歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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108話 超越

 

「さあ来い協賛の歌姫‼︎」

「全力でお前をぶっ殺す‼︎」

 

 デスゲームもクライマックスを迎える。

 シオンが自らを犠牲とし、すいせいに力を授けた。

 これより、最終決戦が始まる。

 

 秒速約100m。

 視界から魔王が消えた。

 

 助けて狂人――

 

「蜘蛛の巣」

 

 すいせいの周囲を粘性の糸が覆う。

 やれる物ならやってみろ。

 

「大魔砲‼︎」

 

 7時の方向で魔王が動きを止め、口から特大の咆哮――をビーム化した砲撃を放つ。

 逃げれるような小規模攻撃ではない。

 

 手貸せや――

 

「神具・注連縄、超結界」

 

 すいせいを中心に球型の結界が展開。魔王の光線が決壊と衝突して激しい閃光と火花を撒き散らす。

 荒々しく空気を切り裂く光。

 やがて大魔砲は弾けるように消滅した。

 

 カモン、フレンド――

 

「能力、開拓」

 

 蜘蛛の巣を貫通してすいせいは魔王へ向かった駆け出す。

 

「大地震」

 

 魔王が一歩、力強く踏み込むと全世界が大激震。

 足場が震え、地割れが発生。地下水が噴き上がり、すいせいは地上に立てなくなる。

 

 頼む陽キャ――

 

「能力、浮遊」

 

 全身が軽くなる。

 こんな感覚なのか。

 そしてプラスで、スター彗星。

 星に跨る。

 浮遊を切り、魔王から一旦距離を取った。

 

「動くな!」

 

 すいせいは絶叫した。

 喉が枯れる程の声量で。

 

「――?」

 

 一瞬、痺れるように全身が身震いを起こす。

 が、魔王は意に介さず視線の高さにいるすいせいを狙い飛び出した。

 秒速約120m。

 

 Hey、道化師――

 

 すいせいの右手にメガホンが生まれる。

 メガホンを口元に当て、拡声のボタンを押しながら息を大きく吸う。

 

「『動くな‼︎‼︎‼︎‼︎』」

 

 刹那――秒速の動きが停止する。

 魔王の全身には、先ほどの小さな痺れから一転、脳にモスキート音が響くような身体機能の麻痺を感じる。

 腕も、脚も、頭も、口も、どこもかしこも動かない。

 

(誰の力だ……?)

 

 流星の如く、すいせいが魔王の下へ飛来する。

 気が付けば、メガホンから一本の刀に変わっていた。

 見覚えのある刀。それは、羅刹だ。

 更に肉体を強化して――

 

「鬼神一刀流、鬼門・閉」

 

 5秒にも満たない攻撃モーション。

 その隙に魔王の身体に掛かる呪縛が解けてしまう。

 しかし、半歩手遅れ。

 両腕で急所を覆うようなガードをするに留まる。

 

 ザシュッ、と初めての感触が刀から腕に伝う。

 刀で人を斬るとは、こんな感覚なのか。

 

「ぐっ――」

 

 可能ならクビでも切り落としたかった。

 だが、防御に阻まれては決定力に欠ける。

 読めない一撃分のダメージよりは、読める一撃を。

 即座に狙いを首や心臓からズラして、腹部へ。

 星の高度を急激に落とし、魔王の巨大な腹に横筋一閃。

 

 深めの傷を与え、腹部から出血させた。

 傷さえ与えればこっちのもんだ。

 後は外傷に触れればすいせいの勝ち。

 

 道化師、もう1発――

 

 手中にある刀がメガホンへ早戻り。

 口元に当て――

 

「うごっぉ――」

(…………は?)

 

 声ではない、生暖かい何かが口内から飛び出す。

 全身が一瞬火照ったかと思えば、見る見る血の気が引いていく……。

 

「っだ……盛り沢山な力だが……あー……かなり負荷が大きいんだな、協賛」

 

 腹に手を当て、傷の様子を確かめる。

 血も出たし、かなり深いが、致命傷ではない。

 まだ死なない。

 

「しかも、一部のスキルはコピーできないみたじゃないの」

 

 身体機能を利用したスキルなどはコピーできない。

 ころねの超人的なパワーや、マリンのオッドアイ、他にも精霊との対話を必須とする精霊術も扱えない。

 

「的がでかいと困るな」

 

 そう呟くと、魔王は元のサイズに戻る。

 

「っぱこっちだよな。しっくり来るよ」

 

 やはり、傷を与えても随分余裕そうだ。

 本気本気と言い続けて、まだ本気を出していない様子。

 こいつ、パラメーターの底が見えない。

 どれだけのスペックを隠しているんだ。

 

「大爆風!」

「――!」

 

 ガツンと拳を打ち鳴らし、全身を力ませる。

 直後、右腕を全身全霊で振るった。

 

 人の力とは思えない風圧が一直線に押し寄せ、全ての糸を吹き飛ばし、すいせいすらも吹っ飛ばす。

 

 口と鼻から血を撒き散らしながら飛ばされる。

 

 まずい……キング……

 

「コンフリクトアイス」

 

 雪の壁で自身をキャッチし、大きな衝撃を避ける。

 が、反動でまた出血が増える。

 心臓が苦しい。

 

「適合しない力を無理矢理導線引いて使ってんだから、そらそうなるわな」

 

 速い疲弊も当然だと、魔王は腕を広げた。

 そのまま正面で両手を叩き打ち鳴らす。

 バァァンッ、と轟音が轟いた。

 

 すいせいの口、鼻、耳から血が流れ出す。

 5感のうち3つが潰された。

 

(クッソ……)

「じっッ――ぶはっ――」

 

 言葉一つで殺せれば苦労はしないか……。

 更に吐血する。

 これ以上無駄に身体を壊すわけにはいかない……。

 遠距離戦闘は望めないか。

 

 すいせいが力強く地を蹴り、魔王へ特攻する。

 

「第6感ってのは5感あってこそ使える感覚なのよ。つっても、聞こえちゃいねぇんだろうけどさ」

 

 聴覚、嗅覚が効かない今、人の気配なんて感じれない。

 見失えば、最後――

 悟った時には、手遅れだった。

 

 魔王の姿が無い。

 妙な風を感じる……周囲を走っているのか。

 自分の位置を特定させない為に、円を描くように走り続けている。

 姿は見えないが、捕捉の能力でどっち方面に回っているかは分かる。

 きっと円の中心地から一点を狙い撃つことはできない。

 捕えるなら……

 

「蜘蛛の大釜」

 

 描く円の通り道に、糸のトラップを仕掛け、それを反対方向に回す。

 ぐるりと一周。

 でも掛からない。

 

「小物しか狙えんぞ、そんな網じゃあ――」

 

 刹那にも満たない時が過ぎ、魔王の拳がすいせいの背後を撃ち抜――

 

「能力・姫の威厳」

 

 撃ち抜けない。

 殴りたい、でも寸前で身体にブレーキが掛かる。

 

「……新手のテレパスか――」

 

 瞬時に能力のカラクリまで見抜き、魔王は距離を取る。

 ルーナの使う能力、『姫の威厳』。

 物理攻撃をさせない能力、だと数多の人間が勘違いする。

 正確には、攻撃が命中する寸前に、敵の脳に直接停止命令を下す、ある種のテレパシー。

 だから、遠距離攻撃や、人の手を離れた道具による攻撃は防げない。

 

 今だ、悪魔――

 

 すいせいは力強く拳を握り、背後に飛んだ。

 魔力酔いで平衡感覚が危ういが半回転。

 右手を真後ろの魔王に――放つ。

 

「ぉっ、と……」

 

 先刻負傷させた腹部を狙った一撃。

 普通の人間なら、屈めば顔面に、飛べば股間に当たる絶妙な位置。

 でも相手は普通とは無縁の怪物だ。

 その体躯をまるで軟体のように柔軟に逸らし、膝から上を地面と平行に。

 すいせいの拳は空を裂いて、無限大の風圧を巻き起こす。

 

 放たれた風圧は、勢力を保ったまま後方の瓦礫の山を粉砕して遥か彼方へと遠ざかってゆく。

 

「あんたの動きは、魔力の流れで基本的に予測できる。まだまだ甘いぞ」

 

 魔力を感知できてこそ一流。

 魔力を扱うだけは二流だ。

 

「そういう意味じゃ、あの海賊は魔力がねぇもんだから、動きが読めなくて厄介だな」

 

 と、魔力が無いことの利点を口にした。

 が、結局それも、今のすいせいには聞こえない。

 耳は人体干渉で治せるが、聴覚を取り戻す為に大きく体力を削るのは、勿体無い。

 

「この近距離じゃ外さねぇぞ」

 

 魔王が口をがらんと開く。

 口の奥底から、黒と白の混ざった光?が溢れ出し、口元に溜まる。

 それも僅か数秒で。

 流石にどうすることも出来ない――。

 

「大魔砲」

 

 特大ビームがすいせいの全身を焦がす。

 熱く冷たい。

 冷たくて焼けるのか、熱くて焼けるのか、分からない。

 全身が溶けるように痛い。

 全身に殴打されたような衝撃が駆け巡る。

 

 ………………。

 

 どさっ、と後方へ吹き飛んだ挙句、受け身もなく地に転がった。

 

「…………」

 

 意識がない。

 

「死んだか……?」

 

 魔王は神妙そうに顔を顰めた。

 生命体としての身体活動を感じ取れない。

 でも、これはゲームで、死んだら消滅する仕組みのはずだ。

 この場に存在し続ける限り、生きている証拠となる。

 生死の狭間で彷徨っているのかもしれない。

 

 どっちに転んでも……いや、生き返る、に転べばクソ面白い。

 魔王は様子を伺う。

 

「………………」

『あーあ……ダメだなぁ』

「………………」

『いい器なのに』

「………………」

『やっぱりあたしより、あの子なんだね』

「………………」

『でも今は、頑張ってくれないと』

「………………」

『ほら起きて、とびきりの力を貸してあげる』

「…………」

『正念場だよ』

「……」

『すいちゃん』

「――」

 

 

 天から眩い日からが降り注ぐ。

 陽光ではない、まるで天の光。

 すいせいの倒れた身体が、そのまま宙へ浮き始める。

 髪も、血も、肌も、全てが光を反射して、神々しさが増す。

 光がすいせいを抱擁し、まるですいせいが光を放っているように錯覚する。

 次第に輝きは増し、目は眩み、すいせいの姿が光に埋もれていく。

 

「なんだ……」

 

 光の塊の中から、はらはらと何枚かの羽が舞い落ちる。

 平和を象徴するかのような、白い羽。

 

 そして、まもなく光の中から翼が生まれた。

 

「おいおい……」

 

 真っ白に染まった二翼が太陽光と間近の発光を反射して煌めく。

 その羽はまるで天使のそれだ。

 

「プリキュアかよ……」

 

 次の瞬間――光が弾け、中からすいせいが現れた。

 服装が今までと違い、プリンセスのようで、それでいて戦闘を意識した機能性のある衣装。

 女児の憧れる女戦士のように。

 加えて目を見張るのは、突如生えた双翼。

 双翼は、すいせいから生えているように見えて、実際には背中と羽根にはほんの少し空間があった。

 分かりやすく言えば、アキロゼの髪のような感じだ。

 

「…………」

 

 全てを超越した歌姫が、この地球の一生に一度だけ、ただこの瞬間にだけ生まれた。

 

 

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