歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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109話 ゲームセット

 

 超越――。

 その言葉は、ある二つの存在に対して使用される。

 

 世界の種族分類を覚えているだろうか?

 天界が発祥の、巫、天使、天神。

 魔界が発祥の、鬼、アンデッド、悪魔、魔神。

 地上が発祥の、人、獣人、超獣人、魚人、エルフ、妖怪。

 

 天界の神、天神。魔界の神、魔神。

 この2種族は世界の中に指折りで数える程しか存在しない。

 しかし、その力や世界への影響力は絶大で、指一本で天地をひっくり返すほどの実力を持つ。

 そんな神格化された種族は、時に神をも越える力を発揮する事がある。

 それが超越。

 

 超越は神達が己を超えた時に起こす。

 4人の魔神と2人の天神のみが発動する、天災である。

 

 

 

          *****

 

 

 

「――あたし、何してたんだ?」

 

 目が醒めると、眩い世界が広がっていた。

 眩い光景の中に、1人の男が立っている。

 

「ああ、そっか」

 

 アイツを倒しに来たんだった。

 っつか、クソ眩しい。

 何がこんなに輝いてんだ?

 

「ああ、自分か」

 

 魔王の攻撃が直撃し、死にかけた。でも生きていた。

 これも「その内のひとつ」なのか。

 

「それが最終形態か? 乙女戦士してんのな」

 

 機動力のあるフリフリ衣装に身を包むすいせいを見上げ、魔王が苦笑した。

 

「ごめんけど、お前を倒すのが目的だから、喋る暇ないみたいだわ」

 

 すいせいが大きく両手を広げた。

 右手に黒紫のエネルギー玉を、左手に白黄色のエネルギー玉を生み出す。

 反発する2つの力が、弾け合う。

 両立なんて不可能な、魔力と聖力だ。

 

 虚式みたいな攻撃手段。

 反発する2つの力を魔王に放った。

 暴発するエネルギー同士が互いを呑み込み、侵食し合い――無が生まれた。

 世界が真っ白に染まり、激しい耳鳴りが響く。

 更に、周囲の物体が、上下左右も分からない白世界の中、とある一点に引き寄せられる。

 

「ブラックホール?」

 

 技名が疑問系とは、実に異質。

 矛盾する言葉、白のブラックホール。

 全てを吸収する重力の塊が飲み込めない白の光。

 

「まだ早いってーの!」

 

 白い稲妻が発光する世界で、魔王はブラックホールを強く握り込んだ。

 右手で握り潰すように握力を強める。

 

「ぐぎ…………」

 

 ――――。

 

 世界に白以外の色が帰り、ブラックホールは姿を消した。

 すいせいは地上を見下ろす。

 魔王が右腕に大火傷を負って倒立していた。

 すいせいがその姿を発見すると同時に、魔王は平衡感覚を失い転倒する。

 

「どうなってんだ」

 

 物理法則なんて無視。これぞ神の所業。

 

「死ね――」

「――‼︎」

 

 冷静に、冷酷に、呟いた。

 魔王の首が吹き飛んだ。

 その光景がコマ送りで脳内に焼きついていく。

 頭が空中に弾けてんで、回って、回って、回って……弧を描き、高度を下げて、地に転がる。

 

「――」

「生き返んなよ、バカ」

「んあー、酷いし、惨いし、滅茶苦茶だなぁおいよぉ」

 

 グチュグチュと不快な音を立て、魔王の頭が置き去りにした胴体に吸い寄せられ、再生した。

 再生した頭だが、早速両耳から流血している。

 

「それはズルいだろうよって」

「でも楽しいし、いいや」

 

 すいせいの言霊の力の防衛手段として、再生早々両耳を破壊した。

 本当に分析力も高く、機転も利く。リアルでは決して相手にしたくない。

 

 魔王が土を撒き散らして飛び出した。

 宙に高く跳び、更にぺこらのように空を蹴る。

 秒速150m。

 早いくせに小回りが効く。目で追えない。

 

 拳が迫るが、空中で身を翻し回避。

 驚愕の反応速度に度肝を抜かれるが、直ちに追撃する魔王。

 脚、額、拳、光線とあらゆる手段を用いて肉薄するが……。

 

 何一つ攻撃が当たらない。

 魔王は瞠目し、一度距離を置く。

 

(何故だ……魔力の流れは読まれていないはずだ。未来視が可能な生物だって、この世に1人しかいない。反射神経の賜物とも思えない……なんなんだ)

 

(なんで? 動きが分かる……。未来なんて見てないし、動きだって予測できないし、速すぎて目にも止まらない……。でも、分かる)

 

 ――――――――。

 

(ああそっか……世界は自分の思う通りに造られるんだ。自分が望めば、ある程度の事は現実になるんだ。これが、創造神の能力――)

 

「あははっ」

「――っ」

 

 すいせいが愉しそうに笑う。

 虚式の次は太陽神のつもりか?

 何をそんな、ジャンプジャンプしてるんだ。

 

「お前の残機って、幾つあんの?」

「一応3つだな。今一回死んだから、あと2つだ」

「そうかぁ、あと2回殺せばいいのかぁ」

「乙女戦士がしていい顔じゃないってのよ」

「あはははっ、身も心も躍動してさ、ハイになってんだってぇ……でさぁ、なんで聞こえてんの?」

 

 耳を破壊した魔王は当然のように意思疎通を図っている。

 言霊を聴覚の遮断で防げると見抜いた事は見事だった。

 

「言葉を全て吹き出し表示してるんだ。ゲームならではだな」

 

 NPCと会話する時と同じ容量。

 ボイスの無いキャラの言葉が分かるのは、制作側が文字化してくれているから。それをその場で行っているだけ。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーー」

「それは意味ない」

 

 吹き出しが視界を遮るのなら、少しは有効活用できるだろうか。

 そう思い大声で叫びながら距離を詰めたが、なんの意味もないらしい。

 軽々と回避する、事を見越して拳を寸止め、からの回し蹴りに転換。

 予測位置ではないが、命中した。

 ぺこらに借りた抵抗力のおまけ付き。

 

「身体能力まで爆上がり。いよいよだな」

「ほらよ、さっきまで喰らってた分、お返しだ」

 

 追い討ちをかけ、右の拳を1発打ち込む。

 思い通りに事が運ぶ。

 ゲーム開始から、現在に至るまでに得た負傷を力に変えた。

 その破壊力は絶大。

 魔王は100メートルほど吹き飛んだ。

 

「瞬間移動ができれば楽なのに」

 

 攻撃後に開くこの間が煩わしい。

 今でこそ、100メートルなら5秒ほどで走れるが。

 

 彗星の如く、一直線に魔王の下へ。

 今、魔王には触れる事が可能な位置に傷がある。

 つまり、触れば(たお)せる。

 

「人体干渉だろ! 喰らわんからな!」

 

 危機察知も一流。

 迫り来るすいせいの両手を警戒し、後方に引く。

 

「ってな感じで避けるタイミングで、こう」

「――⁉︎」

 

 パチンと手を合わせば、魔王とすいせいの位置が入れ替わった。

 予測不能な展開に、魔王は判断が遅れ、1、2秒ほどは後方へ引き続けていた。

 気づいた時には、やっぱり手遅れ。

 魔王の行動は、全てが後手に後手にと廻っていて、少しずつすいせいに遅れをとり始めた。

 

「人体干渉」

 

 魔王の傷が張り裂けるように拡がり、目にも止まらぬ速さで血飛沫を上げた。

 華々しく神々しい衣装には似つかわしく無い、残虐なまでの返り血が付着する。

 視界も赤く染まった。

 

「あと一機」

 

 すいせいの戦闘スタイルに翻弄され、瞬く間に二つの命を失った魔王。

 本気も通用しないと分かった今、最後の命でどう諍ってくるのか。

 そして、すいせいも、最後はどう斃すのか。

 

「血塊」

「――ん!」

 

 すいせいから滴る鮮血が、乾き、力強く固まる。

 まるですいせいを束縛するように。

 

 様々な能力を掛け合わせ、怪力を使っても、その血塊は微動だにしない。

 

「力ではどうにもならねぇよ、その魔法はよ」

 

 弾けた魔王がみるみる再生して、再形成される。

 力量差では敵わないと判断し、別の戦術でアプローチをかける。

 そう、闇魔法。

 

「偶にはお前も一発喰らいなっての」

 

 全力で踏み込み、利き腕の右を振り翳す。

 アイドルの顔面を狙って拳を放つ。

 すいせいは無抵抗で真正面から受け止めた。

 多分、普通なら頭蓋骨が砕けていた。

 

 四肢を束縛されたまま密林の樹木に激突した。

 

「悪いけど、痛くないし、無傷」

 

 すいせい自身、正直理屈が分からないが、痛覚などないように何も感じない。

 衝撃は感じたが、傷痍もなければ、衄血すらなし。

 俗に言う、無敵状態。

 

「スターでも取った?」

「まあ、元々星だし」

 

 魔王からすれば絶望でしかないが、豪く嬉しそうだ。

 

「無敵とは言っても、例えば穴に落ちたりマグマに落ちたら死んじまうのよ」

「それはゲームの話でしょ」

「何言ってんだ、これは立派なゲームさ」

「ああ、ああ、そうでしたそうでした」

 

 無敵を漢字のまま直訳すれば、敵が無い。

 敵と呼べない、無形物の脅威からは逃れられないと言うことか?

 

「まあ何しても、無駄だけど」

「そうかい」

 

 すいせいはサッと身軽に立ち上がり、腕や脚、お尻の辺りの砂汚れを払った。

 そして、「さて……」と呟き、しばし唸る。

 

「最後は綺麗にアレだね、魔力玉で決めようか」

 

 シオンの力も使える今、コストと威力を鑑みた時に放てる、最もコスパの良い技がこの「魔力玉」。

 

「アンタって、リアルでも魔法使うの?」

「ふっ、そうだな、これで終わっちまうなら、名乗っといても良いかもな」

「――」

「俺は『サタン』。世界に4人しか存在しない、魔神のうちの1人だ。今後出会うことがあれば、宜しくな」

 

 すいせいは小さく首肯した。

 この境地に達しても尚、無視できない奇妙な魔王の気迫。

 しかし妙だ……。

 何を目的に、こんなクソゲー企画に加担しているのか。

 しかも、様子から、勝つ気がない。

 

「すぅー……ふぅー……」

 

 いや、分からないことは考えるな。

 

 すいせいは深呼吸で心を落ち着ける。

 

 魔力玉。

 人の魔力を貯蓄する攻撃魔法。

 親和性のある魔力を吸収し、その力は上乗せされてゆく。

 そら、AZKi、すいせい、メル、フブキ、はあと、アキロゼ、まつり、シオン、あくあ、ちょこ、あやめ、スバル、おかゆ、ころね、ミオ、フレア、ノエル、ぺこら、わため、ルーナ、トワ、ねね、ぼたん、ポルカ、ラミィ。

 ホロメンの中で魔力を持つ計26名。

 この場にいない2名を引いて、24名。

 この数の魔力を上乗せすれば、相当な破壊力になる。

 本来は各メンバーが魔力玉に触れるか、攻撃する事で魔力を貯めていくが、自身の中に仲間の欠片を宿すすいせいには、不要な作業だ。

 

「魔力玉」

 

 両手を正面方向に翳し、念能力でも使うかのように魔力を発生させる。

 バチバチとシオンを彷彿とさせる紫電が弾け、魔力の塊が増幅してゆく。

 

「それ、避けてもいいか?」

「無理でしょ。こっちには捕捉があるし」

「そうだったな」

 

 魔力玉が形成され、間も無く射出という時、素朴な疑問を魔王が発した。

 しかし、ぼたんの能力で回避不能。

 受けて耐え切る他、道はない。

 

「Go」

 

 若干ネイティブな発音と共に、魔力玉が射出された。

 地面と平行に、地を抉りながら一直線に照準先へ。

 

 魔王は動じず、いつまでもクールに。

 身が焼かれる寸前まで呼吸を整え、己に触れる間近――右拳で球を殴り返すように、衝突させ対抗する。

 魔王から流れる魔力が、すいせいの攻撃に反乱を起こし、敗北に抗う。

 今攻撃ができれば、不意を打って倒せるが、すいせいが動けば緻密に錬成された魔力玉は発散してしまう。

 

 魔王が倒れるか、魔力玉が破壊されるか。

 そのどちらかに限り、すいせいは次の行動を起こす。

 

 紫の稲妻が迸り、すいせいの頰を焼く。

 そして魔王の右腕も。

 魔王の右腕が悲鳴を上げ、徐々に黒ずんで行く。

 右腕だけでは力不足と判断し、更に左腕も防御に回す。

 ジリジリと後方へ押され、両腕の燃焼も速度を増す。

 

 が、それを代償として、魔力玉を今にも跳ね返しそうだ。

 魔王の筋肉が増強され、魔力が向上し、最後の力が絞り出されて……。

 

「返すぞ、これは」

 

 ダメだ跳ね返される――。

 魔力玉を自ら破壊して飛び出しかけた時、

 

「こおねと――」

「ラミィの分――」

「「上乗せじゃぁー――‼︎」」

 

 2人の影が間に差し込み、魔王の対面から魔力玉を蹴り込んだ。

 蹴りによる弾力と、2人分の魔力玉の強化。

 

「わりこむな、よ――躾がなってねぇぞ!」

 

 たかが2人分、されど2人分。

 この加重で魔王のキャパを超えた。

 魔力玉はグングンと魔王を押し返し、しまいには魔王の腕を破壊して、消滅させるかの如くその場を通過して弾けた。

 

 抉れた土地の上に、ラミィところねが立っている。

 そして、魔王の姿は消えた。

 

『討伐完了。直ちにスタート地点へ戻り、クリアボタンを押してください』

 

 と天の声からアナウンスが響いた。

 

 敵幹部、魔王。

 全ての標的を倒し、今戦いが終わった。

 

「ねぇラミィ」

「ねぇころね」

「「……あれ、すいちゃん?」」

 

 プリキュアのような衣装に身を包み、後光すら発するほどの背中から生える天使の羽。

 しかも、先までは魔力玉を扱っていた。

 到底この世の生命体と思えない多種混同体。

 

 ラミィところねは、ひそひそと小噺を始めた。

 その時――

 

「が、はっ――ぁ――」

「「すいちゃん⁉︎」」

 

 血涙、鼻血を流し、大量に吐血し、すいせいが倒れ込んだ。

 華々しく神々しい衣装が塵のように消滅し、羽もまた光となって空へ昇ってゆく。

 ラミィところねが駆け寄った時には、すいせいの身体そのものも、消滅してしまった。

 ただその場に、大量の鮮血を残して。

 

「……スタートに戻ろう」

「うん」

 

 2人は至急、クリアボタン目指して駆け出した。

 

 そして、数分後――甲高いホイッスルオンと共にゲームは終了を迎えた。

 

 

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