10月31日。
世ではハロウィンと言う恒例行事が行われる。
この国も例に漏れることなく、店はハロウィン模様に装飾され、通りには仮装した人々が往来していた。
ホロライブの事務所も、雰囲気作りで装飾されたハロウィングッズが山程。
そんな事務所に1人の……仮装者がやって来た。
どこで受けたのか、狂気的な特殊メイクを施して、恐ろしい殺人鬼のような衣装と人相、更には人を殴り殺せそうな斧をぶら下げて。
そう、星街すいせい。
「ぁ……へへ」
すいせいは事務所前にシオンを発見すると、気配を殺して忍び寄る。
背後へ周り、ポンポンと肩を叩いた。
「あやめちゃ――」
「ハロー」
「っ――⁉︎…………びっくりした、すいちゃんか……」
「んー、リアクションの迫力に欠けるなぁ」
もっと絶叫して欲しかった。
しかも、パッと見ではすいせいと判別できない外見を、ものの数秒で見破られてしまう。
初手シオンは失敗だったか。
「シオンも仮装? それ何?」
「吸血鬼」
「メルちゃんじゃん」
「パッと思いつくものがなかったから」
近くで見れば可愛らしいが、遠目にはシオンと判別し辛かろう。
「……すいちゃん」
「――?」
特に気が付いてはいないのか。
なら、今野暮な話はよそう。
「シオン⁉︎ 誰その人⁉︎」
「あ、あやめちゃんだ」
曲がり角からあやめが顔を出して、シオンに気がつくと同時に、隣の狂人に視線を持って行かれた。
「すいちゃんだよ」
「ハロー」
「全然分からんよ……怖いし」
じっくりとメイクを観察し、半歩引いた。
ハロウィンのコスプレをする連中が行き交うからこそ、まだ馴染んでいるが、普段の景色の中にいれば、一発で通報され警察沙汰になる。
「あやめちゃんも、般若のお面は怖いよ?」
「そう? 鬼っぽいかなって思ったんだけど」
顔だけ切り取れば、すいせいに負けず劣らずでなかなか怖い。
「それで、シオン」
「うん、あやめちゃん……」
「――?」
あやめとシオンが目を合わせた。
感じる。
そもそも、シオンは何故、事務所に入らず立っていたのかを考えてみれば、分かるだろう。
「なんか、前にも似た感じの事あったよね」
「あったね。もう、2年半くらい前だけど」
2人がデビューして間もなく、不審者が事務所に侵入した。
それを今ここで掘り返すと言う事は。
「――??」
「すいちゃんはここに居て。中の様子を見てくる」
「そう? なんか分からんけど分かった」
ギュイン――
「ッ――!」
カァーーン…………。
甲高い音が耳鳴りの様に長く響いた。
金属と金属の衝突。
すいせいに振り下ろされた斧。
それをすいせいが反射的に防いだ。
「コイツはいいよ! 行きな」
不本意だがすいせいを狙うなら、ご本人が相手しようじゃないか。
あやめとシオンはフードとマスクで顔を隠した魔力だけを記憶して、事務所の奥へと駆けて行った。
「ここに、何の用ですかぁー?」
「そっくりそのまま返すぞ」
黒フードに、黒のアイマスク。
涼しくなってきたとは言え、暑苦しそうな格好。
殺し屋か?
「パシられて戻ってくれば、新拠点に殺人鬼みたいな怪しい人が居るからさぁ〜。気晴らしにお掃除しょっかなぁ、って」
「新拠点? は、誰か知らんけど、丁度いい。この衣装に足りない最後の彩りは、お前の返り血で飾ることにしよう」
白昼堂々、事務所前にて、殺人鬼2人が戦闘開始。
事務所内へ侵入したあやめとシオン。
2人は記憶に無いたった1人の微弱な魔力を頼りに敵の位置を探る。
魔力自体が弱いため、対して強い敵ではないと思われるが……。
大至急、敵を排除しなければ。
会議室前で2人は立ち止まる。
周囲に人がいない事を確認すると、会議室の扉を開いた。
ガチャッ…………。
「「――」」
2人とも表情には出さなかったが、正直肝を冷やした。
想定していた数よりも、明らかに人が多い。
敵は1人でなく、4人いた。
さらしを巻き、一本の刀を携えた女。
白衣を着て、複数の試験管を備えた女。
背の高い、腰に鞭を備えた女。
手首足首、そして首に計5つもの枷を嵌めた、子ども(女)。
魔力が読めなかった。
微弱な魔力は、白衣の女から。
それ以外からは、まるで魔力を感じない……が、少なくとも、枷を嵌めた少女は、魔力を有している。
その容姿が……頭に生えるツノが、悪魔である事を証明しているのだから。
「何だ貴様ら」
まず1番に口を開いたのは、その少女だった。
偉そうに、でも幼稚に特等席へ腰を下ろしていた彼女は、2人に指を差した。
失礼だな。
「お前こそ誰だよ」
シオンが冷や汗を流して会話を図る。
正直……既にやばい。
「吾輩か? ふっふっふ! 刮目せよ! 吾輩の名前は、ラプラス・ダークネスだぁ!」
椅子の上に立ち、そこから机の上に立つと、大層立派に、猛々しく無い胸を張って名乗った。
なんとお行儀の悪い!
「ラプ、机に立たないで」
隣の女性が、娘を嗜める様に肩を引いた。
「キッズだなー」
「…………」
さらしの女は揶揄う様に口を挟み、苦笑した。
白衣の女は無言で2人を見つめる。
「貴様ら吾輩に何か用か?」
「いや……用事? そっちこそ、ここで何……してんの」
「今日からここは吾輩らの拠点になるんだ」
「そう」
嘘だろうと本当だろうと、排除せねば。
「博士ー、侍ー、任せたー」
子どもがドア付近の2人に相手を任せる。
任せたが、2人は不服そうに相手を一瞥すると、その子どもの下まで歩み寄る。
2人でその首根っこを掴み、シオンとあやめの方へ放り投げた。
「「お前が行け」」
ずでーっと綺麗に床を滑り、2人の目前に転がった。
「おい! お前らなぁ、総帥の命令だぞ」
「この前だって、その前だって、いっつも何もしてないでしょ!」
「吾輩は総帥だから座して吉報を待つんだよ」
「勝手にお金使って推し活してるだけでしょ」
博士の指摘に対して逃げ道を探す総帥。
背の高い女性が肩を竦めて、真実を吐く。
「そうだそうだ、社内費を推し活に使うな! 給料上げろー」
侍も後方から強く非難する。
何だこの組織は――。
いや、何でもいい、とにかく追い出さなきゃ!
シオンが小さく魔法陣を展開し、虚を突く一撃を総帥に放っ――
キュイン!
「――」
振り向きもせず、打ち消された。
「吾輩今忙しいから、お前らがやれって」
元の席に戻ろうと、敵に背を向け歩く総帥。
あやめが背後から気配を殺して刀を振るう。
一閃――もう一閃。
更にもう一閃。
「っ――は?」
刀が一本であるため、連撃力は落ちているが、それでもあやめの猛追だ。
それを、背を向けて、歩きながら、話しながら、簡単に避けられた。
「忙しいって……これ、ゲームでしょ?」
総帥がテーブルに置いていたスマホの画面を見せつけた。
可愛いアイドルの3Dモデルが、何か喋って笑っている画面だ。
「い、いいだろ別に! 吾輩は戦わないからな」
「はぁ……まったく……これだから赤字なんだよ、もう」
「幹部だって推し活してるだろ」
「私は節度を持ってるし、自己負担。会社のお金は使ってませんー」
幹部まで少しムキになる。
シオンとあやめの攻撃など、そよ風とも思っていない。そんな光景。
「ねえ、こよちゃん。これ、風真達がやらなきゃ一生このままなんじゃ……」
「ぽいよね……。クロちゃんが戻ったら任せれるかも知んないけど、流石にクロちゃんじゃこの2人には勝てなさそうだし……」
総帥――改め、ラプラスのやる気の無さを目の当たりにして、もはややるしか無いと、2人はため息をついた。
「風真が鬼さんのほうね」
「こよりが魔法使いのほうね」
博士――改め、こより。
侍――改め、いろは。
こよりはシオンへ、いろははあやめへ、敵が誰だか知らずに飛び込む。
「「ぁ、え?」」
いろはとこよりが消えた。
一瞬戸惑うが、シオンは冷静になれた。
魔力を見れば――と思ったが、侍さんには魔力が無かった。
消えた理由すら分からない。
博士さんはどうやら、光学的に姿を眩ませている様だ。
自身の像が投影されないように、光を反射・屈折させている。
と思う。
確証が持てない理由は、博士さんの消滅が、魔力とは一切無縁であるから。
一ミリでも魔力を使用していれば、その流れでどんな魔術演算をしているか、大方予測できるが、あれは完全なる科学技術。
魔術側の天才であるシオンとは対をなす存在だ。
「ん? おいいろは、風技は使うなよ」
何かを予知したラプラスから、一つだけ注意喚起。
風技の風圧と霧散する風の斬撃が、室内を崩壊させてしまうから。
警告直後、あやめは直感だけを頼りに一本の刀を振るった。
カキッ――ン。
刀と刀が交わり、火花と電撃を放つ。
そして更にまた、刹那の間を置いて、別方向から刀が迫る気配を感じる。
防いだ!
でもまた……これも防御。
「っく……!」
刀一本で、しかも頼れる物が第六巻だけ。
刀2つなら迎撃も可能だが、ひとつではどうにも、攻撃に転じることができない。
なんせ敵が、速すぎて見えないのだから。
「半・紫苑砲」
一方シオンは敵の位置がギリギリ分かる。
その微弱な感覚を頼りに、威力減させた紫苑砲をぶっ放した。
「――⁉︎」
その技名に、博士の――否、敵全員の動きが一瞬鈍る。
「ぁっと、吸収チューブ」
遅れて反応したが、シオンの魔法を止めた。
正確には、その魔力をひとつチューブの中に収めた。
敵方向へ噴射すれば、それは魔法の反射を意味する。
だが、こよりは吸い取ると、自身の像を正しく投影させた。
いろはも、こよりの隣へ風のように駆けつけて、止まった。
幹部が一歩踏み出し、2人の容姿を再確認したがる。
が、その時、幹部と総帥にビビッと、複数の信号が送られた。
「――! ラプラス、これは!」
「あ、わわ……どうしよ、本物だ……」
「「え?」」
焦燥感と緊張感が2人に走る。
ラプラスは、バタバタと室内を駆け回り、転げ回った。
その少しだけ気持ち悪い反応で、こよりといろはも察した。
たったったっ、と廊下をかける音、そして――
バン、と扉が盛大に開かれた。
真っ先に顔を出すのは、冷や汗を流すえーちゃんだ。
仮装はしていない。
「ちょっと! 何してるんですか皆さん!」
室内に咆哮する。
主に、謎の4人に向けて。
息を切らすえーちゃんの背後から、トワが顔を覗かせた。
仮装をしていて、判別しづらい。
「なんやなんや、この騒ぎは」
「はぅあ!」
途端に、ラプラスが射抜かれたように倒れた。
「え、と、トワ先輩なの?」
ラプラスの反応で、こよりも照合を始めたが、記憶と一致しない。仮装をしているせいで。
「ほら、2人も来てください」
「「はぁーい」」
その更に後方から、斧を引きずり、2人の殺人鬼が。
「あひゃぁ……」
「ん……? ぇーーーー――!」
いろはの掠れるような感嘆の叫びと、殺人鬼の甲高い悲鳴が会議室で響く。
「――? 何? どういう事?」
状況を飲み込めない早とちり二人組。
えーちゃんが重くため息をついて、会議室の奥へ。
そこへ、謎の5名を引っ張り、集めると、こう紹介した。
「こちら、新たにホロライブにデビューした6期生、秘密結社holoXの皆さんです」
「「……ぅそじゃん」」
holoX登場。
総帥――ラプラス・ダークネス(魔神)。
幹部――鷹嶺ルイ(鷹の獣人)。
博士――博衣こより(コヨーテの獣人)。
掃除屋(インターン)――沙花叉クロヱ(シャチの魚人)。
用心棒――風真いろは(人)。
「「「「「よろしくお願いします」」」」」