんよ)
「では、行っくよー! 『ドラゴンメイド・エルデ』で『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』に攻撃!」
「おっと、さっき『EMオッドアイズ・ユニコーン』にしてやられた仕返しって奴か」
「そうだろうな。残念なことに『EMオッドアイズ・ユニコーン』は自分から攻撃を行う宣言時、それもペンデュラムゾーンに存在してる限り1度きりだ」
ムゼロとシーアがそんな話をしてる中、エルデが放つ光のブレスが先ほどとは違い、オッドアイズの肉体を貫く。
(ぐっ、すまぬ)
オッドアイズが謝罪しつつオディアナの場から消えていく。
「いいえ、さっきはよくやってくれました」
オディアナ LP8000→7900
「フランメでドクロバット・ジョーカーに攻撃」
フランメが吐く炎がドクロバット・ジョーカーを焼きつくす。
「くうっ」
オディアナ LP7900→7200
「そしてフルスでダイレクトアタック」
フルスが吐いた水の螺旋光線がオディアナの体を貫く。
「や、やってくれますね」
オディアナ LP7200→4600
「よーし、バトルフェイズ終了時にフランメとフルスは変身。手札のティルルとラドリーに変身するよ」
フランメとフルスが手札に戻っていき、手札に控えていた人間体に姿を戻す。
「ティルルが特殊召喚に成功したことでデッキから『ドラゴンメイド・フランメ』を手札に加えて手札の『ドラゴンメイド・フルス』を墓地へ送るよ。このままターンエンドだよ」
ハスキミリア LP4600
モンスター:ドラゴンメイド・ラドリー ドラゴンメイド・ティルル ドラゴンメイド・チェイム ドラゴンメイド・エルデ
魔法・罠:リビングデッドの呼び声(対象不在)
手札:3枚
「私のターンですね」
オディアナがすっと手札を引く。
「私は『天空の虹彩』の効果を発動します。場の『EMオッドアイズ・ユニコーン』を破壊してデッキから」
オディアナがとあるカードを加えようとした瞬間。
(ここは俺に任せてくれ)
(……分かりました)
頭の中で響く声。
普通だったら不気味に思うが、オディアナはなぜかその声の主を信用することが出来た。
理屈じゃなく、心がそう感じたから。
「私はデッキから『オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン』を手札に加えます。そして『EMドクロバット・ジョーカー』を召喚し、デッキから『EMオッドアイズ・ユニコーン』を手札に加えます」
先ほどとほとんど同じような動きをこなしつつ、再びボロ衣装のピエロが現れユニコーンが手札に加わる。
「そして『EMオッドアイズ・ユニコーン』をペンデュラムゾーンにセッティングして……さぁ、あなたの初陣ですよ」
オディアナの場に置かれた『EMオッドアイズ・ユニコーン』と『オッドアイズ・ペルソナ・ドラゴン』の光の柱の間に闇の禍々しき穴が創り出される。
「な、何あれ?」
「光の陰には『闇』がある。正しき行いの陰には間違いがあり。手札の『オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン』は私のペンデュラムゾーンにPモンスターが2体存在しているとき、ペンデュラム召喚を破棄する代わりにスケールがいくらであろうが、特殊召喚することが出来ます」
正しきペンデュラム召喚ではなく、相手は正しき手順で召喚されない……幻の竜を見てるかのように錯覚する。
いくつかの竜の意匠を併せ持つ、骸骨に近き細長き竜が闇の穴から這い出す。
(さぁ、行こうかオディアナ)
「うん。バトルフェイズ」
「バトルフェイズに入る前に手札の『ドラゴンメイド・フランメ』を捨てて『ドラゴンメイド・チェイム』の攻撃力を2000アップさせる」
チェイムの周りが炎に包み込まれ、まるで炎が竜そのものになったかのように姿を作る。
攻撃力が2500となり、並みのモンスターでは歯が立たなくなった。
「そしてバトルフェイズに入ったときにティルルは墓地のフランメに、ラドリーは墓地のフルスにそれぞれ守備表示で変身するよ」
先ほどまでとは違い、ハスキミリアはどこか慌てた感じでドラゴンメイドたちを変身させた。
(あの『オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン』から、なんか禍々しい感じがするよぉ)
オディアナの場に現れた骸骨の如き竜。
その竜から得体のしれない何かを感じ、心に焦りが生まれていた。
「バトル。『オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン』で攻撃力が2500となった『ドラゴンメイド・チェイム』に攻撃」
炎を纏い、炎の竜のような姿となってるチェイムに向かってファンタズマがぎろりと睨みつける。
「さっき『EMオッドアイズ・ユニコーン』の効果は説明したよね」
「う、うん。確か『オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン』の攻撃力がドクロバット・ジョーカーの攻撃力1800だけアップするんだよね」
だが、それでも攻撃力は4800。
2500のチェイムが攻撃され破壊されたところでLPは0にならない。
だが、そのハスキミリアの考えは儚い幻であると思わるかのように。
「『オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴン』の効果発動。このカードは相手モンスターに攻撃するダメージ計算時に発動します。私のEXデッキの表側表示のPモンスターの数×1000ポイント攻撃力をダウンさせます。私のEXデッキで表側表示となっているのは『EMオッドアイズ・ユニコーン』『EMドクロバット・ジョーカー』『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』の3枚。よってチェイムの攻撃力は3000ダウンする」
オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴンの体から放出された3体のペンデュラムモンスターたちの霊魂が炎の竜に纏わりつく。
その霊魂が炎を鎮火させ、チェイムの本来の姿を曝け出しそれでなお力を奪う。
(あ、ああっ)
チェイムが喘ぎ声をあげ、力が抜けたようにがっくりとうなだれた。
「こ、攻撃力が0になっちゃったぁ!?」
ハスキミリアが驚愕してる中、オッドアイズ・ファンタズマ・ドラゴンの口から闇の瘴気が放たれ、チェイムが闇に囚われその姿が闇の中へと消えていった。
「そしてハスキミリアさんのLPは4600。これが意味することは……分かりますね?」
オディアナがにっこりと笑うと、ハスキミリアが悔しそうな顔を浮かべながらも認めるように頷く。
「ううううっ」
ハスキミリア LP4600→0
「あーあ、負けちゃったよー」
ハスキミリアがデュエルディスクをしまうと、そのそばにドラゴンメイドたちが現れ頭を下げる。
(ごめんなさいです、ラドリーの力が及ばなかったばっかりに)
(いえ、私がちゃんと適切にハスキミリア様の手札を潤さなかったから)
(わ、私があんな悪魔の鎖ごときに屈したせいで)
ドラゴンメイドたちが次々に謝罪するが、ハスキミリアは首を横に振る。
「ううん、皆はよく闘ってくれたよ。悪いのは皆を勝利へと導くプレイングが出来なかった私だよ。ただ……これからも至らない私を支えてくれないかな?」
ハスキミリアのそのお願いを断るドラゴンメイドたちではない。
全員ぺこりと頭を下げ、そのお願いを快諾する。
「ありがとう、皆」
ハスキミリアがドラゴンメイドたちに笑顔を向けると、満足したようにドラゴンメイドたちは姿を消していった。
(どうやら、ハスキミリアさんは『闇』の在り方は理解してないが『ドラゴンメイド』たちとはいい関係を紡げてる。特に問題はなさそうぜよ)
ハスキミリアが落ち込んでるようならムゼロは慰めるつもりだったが、彼女たちの傍にいる『ドラゴンメイド』たちを見て問題なさそうだと判断していた。
「さてと……次はシオンだな」
シーアは特にオディアナに声をかけることもなく妹に声をかける。
「うん」
シオンもすでに闘う準備が出来ていたのか、デュエルディスクを構えオディアナの前に立とうとした。
「うわああああああああっ!」
だが、外から聞こえてきた叫び声を聞き、オディアナもシオンもデュエルを開始しようとしていたのを止める。
「い、一体何事でしょうか?」
オディアナが反射的にシーアを見る。
シーアもまた戸惑った顔をしていたが、すぐにやるべきことを判断し、決める。
「私が様子を伺ってきます。ムゼロ、シオン、ハスキミリアさん。姫を頼む」
「ああ、分かったぜよ」
「お姉ちゃん、気を付けてね」
ムゼロとシオンは部屋を飛び出していくシーアに声をかける。
オディアナはシーアを呼び止める声を出す前にシーアはすでに部屋を飛び出していた。
「わああああっ」
「助けてくれ」
シーアが宿屋の外へと飛び出し悲鳴が聞こえた先へと向かう。
そこでは……虚ろな目をしている少女が人を襲っていた。
「…………」
少女は紫色のローブを着ており、その手には剣が握られていた。
夜の闇の中なので目がまだ少し慣れていないが、剣が血に濡れており、斬られた人が地面に這いつくばりうめき声を上げていることが分かった。
「お前がエイディーム国領内を襲ってる犯人か?」
「……私のマスター……私に襲えと指示した」
少女はぽつりと呟くと、オディアナに剣を向ける。
だが剣は見る見るうちに変形していき、デュエルディスクになる。
「あなた……『闇』感じる。その『闇』奪い取れば、マスター褒めてくれる」
「どうやら聞く耳を持たないらしいな……」
シーアはそう判断し、デュエルディスクを構える。
目の前に立つ少女が何者かはまだ分からないが、人を襲っている。
そして放置しておけば、この村にいる姫もこの少女に襲われてしまう。
それだけは絶対に避けないといけないことだった。
「「デュエル」」