遊戯王 神秘眼の姫君   作:ヴィルティ

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見放され堕ちていく者たち

「ほら、これらを使いなよ」

 

目の前に立つ少年は手にしていた数十枚のメダルをばらまく。

ばらまかれたメダルが目の前に散らばっており、少女は首をかしげる。

 

「マスター……これは?」

「ああ……色がない君に色を付け、強くするための物さ。君には『闇』がない、だからこそこれらを使い、『闇』を集めるんだ。そうすれば君はもっともっと強くなる」

「強くなれば……マスターの役に立ちますか?」

「もちろん。期待してるよ、スディル」

 

マスターと呼ばれた少年はにっこりと笑い、目の前でぺたんと座り込んでるスディルを見下ろす。

彼女は何の疑問も持たず、目の前に散らばってるメダルをかき集める。

 

(さて……どれだけの力を発揮してくれるか、見物だな)

 

 

「私のターン」

 

シーアの目の前に立つ彼女の腕に装着されてるデュエルディスクに、鈍い光が一瞬放たれたのをシーアは見逃さない。

 

(なんだあれ?)

 

光が放たれた部分には、普通デュエルディスクにはセットされるわけがない物……コインかメダルのような物がセットされていた。

 

「私は魔法カード『闇の誘惑』発動。2枚ドローし、手札の闇属性モンスター1体を除外する。ただし、除外できなければ手札を全て墓地に送る」

「いいだろう」

 

シーアが許可し、スディルがカードを2枚引く。

 

「私は手札の『堕天使ユコバック』を除外する。そして手札から『トレード・イン』を発動。手札の『D―HERO Bloo―D』を捨てて2枚ドロー」

 

再び手札交換。

そして捨てられたのは同じ闇属性とはいえ、堕天使と呼ばれたカードとは繋がりのないHEROのカード。

 

「さらに手札から魔法カード『トレード・イン』を発動。手札の『堕天使スペルビア』を捨てて2枚ドロー」

 

何度も何度も手札交換を繰り返す。

だが、スディルはいたって無表情であり、ただ決められた動きを淡々とこなしている感じだ。

 

(わざわざ手札交換を繰り返すということは……狙いはあれか?)

 

シーアはある伝説を思い出す。

どれだけ相手に絶望的に追いつめられていようが、手札に5枚揃えば逆転勝利を起こす奇跡のカード。

その名を『エクゾディア』。

封印されし四肢とエクゾディア本体の5枚が手札に揃えば、勝ちが確定する。

かつて、白き龍3体に追いつめられた決闘の王がいた。

だが、友との絆がその魔神を手札に呼び込み、奇跡の逆転勝利を起こした。

 

そんな異世界の伝説がこの世界におとぎ話として語られていた。

 

(だとしたら、マズいな)

 

スディルが淡々と手札交換を続けるのは、その勝ち筋を拾いに来てるから。

そうシーアは予測し、相手の手札交換を見続ける。

 

「私は魔法カード『堕天使の追放』を発動。デッキから『堕天使』と名の付くカード1枚を手札に加えます。手札に加えるのは『堕天使イシュタム』。そして『闇の誘惑』を発動。2枚ドローして手札の『堕天使イシュタム』をゲームから除外。そして手札から『D・D・R』を発動。手札1枚を捨てて除外されてるモンスター1体を特殊召喚する。呼び出すのは先ほど除外した『堕天使イシュタム』」

 

黒き羽根を生やし、妖艶な笑みを浮かべた黒き肌を持つ天使が現れ、シーアをねっとりとした目つきで見つめる。

同じ女だが誘惑でもしようとしているのか。

だが、シーアはそれぐらいで心を揺るがせない。

 

「そしてイシュタムの効果発動。墓地に存在している『堕天使』魔法・罠カードを1枚選択し、1000LPを支払いその効果を適用する。そして選択されたカードはデッキに戻る。選択するのは墓地の『堕天使の追放』。デッキから『堕天使』と名の付くカード1枚を手札に加えます」

 

先ほどのイシュタムを加えたカードを再利用か。

無駄のない動きにシーアは感心する。

 

「デッキから『堕天使テスカトリポカ』を手札に加えます。永続魔法『D―フォース』を発動。発動時にデッキか墓地に存在している『D―HERO Bloo―D』を手札に加えます」

 

先ほど『トレード・イン』の手札コストとして捨てたカードか。

再利用してきたということは、再び手札コストにするつもりか。

そう予測したシーアだったが、スディルの目を見てそれは違うと確信した。

 

「墓地に存在してるBloo―Dを手札に回収。そして魔法カード『カップ・オブ・エース』発動。コイントスをして表なら私は2枚ドロー。裏ならあなたが2枚ドロー」

 

まさかこのようなカードを使ってまで手札補充をしてくるか。

シーアが感心しつつスディルの手から放たれたコインが地面に落ちる。

 

「表。2枚ドロー。そして魔法カード『一時休戦』を発動。お互い1枚ドローして、あなたのターン終了時まで互いにダメージを受けません」

 

1ショットキルされるのも防いだか、とシーアは内心苦虫を嚙み潰す。

ああいう手札交換を何度も繰り返し、かつもしかしたら伝説の魔神を狙ってるかもしれない相手には延命処置をされれば非常に厄介になる。

1枚ドローは出来るが、それが攻め手に繋がらなければ意味はない。

 

「私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

スディル LP7000

 

モンスター:堕天使イシュタム

魔法・罠:セットカード2枚 D―フォース D・D・R

手札3枚

 

散々手札交換を繰り返したが、どうやらお目当てのカードは引き当てられなかったらしい。

シーアが内心ほっとしてカードを引く。

 

「私のターン、ドロー」

 

そして『一時休戦』で与えられた手札もある。

相手の狙いは未だ定まらないが、今できることをやるのみ。

 

「私はペンデュラムスケール4の『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』とスケール1の『紫毒の魔術師』をセッティング」

 

シーアの魔法・罠カードゾーンに2枚のカードが置かれる。

赤き竜と不気味な笑みを浮かべる魔術師が光の柱を形成していく。

 

「……?」

 

スディルは首を傾げ、2枚のカードを見る。

 

「ペンデュラム召喚を知らないのか」

「……知らない……そんなの、この記憶には……」

 

記憶?

シーアは内心ひっかかりを覚えたが、そんなものは勝負には関係ない。

己がやるべきことはオディアナ姫の前に立ちはだかるかもしれない敵を倒し、もし負けたとしても意地汚く生き延び、オディアナ姫や仲間たちに敵の情報を渡すこと。

 

「ペンデュラム召喚。手札より出でよ『刻剣の魔術師』!」

 

シーアの手札から飛び出してきたのは、時計の針を模した剣を持つ魔術師。

体は小さくとも、やる気は一丁前だ。

 

「攻撃力1400のモンスター? それじゃイシュタムは倒せないよ?」

「ふん。『刻剣の魔術師』は手札からこのモンスター1体だけのペンデュラム召喚に成功したとき、攻撃力を倍にする」

 

刻剣の魔術師が手にした剣が闇のオーラをまとい、オーラが長くなった刀身を表現する。

 

「2500程度の攻撃力で過信したか。バトルフェイズ、刻剣の魔術師でイシュタムに攻撃!」

 

ダメージはないが、それでも墓地の『堕天使』と名の付く魔法・罠カードを使いまわさせるあのカードは厄介だ。

 

「罠カード『魅惑の堕天使』発動。手札の『堕天使テスカトリポカ』を捨てて『刻剣の魔術師』のコントロールを得る」

 

イシュタムが自身の胸元を手でぐいっと開き、胸と谷間を見せつける。

刻剣は色気にしてやられ鼻血を出し、それを見たイシュタムが刻剣を抱き鼻血を止めてあげようと介抱する。

 

「……ウブな子供」

「確かに」

 

その様子を女性デュエリスト2人が見つめ、刻剣がこれは違うんだとばかりに首を横に振るが、イシュタムが彼の耳元に耳打ちをする。

 

(大丈夫、女の子が好きなのは男の子として当然。さぁ、私に全てをゆだねて)

 

そんな感じのことを耳打ちしていたが、それを聞いていたのは当事者である刻剣の魔術師だけである。

 

「さぁ、どうする?」

「……メイン2、カードを2枚伏せてターンエンド。エンドフェイズ時にペンデュラムゾーンの『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』のペンデュラム効果を発動。このカードを破壊してデッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスターを手札に加えることが出来る。『慧眼の魔術師』を手札に加える」

 

そしてそれらの動作が終了し、鼻血をイシュタムに止めてもらった刻剣が顔を赤くした状態でシーアの場に戻る。

 

シーア LP8000

 

モンスター:刻剣の魔術師

魔法・罠:セットカード2枚 紫毒の魔術師

手札:3枚

 

「さてと、私のターン、ドロー。私はセットしておいた罠カード『無謀な欲張り』を発動。デッキから2枚ドローし、ドローフェイズを2回スキップする」

 

スディルが再びカードを2枚引く。

ドローフェイズすら捨ててカードを手札に加えてくるか。

 

「来た。私は魔法カード『堕天使の戒壇』を発動。墓地に存在している『堕天使』モンスター1体を特殊召喚するわ」

 

スディルの墓地から、頭に巨大な穴がぽっかり開いた壺みたいな黒き天使が飛び出していく。

 

「おいで『堕天使スペルビア』。そして墓地から特殊召喚した『堕天使スペルビア』の効果発動。墓地の天使族モンスター1体を特殊召喚する。おいで『堕天使テスカトリポカ』」

 

頭がとんがりヘアーで目が隠されている闇の天使がスペルビアの頭部の穴から射出され、綺麗に着地する。

 

「手札1枚から攻撃力2900のモンスターを2体も呼び寄せるとは」

「ふふ。神に見放されても、私は見放さない。そして『堕天使イシュタム』の効果発動。1000LPを支払い墓地の『魅惑の堕天使』をデッキに戻し、再び『刻剣の魔術師』を虜にしてあげる」

 

イシュタムが刻剣を抱き寄せようと近づく。

だが、シーアは1枚のカードを発動させる。

 

「永続罠カード『時空のペンデュラムグラフ』だ。刻剣とイシュタムを破壊させてもらおうか」

 

刻剣がイシュタムに抱き着かれる前に自身の剣を伸ばし、近寄ってきた彼女の胸元を串刺しにした。

イシュタムが信じられないと言わんばかりの表情で刻剣とともに消えていく。

 

「残念だったな」

「いや、そうでもないわ。テスカトリポカの効果発動。1000LPを支払い墓地の『堕天使の戒壇』をデッキに戻しイシュタムを蘇生させるわ」

 

イシュタムが黒き羽根を羽ばたかせ、空から舞い降りる。

 

「攻撃力の合計は8300。さぁ、終わりにしましょうか」

 

スディルが攻撃宣言を下すと、シーアの場から不気味な唸り声が放たれた。

 

「罠カード『威嚇する咆哮』を発動だ。相手は攻撃できない」

「そんなもの伏せてたんだ。ミラーフォースのようなカードならこの状況を逆転出来たかもなのに」

 

スディルがシーアに言うが、シーアは首を横に振る。

 

「いつでも発動出来て相手の攻撃を防げる方が私た……私の性にあってるんだ」

「そっか。ならメイン2。『堕天使ユコバック』を召喚」

 

可愛らしい男の子のような黒き堕天使が現れ、イシュタムがじゅるりとユコバックを見る。

先ほどの刻剣といい、小さな男の子が好きなのだろうかと思わずシーアは勘ぐる。

 

「ユコバックは召喚に成功したとき、デッキから『堕天使』カードを1枚墓地へ送る。送るのは『堕天使の戒壇』。そして……神に見放されし者は運命を操る英雄を得て、希望の闇に突き進むの。ユコバック、スペルビア、イシュタムの3体をリリースして現れよ『D―HERO Bloo―D』」

 

3体の堕天使がボロボロのマントに吸収されていく。

そして龍の翼、龍の頭を身に纏い青き運命の英雄が君臨する。

 

「ふふふ……私はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

スディル LP5000

 

モンスター:D-HERO Bloo―D 堕天使テスカトリポカ

魔法・罠:セットカード2枚 D―フォース

手札:1枚

 

「私のターン、ドロー」

 

シーアがカードを引き、スディルの場を見る。

そして頭を必死に巡らせ、カードを発動させる。

 

「『慧眼の魔術師』を発動。そして慧眼の魔術師のペンデュラム効果を発動し、このカードを破壊してデッキから『虹彩の魔術師』をペンデュラムゾーンにセッティング。そして『時空のペンデュラムグラフ』の効果を」

 

シーアが発動させようとした瞬間。

スディルの場に置かれた『D―フォース』が怪しげな光を放ち、時空のペンデュラムグラフの発動そのものを止めてしまった。

 

「な……?」

「残念だけど、運命の英雄が君臨しているとき、D―フォースは私の場のカードを対象に取れなくするの。『時空のペンデュラムグラフ』は対象を取る効果、よって意味がない」

 

当てがはずれたが、ならまずは運命の英雄そのものを討ち取ればいい。

 

「ペンデュラム召喚。EXデッキより出でよ『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』、そして手札より出でよ『黒牙の魔術師』!」

 

 

「……さっきオッドアイズは破壊したのに、どうして?」

「ペンデュラムモンスターは墓地へ送られる代わりにEXデッキに表側表示で送られ、そしてペンデュラム召喚で何度でも甦ることが出来るのだ」

「……へぇ」

 

スディルは本当にペンデュラム召喚のことを何も知らないのだとシーアは認識する。

だが、淡々としていたその顔に初めて感情が見えた気がした。

 

「効果の対象にならないのなら、運命の英雄を刈り取るのみ。バトル! 『オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン』で『D―HERO Bloo―D』に攻撃!」

 

オッドアイズがすっと息を吸い、闇のブレスを放つ。

 

「……攻撃力じゃ負けてるけど、残念だったね。罠カード『背徳の堕天使』発動。手札の『堕天使マスティマ』を捨てて……運命の英雄がいる限り、あなたのフィールドのモンスター効果はすべて無効になっている。だからオッドアイズを破壊すれば、あなたは私を超えられない」

 

テスカトリポカの翼から黒き羽根が雨のように飛ばされ、オッドアイズのブレスを防ぐだけでなくオッドアイズの体そのものも貫く。

無数の闇の羽根により生命力を吸収されたオッドアイズが闇に包み込まれ、消滅していく。

 

「くそっ。ならば『黒牙の魔術師』で『D―HERO Bloo―D』に攻撃!」

 

槍を構え、運命の英雄に向かって突進していく。

 

「テスカトリポカの効果で墓地の『背徳の堕天使』の効果を適用させる。破壊するのは『紫毒の魔術師』」

 

やはり見抜かれていたかとシーアが内心舌打ちする。

テスカトリポカの羽根が紫毒の魔術師の柱を破壊し、その能力を消し去る。

 

「返り討ちにしちゃって、運命の英雄」

 

運命の英雄がマントを広げそこから血が凝固された槍のような物体を無数に放つが、鞭に絡みとられた黒牙の魔術師が姿を消していく。

 

「紫毒の魔術師が破壊された時、表側のカード1枚を破壊する。余計な戦闘ダメージを受けるぐらいなら自分で破壊する」

「……たった200しか差がないのに」

 

スディルが呆れたように溜息をつく。

 

「何とでも言え。メイン2、『賤竜の魔術師』を発動しペンデュラム効果発動。EXデッキで表側表示となっている『魔術師』『オッドアイズ』のモンスター1体を回収する。手札に戻すのは『紫毒の魔術師』だ。カードを1枚伏せてターンエンド」

 

シーア LP8000

 

魔法・罠:セットカード2枚 時空のペンデュラムグラフ 虹彩の魔術師 賤竜の魔術師

手札:1枚

 

「私のターン。『D―フォース』は運命の英雄が表側で存在している限り、ドローフェイズにドローできない」

 

つまり、あの運命の英雄がいる限りは普通のドローは行えないということか。

なら、ペンデュラムの粘り強さで耐えれば物量でどうにかなるかもしれない。

シーアの胸に希望が宿る。

 

「テスカトリポカの効果発動。1000LP払って墓地の『堕天使の戒壇』をデッキに戻して適用。墓地より甦れ『堕天使イシュタム』」

 

だが、それも見越して墓地を肥やしており、イシュタムがテスカトリポカの傍に寄り添う。

 

「LPが残り3000しかないが、大丈夫か?」

「余計なお世話。それに自分の心配をしたらどう? 『D―フォース』の効果で運命の英雄はお互いの墓地のモンスターの数×100ポイント攻撃力が上がって2回攻撃が出来るの」

 

確か今墓地に存在しているのはユコバックとスペルビアの2体だけ。

ペンデュラムの特性として墓地にモンスターが溜まらないから強化には全く貢献しないが、2回攻撃はマズい。

 

「バトルフェイズ。運命の英雄様、あの女を倒して私に『闇』を!」

「罠カード『威嚇する咆哮』発動!」

 

先ほどと同じように相手に攻撃すらさせない。

その面倒なやり方にスディルは無表情を崩し、苛立ちを見せる。

 

「さっきから……」

「残念だったな」

 

シーアが得意げに笑った瞬間。

 

バァン!

 

鉄砲が何発も発砲される音が鳴り響く。

シーアの目の前に立っていたスディルの頭の横を銃弾が貫通し、スディルが目を見開き動きを止める。

 

「やった!」

「村を襲ったあの悪魔を刈り取ったぞ!」

「これで怪我した旦那も救われる」

 

シーアが驚きそちらを見ると、手に猟銃を手にした男がシーアの元へと近寄る。

 

「あんた、大丈夫かい。今さっき、襲われそうになっていたじゃないか」

 

どうやらデュエルモンスターに攻撃されたことを襲われたと誤解したらしい。

デュエルモンスターを知らない人からしてみたらそうなるか、とシーアは思う。

 

「あの村を襲った悪魔を……!?」

 

だが、発砲した男は先ほどのスディルと同じく目を見開き、動きを止める。

そしてそのまま地面とキスする形で倒れこんでしまった。

倒れた男の背中からは大量に血が溢れ、それを見た残りの村人たちは叫び声を上げる。

 

「どどどどドウシテ…………いつ……モ…………リフジンナ……」

 

スディルはまるで壊れたからくり人形のように言葉にならない言葉を叫び、ぎこちない動きで村人たちを襲おうとする。

 

 

「チッ……神に反抗する者は報いを受けるってか。 なんて運がねぇ……まあしょうがないか」

 

忌々しそうな声と共に、その場に片目に眼帯をつけた少年が現れる。

少年の姿を見たスディルが動きを止め、少年の方を見る。

 

「マスター」

「実験は終わりだ。いったん帰還するぞ。アルトマ王国の護衛隊長、シーアだったか」

「私のことを知ってるのか?」

「ああ、デスティアスたちから報告を受けたからな。スディルの実験に付き合ってもらってありがとよ。その見返りとして俺の名を教えてやる。俺の名はバルエッド。この国、いや、この大陸、いや、全てを手に入れる者の名前だ」

 

それだけ言い残し、バルエッドは動きを止めたスディルを抱えてその場から消えていった。

 

「……なんだったんだ」

 

シーアが唖然としながら2人が消えていくのを見ていた。

一体、何が起ころうとしているんだ。

 

「ぐ、ぐうっ」

 

だが、それよりも目の前で倒れてる村人を助ける方が先決だ。

幸いなことに殺されておらず、血を止めて輸血すれば助かる見込みがある。

 

「急ぎましょう」

「あ、あなたは」

「たまたまこの村によった旅人です。先ほどこの人が発砲し動きを止めてくれたから助かりました。あの化け物が何かは分かりませんが、助けてもらった恩を返させてください」

 

実際、あのままデュエルを続けていれば結末はどうなったか分からない。

だが、あの村人たちは人を殺すという形だが、自分のことを助けてくれようとしたのだ。

その恩を無碍にするほどシーアは冷血ではない。

 

シーアは内心穏やかじゃなくなっていたものの倒れている男を背中にかつぎ、村の治療所へと連れていくことにした。

 

 

 

 

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