トレセン学園のシェフ・ソーマ   作:PureMellow

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ようやく創真の長い一日が終わります。


幸平創真の一日【夜】

 

 

 

【19時00分】

 

 

 

カフェテリアのディナータイムは、ランチタイムと比べると比較的余裕のある時間である。

 

トレーニングを終えるウマ娘は各々の時間で食事を取りに来るし、寮の門限までは自由時間なので外に食事を取りに行く者もいる。

 

故に朝や昼に比べると一度に学園のウマ娘全員を相手にしなくてはならないということはない。

 

だが、一人ひとりの食べる量は朝と昼の比ではない。

 

ウマ娘のトレーニングは人間の何倍ものカロリーを消費する。

時速70キロで走れるウマ娘の体に必要なエネルギーが桁違いだからだ。

 

枯渇したエネルギーと傷ついた筋肉の修復のための補給が不可欠であり、そのため少食なウマ娘であっても夕食は人並み以上の食事を身体が欲する。

 

カフェテリアのディナーにおける鉄則は、食べ応えのある料理をいかに沢山に用意できるか。

 

これに尽きるのである。

 

 

創真は調理の片手間で、すり鉢を使って赤いペーストを作っていた。

息を吐いて汗を拭う。大掛かりな一仕事をしている様相である。

 

そこへカロルからオーダーの声が入った。

 

「幸平、『じゃがいものローストポーク』がかなり人気だよ。追加頼めるかい?」

 

「焼く前の状態で準備できてるっすよ。すぐ焼きます!」

 

「頼んだよ」

 

以前創真がスタッフの賄いで振る舞った裏メニュー『なんちゃってローストポーク』は、『じゃがいものローストポーク』として今日から正式にディナーメニューに加わった。

 

サイズも人間用からウマ娘用として特大サイズで作り、焼き時間は少し掛かるが肉を巻いた塊状態で用意すれば比較的手間の掛からないメニューだ。

加えて、見た目のインパクトとボリューム感は食欲旺盛な大食いウマ娘のハートをガッチリ掴み、瞬く間に人気メニューへと昇格した。

特にタイキシャトルを始めとした、海外からの留学生にはとても好評である。

 

創真は追加のローストポークを焼き上げ、輪切りにカットして提供しに行く。

 

見ればもう既にサーブされたローストポークは無くなっていて、追加待ちのウマ娘がいる程であった。

 

「ほい、お待ちどうさん! 追加のローストポークだ」

 

「あっ、創真さん! おかわり待ってました!」

 

「もうスペちゃんは食いしん坊デス。それ3枚目じゃないデスか?」

 

「だってすっごく美味しいんだもん!」

 

おかわりを待っていたスペシャルウィークが、花咲く様な笑顔で創真を迎えた。

耳と尻尾を動かし、まるで待てをしている子犬のようだ。

一緒に料理を取りに来ていたエルコンドルパサーがそんなスペシャルウィークに呆れ笑いをしている。

 

作っている創真としては、スペシャルウィークの真っ直ぐな感想はとても心地が良い。

 

「スペは見かけによらず大食いだなぁ。あとエル、丁度いい所にいたな」

 

「? なんデスか?」

 

「エルは辛いものが好きだろ? 丁度新作の辛味調味料作ったからこのローストポークに付けて食べてみろよ」

 

創真はローストポークの皿と一緒に、その横に小鉢を置いた。

エルコンドルパサーはそれを覗き込むと、目を爛々と輝かせた。

 

「こ、これは燃えるような唐辛子の匂い……! エルの求める激辛デスね!?」

 

「『ハリッサ』って言ってな。アフリカやヨーロッパで主流な調味料だよ。大量の唐辛子をペーストにすり潰して作るんだ。デスソースやジョロキアにも負けない辛さだぞ?」

 

「本当デスか!? 実は、以前デスソースがグラスの料理に掛かってしまってこっ酷く怒られたので、みんなとの食事の場では禁止令を出されてたのデス………」

 

「ああ、あれな……」

 

それは創真も目撃した事件だった。

日替わりメニューでパエリアを作った際、エルコンドルパサーが調子に乗って自前のデスソースをこれでもかと掛けて、あまりに勢いが強すぎて隣に座っていたグラスワンダーの刺身にデスソースが飛び散ったのだ。

 

グラスワンダーは和食好きで、特に刺身は大好物。

 

それはもう良い笑顔で、エルコンドルパサーにプロレス技を掛けて締めていた。

 

創真は偶々料理の補充でフロアにいて、それを見てグラスワンダーは怒らせると怖いと知ったのである。

普段穏やかな人が怒るとより恐ろしいという例の典型だった。

 

最も、創真がすぐに料理を作り直してデザートにモナカを付けたらとても喜んでいたが。

 

「ハリッサは万能調味料に近いからなんでも合うし、ペーストだからそんな飛び跳ねる心配もないしな。今度はグラス怒らせんなよ?」

 

「クラーロ! 幸平さんありがとーデス!」

 

エルコンドルパサーは全身で喜びを露わにし、ローストポークを一枚取ると、そのローストポークの上にハリッサを小鉢分丸ごと(・・・・・・)その上に乗っけたのだ。

 

それを見て、創真とスペシャルウィークの顔が引き攣った。

 

「……いや、お前それは掛け過ぎだろ」

 

「もう真っ赤でじゃがいもが見えないよ!?」

 

「ふっふっふ! 心配無用デース! エルに新たな辛みなど通じないと分からせてあげましょう! さあ食べますよースペちゃん」

 

「ええ……大丈夫かなぁ。あ、創真さん頂きますね!」

 

「おあがりよー……っと、そうだ。スペ」

 

「はい?」

 

「ルドルフ会長たちってカフェテリアで見たか?」

 

創真は時計をふと見て、スペを呼び止めた。

時刻は既に19時30分を過ぎていた。

 

「会長たちですか? いえ、見てないですね」

 

「ふーん……そうか。分かった、サンキューな」

 

創真は溜息を吐いて、スペシャルウィークに礼を言って別れ厨房に戻る。

 

冷蔵庫と冷凍庫から食材を用意し、鍋に油を入れて火に掛けた。

 

油で揚げる音が厨房に響く中、フロアの方が俄かに騒がしくなった。

 

『エ〜〜〜〜〜ル〜〜〜〜〜〜?』

 

『ギョァァァァアァアッッッ!?!?!?』

 

『まあグラスワンダーさん! 見事な卍固めですわ!』

 

「………また何したんだアイツ?」

 

創真は深い溜息が出た。

 

 

 

【20時10分】

 

 

 

静謐な空間で、カリカリと乾いた音だけが響く。

 

場所は生徒会室。

 

シンボリルドルフ、エアグルーヴ、ナリタブライアンはその一室で、ひたすらにペンを動かし続けていた。

 

しかしそれは、かれこれ2時間も続いた書類作業。

怪物の呻きのような腹の音と共に、ナリタブライアンは机に倒れ伏す。

 

「腹減った……」

 

「言うな。もう少しで終わるからシャキッとしろ」

 

エアグルーヴの叱責も、ナリタブライアンは腹の音を鳴らして抗議する。

そんな二人に、シンボリルドルフも申し訳なさそうにペンを置いた。

 

「済まないなナリタブライアン……エアグルーヴも。こんな時間まで付き合わせてしまって」

 

「全くだ……もうカフェテリアにも間に合わんだろうな……」

 

取り繕うこともなく正直にそう呟くナリタブライアンは、もはや死んだ魚と化していた。

 

「おいブライアン! 会長、私たちは大丈夫です。もう少しで終わりますから、お気遣いなく……ブライアン! 腹の音が煩いぞ!」

 

「……今のは私じゃないぞ」

 

「……済まない。今のは私だ」

 

「……っ!? すみません会長! 何か、摘めるものをーーー」

 

苦笑を浮かべて腹を摩るシンボリルドルフ。

ナリタブライアンはエアグルーヴにざまぁみろとほくそ笑んだ。

 

まさかの敬愛するルドルフに対して叱責してしまったと、エアグルーヴは声にならない悲鳴を上げ、戸棚から菓子類を取りだそうと急いで立ち上がったところで、突然生徒会室の扉が開いた。

 

「ちぃーすっ、出前3丁でーす!」

 

そんな軽快な声と共に、創真が現れた。

突然のことにギョッとして3人は創真を見る。

 

「おい、幸平! いきなり扉を開けて入るな! ノックぐらいしろたわけが!」

 

「ちょっと両手塞がってたんだ、大目に見てくれって。折角、また夕飯食いっぱぐれてるんじゃないかと思って、持ってきたんだからよ」

 

「……何?」

 

創真はそう言って、3つの丼を乗せたトレーを応接用のテーブルに置く。

それにいち早く反応したのは、ナリタブライアンだった。

丼から漂ってくる香気で死んだ瞳に生気が宿り、テーブルへと近寄る。

 

「おい、幸平。中身はなんだ?」

 

「カツ丼、天丼、海鮮ユッケ丼だ。好きなの選べよ」

 

「カツ丼くれ」

 

「あいよ。二人も冷めないうちに食えよ」

 

ナリタブライアンは待ち切れないとばかりに、早速と丼を開けてカツ丼を掻き込んでいく。

その遠慮のなさに、エアグルーヴは呆れて額に手を当てた。

 

「はぁ……全く」

 

「いや、エアグルーヴ。折角持ってきて貰ったんだ。休憩しよう。ありがとう幸平くん。とても助かるよ」

 

「礼は言おう、幸平。怒鳴ったことは許せ」

 

「気にすんな。どうせタキオンの所に弁当押し付けるついでだったからな」

 

創真はもう片方の手に持っていた包みを見せる。

シンボリルドルフは溜息を吐いて眉間に皺を寄せた。

 

「タキオンの世話まで掛けさせて済まないな、幸平くん。次はカフェテリアの時間に間に合うように、食事を摂りに行くことにするよ」

 

「おう。まあ今朝はエアグルーヴのお陰でホームルーム間に合ったしな。借りを返したようなもんだ」

 

「む……、借りだと?」

 

そう言われてエアグルーヴは少し考え込む。

そもそも今の時間までに創真と遭遇した記憶が乏しく、少し間を置いてエアグルーヴは顔を上げた。

 

「ああ、バンブーメモリーのことか? あれぐらい大したことではないぞ」

 

「まあそう言うなって。あとこれ、食後のお茶な。食器は食べ終わったら全部カフェテリアに戻しておいてくれ」

 

「何から何まで済まない。ありがたく頂くよ。

………そういえば、幸平くん。君は面白いサークルを立ち上げたみたいだね」

 

ルドルフは机の上の山積みの書類から、一枚の申請書類を取り出した。

 

「『ウマ娘料理研究会』、部長がタマモクロスで副部長がスーパークリーク、それからアイネスフウジンが所属で、君が顧問と調理講師を務めると。ふふふ、興味深い研究会だな」

 

「やー、今日の放課後にその三人から料理教室を頼まれてよ。それが好評で定期開催を頼まれちゃったから、じゃあサークルにしようぜってノリで言っちまったんだ。つか、思いの外行動早いなタマは」

 

「素晴らしいじゃないか。研究会の方針は、『ウマ娘の健康と美を追求する家庭料理の研究』とある。とても嘉言善行な方針だ」

 

「ほう、健康と美の追求か……」

 

「タマのやつそんな方針で書いたのか……まあいつも通りやればいいか」

 

創真としては、ウマ娘の健康を意識して様々な薬膳やスパイスを取り入れて料理をしていたため、美容については副次的効果でしかなかった。

 

だが美容も視野に入れた料理方針の方が、ウマ娘としてはより効果的な食生活になるのだろうと思い直す。

タマモクロスの迫真の力説を思い出して創真は苦笑した。

 

「まあそんな感じだ。週一で活動する予定だから、気になるなら覗きに来てくれて構わねぇよ。味を見てくれる人は多くいて困らないしな」

 

「そうか。正直とても心惹かれるものがある。機会があればぜひ見学させてもらおう」

 

「変なものを作らないか、定期的に監視する必要もありそうです。この男はゲテモノ料理を作っては他人に食べさせる悪癖がありますから」

 

「んだよ、ゲテモノ料理だって研究の一つだぜー? 好奇心で作ったものが、予想だにしねぇ味を生んだりするんだからよ」

 

「だからといって、テイオーを玩具にするな。貴様のゲテモノを食べた後アイツは暫く煩くて困るんだ」

 

「でもアイツ、最近は自分から挑戦しに来るぞ? この間は『春雨と帆立の抹茶蜂蜜和え』で悶絶してたけど」

 

「何をどうしたらそんな味の掛け合わせをしようと思うんだ貴様は……」

 

「テイオーも困ったものだな……」

 

最早味の想像も付かないものにエアグルーヴは呆れ、シンボリルドルフは怖いもの見たさみたいな挑戦で恐る恐る手を伸ばすテイオーを思い浮かべ苦笑していた。

 

「っと、そろそろタキオンのとこ行くわ。じゃ、しっかり飯食えよー」

 

創真はそう言い残して、言葉を挟む間も無く生徒会室を後にする。

静かになった生徒会室に、ナリタブライアンの箸と咀嚼する音だけが響いた。

 

「むぐむぐっ、とりあえず二人も食べたらどうだ?」

 

「ああ、頂くとしようか。エアグルーヴ、海鮮ユッケ丼と天丼どちらがいい?」

 

「会長が先にお選び下さい。私はどちらでもいいので」

 

「そうか。なら私は海鮮ユッケ丼を頂こう」

 

「……では私は、天丼を」

 

シンボリルドルフは海鮮ユッケ丼を手に取り、エアグルーヴは天丼を取り、蓋を開けた。

 

「おお」

 

「む?」

 

二人の驚嘆の声が上がる。

シンボリルドルフの海鮮ユッケ丼は、漬けにされ艶めきが増すマグロとサーモンの角切りを下地に、その上に白い泡状のクリーム(・・・・・・・・・)と真ん中には卵の黄身、そしてネギと海苔が乗せられている。

 

対して、エアグルーヴの天丼。

カラリと揚がった大葉や人参、海老や茄子の天ぷらが周りに乗せられ、その中央には楕円形の丸い天ぷら(・・・・・・・・・)が存在感を醸し出している。

 

海鮮ユッケ丼も天丼も、見た目のインパクトは絶大。

味への期待値が高まっていく。

 

「ふむ、この白いクリームは……とても軽い。もしやメレンゲか?」

 

「この真ん中の天ぷらは……卵だと? 卵の天ぷらなのかこれは?」

 

シンボリルドルフは箸で軽くクリームを摘むと、それは雲のように軽くきめ細やかな泡。

真ん中の玉子を割れば、その泡は黄金に染まってシュワシュワと音を立てた。

 

エアグルーヴは箸で真ん中の天ぷらを割ると、衣の中から程よく固まった白身と、その深奥からは半熟トロトロの黄身が現れる。

 

それぞれ丼は違えど、趣の異なる卵が丼の見た目を彩り、食欲をそそる。

思わず生唾を飲み込む二人。そしてそれらを食した。

 

「……すごい。メレンゲの軽く弾けるような食感が、黄身や海鮮の味をより強調している。こんな体験は初めてだ」

 

「この卵の天ぷら……黄身の味が凄く濃厚でクリーミーです。こんなに味の濃い卵は食べたことがない……」

 

「私のカツ丼も、ただのカツ丼じゃなかった。カツの美味さもそうだが、それよりも半熟卵や玉ねぎと絡まっている()の方。白くてクリーミーで、チーズの様なコクとねっとり感もあった……美味すぎて夢中になってしまったが、一体何を入れたんだ幸平は?」

 

ナリタブライアンが食べたカツ丼は、低温の状態な油から揚げた豚カツと飴色に炒めた玉ねぎを、豆乳(・・)を出汁としてパルミジャーノチーズや醤油、砂糖や酒で調味した変則割下と半熟の卵で閉じた『豆乳カツ丼』である。

 

豆乳は出汁と同じでグルタミン酸という旨味成分が豊富で、豚肉の持つイノシン酸と相性が良く、更なる旨味を形成する。

常人では考えない様な組み合わせだが、これ以上ない程の相性だ。

 

3種類の丼はどれも絶品で。

しかし見た目はびっくり箱の用に目新しく、創意工夫を施し飽きさせない。

決して楽ではない仕事量を重ねてその一椀を形成している。

 

惜しむらくは、その味の解説をする本人がいないということ。

 

「ふふ、彼は本当に素晴らしいな。まさか丼物で、これだけの満足感と楽しさを感じられるとは思わなかった」

 

「奴の料理の腕前とセンスは、常軌を逸していると言わざるを得ません……悔しいが」

 

「……くそ、もう一杯はいけるな。次は特盛で作ってもらうか……」

 

楽しそうに箸を進めるシンボリルドルフ。

好物である卵の、未知の食べ方と美味に敗北を感じて悔しがるエアグルーヴ。

完食した丼を眺め、物足りない様子のナリタブライアン。

 

三者三様に、創真の独創性溢れる丼を噛みしめたのだった。

 

 

 

【21時40分】

 

 

 

仕事を終え、食事を摂り。

寮に戻って風呂を浴び終えた創真は、眠たげな眼で寮の備え付けのちゃぶ台で日課の包丁研ぎをしていた。

 

そんな時、卓の上のスマホからメッセージアプリの通知音が鳴る。

 

【やあ、久しぶりだな。今そちらは夜か?】

 

【来月末、『トラットリア・アルディーニ』の日本進出が決まった】

 

それは、【クアトロピアット(4種の皿)】と名付けられたグループチャット。

創真はグループを開いて読んだその内容に、目を見開いた。

 

【久しぶりだなタクミ。つか、マジか。どこにできるんだ?】

 

【久しぶりータクミくん! ええっ、凄いね!? どこにできるの?】

 

【田所さんも久しぶりだな。場所は東京の府中だ。オレとイサミもオープンスタッフとして来日することになった】

 

【うおっ、俺めっちゃ近ぇーじゃん。しかも二人とも日本に来るのか】

 

【兄ちゃん一人だと、危なっかしいからねぇ〜】

 

【オイ、イサミ! それはどういう意味だ!】

 

【相変わらず兄弟仲良いね。私も今東京の日本料理店で修行してるから、絶対食べに行くよ!】

 

【ほう、そうなのか? それはちょうど良かった。ぜひ二人をプレオープンに招待したいと思って連絡したんだ】

 

【久しぶりにみんなで顔を合わせたいからね〜】

 

【勿論行くぜー! タクミ、食戟(・・)も久々にやろうぜ?】

 

【ああ、望む所だ! 幸平には24勝25敗で負け越してるからな。次こそは進化したアルディーニの料理で勝つ!】

 

【私も凄く成長したんだよ! 私も食戟したい!】

 

【僕も混ぜて〜】

 

【おしっ、んじゃあアルディーニ対俺と田所のペア対決でやるか?】

 

【フッ、いいだろう。アルディーニが最強だということを思い知らせてやろう】

 

【ああん? 俺と田所のタッグだって強えからな? 割烹料理『一色』で一緒に扱かれた絆を舐めんなよ?】

 

【が、頑張ってサポートするからね創真くん!】

 

【兄ちゃん頑張ろうね〜】

 

【ああ。では、正式な日程が決まったらまた連絡する。ブオナノッテ(おやすみ)

 

【バイバ〜イ】

 

【おやすみなさ〜い!】

 

【おう、おやすみー】

 

 

創真はスマホを置いて、止まっていた包丁研ぎを再開する。

先程のメッセージで眠気もすっかり吹き飛び、包丁を研ぐ力に気合いが入った。

 

「久々にみんなに会えんのか。楽しみだな」

 

口元に笑みを浮かべ、共に料理の研鑽をする親友でありライバルとの再会に思いを馳せる。

包丁研ぎが終わると、創真はふと鞄の中から一冊のメモ帳を取り出し、パラパラとめくっていく。

 

それは『食戟ノート』

 

創真が小学生の時に父親と始めた料理対決。

それをいつからか『食戟』と呼び始め、勝負した料理と勝敗を記録していた。

 

最初は父親だけとの勝負だったのだが、中学時代に創真は様々な土地で幾重もの料理人と出会い、その度に己の研鑽のため『食戟』を挑む様になった。

 

最後の一戦、489戦目はトレセン学園に入る前の父親との対決。

無論、それは黒星を付けられていた。

 

最も相対した父親との『食戟』は黒星のみ。

それ以外の『食戟』では白星も記録されているが、黒星の方がやはり多い。

 

少しの白星と、圧倒的な黒星が刻まれたそのノートこそ、創真の歩んで来た研鑽の軌跡だった。

 

「久々に見返しても、負けてばっかだなー俺」

 

へらりと軽く笑う。

 

しかしどれだけの敗北を重ねようと。

ノートを見据えるその瞳から、カンカンと滾る熱気が消えたことはない。

 

ノートをしまい、創真は部屋の電気を消してベッドに寝転がる。

暗い部屋の天井を何となく眺めていると、今度はウマ娘がよく使うメッセージアプリ『ウマイン』の通知音が鳴った。

 

携帯を取り、画面を開く。

相手はナイスネイチャだった。

 

【おいっすー、まだ起きてる?】

 

【よーネイチャ、起きてたぜ】

 

【あ、良かった。ねぇねぇ、今週末って空いてる? トレーニング用品の買い出しに付き合って欲しいんだけど】

 

【ん? あー、隣町の漢方とスパイスの専門店に行く予定だったけど、俺の買い出しにも付き合うなら別にいいぞ】

 

【ほんと? よっしゃ! ……てか漢方? 創真ってそんな年寄臭いもん飲んでるの?】

 

【年寄臭い言うんじゃねぇ。まあ薬膳茶は飲んでるけどよ。料理に使える生薬とか漢方のアドバイスを聞いたりしてるんだ】

 

【へー、そんなのも料理に使うんだ?】

 

【何言ってんだ? お前に作ってる料理にもしょっちゅう入れてんぞ?】

 

【え? そうなの?】

 

【おう。ほら、お前なんか最近体重気にしてただろ?】

 

【はあっ!? ちょ、ちょちょちょ何言ってんの!? べ、別に気にしてないし!】

 

【嘘つけ。やたらヘルシー系の料理ばっか頼みやがって。なのにトレーニングはガチガチにやってんだろ?】

 

【ぐぇっ、バレてる……】

 

【そんなんじゃ持たねぇと思ってよ。だから程よくカロリーが取れる味付けと、代謝促進や血行促進みたいな痩せやすい身体になる生薬やスパイスをブレンドして混ぜて調理してたんだ。実際痩せたろ?】

 

【た、確かになんかお通じ良過ぎるし、昨日量ったら創真と会う前より減ってて喜んでたんだけどさ……まさか、アンタに体重管理されてたなんて……てか! 太ったのアンタのせいだし!】

 

【……はあ? 何で俺のせいなんだよ】

 

【それは……っ、とにかく、週末よろしくね! あと明日一発殴らせなさい! じゃあおやすみ!】

 

【おいネイチャ! 何で俺が殴られるんだよ!?】

 

その後、ナイスネイチャから返信はなく。

創真は深い溜息を吐いて携帯をほっぽり投げる。

 

「はあ………女ってよくわかんねぇ」

 

後日、創真はこの話を田所にしたところ、『それは創真くんが悪いよ』と一蹴されたという。

 

納得のいかないと、創真は悶々としたまま眠りに就くのだった。

 

 

 

一方。

 

(ぅにゃぁあぁあぁああぁぁあぁぁぁあッッッ!?!?!?)

 

ナイスネイチャは、痩せた喜びやら創真に体重管理されてた恥ずかしさやら週末のお出かけが楽しみやらデリカシーのない創真への怒りやらと、カオスな感情と真っ赤に熱された顔のせいで中々寝付けず。

 

翌日寝坊したとか。

 

 




いやー長かった長かった。
今後の話の元になるもの沢山突っ込んだらこんなに長くなるとは。

ようやく、『食戟のソーマ』原作組も登場ですね。

次回はアンケートしたネイチャ番外編になります。

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