歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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103話 小さな星

 

 システマーを撃破し倒れた後、フレアはすぐに意識を取り戻す。

 気絶していたのは、時間にして僅か3分ほど。

 隣には、右半身を負傷したマリンが横たわっていた。

 

「マリン、マリン」

 

 2度ほど名前を呼び大きく揺さぶると、眉をピクッと歪ませて薄っすらと目を開いた。

 

「んん……」

 

 可愛らしい寝起きの呻き声を上げて、マリンの意識が覚醒する。

 目前にフレアがいた。

 それを認識して数秒後、視線がその唇へ移った。

 

「――――‼︎」

 

 脳が一瞬で目覚めた。

 がばっ、と勢いよく状態を起こした。

 

「っ……たた……」

 

 右半身に激痛が走る。

 その痛みで、ようやく全てを思い出した。

 

「大丈夫?」

「んー……いや……うん……平気」

 

 返答を躊躇う。

 いや、どちらかと言えば恥じらっている。

 結果、平気じゃないのに平気という始末。

 

「休ませたげたいんだけど、そうも行かなそうだから」

 

 フレアは現状を感覚的に予測して、塔の頂上を見上げた。

 そこに、奴はいる。

 

「そう、かもね……」

「なら、はい」

 

 フレアの言い分に賛成のマリン。

 その返答を貰ってから、フレアはまた屈み込んで背中を向けた。

 

「っ――いいって!」

「また赤くなった」

「そう言うのは配信でやって‼︎」

 

 頬は当然、鼻先から耳まで真っ赤になる。

 頭が熱くなっている自覚がある。

 羞恥心を感じるのは仕方ないが、残念ながらコレは冗談ではない。

 

「これが1番効率がいいの」

「それは……そうだけど……」

「じゃあほら」

「…………」

 

 結局また、渋りながらフレアに抱えてもらう。

 可愛いやつめ、とフレアはにやけた。

 背中越しに鼓動を感じる……。

 

「登るよ?」

「いいけど……ノエちゃん達に見られたら、なんて説明すんの……」

「マリンがおぎゃるからって言っとく」

「ケツメイス喰らうからやめて」

「ふっふふ……」

 

 本当にケツメイスされたら、笑い事じゃない。

 でも多分、マリンの負傷を見れば察してスルーしてくれるはず。

 

 苦笑混じりにフレアはエンジンをかけ始め、動き出す。

 腕力などを使うことはなく、比較的疲労は少ない。

 大きな門を潜り、中の階段を発火のエンジンだけで登ってゆく。

 2層につくと、空席を発見するが、立ち止まらずに進む。

 3層は室内に焼け跡や破損跡が目立ち、窓は破られていた。

 戦いの痕跡だと、容易に想像がつく。

 でも止まらない、更に上へ。

 

 どうやら、結構攻略は進んでいるようだ。

 

 勢いを殺さずに激進するフレア。

 まもなく4層といった所で、あの電撃を浴びるような鋭い閃光が脳をつんざく。

 マリンにも、フレアにも、それは届いた。

 危険信号に真っ先に反応できたのはマリン。

 自身の力なだけあって、ここだけは反射が早い。

 フレアの背中で、背後に体重をかける。

 階段から落とすように。

 急な比重に均衡の崩れたフレアの体幹。

 180度回転し、フレアは階下へ転げ……かけて、エンジンを点火。

 怪我する事なく、下階へ下って行くが……

 

「間に合わんて!」

 

 逃げ場がない。

 そんな閉塞的な場所で、天井の崩落。

 

「クッソー‼︎‼︎」

 

 ヤケクソに天井を見上げ、絶叫した。

 

 不運な事に、マリフレも、塔の崩落に巻き込まれてしまった。

 

 

          *****

 

 

 倒壊して、瓦礫の山となった塔。

 中にいた者は全員巻き込まれた。

 その筈が、瓦礫の山の頂上に、生存者がいた。

 

「派手にやったなぁ……しかも、自分も死んでんじゃねえか」

 

 塔を崩した犯人は周知の事実。

 わざわざ4番目の位置にシステマーを配置したのも、この最終手段を放つ時の味方への影響を配慮した結果。

 本来ならこの時点で魔王のみの生存となるはずだった。

 

「ところがどっこい、2番と4番が死んで、1番と3番が生きてるとは」

 

 盤狂わせもいい所だ。

 まあ、番号なんて所詮飾り。

 システマー以外は付与された数字に何の意味もない。

 強さだってほぼ同格。

 

「ぃよっ……と」

 

 瓦礫の山の頂上から飛び降りると、天辺にあった瓦礫がガラガラと崩れ落ちた。

 瓦礫とは言え、元があの巨塔。その高さは10メートルにも及ぶ。

 高さ10メートルをモノともせず、魔王はスタッと着地した。

 

「ええっとぉ……?」

 

 魔王は自分のステータスを開いた。

 ゴチャゴチャと数字や文字が連なるホログラムの右上を見て、時間を確認した。

 現実時間と同期している時計で、時刻は15時を回っていた。

 

「かれこれ2時間か」

 

 ゲーム開始は大体13時。

 魔王はほぼ退屈していただけだが、時間の流れがかなり早い――気がする。

 自身のステータスには興味を示さずに、ホログラムを閉じる。

 

「たくよォ……これで全滅したらどうすんだよ」

 

 現状を不服そうにして口元を曲げた。

 せめて決戦は自分の手で飾りたい。

 例え、魔王が「勝つ」としても。

 

「はぁぁ…………」

 

 重たいため息をつく魔王の下へ、1つの綺羅星が飛来してきた。

 搭乗者は、瓦礫の山とその前に立つ魔王を見て、高度を急激に落とした。

 そして、煌びやかに星を消滅させて着地した。

 

「…………」

 

 味方1人いない惨状に、2人とも声が出ない。

 塔が崩れる光景は、流石に移動中でも目に飛び込んできただろう。

 

「やっと来たか、歌姫」

 

 魔王直々のご指名に、そらは肩を跳ねさせた。

 

「残りは……アンタだけ?」

 

 面と向かって対話を試みるすいせい。

 既に、放たれる威圧感に圧倒されていて、全身が震えている。

 そらも同様に。

 

「って事は、途中でアイツら見なかったのか……何してんだマジで」

 

 回りくどい返答に聞こえるが、ただの独り言。

 武闘家も剣士も、どこで油を売っているのやら。

 

「なんか分かんない、けど……お前、魔王でおけ……?」

「オッケーだ」

 

 冷や汗を流して、大きく唾を飲み込む。

 

(マジで、威圧感パネぇ……)

 

 恐怖心を煽る威圧感を、闘志を燃やす事で和らげる。

 ……あまり和らがない。

 正直、2対1じゃ戦力不足すぎる。

 そらの力は詳細不明で発展途上。

 すいせいの能力も、お世辞にも強いとは言えない。

 

 この場にいる2人が、シオンとあやめなら、勝算があったかもしれない。

 様々な力が開花し始めた中でも、やはりその2人の戦闘力が抜きん出て強い。

 

「ただ、この際だから言っちまうけどよ、幹部全員を倒さねぇと、俺はどうやっても死なねぇのよ」

 

 2人は黙り込む。

 つまり、今こいつと戦うことは、無意味。

 なら逃げて、他の敵――奴の言う幹部を探す?

 そらに目配せをして、意思を尋ねた。

 

「さっきの燃えてるとこ戻ったら……いるかも」

「あたしも、いるならあっこしかないと思う」

 

 来た道を眺めると、炎は弱まり見えないが、立ち上る煙が視認できた。

 

「ありゃあ武闘家の仕業だなぁ……全身から発火する体質で、体術を駆使してくるぞ」

 

 魔王が解説してくれた。

 

「もう1人は剣士だ。なんでも透過できる体質で、剣術を使ってくる」

 

 ついでにもう1人の解説も。

 

「最後に、俺は魔王。便宜上、無敵の存在だ」

「……?」

 

 言っている意味は分からないが、魔王だけは、今戦う相手じゃない。

 

「俺だけは敵にしたくないって感じか?」

「っ……そ、そりゃぁね……無敵とか……そんなん無敵じゃん?」

「動揺しすぎだろ……まあ、それより――」

「「――‼︎⁉︎」」

 

 突如、魔王が消えた。

 瞬きした途端に、そらの背後に回っていた。

 

「俺ぁあんたと話したいんだがな」

 

 そらに手を伸ばしかけた。

 

 ダダダダッ――。

 

 と、星屑たちが魔王の全身を襲う。

 衝撃で砂塵が舞う。

 

「あたしじゃ不満?」

「俺ぁ歌姫の才を確かめてぇのよ、分かっか?」

「あたしも歌は得意な方だけど?」

「へぇそうか、なら試すか」

 

 え、やばい、マジで来んの?

 

 刹那――魔王がすいせいの背後へ回った。

 速すぎて目で追えない。

 身体の回転も間に合わない。

 背後に気配を感じた時にはもう手遅れ――

 

「ダメだなこりゃぁ……」

 

 背中越しに風圧を感じた。

 が、それだけで、殴られなかった。

 

「…………」

 

 恐る恐る振り返れば、背中に拳を向けていた。

 高さは丁度胸あたりで、命中すれば痛いで済まなかったが、寸止めな為、風圧だけが届いたのだ。

 

「――なんで止めた」

「あぁ? 死にたかったのか?」

「そうじゃない。分かんだろ」

「分かってるけど言えないって意味だ」

「そうですか!」

 

 ご丁寧な返しにすいせいはスターダストをプレゼント。

 全てが魔王に命中し、また土煙が舞うが、晴れた視界の中にいた魔王は無傷だった。

 

「さっきも大した奴がいなくて退屈だったところよ」

「さっき……?」

「ここで10何人とやり合ったが……あの鬼がギリ、俺に牙を突き立てられそう……って程度だったなぁ」

「ギリ届きそう……って事は、届かないって事?」

「だからそう言ってんじゃないの」

 

 退屈な日々に辟易するよ、と肩をすくめる。

 ホロメン側は急死に一生を得るような思いを何度もして来たと言うのに。

 個人の退屈凌ぎに、他人の命を巻き込まないでもらいたい。

 

「ってわけでよ、覚醒しろ、歌姫」

 

 そらに無茶振りをして指差す。

 覚醒しろと言われて出来るものではない。

 成長とは、一瞬で起こるものではない。

 

「無理とは言えないぞ? そん時は死ぬからな」

 

 魔王が消える。

 

「ぅ――」

 

 呻き声が風で飛んでいく。

 すいせいが振り向いた時、そらはいなかった。

 

「そらちゃん!」

 

 すいせいの絶叫は、そらが瓦礫に衝突した音で掻き消される。

 そらの身を案じて駆け出すと、風がすいせいを抜き去った。

 

「やめろ!」

 

 すいせいの叫びも虚しく、瞬足の魔王がそらに追撃する。

 追撃の反動でそらが飛んできた。

 

「ぐっ――‼︎」

 

 キャッチを試みた。

 そらがすいせいの胸部に激突し、2人まとめて後方へ吹き飛ぶ。

 地面を擦り、肌が焼けた。

 痛い。

 

「そらちゃん! しっかり!」

 

 そらに比べたら痛くも痒くもない、そんな傷。

 すいせいが肩を掴んで揺さぶると、小さく呻きながら眉をピクピクと動かす。

 こんなの何発も喰らったら、すぐ死んじゃう。

 

「うっぶ……ぅ、ぉえ……!」

「――⁉︎ そらちゃん!」

 

 そらが赤黒い血を口から吐き出した。

 地面に赤黒い血溜まりができた。

 その血溜まりから、黒くて禍々しい気が放出されている。

 

(なんだ……コレ……)

 

「俺はこのゲームの魔王だからさ、それっぽい力が付与されてんのよ。幹部を倒すまで無敵、大きくなる、闇魔法みたいなの使う、とかさ」

「闇魔法?」

「みたいな奴だって」

「何した!」

「なーに、殴った時にちょっと悪いの乗っけただけよ」

 

 悪いの、とは抽象的すぎるが、危機的状況である事に違いはない。

 

「このままだと次第に体力が奪われて、死ぬ」

「は……?」

「保って5分程度か?」

「――!」

 

 すいせいはそらを見た。

 抱えた身体は熱く、体重がほとんどすいせいに預けてある。

 不死の病に罹ったようだ。

 定期的に赤黒い血を吐き出している。

 吐き続ければ、血が足りなくなる。

 

「すいちゃ……」

「いい、喋んなくて。何とかするから」

「クライマックスの余興といくか」

「――ッ‼︎」

 

 魔王の遊び呆けた面と態度に鋭い眼光を突き刺した。

 

「でっかくなってやろうじゃないの、魔王らしく」

 

 2人の目の前で、魔王がみるみる巨大化していく。

 心なしか、体の各部位もより硬質になり、派手になり、全身は黒々としていく。

 完全に巨大化し切ったその全長は、5メートルほど。

 予想ほどのサイズでないにしろ、目の前にその巨体が立ちはだかる絶望感は先までの数倍。

 

「…………」

 

 すいせいの瞳に、畏怖が現れた。

 レッツ殺しと息巻いた事も忘れ、もはや戦意は喪失する。

 1人でなければ、戦った……。

 でも、すいせい1人に、コイツは無理だ……。

 

「呪いで死ぬ前に、殴られて死ぬか?」

 

 魔王の大きな拳が、そらとすいせいを纏めて標的にする。

 

(あ…………終わった……)

「すい……ちゃ……」

 

 バチィ――――

 

 紫電が疾駆した。

 拳とバリアが衝突し、大量の紫電が迸る。

 

「シオン……」

「お待たせ――!」

 

 2人の前で、両手を敵に翳し、必死にバリアを展開するのは紫咲シオン。

 荒野で縛られていた彼女が、何故?

 

「――! システマーが、死んだから……」

 

 システムが全て解除され、シオンの拘束も解かれたんだ!

 すいせいの目に希望が――

 

「根比べ? やってみっか?」

「ふん――っ!」

 

 バジバヂバヂッ――――。

 

 と、弾ける閃光が強く、凄まじく進化する。

 魔王がもう片腕を攻撃に追加しただけで、シオンのバリアが破れかけている。

 そうだ、今のシオンは魔力不足だった……。

 

「すいちゃん……逃げて……」

 

 シオンが全身全霊を振り絞りながら、背後に指示した。

 

「でも……」

「保たない……このままじゃ、全員死ぬ……」

「くっそ……」

「もともとシオンは捨て駒の予定。早く!」

「ごめん!」

 

 すいせいは瀕死のそらを抱えて、バリアを抜けると、謝罪を置いて中央の密林に逃げ込んだ。

 逃げ場が少ない難点は、隠れ易いという利点でもある。

 空も周囲も見えない森に隠れ、すいせいはそらを下ろす。

 それと同時に、爆音が響き、大地が揺らいだ――。

 

 

 

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