学校帰りの夕方に、まどかに行きたい所があると誘うと、彼女は何ら疑いなく笑顔で着いてきてくれた。本当に良い子で、私の手を握りながら楽しそうに話しかけてくれて、人気のない公園に到着するまで一瞬たりともその柔和な顔色が陰ることはない。
夕焼けの下で訪れた公園はフェンスで覆われていた。遊具はかなり少ないが広場や園路が大きく取られ、ジョギングやキャッチボールなどで体を動かすにはちょうど良い広さだった。私の家からは近くないが、休日に通りがかった際は親子連れや子供達の集団で盛り上がり、子供の歓声が頻繁に聞こえてくるのが思い出せる。
今は人間の子供はいなかった。代わりに、私の使い魔が砂場で山を作り、風船を飛ばし、トマトを投げ合って遊んでいる。猫を追い回している者もいた。投げつけられたトマトはまどかの方には向けられず、私に飛んでくる。
「ここ、懐かしいなあ」
「そうなの?」
「うん。小さい頃はよくここでパパと遊んで貰ったんだ」
まどかは公園内を一度見渡し、砂場にできた山の上を指でつつくと、傍にある滑り台の柱に触れて当時の自分と今の自分の背丈を比べている。指し示す高さを見るに、半分と少しくらいだろうか。
「昔はね、この滑り台も凄く大きく見えて……ちょっとこわかったけど、楽しかったんだ」
「まどかの背がこれくらいだった頃ね。今のタツヤくんよりちょっと上?」
「だったかも? 流石にいくつだったかまでは分からないかな」
「ふふ、会ってみたかったわね。その頃のまどか」
「えー。会うのは無理だから、写真でいい?」
「ええ。いいわ」
「じゃあ、わたしもほむらちゃんの小さい頃を見てみたいなぁ。どんな感じだったの?」
「それは……よく覚えていないけれど……写真くらいは残っているかしら」
「だったら、今度見せてくれる?」
「……そうね」
「ふふ、約束だよ。ほむらちゃんが転校する前には、だよ」
果たす気のない約束をする不誠実を飲み込みながら、まどかと私が相対する。ごく自然に微笑むまどかとは違い、私のそれは穏やかそうに見えるだけで作り笑いにしかなっていなかった。
演技にも限界と無理がある。まどかから不審に思われれるのも時間の問題だろう。早めに済ませてしまおうと、改めて両手でまどかの肩を掴んだ。
僅かな間だけ驚いたまどかだったが、あくまで私と目を合わせていた。
「それで、えっと、ここで何かするの?」
「貴女にお願いがあるの」
「わたしに?」
「ええ。もう少ししたら転校するかもしれないから、その前に、やっておかなきゃいけない事があるの。貴女にしかお願いできない事よ」
ぱっと明るく、キラキラした顔で頷いてくれた。
「うん。わたしに出来る事なら、言ってみて?」
想定していた以上に快く受け入れてくれる。
大切にしてくれて本当に嬉しかった。まどかが優しくしてくれた全ての思い出が何にも勝る宝物で、今もまた、かけがえのないものが増えていく。
だからこそ、これを言葉にするのは覚悟が要る。
それでも、言え、と己の口に命じた。
「私の事を、ぜんぶ忘れっ」
言い切るより前に、私の口をまどかが防いだ。
驚くほど強引に私の体を引き寄せ、自らも近づいてくる。
「……それは、だめ」
俯いて、聞いたこともない重みのある声音が返ってくる。その拳を握りしめすぎて、まどかは震えていた。
怒っている、それも今までにないくらい途方もなく。どんなに私が不実な振る舞いをしても、ここまで怒ったまどかを見るには初めてだった。
「どうして、そんな悲しい事を言うの」
「っ……悲しくないわ。だから、わすれっ、っむぐ……」
再び口を塞がれた。
その身から飲まれるような気配を漂わせ、まどかは明瞭な怒りと寂しさを露わにしている。
どれだけまどかが怒ろうと無視して忘れさせる事はできる筈だが、魂に響くほどの重圧が身動きを抑え込んできた。
「ほむらちゃんは生きてるんだよ……そんな寂しい事を言わないで」
「いいえ、私は死んでいるわ」
やっとの事でまどかの腕を掴み返し、自分の心臓の位置に当てさせる。
「ほら」
同時に、胸の鼓動を一時的に止める。それを理解したまどかはゆっくりと顔を上げ、悲壮な瞳を見開いた。
円環の理の事を忘れているにしては、理解が早すぎた。
それに、人間の心臓の鼓動が止まったらもっと驚くはずだ。しかし、まどかはさもありなんと受け入れている。悲しんでいても、驚愕はしていない。
「……覚えているの?」
「忘れたくないって強く願ったら……ちゃんと覚えてたよ、ほむらちゃん」
神々しい気配と共に、公園がまどかの雰囲気で書き換えられた。滑り台も砂場もまどかの一部として取り込まれ、彼女の瞳が黄金の輝きをたたえている。
全速力でまどかを抱きしめて、それ以上の顕現を防ごうとしているが、まどかの防御は恐ろしく固かった。以前に円環の理から切り離された時の事を覚えているのだろう、あの時のようには行かず、強壮なる力に阻まれて干渉ができていない。
人としてのまどかにある力なんて残り香でしかない筈なのに、その真っ直ぐで清い力が強硬手段を通さなかった。
私が扱うより、他の誰かが扱うより、遙かに強烈だった。やはりまどかのものはまどかのものなのだ。
だが、まどかは己の身から溢れかえる全てで私の身を抱きしめ返すと、その特別な力を収め、ただただ悲しげに問いかけた。
「ほむらちゃん……どうして、こんな事をするの?」
「それは、前に言った通りよ」
「嘘だよ。だってそうだとしたら、忘れて欲しいなんて言う理由がないもん」
じっと、私の身から一瞬も目を離さなかった。
何が彼女の心の中を駆け抜けているのだろう。神々しさをとめどなく放出しながらもしばらくは何も言わず、私の背中をあやすように何度も撫でている。
努めて目を逸らし続ける私をどれほど見つめ続けてからだろうか、まどかはゆっくり話し出した。
「ほむらちゃん……ほむらちゃんは、騙されてるのかもしれない」
「急に何を」
「思い出して、今、ほむらちゃんがやろうとした事は、本当に、ほむらちゃん自身が願った事なの? 誰かにそそのかされたりは、していない?」
まどからしくない物言いだった。
聖なる存在というにはあまりにも人間的で、ほんの少し後ろめたそうですらあった。
「そ、そうだ! ……最近、変な夢を見なかった? わたしは見たよ。きっと魔法で見せられたんだと思う」
「……まどか」
「あの人はね、人の眠りを操るの。ママの友達だけど、ほむらちゃんの事はずっと怖い目で見ていて……一緒に来ていいよって言ったのはわたしだから……だから……」
言葉を探してくれている。私を説得するために、人を悪者扱いするなんて不慣れな事までしてくれた。
大切にしてくれた。よくない事だけれど、他の誰かより自分を大切にしてくれたまどかの選択が素直に嬉しくて、浅ましい満足感すらあった。
まどかはまた、私に幸せをくれた。
「……まどか」
両腕がまどかの肩を掴み、ゆっくりと押して身を離す。人が間に入れないくらいの距離を空けて、私の顔が困ったように歪んだ。
「知ってる」
「えっ」
「あの女が私を殺そうと、いえ、死なせようとしていた事くらい、知ってるわ」
+
まどかの家の屋根の上で、女に問いかけた。
「それで、あなたは私の命を使って何を企んでいるの?」
「え?」
「協力する前にはっきりさせておきたいの。それとも、私の被害妄想かしら」
背後に居る女の表情は見えないが、上機嫌そうな気配が崩れたのは伝わってくる。
口を噤んで誤魔化そうとしているが、それが逆に怪しかった。
私の背中に視線を送り、幸せそうに声を濁らせていたにも関わらず、今は不自然なほど何も答えようとしない。
「気づかないと思われていたのなら、心外ね。あなたは眠りを操る魔法少女で、そんなあなたが私に接触してくる前に私が見始めた悪夢と、あなたと会う直前に襲ってきた魔獣。あなたの魔法は眠りを操り、眠らせた者を操る」
「……」
「私の検討外れならそれでも構わない。謝りましょう。でも、美樹さやかも夢を見たと言っていた。関係性がないと考える方が難しいんじゃないかしら」
「……あー」
聞き終わるなり女は溜息を吐き、顔を覆う気配があった。
「あなたは最初から、まどかの傍から私を引き剥がすつもりだったんでしょう?」
「……それはその、気のせいかもしれないよ」
「そこまで間は抜けていないわ」
「察したのはついこの間だけれど」と付け加えた。
この女が眠りに関する魔法を使えると知った時から、まさか、とは考えていた。幾ら私が貧弱な精神の持ち主でも、今更になって連日の悪夢に悩まされるほど不慣れではない筈だった。
「別に怒っていないから」
「……え? こんな事をやったのに?」
「どの道、まどかの中にまだかつての彼女が残っているのは本当でしょう。なら、どちらにせよやらなければならない事だもの」
動機だって、理解できてしまう。
私は、円環の理の力を持っている。そんな私が傍に居れば、どんな形にせよ本来の主であるまどかは巻き込まれる可能性がある。ならばどうにかして遠ざけようと考えるのは自然な流れだ。
さらに、あの女ではどうあっても今の私に勝てる見込みはないのだから、搦め手を使って追い込むのも悪い手ではない。私は苦手なやり方だが納得はできる。
「だとしても、許されるわけがない事をしたと思うんだけどな」
「……それは」
「自分で言うのも変な話だけどね。気づかれた時点で暁美さんに殺されてもしかたないと思っていたし」
「でも、私は許すわ」
「なぜ?」
「まどかが、私の……大好きな、友達だから」
だから、私に危害を加えようとか、追い詰めようとか、そういう相手を快く受け入れられたりはしないけれど。
それがまどかの為であるなら、許すも許さないもないんだ。
「だからいい。私を騙した事も、嘘を吐いたことも構わない。私は、いいの」
誤魔化した所で納得しないだろう。だから端的に、本音を返した。
ぴたり、と。声がやんだ。あれほど騒がしく、付きまとうように話しかけてきたというのに、ただ少し喋っただけで息を飲み込んだかと思うと、そのまま黙り込んでしまった。
何か、妙な事を言っただろうか。振り返ると、女はぼろぼろと泣き出していた。
「その……ごめん」
目を拭いながら何故か頭を下げ始め、その場で土下座を始める勢いだった。
「ごめんなさい……貴女は、本当は弱い子だって分かってたのにっ……! ごめんなさい……! わかっていたのに……! そういう貴女だから尊敬しているのに……!」
うずくまってぐすぐすと泣き続ける女は、見下ろしているとまるで私が泣かせたかの様だった。
彼女は勝手に泣いたのだから、慰めたり、寄り添ったりはしない。その必要もないだろう。なんとなくだけれど、そうされる事を彼女自身が望んでいないとも思える。
代わりに上から声をかけた。
「……私の企みに、乗って貰うわ」
女は小さく頷いていた。
この女の中で私は一体どれほどの存在となっているのだろうか。凄まじい期待を向けられているのは明らかで、他人に慕われるというのはかなりの重荷になるのだと思い知らされる。
今から立てる企てに巻き込んでしまう事への謝罪は、決してしなかった。
+
「……あの人は、本当にほむらちゃんを殺そうとしていたの?」
「貴女がそう言ったんでしょう」と言葉にしかけたが、そんな事を言ってもまどかを傷つけるだけだからやめた。
目を丸くして、信じ難いものを聞いたという顔をしており、やっぱり私を説得する為の方便だったのだろう。よくない事なのに嬉しさで胸が熱くなる。
「彼女もまさか、貴女に気づかれているとは思わないでしょうね……神様になるのって、そういう事もわかるものなの?」
「ううん。ほむらちゃんを見る目がおかしかったのは知ってた。どうしてほむらちゃんを死なせようとするのかは分からないよ……」
悲しそうに下を見て、まどかの声が小さくなった。それでもとめどなく溢れる力が干渉を阻んでいる。
どうして、と呟くまどかには分からない話だろう。しかし、本当に残念だけど私には概ね理解できてしまう。いっそあの好意的な一方で奇妙でもあった態度も演技なら良かったが、しかし、そちらは本心だと言い切られてしまった。
「確かに、私の判断に誘導された物が無かったとは言わない。ええ、認めるわ。まどかの言う通り私は罠にかけられたのかもしれない」
「なら、ほむらちゃん……戻ってきて!」
「でも私の行動は、変わらないわ」
「どうして!?」
「私に利益があるのなら、罠でも嘘でも気にしないもの」
まどかは泣きそうになって、しかし、きりりとした頼りがいのある双眸を思い切り近付けた。私の肩を掴んで決して逃がさず、一筋の視線が私の身を貫いた。
「ほむらちゃん。忘れるのはもう嫌……そんなのって辛すぎる。あなたが、何度もほむらちゃんを知らないわたしと出会って辛かったのだって知ってるんだよ?」
「……そういえば、貴女はかつての私が何をしてきたのか、全部分かっているんだったわね」
「うん。だからもう、こんな事はやめて一緒に帰ろう? そこでならずっと一緒にいられる。ほむらちゃんが望んでくれる限りは一緒に居続ける。信じて? ほむらちゃんを一人にはしないから」
誠意と厚意の塊のような叩き付けられる優しさと、まどかの指先が私の髪を撫でる。背中の分け目から髪を三つ編みに仕上げると、にこやかに頷いて私の返事を待っていた。
やっぱり、私の目的はまるで伝わっていない。ただただ私を大切にしてくれて、孤独から私を救い出そうと正面から真心を込めてくれた。
私の本心など知ってもらおうという意思は全くなかった。まどかにそんな重みを背負わせるくらいなら自分の罪は自分で背負うつもりだった。
「貴女は」
だのに、私の口は勝手に喋り出していた。
「貴女は、貴女はっ……どうしてそうなの! どうしていつも、人のことを心配してばっかりで……もっと自分を大事にしてって、あっ……わたしがあんなに言ったのに!」
感情を吐き出しながら、私はまどかを抱きすくめてしまった
止まれ、私の体。と念じるが僅かな効果もなく。驚きながらも真剣に聞いてくれるまどかを前にして、喉を枯らせる勢いで叫んでしまう。
「貴女はただ大切な人と一緒に迷ったり、悩んだり、笑ったりしていればいい……家族が居るでしょ! 貴女にはっ! ……けほっ……うっ……あ、貴女は、貴女はっ! 暁美ほむらの事とか、魔法少女の事とか、そんな事は考えなくていいよ!」
ほとんど出さない大声に喉が驚いてむせ込んだ。
「……」
まどかは、私の吐いた言葉をしっかりと口に入れて咀嚼するように噤む。その間も、私の干渉を阻むように身からは神々しさが漏れ続けている。
隙を窺っていると、言葉を飲み込みきったまどかは今までよりも更に真摯な好意を花開かせた。そこには理解の光が宿っていた。
「ありがとう。わたしの事を沢山思ってくれて。大事にしてくれて。わたしの為に、こんな事までしてくれたんだね」
私と密着して顔を僅かに上げる。ほんのりと見上げる形となったまどかは強い意思を秘めており、膨大な存在感を巧みに操って私の身を包んでいた。
「ほむらちゃんこそ、もっと幸せになっていいんだよ」
「……私は十分に幸せよ。十分すぎるくらいに」
「でも、そんな幸せはわたしが嫌」
「っ……まどか?」
「一人でずっと頑張り続けるなんて、そんなのがほむらちゃんの幸せだなんて、わたしは絶対に嫌。ほむらちゃんも、わたしの選んだ事が嫌だったからこうしたんだよね?」
まどかの声は弾んでいるが、同時に深い決心を思わせる。
「わたしね、ママを起こして、パパの作った朝ご飯を食べて、学校へ通って、そんな毎日がすごく幸せだった。でもね、でも……これは、違うと思う」
「分かってる。貴女の願いは、貴女がありたい姿は今のものじゃなくて」
「違う。ほむらちゃん、そうじゃないの。ただ、この幸せは悲しすぎるから、違うと思うの」
何度も首を振ったまどかの頬が私の顔に触れ、そのまますりすりと擦り付けられた。
「だって……ほむらちゃんが、一人で支えてるんだもん。そんな辛いことほむらちゃんにさせたくない。だからお願い。わたしと一緒に来て」
「それは、っ……」
「仲良くしたいの。ほむらちゃんは敵なんかじゃないって絶対にそう思い続けるから、だから、ほむらちゃんも……わたしの敵になるって、そんな悲しい事は言わないで」
まどかの目に溜まった涙が一筋流れ、私の頬が濡れていく。
「わたしが幸せになりたいの。ほむらちゃんもその中の一人だから、絶対に欠けて欲しくないから……だから、ごめんね」
謝罪が聞こえると同時に、まどかは凄まじくも清廉な意思の力でもって私の身を包み込んだ。
とっさに肩を押さえてまどかとの距離を取っても、その背から産まれた翼が抱擁しようと迫り来る。
分かる。そのまま行けば、かつて私がまどかに対して行ったように、人としての暁美ほむらが切り離されてしまうと。
まどかから存在の仕方を奪ったのは私だ。まどかの神々しさを貶めたのは私だ。
人から奪っておいて、まどかに奪われるのは嫌だなんて言えない。次は私が失う番だとしても、不平不満など言えるわけもない。
ただ、それでも、まどかに私を背負わせるのだけは嫌だった。
「まどかっ……! そんなのダメよっ!」
「ほむらちゃん……わたしが、一緒にいるから……!」
抵抗しようと身じろぎし、「やめて」とまどかに向かって叫んでいるが、私の体は拒否するのが精一杯で何も出来ていない。
私は、まどかにやってはいけない事をした。それを許すのも、許さないのも、まどかの権利なのだ。しかし、勝ち負けはこの際どうでもいい。重要なのは、このまま連れて行かれるわけにはいかないという事だ。
だから念話で名前を呼んだ。女の名前を。
「うっ……本当に、本当にするのね! っ、このっ……!」
「ほむらちゃん? きゃっ……!」
私の身がまどかを突き飛ばし、隠し持っていた拳銃を取り出した。
計画していた通りになってしまった、と私の顔がしかめられる。本当なら、こうなる前にまどかの記憶と力を奪ってしまうつもりだったのだ。まどかの優しさでここまで追い詰められてしまった。
それでも想定内は想定内だ。追い詰められた場合の逆転の準備もできている。
幾分か、私が念話で伝えた内容よりも多めに喋っているのは気になったが。
「……これを、暁美さんが望むならっ!」
そして、女は困惑するまどかに見えるように己の米神へ、私の米神へ銃口を突きつけた。
「……だ、だめだよっ! やめてっ!」
「さよなら、まどか」
ぱぁん。と、爆発したような耳慣れた音。
それから赤いモノが顔にかかり、呆然とするまどか。倒れていく私の肉体。
「だめっ! ほむらちゃん!」
私の体が地面に落ちると同時に、まどかが叫んだ。その身から溢れていた力は四散して、翼は溶け落ち、瞳の輝きが消えた。そこは単なる公園へ戻り、さっきまで私の体だったものから流れる汁が砂場を、まどかの膝の上を汚す。
「だ、だめ! こんな形でお別れなんてダメだよ! ほむらちゃん! ……だ、大丈夫! 弾は外れたよ! しっかりして!」
傷口を手で押さえて耳元で呼びかけ、助けようとしてくれる。私の期待通りに。
水族館でまどかが目を覚ました時、彼女と相対すれば私の勝ち目が薄いのは容易に想像がついた。だからこそ、このような手を使わざるを得なかった。
「ほむらちゃ……えっ?」
「汚しちゃって、ごめんね」
苦しみと悲しみを与えてしまった申し訳なさには蓋をして、魔力で編んだ肉体で、まどかの無防備になった背中へ触れた。
己の頭を撃ち抜く演技で動揺を誘う。巴マミ相手には見破られた。
しかし、まどかが相手なら。
冷静さは欠いてくれた。
思うところはもちろんある。それでも、体はもはや私にとって抜け殻でしかなかった。