歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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114話 参上‼︎ 我ら――

 

 10月31日。

 世ではハロウィンと言う恒例行事が行われる。

 この国も例に漏れることなく、店はハロウィン模様に装飾され、通りには仮装した人々が往来していた。

 

 ホロライブの事務所も、雰囲気作りで装飾されたハロウィングッズが山程。

 そんな事務所に1人の……仮装者がやって来た。

 

 どこで受けたのか、狂気的な特殊メイクを施して、恐ろしい殺人鬼のような衣装と人相、更には人を殴り殺せそうな斧をぶら下げて。

 そう、星街すいせい。

 

「ぁ……へへ」

 

 すいせいは事務所前にシオンを発見すると、気配を殺して忍び寄る。

 背後へ周り、ポンポンと肩を叩いた。

 

「あやめちゃ――」

「ハロー」

「っ――⁉︎…………びっくりした、すいちゃんか……」

「んー、リアクションの迫力に欠けるなぁ」

 

 もっと絶叫して欲しかった。

 しかも、パッと見ではすいせいと判別できない外見を、ものの数秒で見破られてしまう。

 初手シオンは失敗だったか。

 

「シオンも仮装? それ何?」

「吸血鬼」

「メルちゃんじゃん」

「パッと思いつくものがなかったから」

 

 近くで見れば可愛らしいが、遠目にはシオンと判別し辛かろう。

 

「……すいちゃん」

「――?」

 

 特に気が付いてはいないのか。

 なら、今野暮な話はよそう。

 

「シオン⁉︎ 誰その人⁉︎」

「あ、あやめちゃんだ」

 

 曲がり角からあやめが顔を出して、シオンに気がつくと同時に、隣の狂人に視線を持って行かれた。

 

「すいちゃんだよ」

「ハロー」

「全然分からんよ……怖いし」

 

 じっくりとメイクを観察し、半歩引いた。

 ハロウィンのコスプレをする連中が行き交うからこそ、まだ馴染んでいるが、普段の景色の中にいれば、一発で通報され警察沙汰になる。

 

「あやめちゃんも、般若のお面は怖いよ?」

「そう? 鬼っぽいかなって思ったんだけど」

 

 顔だけ切り取れば、すいせいに負けず劣らずでなかなか怖い。

 

「それで、シオン」

「うん、あやめちゃん……」

「――?」

 

 あやめとシオンが目を合わせた。

 感じる。

 そもそも、シオンは何故、事務所に入らず立っていたのかを考えてみれば、分かるだろう。

 

「なんか、前にも似た感じの事あったよね」

「あったね。もう、2年半くらい前だけど」

 

 2人がデビューして間もなく、不審者が事務所に侵入した。

 それを今ここで掘り返すと言う事は。

 

「――??」

「すいちゃんはここに居て。中の様子を見てくる」

「そう? なんか分からんけど分かった」

 

 ギュイン――

 

「ッ――!」

 

 カァーーン…………。

 

 甲高い音が耳鳴りの様に長く響いた。

 金属と金属の衝突。

 

 すいせいに振り下ろされた斧。

 それをすいせいが反射的に防いだ。

 

「コイツはいいよ! 行きな」

 

 不本意だがすいせいを狙うなら、ご本人が相手しようじゃないか。

 あやめとシオンはフードとマスクで顔を隠した魔力だけを記憶して、事務所の奥へと駆けて行った。

 

「ここに、何の用ですかぁー?」

「そっくりそのまま返すぞ」

 

 黒フードに、黒のアイマスク。

 涼しくなってきたとは言え、暑苦しそうな格好。

 殺し屋か?

 

「パシられて戻ってくれば、新拠点に殺人鬼みたいな怪しい人が居るからさぁ〜。気晴らしにお掃除しょっかなぁ、って」

「新拠点? は、誰か知らんけど、丁度いい。この衣装に足りない最後の彩りは、お前の返り血で飾ることにしよう」

 

 白昼堂々、事務所前にて、殺人鬼2人が戦闘開始。

 

 

 

 事務所内へ侵入したあやめとシオン。

 2人は記憶に無いたった1人の微弱な魔力を頼りに敵の位置を探る。

 魔力自体が弱いため、対して強い敵ではないと思われるが……。

 

 大至急、敵を排除しなければ。

 

 会議室前で2人は立ち止まる。

 周囲に人がいない事を確認すると、会議室の扉を開いた。

 

 ガチャッ…………。

 

「「――」」

 

 2人とも表情には出さなかったが、正直肝を冷やした。

 想定していた数よりも、明らかに人が多い。

 敵は1人でなく、4人いた。

 

 さらしを巻き、一本の刀を携えた女。

 白衣を着て、複数の試験管を備えた女。

 背の高い、腰に鞭を備えた女。

 手首足首、そして首に計5つもの枷を嵌めた、子ども(女)。

 

 魔力が読めなかった。

 微弱な魔力は、白衣の女から。

 それ以外からは、まるで魔力を感じない……が、少なくとも、枷を嵌めた少女は、魔力を有している。

 その容姿が……頭に生えるツノが、悪魔である事を証明しているのだから。

 

「何だ貴様ら」

 

 まず1番に口を開いたのは、その少女だった。

 偉そうに、でも幼稚に特等席へ腰を下ろしていた彼女は、2人に指を差した。

 失礼だな。

 

「お前こそ誰だよ」

 

 シオンが冷や汗を流して会話を図る。

 正直……既にやばい。

 

「吾輩か? ふっふっふ! 刮目せよ! 吾輩の名前は、ラプラス・ダークネスだぁ!」

 

 椅子の上に立ち、そこから机の上に立つと、大層立派に、猛々しく無い胸を張って名乗った。

 なんとお行儀の悪い!

 

「ラプ、机に立たないで」

 

 隣の女性が、娘を嗜める様に肩を引いた。

 

「キッズだなー」

「…………」

 

 さらしの女は揶揄う様に口を挟み、苦笑した。

 白衣の女は無言で2人を見つめる。

 

「貴様ら吾輩に何か用か?」

「いや……用事? そっちこそ、ここで何……してんの」

「今日からここは吾輩らの拠点になるんだ」

「そう」

 

 嘘だろうと本当だろうと、排除せねば。

 

「博士ー、侍ー、任せたー」

 

 子どもがドア付近の2人に相手を任せる。

 任せたが、2人は不服そうに相手を一瞥すると、その子どもの下まで歩み寄る。

 2人でその首根っこを掴み、シオンとあやめの方へ放り投げた。

 

「「お前が行け」」

 

 ずでーっと綺麗に床を滑り、2人の目前に転がった。

 

「おい! お前らなぁ、総帥の命令だぞ」

「この前だって、その前だって、いっつも何もしてないでしょ!」

「吾輩は総帥だから座して吉報を待つんだよ」

「勝手にお金使って推し活してるだけでしょ」

 

 博士の指摘に対して逃げ道を探す総帥。

 背の高い女性が肩を竦めて、真実を吐く。

 

「そうだそうだ、社内費を推し活に使うな! 給料上げろー」

 

 侍も後方から強く非難する。

 何だこの組織は――。

 

 いや、何でもいい、とにかく追い出さなきゃ!

 

 シオンが小さく魔法陣を展開し、虚を突く一撃を総帥に放っ――

 

 キュイン!

 

「――」

 

 振り向きもせず、打ち消された。

 

「吾輩今忙しいから、お前らがやれって」

 

 元の席に戻ろうと、敵に背を向け歩く総帥。

 あやめが背後から気配を殺して刀を振るう。

 

 一閃――もう一閃。

 更にもう一閃。

 

「っ――は?」

 

 刀が一本であるため、連撃力は落ちているが、それでもあやめの猛追だ。

 それを、背を向けて、歩きながら、話しながら、簡単に避けられた。

 

「忙しいって……これ、ゲームでしょ?」

 

 総帥がテーブルに置いていたスマホの画面を見せつけた。

 可愛いアイドルの3Dモデルが、何か喋って笑っている画面だ。

 

「い、いいだろ別に! 吾輩は戦わないからな」

「はぁ……まったく……これだから赤字なんだよ、もう」

「幹部だって推し活してるだろ」

「私は節度を持ってるし、自己負担。会社のお金は使ってませんー」

 

 幹部まで少しムキになる。

 シオンとあやめの攻撃など、そよ風とも思っていない。そんな光景。

 

「ねえ、こよちゃん。これ、風真達がやらなきゃ一生このままなんじゃ……」

「ぽいよね……。クロちゃんが戻ったら任せれるかも知んないけど、流石にクロちゃんじゃこの2人には勝てなさそうだし……」

 

 総帥――改め、ラプラスのやる気の無さを目の当たりにして、もはややるしか無いと、2人はため息をついた。

 

「風真が鬼さんのほうね」

「こよりが魔法使いのほうね」

 

 博士――改め、こより。

 侍――改め、いろは。

 

 こよりはシオンへ、いろははあやめへ、敵が誰だか知らずに飛び込む。

 

「「ぁ、え?」」

 

 いろはとこよりが消えた。

 一瞬戸惑うが、シオンは冷静になれた。

 魔力を見れば――と思ったが、侍さんには魔力が無かった。

 消えた理由すら分からない。

 博士さんはどうやら、光学的に姿を眩ませている様だ。

 自身の像が投影されないように、光を反射・屈折させている。

 と思う。

 

 確証が持てない理由は、博士さんの消滅が、魔力とは一切無縁であるから。

 一ミリでも魔力を使用していれば、その流れでどんな魔術演算をしているか、大方予測できるが、あれは完全なる科学技術。

 魔術側の天才であるシオンとは対をなす存在だ。

 

「ん? おいいろは、風技は使うなよ」

 

 何かを予知したラプラスから、一つだけ注意喚起。

 風技の風圧と霧散する風の斬撃が、室内を崩壊させてしまうから。

 

 警告直後、あやめは直感だけを頼りに一本の刀を振るった。

 

 カキッ――ン。

 

 刀と刀が交わり、火花と電撃を放つ。

 そして更にまた、刹那の間を置いて、別方向から刀が迫る気配を感じる。

 防いだ!

 でもまた……これも防御。

 

「っく……!」

 

 刀一本で、しかも頼れる物が第六巻だけ。

 刀2つなら迎撃も可能だが、ひとつではどうにも、攻撃に転じることができない。

 なんせ敵が、速すぎて見えないのだから。

 

「半・紫苑砲」

 

 一方シオンは敵の位置がギリギリ分かる。

 その微弱な感覚を頼りに、威力減させた紫苑砲をぶっ放した。

 

「――⁉︎」

 

 その技名に、博士の――否、敵全員の動きが一瞬鈍る。

 

「ぁっと、吸収チューブ」

 

 遅れて反応したが、シオンの魔法を止めた。

 正確には、その魔力をひとつチューブの中に収めた。

 敵方向へ噴射すれば、それは魔法の反射を意味する。

 だが、こよりは吸い取ると、自身の像を正しく投影させた。

 いろはも、こよりの隣へ風のように駆けつけて、止まった。

 

 幹部が一歩踏み出し、2人の容姿を再確認したがる。

 が、その時、幹部と総帥にビビッと、複数の信号が送られた。

 

「――! ラプラス、これは!」

「あ、わわ……どうしよ、本物だ……」

「「え?」」

 

 焦燥感と緊張感が2人に走る。

 ラプラスは、バタバタと室内を駆け回り、転げ回った。

 その少しだけ気持ち悪い反応で、こよりといろはも察した。

 

 たったったっ、と廊下をかける音、そして――

 

 バン、と扉が盛大に開かれた。

 真っ先に顔を出すのは、冷や汗を流すえーちゃんだ。

 仮装はしていない。

 

「ちょっと! 何してるんですか皆さん!」

 

 室内に咆哮する。

 主に、謎の4人に向けて。

 

 息を切らすえーちゃんの背後から、トワが顔を覗かせた。

 仮装をしていて、判別しづらい。

 

「なんやなんや、この騒ぎは」

「はぅあ!」

 

 途端に、ラプラスが射抜かれたように倒れた。

 

「え、と、トワ先輩なの?」

 

 ラプラスの反応で、こよりも照合を始めたが、記憶と一致しない。仮装をしているせいで。

 

「ほら、2人も来てください」

「「はぁーい」」

 

 その更に後方から、斧を引きずり、2人の殺人鬼が。

 

「あひゃぁ……」

「ん……? ぇーーーー――!」

 

 いろはの掠れるような感嘆の叫びと、殺人鬼の甲高い悲鳴が会議室で響く。

 

「――? 何? どういう事?」

 

 状況を飲み込めない早とちり二人組。

 えーちゃんが重くため息をついて、会議室の奥へ。

 そこへ、謎の5名を引っ張り、集めると、こう紹介した。

 

「こちら、新たにホロライブにデビューした6期生、秘密結社holoXの皆さんです」

「「……ぅそじゃん」」

 

 holoX登場。

 総帥――ラプラス・ダークネス(魔神)。

 幹部――鷹嶺ルイ(鷹の獣人)。

 博士――博衣こより(コヨーテの獣人)。

 掃除屋(インターン)――沙花叉クロヱ(シャチの魚人)。

 用心棒――風真いろは(人)。

 

「「「「「よろしくお願いします」」」」」

 

 

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