社長との面接。
凄く優しそう。
一次審査を通ったのは正直奇跡だ。
コネ入社なんて言われたらきっと耐えられないからわざわざ表面上は断ったのに。
まるで見えないところから支えられてるみたい。
ゲーム? 好きです。
配信? したことないけど人と話すのは好きです。
アイドル? 最近興味を持ちました。
その理由? 友人がやっていたので。
つい先日のライブだって陰ながら見ていた。本人には言ってないけど……。
とても楽しそうだった。
純粋な感想以外に出てこないほどに。
本人は満足できてなさそうだったけど。
長くない二次審査。
結果は二週間以内の通過発表をもっての報告となる。
気長に待つとしよう。
それと、その間は家族以外に他言無用でいこう。
*****
そらに続く二人のソロライブは成功だと、誰もが褒めてくれる。
確かに二人ともうまく仕上がっていた。
歌声も良く通った。
ダンスも失敗しなかった。
歌詞も間違えなかった。
ステージアクションもファンサもそこそこできた。
ファンのみんなも喜んでたし、ライブありがとうの配信でも賞賛のコメントをもらった。
当然うれしかった。
でも自分から言わせてみれば成功ではない。
あの時、心に穴があった。
その小さな穴がライブの質を下げた。
誰にも気付かれないこの不完全燃焼感。
アイドルとしてステージ上に私情を持ち込むなんてあり得ないことなのに……。
こんな不完全な気持ちの私を賞賛されるなんて、申し訳が立たない。
それなのに、この心を治療する方法がない。
配信でも私生活でも一切この感情を持ち出さない。
だから誰もこのことを知らない。
一人このまま、心に小さな空白を持っていくのだと、確信した。
――のだが。
――根本から私が間違ってた。
*****
新たなメンバー。
それを聞かされてわくわくした。
どうやらゲーマーズに初めてのメンバーが入るらしい。
フブキ以外のメンバーの参入で初めて組織が起動し始める。
微かな寂寥感を抱えつつもその新たなメンバーに期待を寄せていた。
人数も多くなり始めたため、全員集合での顔合わせ会はもうやらないらしい。
だからもし今後誰か入ることがあるなら、積極的にこういった場に顔を出す必要が出てきた。
現在、先行してリーダーであるフブキだけが待機している。
まさかそれが、自分にとって凄くありがたい時間になるとは、思いもよらなかった。
「失礼します」
「え」
礼儀正しい一声。
扉のノックの後にそっと扉が開く。
フブキはその声に聞き覚えがありすぎて拍子抜けた声が漏れた。
現れるのは見覚えのありすぎる少女。
和の色が濃いめで神社で働いていそうな独特な服装。
長い黒髪に少しのメッシュ。
尻尾と耳は犬科――細かく言うと狼。
いつも見ていた琥珀色の瞳。
最近疎遠になったと思い込んで、勝手に寂寥感を抱えていた理由の相手。
「今日から、ホロライブゲーマーズに所属します。よろしく、フブキ『先輩』」
ミオ。
彼女の名前は、大神ミオ。
自己紹介してないのに分かる。
分かるに決まってんだ。
部屋に二人きりな不自然さ。
ミオが事前にマネージャー達に打ち明けていたために成立する。
その与えられた空間が、フブキは神からの贈り物かのようにも思えた。
そして実は、打ち明けた本人、ミオも。
「何で……?」
後ろ手に扉を閉めるミオは終始微笑んでいて、ドッキリ大成功、と言いたげだ。
「あの時断ったのに」
同じ高さにあるはずの目を少し見上げている。
フブキの視線は、ミオの目に釘付けで、歩み寄ってくる彼女から一瞬たりとも背けない。
「嬉しいけど……何で嘘なんか」
以前、自分が誘ったときの話だ。
あの時、フブキは断られた。
それは確実。
あの時ミオは、勧誘したフブキに対して「アイドルは向いてないし、興味ないかな」なんて言っていた。
断られたことのショック――まるで失恋のような衝撃が(失恋の衝撃などは知らないが)強すぎて頭にくっきりと焼き付いている。
あの時の言葉が嘘だったことはおそらく事実。
でもだからといって怒ったりはしない。
「いいねえ、そのびっくりしてる感じ。うれし」
立ち止まったと同時、やっと喋り出す。
「何で?」
「あーはいはい、話すからちょっと待ってよ」
止まない何でコール。
フブキの動揺は明らかだ。
ミオも少しばかり楽しんでいたが、それと同じくらいの安心感と罪悪感があった。
「ウチね、フブキが何かしてるって言うのは結構早く気付いたんだよ?」
「うん」
「最初は密かに応援してようと思ったんだけど、日に日に距離が離れていってるような気がしちゃって、そしたらちょっとだけ寂しくなっちゃって……」
「……ミオも?」
「そう。だからこっそりフブキのこと調べて、アイドルのこともホロライブのことも調べて、色んなことを知って……」
すっと、区切る。
そして、すぅっと、息を吸う。
「そしたらまさか、フブキ本人から誘いがあってね」
「……」
まるで、そのときフブキがいなかったかのように話す。
若しくは、話している相手がフブキではないかのように。
フブキは聞き入っている。
「でも断っちゃた」
「……」
「本当はあの時から既に、応募は決意してたのにね」
「……」
「何でかって言うと、まあ、ドッキリとか、プライドみたいなのとかもあったんだけど……」
「……」
「…………」
…………。
「ねえフブキ……ずっと一人で喋ってるのは、ウチもさすがに恥ずかしいんだけど……」
口を小さく開き、ミオの様々な表情の変化を捕えていたフブキ。
「ぇぁ……ごめん」
「いや、別に謝らなくてもいいけどさ……」
「あぁ、うん、そうだよね」
互いに、あははと乾いた笑いがこぼれた。
「あー、えっと、まあ、それでね、そういう感情もあったんだけど、一番はね?」
「……うん」
少し恥じらいながら、言葉を選ぼうとする。
その頬は少し赤らんでいる。
「フブキが遠くに行くのが当然だったから」
「――? 当然?」
「そう、当然。だって、フブキは正しく真っ直ぐ、自分の道を進んでる」
「そんな綺麗な感じじゃ――」
「だからフブキは離れていく。フブキが進むのに、ウチが進まないから」
フブキの目が見えた。
困惑していてかわいい。
ミオの目を見た。
儚げな目がフブキの奥を見ている。
「だからウチはフブキの誘いに乗りたくなかった。客観的に見たら建前でも、ウチは人に連れて行かれるんじゃなくて、自分の足で自分を連れて行きたかったから」
そんな崇高な心持ちだったなんて……。
フブキは感心して言葉も出なかった。
「ごめんね、ウチの勝手で混乱させて」
ミオが謎の謝罪をする。
私は、何をしていたのだろう。
本当に何がしたかったのだろう……。
こんな偉大な親友の陰で、一人自分勝手にライブの質を下げて……。
ミオが言うように、本当にフブキとミオの間に壁があって、それを今ミオが乗り越えてきたのなら、フブキは疲れた彼女の手を引いてあげなくてはならない。
勝手な思い込みでうじうじしていられない。
「んーん、私こそごめん、何も考えずにちょっと強引に誘っちゃって」
「……ぁ」
「……? どうかした?」
「いや……勝手続きでごめんなんだけど」
「うん、何?」
「……」
今更何を尻込みしているのだろうか?
「ウチさ、フブキが冗談めかしたりするときに使う一人称が好きなんだよね……」
「それって『白上』のこと?」
「……うん」
「へえ……意外――と言うか、好きな一人称なんかがあるんだ」
「うーん……まあ、ウチが口出しするのもおかしいけどさ、配信中とかアイドルやってる時って『私』でしょ?」
「そうだね――ってか、それが平常時だけど」
特に意識しているわけではないが時々『白上』と口をついて出てしまう。
気がつけば場の空気は少しずつ変わり始めていた。
「ウチだからそう思うだけで、実際は違うのかもしれないけど、『私』でいるときよりも『白上』でいるときの方が凄く明るくて、ウチも楽しくなるんだ」
ミオの笑顔が訴えかけてきた。
意識などしたこともないが……。
ミオにはそう見えていたのか。
……確かに、振り返ってみればそうなのかもしれない。
白上を口にするのは気分が高まった時や冗談に対応するときなど正の感情が絶好調の時だ。
それを踏まえればミオが感じているものも間違いではなのかもしれない。
もし、ミオが感じている事を他人でさえも感じているとしたら……。
「じゃあ……これからは、白上って呼んでみようかな……」
言われるがまま、少し照れながら頬を掻く。
「――ふふっ、嬉しい」
ミオの笑顔がフブキに力をくれる。
ミオの笑顔をフブキが作る。
嬉しい関係に見えて少し大変な関係。
この場合の要はフブキになる。
でも……なんだか心が軽い。
今なら、あの時できなかった「本当に」最高のライブができる気がする。
「じゃあ改めて、よろしく、フブキ」
ミオが咲う。
フブキも咲った。
もう一度二人でクスッと笑い合う。
凄く気分が晴れている。
今日の天気が雨だなんて信じられないくらい。
さあ、仕事だ。
どんなときでも、配信。
リスナーさんと、すこん部のみんなとたくさんの感情を共有する。
まだ始めたばかりでそんなに多くの感情は共有できてないけど、将来は何でも曝け出せる『ミオのような』存在になってると嬉しい。
…………え? 隠し事してたって?
…………皮肉。
でもそんな意味じゃない。
今後はミオにもリスナーのみんなにも、嘘偽りのない白上を見せつけていくから!
そうだよね? ミオ?
*****
最近、流れに乗っている。
ホロライブと言えば、聞いたことはある、程度にまでは成長した。
おかげでライブの開催も随分と計画し易くなった。
近々はあとのライブが決定。
更に少し日は空くがフブキの二度目のライブ、メルのライブ、そして二期生のトップバッターとしてあくあのライブまで決定した。
予定では、その先にまつりのライブも計画されている。
そんな中、突然に新メンバー加入の知らせを受ける。
ミオの時と同様、全員は顔合わせ会に出席できていないが、数名が集まった。
フブキとミオはゲーマーズに新たな仲間が来ると大いに期待したことだろう。
入室してきたのは桜色の髪を一つサイドに結んだ巫女服の少女。
和の色が強い外見で、髪飾りもそれに合わせて桜型だ。
「にゃっはろー、今日からこっちで活動することになったエリート巫女のさくらみこだにぇ」
明るく名乗るが、正直滑舌が……。
「彼女はさくらみこさん。今日からホロライブメンバーに加わります。あ、ゲーマーズじゃないです」
えーちゃんが手のひらで示し説明する。
最後の一言にフブキとミオは少し残念そう。
「あれ? そらちゃんがいないにぇ」
部屋を見回し、対面を期待していた相手がいないと気付くとそれを即口にする。
捉え方によっては失礼でもある発言だが、あまり気にしていない……と言うより、気付いていない。
「そらは仕事の関係で今日はいません」
「ええっっ‼」
みこがゲーマーズではないと聞いたときのフブキとミオ以上にがっかりする。
「大丈夫?」
地べたに崩れ落ちるみこにそっと歩み寄りちょこが話しかける。
「大丈夫だにぇ……みこは後輩に心配されるようなダメ巫女じゃないにぇ……」
ちょこの手は取らずゆっくり立ち上がった。
「……?」
全員がその間に首を捻った。
「あ、言い忘れてましたね」
えーちゃんがふと何かを思い出す。
そして手をぽんと叩くと、
「みこさんは二期生のデビュー以前からこの会社で別のチームとして活動していたんです」
「えっ! こんな人が先輩⁉」
「ああっ、今こんな人っていったにぇ‼」
ちょこが思わず口にした失言。
みこは鋭く反応した。
怒り方が少し幼くて可愛らしい。
「みこはエリートで誰からも慕われる存在だにぇ。その証明にみこは神様の遣いだにぇ!」
胸を張って威張るが証人なる神様がこの場にいないので証明になっていない。
それに、誰からも慕われると言いながら早速ちょこが慕っていない。
となるときっとエリートでもない。
いや、寧ろポンコツなのでは……?
この場のほとんどが察したことだろう。
「じゃあみこちゃんはホロライブのことは既に知ってる感じ?」
「当然だにぇ! みこはホロライブに入る前からそらちゃんを推してるんだにぇ」
まさかのそら推し。しかも後に聞けばそらともだそうだ。
それなら今さっきの若干失礼な発言も納得だ。
だからと言って失礼は失礼だが。
ともかく、久しぶりに聞くホロライブの特定メンバー推しだ。
元々ここの会社に属するメンバーは成り行きやアイドルを目指して、またはゲーム配信者として入社しているため、この会社のこの人が好きと言って入るものは少ないのだ。
それはまあ、現時点での知名度や視聴者の男性比率の問題もあるが。
「何はともあれ、今後はみこの勇士に期待するといいにぇ!」
今日の面会を経て何にどう期待しろというのか……。
しかし、ホロライブの中でも大きな存在になる予感は、誰しもが持てただろう。
どの方面に大きくなるかは別として。
どうも、作者でございます。
これでやっとミオしゃとみこちが加入ですよ。
凄く長い。
正直言うと早くガチのバトル描写を描きたいんですよ、私は!
でもそのためには、もう少し進めなくては……。
素で凶悪な存在と対峙した際に、対抗できる人というのが限られますので。
現在素で戦えそうなのってロボ子さんとお嬢とシオンくらいですよね……。
でも、もしストーリーが進んで、もっと『ファンタジー』になれば……!
ってな訳で、バトルを期待の方はあと数話だけ我慢を、特に期待してねーしって方は残りのその数話を楽しんで下さい。
あと、いつかネタ回も作ります。今のままだとホロライブの面白さが伝わらないので。
それでは、また次回。