歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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110話 参上

 

 ゲーム終了時刻、現実世界、マスタールームにて――

 

「終わった……が、ホロメンは少なくとも30分は起きない」

 

 パソコンデスク前のイスに腰を下ろす「ろぼさー」がイスを半回転して「箱推し」を見上げた。

 首肯すると、「箱推し」は拘束したゲームマスターを正面に捉える。

 

「お前の考えそうな事だ、手を打ってあるから、そこで舌巻いて見てるといい」

 

 無感情の顔から放たれる威圧感にゲームマスターは震え上がる。

 その滑稽な姿も見ず、「箱推し」は出口へ向かった。

 

「えーちゃんさん、ここはお願いします」

「どちらへ……」

「野暮用です。安心してください、大したことではないので」

 

 最後に「ろぼさー」に一瞥を向けると、退室した。

 

 マスタールームを出ると、「箱推し」はスマホを取り出しグループチャット内に通話をかけながら、施設を出る。

 周囲を見周すと街中にも関わらず、人っ子一人おらず、街は閑散としていた。

 状況確認と同時に数名と通話が繋がる。

 

『周辺一帯の避難は終わった、ぞ』

『連絡、首を長くして待ってたんだ、首無いけど』

「団員もルーナイトもご苦労。今動けるものは俺の位置情報を辿ってここへ来てくれ、緊急招集だ」

 

 そう告げると、返事も待たず通話を切断した。

 

「緊急とは、一体何事ですか?」

 

 通話終了に重ねるように声が掛かる。

 到着が早過ぎだ。

 

「敵だ、迎え撃つ」

「数は?」

「1」

「――? たった1人? あなたでも手に負えないのですか?」

「いーや――」

 

 答えを享受するように、地響きが発生した。

 ウィーン……という機械音が響く。

 恐らく、ゲームクリアに連動して動作を開始する仕組みなのだ。

 

「一台と言うべきか、一機と言うべきか……」

「まさか……ロボット」

 

 地響きが近付き、既にその機体の一部が視界に入っている。

 その巨体は、高層ビルに匹敵するサイズだ。

 

「俺1人で破壊する事はできる。でもそれは、街への被害を度外視した場合の話だ」

「つまり、あなたが街を守る、我々があれを崩す、と?」

「そう言う事だ。いくら俺でも、街を無傷に抑えながらは戦えない」

「戦わずとも、一般人にそれは不可能ですがね」

 

 呆れたように肩をすくめると、男性――「百鬼組」は懐からタバコを取り出し一服する。

 

「おー、ついたー!」

 

 コンクリートを砕いて地中から1人現れる。

 

「おーおーおーおー、早い方だと思ったんだがなあ、3番か」

 

 空から1人ふわりふわりと浮遊してくる。

 

「残念、3番は俺だ、半豚肉野郎」

 

 猛スピードで道路を駆け抜けて、滑り込みの3位を確保する鬼。

 そして4着目に浮遊していた大学生。

 

 巨大ロボの上半身が既に見える距離まで迫っている。

 

「あれを壊せって?」

「そう言う事です」

「俺でもあれは食えねぇな」

「よーし、準備OKだー!」

 

 到着速度上位4名は早速戦闘準備に入る。

 

「あ、あのぅ……俺も、い、居るんですけど……」

 

 並んで構えを取る4人の背後から、冷気と共にどんよりとした空気が流れ込む。

 ひゅー……と、冷めた音が響いた。

 

「うう、寒い……」

「こっちの方が寒いわ! 居るなら最初から声出せっての、影薄いんだから、お前は!」

「ご、ごめん……」

 

 短い茶番の内に、一歩がでかい巨兵は更に前進。

 このままホロメンのいる施設を破壊するつもりだ。

 

「街への被害は俺が止める。お前らは何がなんでもアレを止めろ!」

「あいよ!」

「では――参ります」

 

 元気のいい、子どもじみた「ねっ子」の返事に呼応するように、「百鬼組」が飛び出した。

 咥えていたタバコを風に置き去りにして。

 

「ポイ捨てすんな、アホ」

 

 火が付いたタバコの吸い殻を「おにぎりゃー」がパシッと掴み、一飲みにした。

 タバコだから不味い。

 隣に未成年が居るというのに……。

 

「っしゃオラッ、鬼の力でぶっ壊してやんよ! 砕けばちょっとくらい食べれるようになるだろ」

 

 爆速でロボットへ立ち向かう。

 

「俺も行くか」

 

 続いて「はあとん」が呑気に歩いて追いかける。

 

「……なあ『ねっ子』、お前穴掘り得意じゃん? あのロボット壊せんの?」

 

 「はあとん」も消えると、控えめな存在だった「雪民」が背筋を伸ばしてハキハキと話し始めた。

 

「あー、無理、多分。流石にそんな作りはしてないと思うし」

「まあそっか」

「お前こそ冷気で凍らせらんねぇの?」

「無理だと思う。俺のはあくまで感覚的なもんだから」

「よく分かんないけど無理ならいいや」

 

 作戦会議のように小会議を開く2人の背後に突如シュタッと、何者かが華麗な着地を決める。

 「雪民」が飛び上がる程肩を跳ねさせて、「ねっ子」の裏に回り込んだ。

 しかし、その正体が存在しない。

 

「ツンツン」

「ひゃぁ!」

「ザンネーン、こっちでした」

 

 どう回り込んだのか、背後から「雪民」の頬に指を埋めドッキリ大成功と愉快に口角を上げた曲芸師が現れた。

 

「おお、『座員』」

「ば、バカ! 脅かすなよ!」

「ごめんネ、『雪民』のソーユー可愛い反応が好きでネ。ちょっとした出来心サ」

 

 非常事態も気に留めず、集えばジョークをかます奴ら。

 

「さて、俺たちは正面切って戦うタイプじゃないのよネ。だからこっち」

 

 『座員』は起点を利かせて、2人を連れて路地裏に隠れていく。

 

 

 一方、その先陣と正面を切った奴らはと言えば……

 

「両断」

 

 「百鬼組」が刀片手に立ち向かうが、歯が立たない――否、刃が立たない。

 装甲が厚すぎて、並の腕力では相手にならない。

 

「参りましたね……『箱推し』があの状況では、能力も使えません」

 

 硬質化の能力さえあれば、もう少しまともに張り合えるのだが。

 

「どいてろ、ひっくり返して、まな板の上の鯉みたくしてやる」

 

 「百鬼組」を押し除けて「おにぎりゃー」がロボットの右足に突っ込んだ。

 鈍い音が響き、ロボットの動きが一瞬停止した。本当に一瞬。

 即座に足は動き出し、鬼すら蹴り飛ばしてしまった。

 

「いいですよ! 目標がこちらに変わりました」

 

 2人の妨害により、人工知能が2人を敵と認識した。

 施設への侵攻を止め、2人を抹殺する任務へ移行する。

 

「俺への心配はないのか――っての!」

「鬼でしょう? タフさが売りならこの程度で文句を言わないでください」

「お前こそ、自慢の硬さはどうした!」

「使えない物は仕方ないでしょう」

「ほら来るぞ!」

 

 巨兵が倒れる様に前屈みになり、2人のいた場所へ鉄腕を撃ち込む。

 震度3ほどの地響き。

 しかし、地面には罅一つ入らず、周囲の建造物への被害も一切無い。

 「箱推し」の人間離れした術が成せる業。

 

「鈍間だぞ、あいつ」

「ええ、このまま一進一退を保てばなんとか――」

「いやダメだ。ホロメンが逃げたとしても、コイツを野放しにはできない」

「まったく……国の衛兵もなーにしてんだかだよ」

 

 とろとろと重たい足取りで「はあとん」が遅刻してきた。

 

「遅いぞ半豚肉野郎。でも丁度いい、身体貸せ」

「おい……まさか……」

 

 許可も得ず「おにぎりゃー」は「はあとん」の体を抱え、投げの構えを取る。

 そして、全力投球。

 

「一球入魂‼︎」

「バーカーやーろぉーー‼︎」

 

 人体を、人間の球速を超えて投函する。

 空気を引き裂いて「はあとん」がロボットの腹部に直撃し、その豪傑な体躯の均衡を崩す。

 見事にロボットの体勢が崩れた為、文句を言いつつも的確に「体重を変えて」くれたようだ。

 上出来。

 

「倒れるぞ!」

 

 巨体が蹌踉めき背後へ大きく転倒しかける。

 しかし、ガシッとまるで人間のような動きで近場の建築物に手を掛け、転倒を防ぐ。

 倒壊防止の「箱推し」の魔法を無意識的に利用した形となる。

 

「失敗か!」

「そもそも、倒した所で意味もないですよ」

「うぉぉ…………バカになった、絶対……」

 

 今のメンバーでは決定力に欠けるどころか、ダメージすらまともに入れられない。

 弱点を探るか、有効打を与えられる仲間が来るまで時間を稼ぐか。

 

 方法を模索する短時間の内にロボットが上体を完全に起こし、頭を3人へ向けた。

 

「やばくね?」

 

 キュィーン、と切り裂くような光線が両目から放たれた。

 2線は3人の居る場所で交わり、威力を倍増させる。

 

「っぶね!」

 

 「百鬼組」と「おにぎりゃー」は、その俊敏性で爆風を浴びる程度に抑えた。

 「はあとん」は頭を強打してフラフラしていた所を「おにぎりゃー」に助けられた。

 

 続けてロボットは右腕から機関銃を生やし、対象目掛けて連射を始めた。

 

「くっ」

「クッソ」

 

 「百鬼組」は物陰に身を隠すが、「おにぎりゃー」は鬼特有の豪傑さで銃弾を浴び切る。

 背後の「はあとん」を庇うために。

 己で危険に晒した仲間くらい、守るさ。

 

「普通の銃なら、かまいたちみたいなもんだ」

「かまいたちは痛いだろ」

「私の鎌鼬はかなり強いですよ?」

「んな事はどうでもいいわ!」

 

 比較の仕方がおかしい。

 風の切り傷と銃撃の傷の比較をしているんだ。

 確かにかまいたちは痛いが我慢できる。

 それと、剣技の「鎌鼬」の話はしていない。

 

「ゴホッ、ゴホッ……おお、やってんな」

 

 銃の嵐が止むと同時に、空から1人の男性が舞い降りた。

 咳と共に火の粉を撒き散らす。

 

「風切火羽」

 

 一度舞い降りた「エルフレ」がもう一度宙に飛び出し、大きく翼を広げた。

 その両翼の風切羽が発火して、火の粉塵を纏い、ロボットへと飛翔する。

 鉄兵の周囲を囲う様に火羽が迫り、次の瞬間には全てが小さく爆発する。

 

「……ごほっ、こほっ……メタルボディだな」

 

 数秒で爆煙が霧散し、太陽光を反射する金属のボディにはほんの僅かな焦げ跡が見えるだけ。

 

「やっぱ特殊な攻撃じゃ無理か」

「超絶物理特化いねぇの⁉︎」

 

 鬼を超えるパワーを持つ仲間を探し始めるが、今はいない。

 更なる増援を待つしかないのか。

 

「いーや、頭を使うのヨ。エルフレ、今ので機関銃を狙うのサ」

 

 路地裏の方から指示が飛ぶ。

 それに従い「エルフレ」はもう一度、今度は機関銃の銃口を狙い撃つ。

 意思を持つように飛翔する羽は、銃口に潜り込み、内部で小規模な爆破を起こす。そこから内部の火薬が連鎖爆発を起こし、機体を内側から破壊した。

 

「ナイス! 右腕破壊!」

 

 ロボの右腕が煙を吐き、損壊。これで機関銃は使えない。

 所詮巨体を動かすには小さすぎた人工知能だ。対抗手段はいくらでもあった。

 

「でもどうする? 装甲をどうにかせんと!」

「そうだな、何か策は――」

 

『お前ら気を付けろ、何か来る!』

 

 突如、ホロリス軍にテレパシーで信号が送られた。

 「箱推し」からだ。

 何か……ってなん……。

 

「なん、だ……?」

 

 遥か遠方の空から、何かが飛んで来る。

 相当の距離から目視できる巨体。

 空を飛んで来るそれは……まるで目前にいるロボのよう……。

 

 巨兵と巨兵が邂逅する。

 物凄いエンジンを吹かせて、新台が上空に到着。

 目前の物と同等のサイズ感と質感。

 ただ一つ違う事は――。

 

「ほら着地着地! 脚操縦しっかり!」

「う、うるさいなぁ! 新人にこんな事させるなって!」

「ああああ! そこの会社潰さないで!」

「じゃあおめぇがやれよ!」

「仕方ないでしょ! お金ないんだから!」

「こんこよがマヨネーズとか買うからだろうがって!」

「そんな事言ったらいろはちゃんだってナス代掛かってるじゃん!」

「いいから2人とも早く!」

 

 そう、操縦者がいる事。

 しかも複数。

 かなり、バカっぽいが。

 数は……3人?

 

「さて! 征服すべき国を守る、holoX参上!」

 

 

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