窓の外で爆煙が上がり、爆風の名残りが弱々しく室内へ吹き込んだ。
みこ、ロボ子、ラミィの3人で洗脳状態にあったころねを押さえつけた体勢のまま風を浴びる。
カラッと乾いていて、焦げ臭い……。
がちゃん、と解錠されたような音が響いた。
同時に、ころねの力みが消え、一気に脱力すると、倒れたような体勢で床に転がった。
「…………」
「ころにぇ?」
みこが目前に手を伸ばし、振ってみた。
意識確認をする。
目をパチパチと瞬かせ、赤ん坊のように揺れる手を目で追っていたが、やがてゆっくりと顔を見た。
目が合う。
いつものころねだ……。
「……みこみこ?」
みこの顔の先には見知らぬ天井がある。
頭を上げ、周囲を見回せば、ロボ子とラミィもいる。
あまり、良い顔はしていない。
「ラミィちゃん……ロボロボ……」
上体を起こして、環境を確認。
見覚えのない床や、天井、そして異質な面子。
「大丈夫?」
「え……多分?」
洗脳期間の記憶は無い様子。
ロボ子の憂いにも曖昧に答えた。
地べたに座りっぱなしも嫌なので、手を突いて立ちあがろうとした――
「あれ……」
想像以上に体が重い。
体重的な意味ではなく、疲労的な意味で。
何もした記憶がないのに、体力はやけに浪費していた。
少し、記憶を辿ってみた。
周りにみんながいて……バリアがあって……目玉がいて……。
「……? 何があったの?」
「……実は――」
ころねに、事の成り行きと、現在のゲーム進行状況を伝えた……。
――――――――。
「そっか………………」
「謝るのだけはやめろよ」
「……ん」
思い詰めた表情に、みこが先制しておいた。
想いは重々承知しているつもり。
でも、皆心が既にボロボロなのだ。
決壊の瀬戸際で耐えている現状が、不思議なほど。
不思議ではあるのだが……。
「どう? 行けそう?」
「……うん!」
パチン、と両頬を叩いて気合いを入れると同時に心を切り替える。
無意識であろうとも、仲間を陥れて、それで終わりなんて、クソッタレ。
勝手に神獣を使われて、体力持っていかれたが、余した力全てを使って、貢献する。
ケジメつけようじゃないか。
「行こうか」
ロボ子を先頭に、扉の先へ。
もう一度階段を駆け上がり、4階層の広間へ。
突入すると、2階の時のように空席がポツンとあった。
「――まただ」
「また?」
「2階にも似たような空席があったんだよ」
しかし、これで不在メンバーは明確となった。
剣士と武闘家。
システマーは1人、城へ戻ると言って平原から消えた。
つまりこの上に――奴がいる。
「進もう、この上の奴を倒せば、次は魔王だ」
「魔王対決が見れちゃうかもね」
「へへ……そうだといいにぇ」
軽いジョークにへへっと笑う。
新生魔王軍の誕生か?
かなた、ポルカ、わため、フレアはもう――
かっかっかっかっかっ……
「「「「――??」」」」
先ほど通ってきた階段から、足音が聞こえてきた。
石材の階段を駆け上がる、3種類の足音。
「――」
何かが――来る――――――!
*****
時はほんの少し遡り、場所も移る。
ミニゲームを終えた平原で、ノエルとメルがスバルを起こしていた。
中々スバルは目を覚まさず、どうしようかと路頭に迷い始め、ふと世界を見渡して気付く。
「メル先輩……」
「うそ……」
ノエルの通った道、右ルート――森のルートから火の手が上がっていた。
遠目に赤い炎の揺らめきと、木々の炎上から立ち昇る黒い煙が確認できる。
ミニゲーム中は壁があって、そしてゲーム終了時はスバルに夢中で気付かなかったが……。
「あいつだ……」
ノエルには心当たりがある。
スバルと共にぼたんを救った時、炎の中にいた人影。
あの蜃気楼の先の誰かが、右ルートを大炎上させ、火の海にしている。
「これじゃぁ……こっちのルートはもう使えない……」
ゲームクリアには、スタート地点に戻りクリアボタンを押す、という条件が立ち塞がっている。
AZKiがおらず中央は使えない。
右ルートは火で通れない。
残るは左だが、左を通るにはシステマーを倒す必要がある。
ゲームクリアの前提ノルマとして魔王討伐に加え、システマー討伐も加算。
「追ってこんと思ったら、外道な事をしよってからに……」
ノエルの恨み節にメルもそっと首を振った。
「……ん」
「――! スバル先輩!」
可愛らしい、寝起きのような微かな声の漏れを、脅威の反射神経で感知したノエルがスバルの肩に触れる。
なんて速度だ。
甲冑を身につけた負傷者とは思えない。
メルは若干引いていた。
「スバル先輩! スバル先輩!」
「う……あ……? うわっ! 近っ!」
目覚めたスバルは座ったまま後ろに下がり距離をとった。
「あぁ…………しゅん……」
「口で言うなよ……わざとらしい」
本気で哀しかったのに。
「そんなに驚かなくても……」
「ああ、いや…………悪かったって」
罪悪感の芽生えたスバルは、首に手を当てて謝るが、本当に怖かった。
目覚めたら超近距離に誰かがいる。
それが誰かは関係なく怖いだろう。
スバルの悪びれた様子にノエルは頬を緩めた。
「……それより、どうなってる?」
「扉は閉まってる」
ノエルから視線を外してメルに聞いた。
背後の大扉を指さして答える。
それは、スバルが気絶する前からなんら変化なし。
「剣士は、武闘家を探すってあっちに行ったんよ」
「そうか……」
塔内攻略組が現在4名(スバル視点)。
早めにスバル達も中へ入りたい。
「まずは扉を開けよう」
「せやね」
「ああ」
とは言うが、メルの怪力でもどうにもならない。
システムがあるとしても、操作する装置は内側にしかない。
3人は、一先ず扉の方へと歩き始める。
その途中――
ゴゴゴゴーーーっ――と、扉が開いた。
「…………」
内側から外側に開く。
3人は敵の出現を警戒し、その場で構えた。
構える時、スバルは肋に違和感を感じた。
「…………?」
しかし、中からは誰も出てこない。
扉は1人でに開いたようだ。
やはり、システム管理されている。
「分からんけど、ラッキーだ。気をつけながら行こう」
迷いはない。
3人は駆け出した。
「ストップ、ガールズ」
「「「っ⁉︎」」」
乱入する声と、突如発生する謎の引力。
メルは怪力で踏ん張るが、ノエルとスバルは力が足りず引力に流される。
それをメルが引き止めた。
何度も見た流れ。
これは……!
「システマー!」
先刻スバルの一撃で地にめり込み、気絶していた男――システマー。
奴が息を吹き返し、再び立ち上がった。
そしてまた、行手を阻む。
「ゲームオーバーになれば、私たちもデリートされる。スタンしているターンでラストアタックするべきだったな」
「くっそ!」
気絶=勝ち、的な固定観念があり、無視していた。
だがそれは、アニメのご都合主義でしかない。
もっと根深い思いを持つ敵であれば、何度でも立ち上がり、行手を阻んでくる。
まるで、アニメの主人公のように。
勝利とは、相手の心を挫く事だ。
「ちょっと……キツイ……!」
怪力任せに踏ん張るメルと、それしか綱が無いノエルとスバル。
「ドアがなぜオープンとなったかはさっぱりだが……」
門を一瞥する。
「……なにはどうあれ、借りは返すぞ」
「ぐぐっ……!」
「アイツ、本気っぽいぞ」
言葉遣いの僅かな変化にスバルは危機感を覚える。
そして、それ以上に現状に警鐘を鳴らす。
ズルズルと3人はシステマーに近付く。
引力が前回の比でない。
徐々にシステマーへ吸い寄せられるが、どうにも抵抗できない。
再びあの奇跡の一撃を起こせと言われても、まず不可能。
「マリン、いきまーす」
「「「――⁉︎」」」
宣言と共に、3人の傍を通る人影。
何かが発進する時のように。
引力に乗ってシステマーへ。
弱々しく拳を握り、腕を引く。
あのマリンが、殴るつもりか⁉︎
「待ってマリン!」
あの時、リフレクションを見ていないのか?
まつりの攻撃を撥ねた。
ノエルのメイス無くして、攻撃は当たらない。
寧ろ反撃で大ダメージを喰らいかねない。
「リフレクション」
マリンの拳が届く直前に、そう叫んだ。
マリンの美しい相貌が煌めくと同時に、伸ばしかけた腕をもう一度引いた。
「――⁉︎」
そこから一気に姿勢を低くし、左斜めにスライディング。
そこに障壁はなく、更にシステマーに迫る。
しかも、引力で迫る速度は数倍。
反応が遅れる。
マリンはスライディングの体勢から右手をついて軸にし、身体を回転。
敵の足を払う。
足の縺れたシステマーは転倒し、引力も一度途切れる。
「――っ!」
ノエルがすかさず駆け出し、メイスを振り上げ、思いっきり叩きつけた。
が、地面を撃つ感触が伝う。
やはり、空へテレポートしていた。
「アイツはなんとかします。3人は塔へ登ってください」
「は? なんとかできんのか?」
「はい、信じてください」
普段は見せない凛々しい姿が突き刺さる。
今のマリンは十分信頼できる。
どんなビジョンがあって自信に溢れているのかは、正直一切分からない。
でも、今の行動一つで、大きな価値を証明できたはずだ。
「それがキャプテンガールの『開眼』か」
「オープンアイズって言わないんですか?」
「それを言うならアイズオープニングだ」
「だんだん仮面が剥がれてきましたね」
「ミーニングがよくわからんな」
「わざわざキャラ作りまで強要とは、随分と徹底してるじゃないですか」
「…………」
「ま、我々は日頃からやってる事ですけどね」
2人の会話についていけない傍観者たちは、顔を顰めた。
「スーパースキルだな」
「船長もまさか、こんなんなるとは思っても見なかったですよ」
魔力を無くしたあの時、マリンはホロライブ内での最弱地位を覚悟した。
聖力も魔力もなく、スキルも無いと、思っていた。
オッドアイの開眼。
そんな事、聞いたことがなかった。
開眼して初めて、自分の力に気付いた。
だが結局思考できても、肉体は非力のままで行動に移せない。
だからマリンは1人で敵と戦える人間出ない事に、変わりはない。
マリンの力を活かすには、マリンと共闘する存在が必要だ。
チームバトルにこそ、マリンの本領は発揮される。
見えている。
さあ、来い。
この3人は塔へ送る。
そして2人で、コイツをぶっ飛ばしてやろうぜ。
「さあどうぞ、行ってください!」
「ごめん、頼むよマリン」
ノエルとハイタッチして別れる。
3人は、塔の門へと走る。
「おや、追わないんですか?」
「なにかトリックを仕掛けているんだろ?」
「無いかもしれませんよ」
「いや、あるな」
「もう、余裕がないんですか?」
「は、そうやって何でも見てると、いつか病むぞ」
「ご心配なさらずとも、見たいものを見るので」
「それは変だな、アンチは嫌いだと思っていたが」
「精神攻撃なんて、卑劣ですねぇ」
言葉の応酬に耳を傾けつつ3人は塔へ侵入。
2人が何を感じて言葉を投げ合っているのか分からないが、アンチ……?
妙な違和感を覚える。
キャラ作りやら何やらも、意味不明だ。
「っ…………アイツがトリックでいいか?」
「あなたも随分と目がいいですね」
「ジョークはいい」
「ま、何はともあれ、フブちゃんとミオ先輩の分、八つ当たりですが、返させてもらいますよ」
「好きにしろ、私が勝つ」
3人は、既に塔の階段を登り、姿が見えなかった。
それと入れ替わるように、1人の少女が森ルートから飛んできた。
燃え盛る森林火災を物ともせず、全身を滾らせ、一本の炎槍を握り。
やって来る、ヒーローが。
「お待たせ。遅くなったけど、約束通り追いついたよ」
システマーを挟むように、降り立つ。
一度ゲームオーバーになる程のダメージを受け消滅。
しかし、そのチカラで地獄の底から生き返った少女。
「ごめんよマリン。復活しても、暫く気絶してたみたいで」
「いいってそんくらい」
「んで、コイツが敵ってこと?」
「そーゆーこと」
軽く柔軟運動をする。
それじゃあ、始めようか。
ビジネスだろうと、純粋なモンだろうと関係ない。
こうして絆は紡がれる。
「全開で行くよ、マリン」
「どんと来い、フレア」
――営業開始。