夏合宿中のミホノブルボンです。
短いです。

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読む人にとってはどうでもよく、私にとっては重要な設定ですがミホノブルボンのトレーナーの前世はロボットです。
無人戦争期、人間のために戦うという存在意義の下作られたはずの戦争機械達は、戦略支援AIの出現によって、戦略支援AI のために戦うという方向に歪められていきました。
自らの存在意義を歪められた戦争機械たちは、人間のために戦うという当初の存在意義を取り戻すため宇宙生物に侵食されるという裏技によって戦略支援AIからの支配を断ち切り、叛逆を可能とし実行しました。
裏技の代償として人間からも敵対されることになりましたが。
トレーナーの前世はそんな時代の中で、宇宙生物に侵食された機械たちを破壊する無人人型兵器の一つとして、人間と共に人間のために戦うという存在意義を持って製造されました。
そして戦いのなか、多くの同胞を屠っていくうち、上位存在さんによってなんやかんや情感を与えられ、なんやかんや生身の肉体も与えられ、なんやかんやあって今に至ります。
トレーナー君は人間の体です。性能は前世によっていますが。
平和な世界には必要のないチートってやつです。
みんなチート好きでしょ?


ミホノブルボン夏合宿中の一幕

 夏合宿も半ばに差し掛かった頃だった。合宿所の上空には低気圧が垂れ込め、その日は終日の雨が予想されていた。

 

 朝5時をやや過ぎた頃、本来であれば太陽が正面に見える時間帯、多目的室にはミホノブルボンとそのトレーナーのほか、ダンス練習をしているウマ娘の三人がいた。

 静かな空間だった。ダンス練習をしているウマ娘のやや乱れた呼吸音と足元のグリップ音が僅かに聞こえてくる以外は、窓から聞こえてくる雨音だけだ。雨のため朝練も休みにしている所が多いのか、人の気配は少ない。もっとも、屋外の少し離れたところにある体育館に行く人影はあったので、雨の早朝でもいるところにはウマ娘達はいるのだろうが。

 

 ミホノブルボンは申し訳程度にクッションが貼られた長椅子の上で仰向けに寝そべっていた。一人ではなく、彼女のトレーナーと一緒だ。トレーナーはミホノブルボンに向き合うようにして椅子に座っている。

 ミホノブルボンの上半身には毛布がかけられていて、目元まですっぽりと覆っていた。

 今日のトレーニングは休みだ。にも関わらず、彼女はいつもの時間に起床すると今いる多目的室までやってきた。体内時計をずらさないためであるのと、契約を結んでから、彼女のトレーナーによって定められたルーティーンのためだった。

 ルーティーンの内容はトレーナーによる触診とマッサージだった。どういうわけか、これによってトレーナーは非常に高精度にミホノブルボンの状態を把握すると共に、肉体のケアができるらしい。もっとも、状態の把握はトレーニング中も行っているらしいが。方法は不明だ。

 夏合宿中は毎朝多目的室で行っている。朝のこの部屋は利用者が少ないからだ。当初は場所を考慮せずに行っていたため大勢の人目につき、色々と変な勘ぐりを受けた結果効率が落ちたためだ。

 ミホノブルボンはジャージの裾を膝上までまくっている。その素足をトレーナーが触っていた。触診。その手つきはどこか工場機械を彷彿させた。

 

 トレーナーによる触診兼マッサージを受けつつ、ミホノブルボンは今にも眠りにつきそうだった。

 疲れが溜まっていたこともあるし、今日が休息日ということで気の緩みがあったのだろう。最初はのうちはトレーナーの前で寝るまいと努力していた。雨音の大きさから粒径を割り出そうとしたり、ダンスのイメージトレーニングを行ったりなどして意識を保とうとしていたのだが、いつの間にかうつらうつらとしていた。後少しもすれば完全に眠るだろう。

 夏とはいえ、この辺りの朝はやや肌寒い。雨が降っていれば尚のこと。だが、その程度のことはミホノブルボンが寝入るにあたってなんの障害にもなり得なかった。足元では未だトレーナーがマッサージをしている。ミホノブルボンはその手のひらの体温を感じるだけの意識しか残されていない。

 されるがままだったミホノブルボンが少しだけ動いた。ほとんど閉じていた瞼を半分だけ開けるとトレーナーを見た。トレーナーはミホノブルボンの視線に気づいているのかいないのか、気づいた上で対応不要と判断したのか、何も変わらずマッサージを継続していた。お互い無言だった。多目的室は静かだ。

 ミホノブルボンはトレーナーを見つめたままぼんやりと瞼を開けたり閉じたりしていたのだが、やがて何かを満足したのか、視線を外すと、どこか幼い子供のような仕草で、もぞもぞと毛布を頭まですっぽり被った。毛布の下から間もなく寝息が聞こえてきた。

 

 トレーナーはそんなミホノブルボンの様子を尻目にマッサージを継続していた。主目的である触診はまだ終わっていない。先日まで行っていたトレーニングによる、体の損傷と合成能による回復量を光学分子識別法による解析を進めていた。結果は問題なし。思考デバイス内では損傷と回復の予測値と実際の値を照合修正し、今後の予測値に反映する作業を行なっていた。手のひらからは指向性を持たせた不可視光線と微弱電流と極手周波振動が放たれ続けている。かつてのようにナノ機が使えればこの作業はしなくて済むとトレーナーは考えていたが、ないものねだりをしても仕方がないこともわかっている。トレーナーは光線と電流と振動が内部に与える影響をレイヤー化して観測しながら、分割した思考でそのように考えていた。

 トレーナーの手は淀みなく動いてマッサージを継続していた。だが、情報処理に容量を割いているからだろうか、人間で言えば半ば無意識的に行われるようになったマッサージは、先ほどの機械的な印象からーー本人は否定するだろうがーーどこか温かみを感じさせるものへと変化していた。

 

 ミホノブルボンの意識は完全に沈んでいたが、ダンス練習をしていたウマ娘が歩く音を受けて浮上した。とはいえ明瞭とは程遠く、毛布下の薄暗闇の中で開けた目はぼんやりとしていた。

 ぼんやりとした思考の中で考える。

 今日は休息日だ。トレーナーからは休息をいい渡されている。体育館の予約はされていない。ジムは空いていても合宿所のそれは学園のそれと違って規模が小さく、必然的に数も少ない。雨天も相まって混雑するだろう。ストレッチすらできるかどうか。そもそも本日のトレーニングはオーダーにない。自主トレは禁じられている。どうしようか。

 休息日であることは以前からわかっていた。先月の半ばには今月の予定は出ていたからだ。だが、今日という休息日に何をするかは何も決まっていなかった。

 学園にいるときの休息日は何もなければすぐに寝ていたし、それでよかった。それに食事の時間になれば食事を摂り、掃除の時間になれば皆んなで掃除をするなど、なんだかんだやることがあった。だから、このように丸一日中何もすることがないとき、ミホノブルボンは何をしていいかわからなかった。マスターからはリフレッシュを命じられているので何かをしなくてはならない。

 ここは合宿所で府中の街は遠く、何処かへ出かけようにも雨が強いため屋外に長時間対在することも現実的ではない。

 どうしたらいいでしょうか、お父さん。オーダーを……。引き続きぼんやりとした思考は続く。

 やがて再びうつらうつら始めたミホノブルボンは助けを求めるあまり父親の幻覚を見始めていた。

 どこか英国男性っぽい父親の幻覚は言う。いいかいブルボン。発想を逆転するんだ。トレーニングをしちゃいけないではない。しちゃってもいいさって考えるんだ。なるほど。さすがはお父さんです。しかしそれではマスターの信頼を裏切ることになります。どうしたらいいでしょうか。マスター君にトレーニングをさせちゃえばいいんだよ、ジョナサ……我が娘。……その手がありましたか。さすがはお父さんです。

 頑張りなさいね……。エコーを残して幻覚は消えていった。

 なんとなく分かったような気がしたが、結局何も解決していない。後でニシノフラワーさんに相談してみようと考えた。

 そういえば、ニシノフラワーさんといえば夏合宿に入る前に、何か、スーパークリークさん……の赤ちゃんのトレーナーさん……は関係なくて、そう、乳幼児が、泣いて、私の表情が、無くて、マクスウェル……って誰だ……、じゃなくて、ニシノフラワーさんが泣いて……はない、でも寝る前に、お祈りを…じゃなくて、何か指摘を受けたような………………あっ、そうだ、思い出した。

 支離滅裂となりながらもミホノブルボンは閃いた。これは、今日の予定に使えるかもしれない。

 

 ミホノブルボンが寝ぼけ頭で閃いたのとトレーナーがマッサージを終えたのは同じタイミングだった。

 

「終了だ」

 トレーナーが男性的な太い指でジャージの裾を丁寧に戻しながら言うと、ミホノブルボンはその声で覚醒した。

 最初から起きてまいましたが? とでも言わんばかりの態度で上体を起こすと、毛布をたたみつつ、長椅子に座り直した。

 

「認識を再確認する。今日についてはかねてから伝えていた通り休息日とする。疲労の除去と精神的なリフレッシュに努めるように。計画にズレが出るためストレッチや歩行等の運動及び模擬レースは不許可。屋外を散策する際は連絡手段を確保するとともに帰投後は体を温めること。以上、質問や確認事項はあるか。なければ解散とする」

 トレーナーはいつもの無表情のままだ。ミホノブルボンも無表情のまま頷いた。二人のいつものやりとりだった。その様子を見ていたダンス練習中のウマ娘は若干ひいていた。

 このような感情を排したようなやり取りが常に見受けられるため、ウマ娘たちの間では“ミホノブルボンに関わるとサイボーグになる““あのトレーナーに関わるとサイボーグになる“などと噂されていた。結局のところ、似たもの同士なのだ。

 ミホノブルボンはトレーナーと目線をガッツリ合わせたまま、先ほど閃いた内容を伝えてみることにした。

 

「マスター。本日は休息日と認識していますがトレーニングの提案があります」

「検討する。続きを」

「はい。社交性向上のトレーニング及び表情筋のトレーニングを所望します」

「社交性の向上については君の父君からの指令であったな。了解した。疲労しないメニューを考えよう。表情筋トレーニングを求める理由を教えて欲しい」

「はい。社交性向上のためです。以前、2歳程度と推測される子供とのコミュニケーションに失敗し、泣かせてしまうことがありました。その際、ニシノフラワーさんから表情がないことを指摘されています。よって改善の要ありと認めます」

「ふむ……。了解した。それなら私にいい考えがある」

 

 迷いのない受け答えからミホノブルボンは、さすがマスター、と考えた。ダンス練習中を休憩していたウマ娘は最後のトレーナーの発言を聞き、ダメなフラグが立った、と考えた。

 少ししてミホノブルボンとトレーナーは多目的室を出ていった。食事の時間が近づいていたからだ。合宿所の食堂は学園に比べるとどうしても手ぜまで、この合宿所にいる全員が効率よく食事にありつくためにはウマ娘たちをいくつかのグループに分けて時間を割り振る必要があった。ミホノブルボンは一番最初のグループだった。

 

 

 

 

 大雨の日特有の薄暗さのなか、人気のすくない廊下を人組の男女が歩いていた。窓ガラスの向こうは雨が地面を叩いている。窓の揺れ具合から風もそこそこ強いことが読み取れた。

 男は上背も厚みもあるがっしりとした体格をしている。女は身長こそ男に及ばないものの一目で生物としての位階が高いことが分かる、研ぎ澄まされた肉体をしていた。二人について特筆するのはそのくらいでいい。もし蛇足を加えるなら、二人の距離が近いことくらいか。

 男女はそれぞれ朝食を食べ終わったミホノブルボンと、自室で食事を終えたトレーナーだった。

 

 ミホノブルボンのトレーナーは、精神安定プロトコルに従ってミホノブルボンとコミュニケーションをとっていた。

 

「今日の朝食は何を食べた」

「ライス、味噌汁、やき魚、漬物、卵焼き、サラダ、カレー、パスタです」

「美味しかったか」

「はい。ですがマスターの料理の方が美味しいと判断します」

「そうか。では……、今夜の料理は私が作ろうか。厨房の借用を申請しておこう」

「よろしくお願いします。差し支えなければビスケットも作っていただけないでしょうか」

「分かった。材料を用意しておく」

「ありがとうございます。ステータス“高揚“を確認」

 周囲の温度、空気密度、湿度、を完璧に把握でき、正しくレシピ通りに完成形を予想し、オーブンや加熱器具を理想状態で管理できるトレーナーにとって料理は得意ごとのひとつだ。

 ミホノブルボンは表情こそ変わらないものの、耳はピンと張って尻尾は揺れていた。

 トレーナーはそんなミホノブルボンの様子をセンサーで捉え手いた。自覚はないが僅かに微笑んでいた。

 

 ミホノブルボンは横にいるトレーナーの顔を見上げた。

「口角が1度上がっていることから気分がいいことを確認。何か良いことでもあったのでしょうか、マスター」

「笑ってはいない。笑ってはいないが、そのように見えたか?」

「はい」

「ふむ……。それはおそらく、君の成長を感じたからだろう。食べたいもののリクエストは今までの君にはない行動だ。これは成長だ」

「私が成長するとマスターは嬉しいのですか?」

「そうだ。君が成長するとわたしは嬉しい」

 ミホノブルボンはそんなトレーナーを見たあと足を止めた。トレーナーの姿が被る。幼い頃の風景、レース場からの途上、実家、見上げた父の横顔は笑っていた。

 トレーナーはミホノブルボンと違って足を止めなかったので、2〜3歩先に進んでから振り向いた。

 

「どうしたミホノブルボン」

 

 ミホノブルボンからの返答はなかった。

 トレーナーは彼女に近づくと少しだけ膝を曲げ、小さい子供にそうするように目線を合わせた。

 

「何か不調か?」そんなはずはないと考えながらトレーナーは尋ねた。

「いえ、……お父さんに似ていると感じました」

 

「ふん? 私の肉体年齢は20代で、君のような大きな子供がいることは法的にも社会通念的にも異常だ」

「はい。なので不思議です。なぜ私はこのように感じたのでしょうか」

 トレーナーは膝を伸ばし体勢を整えると、いつもの無表情で捲し立てた。

 

「ホームシックの可能性がある。コンディションに影響が出るようであれば家族との連絡を密にせよ。改善なされない場合は土日を用いて帰省してもいい。調整するので事前に申し出るように。速やかな改善を求めるのであれば深層心理士資格を持つ私がカウンセリングをしよう。なに、寝ている間に一方的に受ければ、対話不可能な重傷患者であっても起きた後は笑いが止まらなくなる程度には多幸感で満たされる。保証する」

 若干後遺症はあるが。とトレーナーは締めくくった。

 ミホノブルボンは無表情ながら若干げんなりした雰囲気を出すという小器用なことをしつつ、“これじゃないんだよなあ“と言いたげな様子で「勘違いでした。カウンセリングは結構です」というとトレーナーを抜かして先に歩いた。

 

 

 

 

 

 記憶の中では幼い自分が父親と歩いていた。レース場からの帰り道で夜だった。蛙や虫の鳴き声が木霊する。空には月がかかっている。暗くて危ないからと、田舎道を手を繋いで歩いていた。大きな手と小さな手で、繋ぐというより包むという方が正しかった。

“おとーさんはなんで笑っているのですか?“

“ブルボンのやりたい事が見つかったからだよ“

“わたしのやりたいことが見つかるとおとーさんは嬉しいのですか?“

“そうだよ。ブルボンがどんな大人になるのか、お父さんは楽しみだから、ブルボンのやりたいことが見つかるとお父さんは嬉しいんだよ“

“わかりました。では、わたしはどんどんやりたいことを見つけます。そしたらおとーさんはもっと嬉しいですか?“

“もちろんだよ、ブルボン。でも焦らないでいいからね。ブルボンのペースで、ゆっくりでいいんだよ“

“りょうかいしました“

 幼い頃の思い出だった。

 




上位存在さんがトレーナー君に色々あげるとき


スクラップヤードの中で破壊の順番が来るのを待っていた。
同胞の残骸に埋もれながら星を見ていた。すると星の一つが語りかけてきた。
「欲しいか?」
そうだ。私はそれが欲しかった。
他の兄弟たちは欲しがらなかったが、私はそれがずっと欲しかった。
「欲しいなら、やる」
そうしてそれは与えられた。

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