歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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106話 炎天下の月夜

 

 炎上する森の道。

 そこへ果敢に飛び込んだラミィは、冷気を放ちながら体温を調整する。

 敵を発見するまで走り続けた。

 

 そして……

 

「あぁ⁉︎」

 

 火の中から1人の男性が現れた。

 相手は早々に人相悪くメンチを切ってきたが、誤認だと気づくなり固い表情を解いた。

 

「なんだ、またアイツかと思ったよ、紛らわしいな」

「アイツ?」

「さっきまでずっと突っかかって来てた奴がいたんだよ。焼いても、蹴り飛ばしても、しつこく追ってくるもんでイラついてたんだ」

 

 …………だれ?

 分からない。

 

「そんな事より、丁度別の相手を探してたとこだ」

「――。ラミィでいい? 秒殺しちゃうよ」

「自信過剰だなあ。出来るなら構わんけど、多分無理だぜ?」

 

 メラメラと燃え盛る周囲の木々。

 通路にも火の手が回っている。

 この武闘家の付近は絶え間なく燃え続けているようだ。

 ぼたんの証言から、これは「発火」のスキルである。

 要注意は炎そのものではなく、エンジンだな。

 ラミィの広範囲制圧攻撃も、エンジンで逃げられては体力の無駄遣いに終わる。

 

 さあ、分析も済んだ。

 ラミィは早速右半身から特大の冷気を放射し始める。

 

「おぉおぉ、すげえ冷気だこと。絶対零度?」

「それは無理でしょ」

「はは、そうだよな。高温に比べて、低音は限界があるから弱いよな」

「そんなこと言ってると足掬っちゃうよ」

「掬われりゃせんけど、滑りそうだな」

 

 馬鹿げた言い合いで準備時間を潰す。

 さて、そろそろ――

 

 がさがさ……

 

「――⁉︎」

「……?」

 

 燃える茂みから音がした。

 武闘家が機敏に反応する。

 

 がさがさ、がさ……ずざ……

 

 音は止まない。

 何らかの生命体が迫って来る!

 

 その人は、燃え盛る茂みから、文字通り全身を焦がしながら現れた。

 

「――――」

 

 ラミィは驚愕のあまり声も出せなかった。

 その姿に戦慄する。

 全身が震える。

 あり得ない……。

 

「チッ、何なんだよお前、マジで――! どうやったら死ぬだよ! 不死身か、残機無限にあんのか⁉︎ あぁ⁉︎ しつけぇんだよ! いい加減くたばれよこのクソウサギ‼︎」

 

 ラミィの瞳に映る焼身人間――。

 全身を炎が纏って、苦しい筈だ。

 生きているのが不思議なほど。

 でも、その人は生きてここにいる。

 耳の概形が残っている、分かる――この人が誰なのか……。

 

(まさか…………アレからずっと、ひとりで……)

 

 受けた衝撃は感銘であり、悲嘆であり……。

 

「ぺこら先輩‼︎」

 

 咄嗟に叫んだ。

 ぼたんの証言では、トワと共に倒れた筈だが、生きて、今までずっと、この武闘家を足止めしていたんだ。

 

「ぁ…………ゃ……」

 

 喉が焼けて声も出せていない。

 でも……。

 

「…………」

「――⁉︎」

 

 笑った。

 至近距離でも顔が識別できないが、確かに笑った。

 その姿にまた、涙ぐむ。

 

「ありがとう……ぺこら先輩」

 

 仲間を見て安心したのか、ぺこらはその場で倒れ込んだ。

 

「……チッ、クソが」

「エルフの一撃――」

「――⁉︎ いきなりかよ!」

 

 予備動作は完了している。

 ぺこらの登場で敵の意識が逸れた。

 この好機を逃さない。

 

「――雪夜月」

 

 凍てつく雪夜のように。

 太陽の光が届かない、月夜のように。

 それはまさしく、光を無くした地球のように。

 氷河期を呼び起こす。

 

 刹那――

 

 ラミィを中心に、半径数メートルが氷に包まれた。

 ラミィから放たれる冷気が地を介して、接触する範囲内の全てを覆い尽くす。

 

「っぶねぇ――!」

 

 武闘家はエンジン発火で宙へ逃げ、間一髪回避。

 

「っ――」

「早まったな」

 

 隙をついた一撃必殺が失敗に終わる。

 エルフの一撃は火力こそ絶大だが、後の反動や大幅な体力の消耗など、リスクは大きい。

 ラミィの場合、反動の凍傷による機動力低下と体力の大幅な消耗のダブルリスク。

 

 エルフの一撃が諸刃の剣である事は周知の事実。それを見兼ねて、武闘家は早急に間合いを詰める。

 一度エルフの一撃を放ったとは言え、精霊術師(エルフ)との長期戦は悪手。

 速攻で勝負を付けにいく。

 

 エンジンでスピードの上がった武闘家の動きは、鈍ったラミィにとって脅威。

 小さな爆発が至る所で発生するが、武道家本体を捉えられない。

 煌めく夜空のような光景に動揺していると、脇腹へ強烈な蹴りが撃ち込まれた。

 

「い゛っ――」

 

 氷を緩衝材にして威力を抑えるも、高くない硬度。

 氷は粉砕され、蹴りもラミィに命中した。

 軽く地を滑りつつ、相手の脚を何とか掴もうと腕を伸ばした。

 右の脇腹に電撃が走るような痛みが発生する。

 

「あぁもう!」

 

 伸ばした右手は空を掴む。

 即座に距離を取られた。流石に戦闘慣れしている。

 

 また爆発が空間内で犇き、ラミィを惑わせる。

 そして蹴り。

 また爆発、蹴り、爆発、蹴り……。

 

「凍傷でまともに体が動かねえ癖して、反射神経はいいな」

 

 蹴りの尽くを氷で威力軽減する反射神経の鋭さを称賛する。

 でも、防戦一方では永遠に勝てない。

 どうにか……。

 

 また蹴りが来る。

 どこから来るか予測……できるはずもない。

 

 風を切り、蹴りが迫る気配を感じる。

 その付近の肌にまた氷を生成して緩衝材に――

 

「…………!」

「っ――⁉︎」

「てめっ――また……!」

 

 ラミィと武闘家の間に、倒れたはずのぺこらが割り込んできた。

 武闘家の足をぺこらの蹴りが弾いて、地面に衝突させる。

 2人に動揺が走る。

 感激と憤慨。

 

 涙をグッと堪えたが、ラミィの目元には凍った雫が煌めき続けている。

 

 パシっ、とこの最後の隙をついて武闘家の脚を掴んだ。

 ぺこらは勢いのまま地面に顔面から倒れ込み、動かなくなる。

 

「離せよ、オラ!」

 

 掴んだ脚から発火してエンジンをかけつつラミィを攻撃する。

 全身に軽い爆発と熱を感じるが、ぺこらに比べれば屁のかっぱ。

 

「ええい、観念しな!」

 

 全てを振り払う。

 

 騙されている事に、まだ気付いていない。

 思いもしないでしょう?

 エルフの一撃と、その技名を口にした。

 一度も見たことがない技なら、錯覚しても不思議はない。

 咄嗟の嘘で作り上げる保険が効いた。

 敵の言葉を信じた、あなたの負けだ。

 

「エルフの一撃――」

「――⁉︎」

 

 口を開けば信じ難い単語が。

 武闘家は最大出力で火を起こす。

 しかし、発火した瞬間に中和されるほどの冷気。

 先ほどの攻撃よりも、遥かに温度は低い。

 

「――雪夜月」

「有りぇ――――」

 

 世界が凍った。

 武闘家も、土地も、草木も、そこに寝ていたぺこらさえも――。

 氷が全てを飲み込んだ。

 

(これはゲーム、これはゲーム、これはゲーム、これはゲーム――!)

 

 ラミィは自分に言い聞かせる。

 そして右腕を大きく振るって――

 

「やあぁぁ――!」

 

 パリィーん……。

 

 ――凍った武闘家が大きく5、6片ほどに砕け、消えていった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 全身の震えが止まらないし、呼吸も荒々しくなる。

 寒すぎる……。

 寒すぎて、目眩が…………。

 足も、ふらつく…………。

 

 そんな揺蕩うような足取りで、ラミィは間近のぺこらの下へ歩んだ。

 がくがくと痙攣する足に鞭打って。

 

 辿り着くと、脱力して、凍ったぺこらに触れた。

 温かい…………。

 

「ぁぃ……とぅ……ざい、ま……ふぅ…………」

 

 唇も紫色になって、悴むから、言葉も真面に喋れない。

 寄りかかるように、ぺこらの上に倒れ込む。

 すると途端に眠気が襲ってきた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…………」

 

 抗うこともできず、ラミィは静かに目を閉じた――。

 

 直後――ぺこらはその場から消え去ったのだった。

 

 

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