歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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116話 やっぱり、逃げのマリン

 

 魔界、マクスウェルの根城。

 

 魔界に太陽光はないが、不思議な照明が天井から魔界全体に灯りを届けている。

 太陽よりも赤いため、地上とは見え方が少し異なる。

 しかし、特に人体に害はなく、活動にも支障はない。

 

 マクスウェルの城の周囲に、警備員は1人もいない。

 警備が必要ないから。

 魔神の住まう城を襲う輩は、そういない。

 そんな奴が来れば、警備は全く意味をなさない。

 経費削減にもなるし、寧ろいない方が良い。

 

「数百年前に一度だけ来た事はあるが、多分内装は変わってる」

「数百年前ねぇ〜……」

「ロリババア……」

「あん?」

 

 規模が人間の比でない。

 まあ、それだけ月日も経てば当然、建築物は再建されるだろう。

 

「門をぶち破って……と行きたい所ですけども……」

 

 ラプラスは門を凝視して顔を顰めた。

 こう言う時、奴の能力は厄介だな。

 

「まあ、やってみます」

「開いたらどうすんの?」

「おお、そうでした」

 

 忘れていた、と手を叩きラプラスは尋ねたみこではなく、マリンを見た。

 

「吾輩とみこさん、シオンは同時に突入して、マリンさんだけは遅れて侵入してください」

「はい⁉︎ それ死にますよ⁉︎」

「マリンさんの側に我々が居ると意味ないんで」

「んな事言われても……」

 

 1人では心細いのか、乙女チックに視線を逸らして縮こまる。

 でも、ビビってるなら寧ろ好都合だ。

 その方が、きっとオッドアイが上手く働く。

 

「マリンさん。マリンさんは『いろはだけ』を探してください」

「え、なんで――」

「何でもです。いいですね、いろはだけ探す事を目的として、それ以外は見つけても無視してください」

「鷹嶺ルイも沙花叉も、こよりも?」

「はい。そいつらは助けを求められても無視して、『いろはだけ』助けてください」

「……それ、船長嫌われない?」

「大丈夫です」

 

 誰がどこに居るか、分からない中で、いろはだけを探し当てる事は困難。

 でもそれが、特定条件下でマリンには可能である。

 本人が自覚していないために、ラプラスはここまで強く念押しをする。

 

 マリンは、本気で細心の注意を払えば、監視の目を全て潜り抜け、ただ一つの目的を完遂する能力がある。

 そんな作戦遂行能力に長けている。

 

「みこたちは?」

「中層を適当に探して見つけたやつ助けてやってください」

「雑」

「ラプラスはどうすんのさ」

「吾輩はマクスウェルだ。高慢なやつだから、どうせ天辺で吾輩の到着を待ってんだろ」

 

 マクスウェルと戦えるのは同格――否、彼の上を行く存在だ。

 

「適当に中層を探して4人のうち誰か1人でも助けたら、シオンは吾輩と来い」

「はぁ? 大して戦わないって言ったじゃん」

「戦わなくていい。見学させてやるんだよ」

「上から目線すぎ。後輩のくせに」

「人生の大先輩」

 

 ガキ同士の言い争い。

 

「シオンの魔術は過去と未来に干渉するものだろ。吾輩の未来演算は参考になると思うぞ」

「…………はいはい」

 

 それは興味がある。

 魔力使いの頂点に君臨する者から、その術の扱い方を学べれば、シオンの魔法もまだまだパワーアップする余地がある。

 

「にぇ……なんかみこだけオマケ感がパニぇんだけど」

「そんな事ないっすよ。うちにはみこさんを慕うような奴もいるんで」

「おいコラ、クソガキぃ!」

「ま、まあまあみこち、落ち着いて」

 

 統率力のないチームだが、大丈夫か?

 

「ま、どれもこれも、扉をぶち破れれば、の作戦なんっすけど」

 

 ラプラスは右腕をぐるぐると回して肩慣らし。

 てくてくと門前まで歩み寄ると、右腕を大きく振るって魔法を放つ。

 

 バゴンっと、ビーム的な魔法ではなく、爆発のような魔法が発生して扉を破壊した。

 黒煙を上げ、扉がボロボロと崩れて道が開いた、がラプラスはまだ進まず、様子を伺う。

 

「……直らないな。歓迎って事か」

 

 扉が復元される事を危惧したが、そんな「超常現象」は発生しなかった。

 敵はやはり、ラプラスを待っている。

 なら望み通り、ぼこぼこにしてやろう。

 

 先頭をラプラスにして、3人が城に足を踏み入れた。

 爆音は響いたはずだが、悪魔1人来ない。

 3人は、早々に暗闇の奥へと消えていった。

 

「……」

 

 1人残されたマリンは、敵に怯えながらも、可愛い後輩のため、勇気を振り絞って単独行動を開始する。

 もう既に泣きそう。

 何が何でも、ホロメン以外との遭遇は避けよう、と心に誓う。

 

 城内へ一歩、踏み込んだ途端――

 

「――――⁉︎⁉︎」

 

 意識が飛びそうな気魄に全身が震え、身の毛がよだつ。

 最上階にいるであろう、マクスウェルから放たれる魔力と威圧感。

 

「まるで覇王色じゃないですか……」

 

 益々単独行動への不安が募る、が過去の戦闘経験が僅かながらにマリンに勇気をくれた。

 森でのエネルギー男戦、デスゲームでのシステマー戦。

 

 もう一歩、力強く踏み込めば、その先の足取りはまだ軽い方だった。

 

 室内は人工太陽光が無いため薄暗い。

 仄かな灯りと、自身の目、直感を頼りに暗中を行く。

 

 十字路に到達。直進。

 T字路に到達。右折。

 階段を発見。下階へ。

 

「ぉ――」

 

 人を発見。

 普通に彷徨いている辺り、顔は見えないがここの住人に違いない。

 暗い視界をぐるりと回し、周囲を確認。

 魔力&聖力感知センサーが複数個と、映像カメラが数台。

 センサーは無視して、カメラと人の目に注意を払う。

 全カメラと監視の、数センチの綻びを探っては身を寄せる。

 

 今なら、ラプラスがマリンを選んだ理由がわかる。

 センサーにかかる人間は、この監視網を突破できない。

 マリンといろはのみが――否、きっとマリンだけが突破できるセキュリティだ。

 

「おるおる」

 

 野蛮そうな監視員がおるではないか。

 金棒を持った1人の男性。あれが恐らく、この中で最も危険。

 

 この先に少し開けた空間が見える。

 そこでキラキラと輝く何かも。

 怪しい。

 

「…………」

 

 視認できる距離まで近付いて…………。

 

「あぇ……?」

 

 視認できないのに、何で見えた?

 デスゲームの時と同じ感覚だ。

 ハイになっていたあの時と違って、今は冷静だから、不思議に頭を悩ませることができる。

 良く見える。オッドアイの開眼が定着してきたのか。

 

 まあいい。自分が少しは使えるのなら、その力でいろはを助ける。

 

「…………」

 

 そう言えば、何でここにいろはがいると思ったんだ?

 いや、それも今はいい。

 今必要ない分析は後回し。

 目の前の敵と任務に集中しよう。

 

 闇と死角に紛れて、マリンは徐々に徐々に、距離を詰めてゆく。

 不明の物質へと。

 

「……」

 

 暗がりの中でも、認識できる距離まで辿り着くと、物陰に隠れて、キラキラと輝く巨大な――檻を見つめた。

 そう、キラキラと輝く物質は、鉄柵のように1人の人間を囲っていた。

 だからあれは檻だ。

 でも、見るからに金属ではない。勿論、石でもない。

 

 何だ……あれは?

 宝石……?

 

「――!」

 

 檻の反射で、見辛いが、中にいろはがいる。

 四肢は拘束されておらず、檻の中では自由な状態。

 自慢のチャキ丸は背負っていない。

 没収されたか……。

 

「すんすん……」

「――???」

 

 遠目にいろはを含め、現場を観察していると、突然いろはが鼻を鳴らし何かを探知し始めた。

 なんだ、とつぜ――

 

 

「ああ! マリンせんぱぁーい!」

「ん゛が…………‼︎‼︎‼︎」

 

 

 付近の監視が、いろはを一瞥――そして、その視線と手を振る先を見た。

 

(あのアホ……!)

 

 どう見ても隠密行動してんだろうが――!

 

 視線を流すように、マリンも真後ろを見た。

 

「「「………………」」」

 

 恐る恐る振り返る。

 

(うわ〜、みんな怖い目……)

 

 たった1人だけ笑顔で手を振っている。

 先輩が救出に来た現実に感極まって、その嬉しさの余り檻以上に眩しい顔でぶんぶんと。

 

「ニヒッ! 退屈凌ぎキタァ!」

 

 最もヤバそうと一目置いていた金棒を持った男性が、嬉々としてマリンへ襲い掛かる。

 

「ぎゃあぁ! 風真いろはのあほー!」

 

 暗闇を駆け出すと、周囲の監視たちも一斉にマリンを標的として攻撃を放つ。

 無意識にオッドアイを駆使して全てを回避していた。

 絶叫しながら、懸命に室内の物陰を移りながら駆け回る。

 魔法、銃、その他飛び道具が、ヒュンヒュンと周囲を突き抜ける恐怖。

 どれかが当たれば死ぬ自信がある。

 

「おい風真いろはぁ! お前出れんのかぁ⁉︎」

「鍵が無いと出れませーん。檻がダイヤで出来てて、壊せないでござるー!」

「鍵ぃ⁉︎」

「チャキ丸でもいいですー!」

 

 監視カメラも意に介さず、大声を張り上げて会話を図る。

 結果、鍵か刀を要求された。

 どちらでもいい。そうすればあとはいろはが何とかする、はず!

 

「オーイ、待てってェ!」

「わぁ! わぁ! わぁ! 来んな来んな来んなぁ!」

 

 金棒を持った男が微笑んでマリンを追う。

 足が速いため、物陰に上手く隠れなければ、逃げ切れない。

 他にも敵は複数いる。全員マリンよりは戦える敵。

 とにかく逃げ続けて、鍵か刀を――

 

「――‼︎」

 

 オッドアイが警告した。

 反射的に身を翻せば、マリンの正面を、ビュン、と強風が通過した。

 車が走ったかのような風。

 ブレーキを掛けなければ、「その勢い」はマリンに直撃していた。

 

「オオォ! 何でわかった? ナァ、ナァオイ! 何でだ!」

 

 間一髪の緊急回避に、男は益々口角を上げ、喜悦を感じる。

 敵と会話する余裕はないので、無視無視無視。

 

 金棒を持った――鬼は、置き去りにして室内を縦横無尽に?駆け巡る。

 

「鍵、刀、鍵、刀、鍵、刀、鍵、刀……」

 

 どちらか一方でいい。

 懸命に探すが、全速力で動くので、注意深く探る暇が無く、探索のムラは多い。

 

「刀あったー!」

 

 ふと視界に入った刀を掴み、即行でダイヤの檻へ駆ける。

 その際に押し寄せる攻撃も全て掻い潜って。

 

「はい刀!」

 

 檻の隙間から刀を受け渡し。

 パシッといろはが受け取るが、それはチャキ丸ではない。

 城の住人の、誰かの刀。

 

 マリンは猛スピードで檻から距離を取り、また「逃げのマリン」に徹する。

 

「ダイヤモンドは切れないでござる、が」

 

 馴染まぬ刀の柄をグッと握り締め、牢内で構える。

 

「オイ、お前ら、逃げたほうがいいぞ」

 

 金棒鬼が注意喚起するが、状況を飲み込めないものが殆どだ。

 

「疾風刃雷」

 

 大半が行動を起こす前に、いろはの一撃が室内に波紋を発生させた。

 いろはを中心とした斬撃の風が、雷のような速度で室内に拡がり、接触するモノドモを切り裂き、薙ぎ倒してゆく。

 

 マリン、金棒鬼、そして無名の監視数名を除く、全てがその身を赤く染め、地べたへと身を投げた。

 

「アーア、ダァから言ったのにィ」

 

 金棒をガシンと地面に叩きつけ、小さく欠伸した。

 

 その絶大な威力に、マリンは目を剥いて硬直していた。

 

「あー……壊れちゃったでごーざる」

 

 いろはの手元から、刀身が4分割ほどされた刀が溢れた。

 疎らに金属音を鳴らして、ダイヤの床に転がった。

 

 やはり、チャキ丸以外は刀が保たない。

 

 今の一撃を受けた者は全員倒れたが、ダイヤの柵で守られた雑魚もそこそこいる。

 

「マリン先輩、やっぱり鍵を探してほしいでござる」

「お、おん……わかった!」

 

 いろはの実力を目の当たりにし、やる気がほんのり湧き上がる。

 彼女が全力で暴れれば、怖い者はないだろう。

 鍵だ。鍵さえ手に入れれば――

 

「鍵なら、オレが持ってる。イコール、オレを倒すのはマスト」

「ぅえ……」

「ナァ、遊ぼゥや、海賊さんよォ〜!」

 

 それでもやはり、関門がマリンに立ち塞がる。

 

「…………」

 

 いろはのせいだ。

 隠密行動を台無しにしやがって……!

 その可愛さあってこその、赦しだからな!

 これで死んだら恨むからな!

 

「ふぅ……」

 

 覚悟を決めたように、大きく深呼吸。

 はい吸って〜、吐いて〜。

 

「いざ、尋常に――」

「ッシャァ――」

「逃げる‼︎」

 

 

 逃げのマリンは、逃げ続ける。

 

 

 

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