歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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118話 キメラ

 

 2階探索担当、さくらみこ。

 多種多様な機械類が設置されたこの空間は、視界が悪い。

 魔力がなく、気配を感じ取れないみこには、ミスマッチな地形。

 嗅覚も優れてはいないので、耳だけで判断する。

 足音の有無で存在を確認、更に角からチラリと前方の安全を視認してようやく次の分かれ道まで進む。

 極めて面倒。

 せっかちな者には特に。

 

「スゥーーーーー…………はぁーーーーー…………」

 

 耳を澄ませていると、足音ではなく、吐息が聞こえた。

 ラジオ体操やヨガでもやってんのか?

 

「はぁあああ……この香り……ミーと、お・な・じ・だぁ〜」

 

 次に続く独り言で、みこは警戒心全開に。

 序でに嫌悪感もかなり剥き出しに。

 全方位を満遍なく見渡し続け、襲撃に備える。

 本当に、全方位を確認していた。

 

「ねぇえ? そうでしょぅお? 聖力を持つ人の香り、だぁ〜」

 

 ピクリと一瞬眉を寄せた。

 魔界にも、天界出身がいるのか。

 聖力を持つ事ができるのは、天上で生まれた、天上の血を引く者のみ。

 天使、巫、天神のみである。

 どれに分類するのか。

 天神なら、勝ち目はない。

 

「ミーはねぇええ……人体実験の成功例だよぉおお」

 

 見えずとも見える愉快な笑み。

 歪さまで分かる、この笑い声。

 

「こんにちわぁああ〜」

「――! なんだ、オメェは⁉︎」

 

 突如頭上から人が舞い降りてくる。

 身の危険を感じ、距離を取れば、視点が変わり、見え方が変わる。

 その身体は…………この世の物とは思えぬ異形。

 

「ミーはぁああ、俗に言われるキメラってやつぅう?」

 

 煌めく鱗、ふわふわの体毛、2本の腕に、鉤爪のある翼、鋭い牙、奇妙な尻尾、瞳も左右で異なる。

 

「キメラ?」

「知らないのぉお? いろぉ〜〜〜んな動物が、混ざった物だよぉおお」

「そんな事、知ってっし!」

 

 バカにされたと感じて、みこは怒鳴った。

 

「何と……何のキメラだよ」

 

 唇を振るわせて問うたが……2種類の生物では、これほどの特徴は具現化されない。

 一体何種類、組み込まれたんだ。

 

「おさかなとぉ、とりさんとぉ、わんちゃんとぉ、にゃんちゃんとぉ、むしとぉ、あくまとぉ、てんしとぉ、えっと、えぇっとねぇええ……」

 

 本当に、一体何種類の生物が混ざって…………。

 

「おいおめぇ……」

「んんん〜?」

「悪魔と天使って……人に人を混ぜたのか」

「そうだよぉおお」

 

 ばさっ、と右翼と左翼を交互にはためかせる。

 右は黒く、左は白い。しかも、その羽の先には、鳥のように鉤爪が付いている。

 実質腕が4本。

 

「今はこの身体も気に入ってるけどねぇええ、改造されてここに来るまではねぇええ…………本当に最悪だった……よぉおお」

「そう……か」

 

 反応に逡巡する。

 過酷な人生だった事は、程度に差異あれど想像に難くない。

 でもコイツは、間違いなく敵だ。

 

「そうなのぉおお……だからミーはねぇええ――科学者嫌い」

「……にぇ」

 

 そうか。

 つまりこの奥に、こよりがいるんだな。

 

「嫌いなら、そいつをみこが引き取るにぇ」

「ぇええ〜、やだ。嫌いだけどぉおお、マクスウェルが捕まえておけってぇええ」

「なら、同情が無くはにぇえけど、力尽くでいく、にぇ」

 

 みこは手を叩き、天叢雲剣を現出した。

 両手で握り込み、くいっと剣先を見せつけた。

 

「ミーも、ミーも、力尽くでぇええ」

 

 両腕に刀を装備する。

 目を凝らして見れば、腰に鞘を携えていた。

 

 上空からクロスした刀が迫る。

 上達したみこの剣技で受け止めると火花が散った。

 薄暗い中で数少ない照明が、敵と重なって逆光となり、動きが見難い。

 

「えぇっへへぇええ」

「――⁉︎」

 

 パァン……。

 

「あれぇええ?」

 

 キメラキッドの尻尾から、硝煙が立っている。

 いや、正確には、尻尾が器用に装備して発砲した拳銃から。

 危機感知センサーの反応と、僅かに見えた途端の回避がみこ自身を救った。

 

「八咫鏡」

 

 鏡を現出し弱い照明から光を吸収――光線を発射。

 

「えっへっへぇええ」

 

 左翼、天使の羽がただの光へと返すようにガードすれば、見事に相殺された。

 

「天使の羽は聖力をぉおお、悪魔の羽は魔力をぉおお、収束発散させる器官だからねぇええ、すごぉおおいパゥワぁああがないとぉおお、効かないのぉおお」

 

 聖力を込めた攻撃も、魔力を込めた攻撃も、相当の質でないと吸収、最悪反射される。

 文字通りの手数、対応範囲、戦術範囲がデカすぎる。

 こんなチート生命体を作るなんて、傍迷惑な科学者もいたもんだ。

 

 たったったっ……。

 

 今度は正面から駆けてきた。

 

「あっちあっち! あっちに行こぉおお」

 

 みこの背後を指しながら、勢いよく攻撃を連打する。

 右腕からの斬撃、左腕からの斬撃、右翼鉤爪からの斬撃(爪による)、左翼鉤爪からの斬撃、尻尾からの発砲、ギラつかせる牙、稀に各足からの強力な蹴り。

 意識を割くべき箇所が多すぎる。

 

 防御に徹しても、どんどん後方へ後方へ――

 

「んあっ!」

 

 突如、足場が消えた、ように錯覚する。

 ある意味消えたのだが、正しくは無い足場に乗ってしまった、だ。

 

 ぼちゃん……。

 

(水槽⁉︎ でっけぇ……ってか、みこ、泳げにぇえ……)

 

 ドチュン、と翡翠のようにキメラキッドが高速で入水する。

 両翼を丁寧に折りたたみ、呼吸を鰓呼吸へと変更して。

 

 魚を取り込んだキメラなら泳ぎは早そうだ。

 でも――!

 羽はともかく、少なくとも体毛は水を吸うから泳げないだろ、普通!

 

「ロータス効果ってぇええ、知ってるぅうう?」

 

 水中でも言葉を発してきやがる。

 勢いを殺さず、2本の刀を構える。

 

「しゃっきーん!」

「――――!」

 

 斬撃が炸裂。

 確実にみこを上半身と下半身で両断できる威力。

 

「――あれぇええ? 綺麗なお花だぁああ」

 

 しかし、当のみこは消滅し、水槽を彩る桜の花弁だけが漂った。

 その桜から、じわりと血が滲み出ていたが、大した量ではない。

 

 

「……」

 

 

 桜花に紛れて水槽外へ離脱したみこは、脇腹の傷口に軽く触れる。

 水槽内が海水なら、激痛に悶えていたに違いない。

 

「くっそぉ……」

 

 戦う必要がない、とラプラスは言っていた。

 大嘘じゃないか。

 戦う必要はあったし、しかも超強いときた。

 

 よく考えれば、ここはマクスウェルの根城。

 つまり敵はholoX以上の強さを誇る。

 今のみこをholoXに突っ込めば、強さ的に……ルイとこよりの中間、くらい?

 相性もあるが、みこ1人にあのキメラは厳しい。

 こよりの解放を優先しよう。

 

 水槽から離れ、辿ってない道を行けば、その檻は容易く見つかった。

 しかしこよりが……。

 

「こより! こより⁉︎」

 

 倒れている。

 檻はただの鉄格子。問答無用に天叢雲剣で切断すると牢内へ侵入。

 駆け寄って容体を確かめる。

 首元に腫れが見られる。

 大きくないが、原因はこれだろう。

 酷い高熱だが呼吸が弱い。

 

「神具・大幣」

 

 外傷が浅く、実害の大きな物、それは大抵が毒物。

 大幣で祓う。

 

 予想は的中したのか、こよりの呼吸が戻る。

 腫れは治らないが、毒物の排出により、時期意識を取り戻すだろう。

 しかし、一体いつから倒れて、何を打ち込まれたんだ?

 

「よかった、けど……参ったにぇ……」

 

 こよりはおそらく無事だが、抱えて脱出は出来まい。

 あのキメラはきっと、すぐにここへ来る。

 こよりが目覚めるまで、粘って、起きたら逃げるか戦うか、ってとこだな。

 

「ぁああ! 壊されちゃったぁああ……」

 

 噂をすれば……。

 

「おめぇ……毒持ってんのか」

「――うん、むしさんだよぉおお」

「虫?」

「ぶんぶーん……はちさんはちさん、24」

 

 蜂の毒……。

 スズメバチか何かが一度刺した程度で気絶はしない。

 アナフィラキシーショックを起こす程の回数、毒を盛ったのか。

 

「厄介な組み合わせだにぇ」

「ミーも、そうおもぉう」

 

 みこは会話で相手の気を逸らしながら、こよりを抱えた。

 重い。

 こよりが特別重いわけではなく、人1人抱える事が、みこには苦だ。

 でも、目覚める迄はこれで凌ぐ。

 マクスウェルのせいで、結界は張った瞬間に破れるから、回避を基本としよう。そうしよう。

 

「へっへへぇええ! いっくよぉおお!」

 

 数多の矛先が、みこに狙いを定める。

 

「…………」

 

 初撃の発砲を合図にみこの耐久戦が始まった。

 

 

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