歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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107話 人間――協賛

 

 心の動くまま走る。

 木々が密集する隘路を走り抜ける。

 背後から、シオンが必死に追いかけて来ている。

 

 先頭を行く者――星街すいせい。

 彼女はこの密林の中の道なき道にも関わらず、傷ひとつなく、ただ真っ直ぐに走っている。

 ただただ、魔王の元を目指して。

 

(遅えんだよバカヤロウ)

 

 これだけの犠牲が出て、ようやっと火が付いた。

 これだけ嘆いて、漸く決意が漲った。

 力がなかったとは言え、愚かな事。

 無力でも抗うことを諦めない人間にのみ、奇跡の力は宿る。

 

 ありがとう――お前のおかげで立ち直ることが出来た。

 行くぞ、ねねち。

 

 

 

          *****

 

 

 

 鬱蒼と生い茂る密林地帯を抜け、広間へ戻ると、巨大な魔王が瓦礫の山に腰を下ろしていた。

 すいせいの再登場に過敏に反応し、頭を上げる。

 

「あの歌姫は、死んだんじゃねぇのか?」

 

 自分の手で終わらせた人間くらい、分かる。

 その恐ろしく忌々しい闇の力で彼女をゲームオーバーへと導いた。

 

 すいせいに続き、憔悴したシオンも草木をかき分けて飛び出す。

 全身切り傷だらけにして、激しく肩で息をする。

 

 すいせいは魔王の言葉を無視して周囲に他の人影を探す。

 

「――――」

 

 やはりいない。

 じゃあ、さっきの感覚は――。

 

「フレアは……どうした」

「分かってて聞くのか、そりゃナンセンスだろうよ」

 

 魔王は重たい腰を上げる。

 すいせいとシオンの前に佇み、その巨体を見せつける。

 弱い人間は、ここで心挫かれ、戦意を失う。

 しかし、すいせいの中に宿った不屈が、心を奮起させ、逃げる事を許さない。

 シオンだって、どれだけ疲弊しても、もはや数分の命でも、抗うことをやめない。

 

「目つきの変わったサイコパス。最終決戦の前に少し話をしよう」

「――は? 何だよ急に――」

「いいから聞いとけ、損は無い」

 

 威圧を止めると、魔王はその場に腰を下ろした。

 威勢よく啖呵切ってここへ来たが、その戦意も削がれる自由っぷり。

 呆気に取られる。

 

「裏世界戦、アンタはジョーカーMとダイヤと戦ったな、仲間2人との共闘ではあるが」

「――⁉︎」

 

 すいせい以上に、シオンが目を鋭くした。

 何故知っている――。

 と言うか……あれ?

 

「お前たちって……人間?」

「ん? あぁ……そうか、海賊女だけか、知ってんのは」

 

 説明を端折ったが、独り言のようにそう呟き、また話題を変えずに続ける。

 

「それで、そん時、アンタは人形を使った。覚えてるか?」

「キショいなお前……覚えはあるけど」

 

 繊細に知りすぎではないか?

 どこから得た情報だ。

 

「神具は巫にのみ使える道具だ。それを何故アンタが使えたのか」

「――――」

「今は分かるだろ?」

 

 身体に流れる奇妙な感覚の正体は、つまり「そういう事」。

 

「アンタらは運良くここまで来た。奇跡的に覚醒の連鎖を起こすことで、苦難を乗り越えてきた――と思ってるか?」

「…………どう言う意味」

「偶然にしては出来過ぎだ。歌姫の存在の発覚から、短期間で不屈の覚醒。その他各メンバーの意識と能力の向上。更には今ここでアンタの――協賛の覚醒と来ている」

「協……賛……?」

 

 言葉の意味が分からない。

 偶然も奇跡も事実だ。

 協賛ってのも意味不明すぎる。

 

「魔法使いの方もタチ悪いのよ。薄々勘付いてんじゃないの?」

 

 シオンが眉を寄せた。

 

「じゃあ……」

「当たってると思うぞ、アンタの予想は」

「――何の話してんの」

 

 すいせいは自覚していなかった。

 新たに己の中に生まれた闘志と能力、そして侵入する何かを感じつつも、それの正体が判明していない。

 それをシオンは大方見抜いている。

 

「ゲームをクリアしたら、聞きな、ソイツと、上から見てる奴によ」

 

 上から見てる奴?

 ゲームマスターの事か?

 

「さ、話しはおしまいだ。決着をつけようか」

 

 一方的に始めて、一方的に切る。

 横暴だな。

 

「最後は正真正銘、全力で行かせてもらうからな」

 

 魔王が立ち上がった――瞬間姿が消える。

 そう錯覚する速度で風を切り、周囲を疾駆する。

 あの巨大からは想像もできない俊敏性、正しく魔王的。

 

 すいせいの目で追えない。

 シオンも立ち尽くすのみ。

 

 次の瞬間、巨大な拳がすいせいを襲った。

 目にも止まらぬ速度――。

 粉砕骨折する勢いで吹き飛ばされ、塔の残骸に直撃した。

 

「――すいちゃん!」

 

 飛び出そうとするシオンの前へ魔王が立ち塞がる。

 

「アンタは弱いな」

「――!」

「宝の持ち腐れだ、第6位」

 

 それを今言うか!

 クソ野郎……!

 

「――⁉︎」

 

 迫る拳を前に、手も足も動かせないでいたシオンの体を、何かが引き寄せた。

 赤い……糸?

 伸縮する糸に引かれ、シオンも瓦礫の側へと。

 

「痛い……治れ」

(もっと強く)

「な、お、れ!」

(そうじゃないよ、もっと優しく)

「文句が多い!」

「――?」

 

 すいせいが誰かと会話していた。

 

(いい? あたしの力は協賛。想いを受け継いで、繋いで、1つの大きな力にするの)

「だから――!」

(今使えたでしょ。望み方が違うの。もっと、仲間を思ってみて)

「仲間って」

(己がために使う力じゃない。その力は、人を救うための力)

「…………」

 

 すいせいは口を噤んで、仲間を想い浮かべた。

 パッと浮かんだのは、やはりちょこ先生。

 

「――っ」

 

 すいせいの、全身の傷が癒えた。

 

 よし、1発決めれば、あとは反復の練習だ。

 丁度いい相手もいる。

 

「シオンはここにいて」

「え――ちょっ――!」

 

 すいせいが一直線に魔王へ突撃する。

 軽い跳躍。

 着地の直前、足下に一つの星が生まれる。

 

「能力、スター彗星――」

 

 普通だ。

 これだけなら無鉄砲で無謀もいいところ。

 だが――シオンも魔王も、次の瞬間戦慄する。

 

「――×肉体強化×突進×不屈」

「「――⁉︎⁉︎」」

 

 すいせいは感覚で使っているが、シオンと魔王には魔力の循環まで見て取れる。

 使い過ぎだ。

 2つを合わせるだけでも負担が大きい。

 それを4つも――

 

「からの、現出『タロットNo.8』、タロットカード『STRENGTH』」

 

 否、追加で2つ。

 

「喰らえ――究極の一撃‼︎」

 

 すいせいが今発揮できる最大火力。

 正面から、魔王の顔面へのストレートパンチ――

 

 スカッ……

 

 ハズレ――

 

「追加で、捕捉!」

 

 外れたパンチが――いや、自分の身体全体が、あり得ない軌道修正を起こして拳が魔王にぶち当たる。

 

「うぉ……」

 

 ズダーン……と体勢を崩した魔王が大きく転倒した。

 

 効いてる……のか?

 確実にヒットしたし、いい感触もしたが、反応が何とも弱々しい。

 もっと大声あげて吹き飛ぶかと……。

 

 でも、これなら行け――

 

「ぶゔぅぉぇ………………ぇ?」

 

 突如、すいせいが大量の血反吐を吐いた。

 咄嗟に口元を手で覆う。

 その手を見れば、黒の手袋が真っ赤に染まるほどの血液量。

 

 途端に全身から脱力し、倦怠感が襲う。

 

「な……に、こ……!」

 

 蹌踉めく足を必死に張って、立ち続ける。

 鼻血が止まらない。

 血流が激しくなり、鼓動が破裂しそうなほど高鳴る。

 初めての体験。

 身体を……。

 

「――!」

 

 そうだ、身体を冷やそう……。

 

「――ダメだよすいちゃん! 逆効果だよ!」

 

 魔力の流れで未来を予知したシオンが警告する。

 あの流れはフブキが使う無錬金で雪を生み出す魔法だ。

 

 この吐血は唯の怪我でも発熱でもない。

 魔力消耗による負荷に耐えかねた人体が、警鐘を鳴らしている証拠。

 人体干渉でさえも、今は体に毒だ。

 

 覚醒したてであの重複魔法――当然の結果だ。

 だが……。

 

 この戦況を覆すには、すいせいに身体を張ってもらう他手は無い。

 でも、無策で飛び込んでは意味が無い。

 

「…………」

 

 シオンが知る限り、今の生存者は、ラミィ、ころね、みこ、すいせい、そして自分の計5名。

 すいせいが覚醒し、自力で魔法を制御可能となった今、シオンが他人の操作を行う必要性は最早無い。

 であれば、覚悟は決まる――。

 

「流石に効いた……ちょっといてぇ」

 

 魔王が頬を摩って悠々と起き上がる。

 随分と余裕そうだ。

 

(宝の持ち腐れだな、第6位)

「…………」

 

 宣告の言葉を想起する。

 

「…………」

 

 そうだよ。

 知ってるよ、自分が愚かな事くらい。

 いつも上から目線で、いつも保護者ヅラして、まるで仲間をこれっぽっちも信じていないみたいに……。

 自分は強い自覚がある。

 だからいつも、護らなければと格好つけていた。

 

 もう、いいんじゃないか?

 全てを自分で背負う必要なんてない。

 偶には仲間に自分を預けてみても、バチは当たらない。

 

「すいちゃん、今からシオンを生贄に黒魔術用の血をすいちゃんに直接錬金して移す」

「は――⁉︎ 生贄⁉︎」

「問答してる暇はない。今の魔力じゃすいちゃんは戦えないから、シオンを糧に勝利を掴んで」

「そんな――」

「大丈夫! シオンが考え改めるくらい、みんな強くなった。今のすいちゃんなら、アイツも倒せる!」

 

 過小評価も過大評価もない。

 ホロメンは仲間を慮り、いつも行動が後手に回っている。

 そろそろ仲間を信じ、今のホロライブの強さを自覚するべきだ。

 

「それに――みんな、ここにいる」

 

 シオンがすいせいの平たい胸を指さした。

 すいせいの中で幾多もの鼓動が鳴り響く。

 

 魔法陣が展開され、中央にシオンが立つ。

 眩く紫苑色に輝き、光に包まれ――

 

「全てを託すよ。勝ってこい、協賛の歌姫」

 

 シオンの消失と連動し、すいせいの中に膨大なエネルギーが流れ始める。

 

「本当の最終決戦、行くか」

「――――」

 

 すいせいは静かに瞳を閉じ、3秒ほどして、開く。

 

「ああ……孤独の魔王」

 

 

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