遊戯王 神秘眼の姫君   作:ヴィルティ

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ドラゴンメイドの求め

『イードス』の村にたどり着くまで、オディアナとシーアは野原を歩く。

 

「おっ」

 

道中、シーアが何かに気づいたような声を出す。

 

「どうかしたの、シーア?」

「いや、どうやらゼストマの傭兵団とクルドたちが合流したようです」

 

シーアはアルトマ城に何かあったとき、報告用の札をゼストマとクルドたちに渡していた。

そしてその札に対して念が送られると自然と持ち主であるシーアに状況が報告されるのだ。

 

「そう。何か問題とか起こってないかなぁ?」

 

オディアナが少し不安げに尋ねるが、シーアが少しばかり苦笑しつつも首を横に振る。

 

「いえ……クルドとゼストマが意気投合したのはいいのですが、筋肉の素晴らしさについて語り始めたとのこと」

「何をやってるのよ」

 

オディアナも呆れ気味にシーアの報告を聞く。

まあ、くだらないことで笑い合えてるのなら今のところ問題は起きていないということだ。

 

「3000マニィの報酬は安くはないですが……城下町まで追加で守ってくれてるんです、感謝しかありませんね」

「うん。だからといって私たちの旅がのんびりしていいわけがないわ。早いところお父様やお母様、城の皆をあの弦から解放しないと」

「そうですね」

 

オディアナが少しばかり歩を早くする。

シーアもオディアナの歩くスピードに遅れないように歩いていく。

 

「ふぅ。にしてもやっぱり動きやすい格好はいいわね」

 

オディアナが歩きつつそんなことを口にする。

いつも城で過ごしていた時のように、上下ともに黒で統一されたジャケットとズボンだ。

国王陛下はオディアナに女の子らしい格好をしてほしかったみたいだが、この旅の時は女の子らしい格好よりもこういった格好の方が歩きやすい。

 

「まあそうですね」

「この旅が終わったら、お父様にちゃんと言おうっと。動きやすい服のおかげで早いところお父様たちを救い出すことが出来ましたよって」

 

オディアナが少し楽しげに言う。

やはり国王たちを無事に救えると信じている。

その前向きな姿勢はオディアナ姫の持ち味だとシーアは改めて再認識する。

 

「でも、たまに、本当にたまにはそういった格好もしてあげたらいかがです。別に国王陛下だって意地悪で言ってるわけではないでしょうし」

「……でも、ミニスカートとか恥ずかしいし」

 

オディアナが少しばかり顔を赤くする。

そう言われてみれば、オディアナ姫はどんな服を着ててもあんまり肌を露出させていない物を好んで着ている傾向がある。

 

「まあ確かに。あんな少し激しい動きをすれば下着が見えてしまいそうな服、私は着用できないですね」

 

シーアは城の兵として戦うとき、激しい動きをする。

そんな中でちょっと動いただけで下着が見えてしまいそうになるミニスカートなど論外な服装である。

 

「そうよね。世の中の女性には男を誘惑するためにミニスカートを着用する男もいるらしいけど」

「少なくとも私たちには必要ない物ですね」

「……シーアって、好きな男の人とかいるの?」

 

オディアナがおずおずと尋ねると、シーアが首を横に振る。

 

「あはは。王族を護衛したり兵士たちを鍛えたりすることに気を配りすぎてて、そういったことはまったく考えてませんでした」

「そうなの」

「そういうオディアナ姫はどうなんですか?」

 

シーアが逆に聞き返すと、オディアナがぷくっと頬を膨らませる。

 

「あんまり城の外に出たことがないし、いい出会いなんてするわけがないわよ」

「そうでしたね。これは失礼しました」

 

シーアが頭を下げると、オディアナがシーアの手を取る。

 

「姫?」

「……シーアがいい人を見つけても、私たちを見捨てないでね」

「何を当たり前のことを」

 

シーアがきっぱりと告げると、オディアナがどこか安心した顔を見せる。

ゼストマにスカウトされたのはきっぱりと断ったから心配ないはずなのだが。

そう思いつつも自分のことをこんなに信用できる兵だと思ってくれているのは嬉しい限りだとシーアは思う。

 

「……まぁ、今はそもそもそんな浮ついたことに意識を向けている場合じゃないですよ。早いところアルトマ城を救う手立てを見つけないと」

「うん、そうね」

 

オディアナが気を引き締めた顔をしたのを確認し、シーアが頷く。

そして村に向かって歩きを進めていく。

 

 

そして途中休憩も挟みつつ歩き続け。

『イードス』の村に到着したのは、太陽が傾いてきた夕方ごろだった。

 

「やっと到着したね~」

 

アルトマ城下町よりも派手さはないが、まばらに民家などがあり、宿屋や店などもちゃんと存在している。

アルトマ城下町、それからアルトマ城に向かうために一番近い村がここであるため旅人たちが最後の休憩を迎えるのには最適な村だ。

 

「そうですね」

「おや、あそこにいるのは」

 

村人の一人である男性がオディアナの姿を確認する。

すると一気に近寄ってきて挨拶をする。

 

「オディアナ姫じゃないですか。どうしてこんな所に? もしかして視察ですか?」

「まあそんなところですね」

 

オディアナがアルトマ城に起きた惨劇については一切話さず言葉を濁す。

この村の中にも他の国に繋がる内通者がいないとも限らない。

余計な火種を増やさないためにも、村の者たちにはあくまで視察ということで話を進めることにしようとシーアと決めていた。

 

「そうですか。ちゃんと栽培業も順調ですし。つい最近国王陛下がこの村に建造してくださった医療施設もあり、怪我人もすぐに治療が出来るようになりました」

「そう。村に家なきものは」

「当然おりません。皆ちゃんと食を取り、無事に過ごしております」

 

男がきっぱりと告げ、オディアナがにっこりと笑顔を浮かべる。

相当昔は家すらなく、食事すらも満足に取れる者がいなかった。

そういった民たちのために先代国王陛下はアルトマ王国の領内に保護施設、そして城下町からそういった者たちの世話をするための人を派遣したという。

おかげでアルトマ王国領内の村においては浮浪者などはいない。

 

「ですが姫、お供の者が護衛隊長であられるシーア様だけとは」

「あまりにも大勢で訪れればお忍びの視察の意味がなくなるであろう。私たちがあらかじめ来ると分かっていたら、不都合なことがあっても誤魔化されてしまう」

「ごもっともで。ところで宿屋はやはりこの村で?」

「そのつもりだ。今からチェックインしてくるところだ」

 

シーアがきっぱりと告げると、男性がぺこりと頭を下げ話を切り上げる。

そして宿屋へと向かうべくオディアナとシーアが村の中を歩く。

男が言っていた通り、村の中はきちんと整備されており、村の中を歩く民たちの中にもみすぼらしい格好をした者はいない。

 

(良かった)

(ですが、もしアルトマ城が危機に陥ってるなどと他国の者に知られ、戦を仕掛けられてしまえばこの村も被害に遭ってしまう)

(分かってるわ)

 

そんなことをひそひそ話で済まし、宿屋でチェックインを行う。

 

「これはこれはオディアナ姫。視察ですか、ご苦労様です」

「そう固くならなくてもいいわ」

 

オディアナがにっこりと笑顔になると、宿屋の主人もまたぱっと笑顔になる。

 

「今すぐに一番良い部屋と豪華な食事をご用意いたします」

「いや、普通の部屋を頼む」

 

シーアがきっちりと10マニィを机の上に置く。

 

「かしこましました」

 

宿屋の主人が驚きつつも、渡された料金分の部屋の鍵を渡す。

 

「食事は後で食堂に食べにくる」

「分かりました。では、ごゆっくり」

 

主人が改めて頭を下げたのを見届けた後、姫たちは渡された鍵に対応した部屋へと向かっていく。

 

そして部屋の鍵を開け、中へと入る。

 

「疲れた~」

 

オディアナが部屋の中のベッドに思いっきりダイブする。

世間一般的な姫は清楚なイメージがあるが、今この場においてはこれほど一般的なイメージから離れた姫はいないだろう。

そう思い、シーアが生暖かい笑みを向ける。

 

「もう、どうしたのシーア? 休まないの?」

「いえ、では失礼して」

 

姫に続くかのようにシーアもまた別のベッドに飛び込む。

固すぎず、柔らかすぎず。

いい材質のベッドを使用しているなとシーアは思いつつ、息をつく。

 

「さてと、まずはシャワーでも浴びようか」

「そうですね」

 

この宿屋には浴場はなく、それぞれの部屋にシャワーとバスタブが割り当てられている。

まあアルトマから遠く離れた辺境の国ではそういった物すらないと聞くので、こういった物も結構贅沢に当たるのだろうと思う。

 

「では、まず姫からどうぞ」

「うん、分かったわ」

 

 

オディアナもシーアもシャワーを終えた。

歩いてきて汗ばんでいた体もきれいさっぱり流し終わり、爽快感があった。

 

「気持ちよかったね」

「そうですね。では、夕食を取る前に明日の予定を立てましょうか。次に向かう村は『ザーストリム』。幸いなことに、この村からザーストリムに向かってはちゃんと馬車が出ています。明日、その馬車に乗っていきましょう」

「うん、分かった」

「もし余裕があれば『ザーストリム』から次の村である『エイストール』へと向かいましょうか。ザーストリムからはまた歩きになります」

 

オディアナがシーアが指さす移動経路をじっと見る。

その視線に気づいたシーアがふぅと息をつく。

 

「まあ『ザーストリム』で疲れを癒してから改めて『エイストール』へと向かうという移動方法もあります」

「いやいや、大丈夫だよ」

 

オディアナがきっぱりと告げるが、シーアがつんとオディアナの太ももあたりを突く。

それほど強く突かれたわけでもないのに、オディアナの足をずきんとした痛みが走る。

 

「あ、あれ?」

「歩き終わって少ししても疲れはあんまり感じないものですが、疲れというのは後からじんわりと出てくるものなのです。ですから今日ちゃんとゆっくりと休み、それで足に痛みが走らないようでしたら『エイストール』へと向かうルートを取ります。筋肉痛を起こしていたら『ザーストリム』で滞在ルートを取ります」

「でも、早いところ移動しないと城の皆が」

「姫も私もボロボロの状態になって城の皆が救われても、城の皆は心の底から『ありがとう』とは言ってくれないでしょう。助けられた側も助けた側も心の底から感謝が言える状態でなければ、本当に救われたとは言わないのです」

 

シーアがオディアナを窘めるように言う。

皆を助けるために無茶をしたと聞けば、きっと城の皆は罪悪感に囚われ、心の底から感謝が出来ないだろう。

 

「それに急いては事を仕損じる、とも言います。無茶をしすぎて体を壊し倒れてしまい、何日も何日も時間をロスしてしまう方がよっぽど時間の無駄になってしまいます」

「……うん」

「分かっていただけたようで何よりです。では、お腹も空きましたし食事を取りにまいりましょう」

 

オディアナが何度も頷いたのを見届け、シーアがにっこりと笑顔で立ち上がる。

 

「そういうシーアは大丈夫なの?」

 

先ほどの意趣返しとばかりにオディアナがシーアの足を何度も突くが、シーアは特に堪えた様子はない。

 

「私は時間があればウォーキングをして長期の移動にも耐えられるように訓練していますので」

「やっぱりシーアは凄いや。私もシーアのその訓練に付き合おうかな」

「今回の問題が解決したら、いくらでも。では、改めて行きましょうか」

「うん」

 

 

食堂に到着し、オディアナとシーアが食堂で食事を受け取る。

オディアナがオムライス、シーアは焼き魚や肉、サラダや野菜炒めにご飯などとにかくボリュームがある量をお盆に乗せ席に座った。

 

「……すごいね」

 

そのボリュームある食事を見たオディアナが少し驚いたように呟く。

シーアが食事をするのを何度か目撃したことはあったが、その時は他の兵と同じぐらいの量しか食べていなかった。

だからこれほど食べようとするのを目撃したのは初めてのことだった。

 

「いえ、普段はこれほどは食べないのですが、傭兵たちと魔術を交えた戦いもしましたし、ゼストマとデュエルもしたりもして結構エネルギーを消費してしまいましたから」

 

そう言われてみれば、自分はシーアが張ったバリアに守られていたけど、シーアはかなり激しく動いていた。

それでいて足に痛みもないからすごいなとは思っていたけど、やっぱり結構体力を使っていたんだなと思い、少し申し訳ない気分になる。

 

「ごめんね」

「何も謝ることはありませんよ。姫を守るため、それから城を守るための戦力を補充することに力を使えたのです。それが王族護衛隊長である私の役割ですから。むしろ感謝してもらった方が私としては嬉しいですね」

「シーアって正直だね。普通そこは謙遜するものじゃない?」

「そんな申し訳なさそうな顔をされるよりは遥かにマシです」

「そっか。じゃ、頑張ってくれてありがとうねシーア」

 

オディアナがにっこりと笑顔を浮かべながら呟くと、シーアもまた笑う。

そして食事を始めたのだが、シーアの食べるスピードがこれまた結構早かった。

皿に乗っていた野菜などが勢いよくなくなっていくのに目を奪われ、オディアナが手を止めた。

 

「ん、どうしました姫?」

「あ、いや」

 

姫の視線に気づきシーアの手が止まったのを見て、オディアナが慌ててオムライスを食べるのを続ける。

結局オディアナがオムライスを食べ終わるころにはシーアもほとんど食べ終わっていた。

そして勢いよく味噌汁を飲み終わり、シーアが息をついた。

 

「ふーっ、ごちそうさまでした」

「ごちそうさま……凄い食べっぷりだったね」

「そうですね」

「もし城の兵士たちがこの光景を見たら、すっごく驚くだろうね」

「そうかもしれませんね」

 

シーアが少し恥ずかしそうに笑っていると、机の上にそれなりな量のクッキーが乗った皿が置かれる。

 

「いい食べっぷりだったね。ほれ、結構な量を注文してくれたお客様にサービスのクッキーだよ」

「いいんですか?」

「いいんだよ。私が作ってくれた食事をあんなに美味しそうに勢いよく食べてくれるのを見たら、作った甲斐もあるというものさ。そのお礼も兼ねて、ということにしておくれよ」

 

食堂で料理を作ってくれていたであろうおばちゃんが朗らかに言う。

そこまで言ってくれて堅苦しいことを言って断る方がむしろ失礼だ。

シーアもオディアナもその好意をありがたく受け取ることにした。

 

「おいし」

「そうですね」

 

クッキーの中には最初からアーモンドが乗っていたり、クラッシュされたナッツが入っていたりしてかなりの種類のクッキーがあった。

 

「少し水をもらってきますね」

「うん、いってらっしゃい」

 

シーアが席を立ったのを見届け、クッキーの皿に手を伸ばそうとした。

すると、机の傍から別の手が伸びていたのを見てオディアナがぎょっとする。

 

「バレないよね……?」

 

そんな声が手の元から聞こえ、その手がクッキーを数枚鷲掴みする。

オディアナが思わずその手を取ると、机の下からガンっ、と何かが勢いよくぶつかる音がした。

 

「どうかしましたか!?」

「シーア、いつの間に」

 

水が入ったコップを手にしたシーアがすでにオディアナの傍に立っていたことに驚きつつ、机の下をのぞき込む。

 

(うぅ~、痛いよぉ)

 

机の下には緑色交じりの金色の髪が特徴的な少女が頭を押さえていた。

だが、その少女にはそれ以上に目を引く特徴があった。

 

「……なんでメイド服?」

「それにドラゴンの尻尾も生えてますね……一体何者でしょうか?」

 

オディアナもシーアも珍しい物を見たと言わんばかりの好奇心たっぷりの目をその少女に向けていると、少女がはっとした顔をする。

 

(ねぇ、あなたたち私のことが見えてるの?)

「うん」

「見えてますよね、オディアナ姫?」

 

オディアナもシーアも頷くと、机の下から少女が勢いよく飛び出してくる。

 

(良かった! この村の人たち、私の姿を認識できなかったから。お願い、助けて!)

 

ドラゴンの尻尾を生やしメイド服を着た少女が勢いよく頭を下げる。

だが、オディアナもシーアも何が起こったか分からず戸惑っている顔をしている。

 

「えっと、まずあなたは一体? どうして私たちのクッキーをつまみ食いしようと?」

 

オディアナが尋ねると、少女がぺこりと頭を下げる。

 

(申し遅れました。私は『ドラゴンメイド・パルラ』と言います)

「じゃ、パルラちゃんでいいかな?」

(はい)

「そのパルラさんがどうして姫や私たちのクッキーをつまみ食いをしようと? それに助けてほしいとはいったい」

(あそこから逃げ出してきて、ここにたどり着いても誰も私のことを認識してくれなくて。で、ここからいい匂いがしたから入ってきたら、クッキーが乗っていたから、悪いことだとは分かっていたけど、我慢できなくて)

「逃げ出してきて?」

 

その物騒なワードを聞き、オディアナもシーアも真剣な表情になる。

だがパルラの目は何度かクッキーに向けられ、そのたび慌てて2人に顔を向ける。

 

「とりあえずそのクッキーをつまんでいいよ」

(ありがとうございます)

 

パルラが勢いよくクッキーを手にして食べ始めた。

城にいるメイドたちにこんな元気のあるメイドはいなかったなぁとオディアナとシーアは思う。

そしてクッキーを食べ終わり一息つくと、パルラが頭を下げる。

 

(どうやらお姉さんたちは私のことが見えるみたいだから、お願いがあるんです)

「お願い? さっきの逃げ出してきて、というのと関係がありそうだな」

(はい。私のご主人であるハスキミリア様と、私たちドラゴンメイドはこの村はずれのお屋敷でこっそりと暮らしていたんです)

 

そんなお屋敷があるとは聞いたことがない。

だが、ドラゴンメイド・パルラが認識されていなかったという話から聞くと、遠くからは見えない魔法などでもかかっていたのだろうと思い、話の続きを聞くことにした。

 

(ハスキミリア様はドラゴンが大好きであり、私たちドラゴンメイドたちにも並々ならぬ愛情を注いでくれて、ほとんど外の世界とは触れることはありませんでしたが、幸せな日々を過ごしていました。ところが、つい数日前にそんな屋敷にあの下劣な男が来たんです)

 

パルラの声に怒りが混じり始める。

オディアナもシーアもその並々ならぬ雰囲気を感じ取る。

 

「下劣な男?」

(男はザイバと名乗りました。あろうことか、ハスキミリア様や私たちドラゴンメイドを見るなり『これは良い』などと下品な顔をしてハスキミリア様をいきなり捕まえて、人質にして他のメイドたちも言いなりにしようとしてるんです)

「どうしてパルラちゃんだけここに?」

(隙を見てティルルがこっそり逃がしてくれたんです。ハスキミリア様や私たちを助けてくれる人を見つけて来てくれと。で、なんとかこの村に来たんですが、誰も私のことを認識できなくて困っていたんです」

「で、この宿屋から漂う美味しい匂いに誘われてクッキーを見つけて手を伸ばそうとしたと」

(うん。お願いがあります。どうかハスキミリア様を、メイドの皆を助けていただけないでしょうか?)

 

パルラが土下座をしたのを見て、慌ててシーアが彼女の体を起こす。

 

「……いくら認識阻害の魔法がかかっていたとはいえ、アルトマ王国領内にそんなお屋敷があるのを知らなかったとは。この王国の王族として恥ずかしい限りです。そして同じ王国の民が困っているのなら、助けないと」

「そうですね。それにそのサイバという男、どうせそのハスキミリア様やドラゴンメイドたちを従わせて『ご主人様』などと呼ばせているんだろう。そんな下品な男は私は嫌いだ」

 

オディアナとシーアがお互い顔を見合わせ頷く。

 

「今すぐ案内してくれもらえないでしょうか?」

「その下品な男、私たちがさっさとぶっ飛ばす」

 

パルラがぱっと顔を明るくする。

 

(ありがとうございます。この御恩は一生忘れません!)

 

 

そしてパルラに言われて外に出て、オディアナとシーアが外に出る。

すでに日は沈み、夜の帳が降りていた。

 

(では、行きましょうか)

 

パルラが一瞬緑色の光を放つと、みるみると体を大きくしていき、緑色の巨大な竜になった。

 

(どうぞ私の背中に乗ってください)

「うん、分かった」

「では、失礼します」

 

シーアとオディアナがドラゴンに変化したパルラの背中に乗る。

 

(しっかり捕まっててくださいね!)

 

そして空高く飛び立ち、ハスキミリアのお屋敷向かって飛んでいく。

 

「私、ドラゴンに乗って空高く飛ぶなんて初めて」

「私も初めてですよ」

 

オディアナとシーアがパルラの背中に乗りながらそんな感想を述べあう。

 

(私もハスキミリア様以外を背中に乗せて飛んだのは初めてですよ)

 

パルラもどこか感慨ありげに呟いた。

 

 

そしてしばらく飛んだあと、ぼわっとした感触に一瞬突っ込んだとオディアナたちが感じた後、少し大き目な古ぼけたお屋敷に到着した。

 

(着きました。降りてください)

 

オディアナとシーアがパルラの背中から降りると、パルラがドラゴンの姿からメイドの姿に戻る。

 

(慣れ親しんだ屋敷ですが……サイバが何か細工をしたかも分かりません。気を引き締めていきましょう)

 

パルラの決意にオディアナもシーアも同意する。

 

そして、パルラが屋敷の扉を開き、3人が屋敷の中へと突入した。

 

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