歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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120話 サムライ無双

 

 逃げる、逃げる、宝鐘マリン。

 鬼の金棒が恐ろしすぎる。

 

 あれはきっと名工ってやつ。

 一定範囲内のどこか自由な位置に、金棒を振るった衝撃を与える、的な。

 遠隔物理攻撃が可能な武器。

 

 危機察知で見えない衝撃がどこから来るかを見極めて、反射的に避け続けているが、逃げ回った事とオッドアイの使用により、体力がやばい。

 刀は見つけられないし、鍵は当然盗めない。

 マジでどうにかしろよ、holoX!

 

「――!」

 

 また来た。

 金棒が振り下ろされる瞬間、マリンの頭上から迫る危険。

 右に逸れて回避。

 その隙を突くように、他の警備兵からの発砲。

 全て空振り。

 もしかすると、マリンが避けたのかも。

 

「マリンセンパーイ!」

「なんだぁーい!」

「こっち来てください!」

「大声でゆぅなぁ! 行けんだろうが!」

 

 いろはが大声で檻によるよう頼むが、すると敵は警戒を始める。

 至極当然。

 いろはは頭が悪いのか?

 いや違う。強すぎて、そんな些末な事を計算していない。

 1人で全ていなせる計算をしているんだ。チートめ。

 

 短時間でも、待機はできない。

 一瞬だけ牢屋前を通り過ぎよう。

 

「はいすいませーん、通りまーす!」

 

 宣言して、檻の前を猛ダッシュ通過――。

 金棒と銃弾の餌食となるが、最後の力を振り絞るように目を見開き、回避した。

 死力を尽くして牢屋前を通過したのだが、いろはからは作戦どころが言葉一つ与えられなかった。

 悲しみ。

 

 悲しくて、「おいいろはぁ!」と、叫びたくなった。

 だから振り向いてみたが、いろははもう、勝った顔でいた。

 

「おいおい……マジかよ、本当に人間か、お前」

 

 鬼が呆れ果てた顔でいろはを眺める。

 

「人間じゃなかったら、何に見えるでござる?」

「化け物」

「安心してほしいでござる。ほら、怪我したから」

 

 空中で握りしめた右手の拳を開くと、切り傷や火傷痕が複数あった。

 そして、その傷痕が目について1秒後、パラパラとダイヤの床に小さな金属片たちが落下した。

 

 マリンは足を止めた。

 敵の意識が完全にいろはに向いている。

 

 そう、マリンが檻の前を駆け抜けた時、銃弾が数発流れていろはの側へ飛んだ。

 あろう事か、いろははそれを全て、素手でキャッチしたのだ。

 弾丸が、計10発。

 弾だけあっても――と、思うだろう。

 それで十分なのだ、彼女には。

 

 ピキュン――ピキュン――ピキュン――、――、――、――、――。

 

 10発の弾丸を素手から放ち、10人の警備兵を撃ち抜いた。

 さて、これで残る敵は警備兵6人と、鬼1人。

 しかも、マリンが慧眼を発揮して、倒れた警備兵から拳銃と刀を奪った。

 どちらも、いろはのものではないが、付け焼き刃でいろはは十分戦える。

 

「おいおい……こりゃ先に、牢屋の中潰した方がいいか」

 

 鬼が金棒を振り上げる。

 いろはにオッドアイは無いため、攻撃は見えない。

 だが、予測ならできる。

 頭上から――

 

「――!」

「いろは!」

 

 右腕を突き上げかけたその時、左脇腹に果てしない衝撃が。

 鬼は今、確実に金棒を振り下ろした。

 でも衝撃は横方向に走った。

 

「別に、方向なんて自由に決められる」

 

 いろははダイヤモンドの柵に頭を強く打ち付ける。

 

「っ……てて……ダイヤ硬ぇ〜」

 

 強靭な肉体も、ダイヤモンドの硬度には敵わない。

 額から血が垂れる。

 

「やっぱ耐えるんだな。ならどんどん行くぞ」

「ぁ、いろは!」

 

 鬼がまた振り上げた。

 全方位の警戒なんて不可能。

 1発2発は耐えれても、積み重なればいろはだって……。

 

「おりゃぁ‼︎」

 

 右手拳を正面――眼前に放った。

 空中で何かと腕が衝突したかと思えば、次の瞬間――

 

 バキッ…………。

 ぼろぼろぼろ…………ぼろ……。

 

 金棒が粉砕した。

 

「「……ぇ」」

 

 敵も味方も、呆気に取られて放心した。

 

 勘?

 偶然?

 奇跡?

 

 え、なんで?

 

「最初は先入観が勝っちゃったけど、攻撃したい位置を無意識的に見てるでござる。鬼の人も、周りの人も、きっと風真だってそう」

「――え?」

「だーかーら! 目線。鬼殿の目を見て、攻撃先を予測した、んでござる。いぇい」

 

 自分の両目を人差し指と中指で指し、そのままその手でピースした。

 勝利のVサイン。

 

 まあ、まだいろはは檻を出てないが、それももう時間の問題。

 

「よし!」

「な、あぁ⁉︎」

 

 放心状態の鬼の懐から、鍵を抜き取った。

 これもやっぱり、マリンの目があってこそ。

 鍵は妙な材質でできている。

 

「うわ、これもダイヤじゃん」

 

 檻の鍵である事は、材質から一目瞭然。

 こんな大量のダイヤ……売ったらいくらになるだろう……。

 

「ほいいろは」

「どうも」

 

 檻の隙間から刀と拳銃をいろはに渡し、マリンは鍵を開けようとする。

 させまいと計7人の敵が迫るが、それを任せるためにいろはに武器を与えた。

 ガチャガチャと手間取るマリンを守るため、いろはは拳銃のマガジンを抜き取り、手に弾丸を握った。

 

 敵も中々に賢い。

 銃を持つ者は敢えて距離を取り、物陰に隠れながらマリンを狙い撃つ。

 

「そう来ると思った」

 

 マリンの脳幹へ迫る1発。

 柵の隙間から手は届かないので、その音速の弾丸に弾丸をぶつけて撃ち落とす。

 

「なら――!」

 

 同時に3発放たれた。

 腕は2本。さあどうだ人間!

 と、不敵に笑う敵たち。

 

「ぷっ!」

 

 右手、左手、口。それぞれに弾を仕込んで、同時に発射。

 マリンを狙う3発全てを弾き飛ばした。

 唖然とする……ような光景だが、鬼が怯まず更にその隙をついてきた。

 

 弾の装填が間に合わないので、地に置いた刀を使う。

 だが当然、それを拾い上げるモーションすら致命的な遅れ。

 だから刀を蹴り飛ばす。

 見事な縦回転で、檻の隙間を抜け、鬼へ。

 強制的に回避モーションを与え、数秒の時間を稼ぐと急いで弾を装填。

 

 ガチャン――。

 

「開いた!」

 

 牢屋の錠が外れる。

 直後、マリンは緊急で右方向に飛び退いた。

 

 カシャン――

 

 豪快に扉を蹴り開いて飛び出したいろはが、鬼の拳を受け止めた。

 

「ナイス回避です、マリン先輩」

 

 マリンが飛び退かなければ、いろはは牢屋を出られなかった。

 牢屋ないから見て、扉が押し開きだったから。

 初見だが、オッドアイなのかなんなのか……とにかく反応できた。

 

「……力勝負か」

「――? するの?」

「ああ」

 

 鬼が後方へ飛び退き、近接格闘の構えを取る。

 周囲には拳銃持ちが3人と刀持ちが3人。

 最初の斬撃で魔法系統の敵を全て倒せたのはラッキーだったな。

 

 まあ、この鬼の部下ということもあり、元々比率が少なかった為でもあるが。

 

「マリン先輩、寝てていいですよ」

「疲れたから寝たいけど、ここでは流石に寝れんわ」

 

 正論を返すが、もう目を使う気は無いのか、ダイヤの檻に凭れながら座り込んだ。

 あとは任せた、の合図と取ろう。

 光栄だ。

 

「所で、風真の刀はどこでござる?」

「さあな。盗品管理は俺の仕事じゃない。まあ少なくとも、この階にはないだろう」

「あまり格闘は、好みじゃないけど……」

 

 いろはは口元を曲げて不満を露わにした。

 金棒を無くした鬼は、構えを取るがいろははいつまでも構えない。

 周囲の一般兵も銃口をいろはとマリンに向け、刀を鋭く煌めかせている。

 

 さて、まずは誰が動くのか……。

 

 パァン、と銃声一つが合図だった。

 

 銃弾は真っ直ぐマリンへ。

 頭を狙っている。

 マリンが凄いため気付かなかったが、敵のエイムは非常に良い。

 一撃で死ぬように感じる。

 

 任せられたので、必ず守りに行くと踏んでいるのだろう。

 その通りだ。

 

 いろはは鬼に背を向けマリンの下へ。まるで瞬間移動。

 目で終えたのか知らないが、鬼の拳がそれを追う。

 いろはが躱わせばマリンに当たるよう計算されている立ち位置。

 

 まず、銃弾を掴んで阻止。

 次に迫る拳に対処したいが、そこに合わせて更に2発の弾が捲し立ててくる。

 多対1は得意でも不得意でもないが、組み合わせが厄介。

 そもそも敵も、ラプラス級の親玉が指揮してる組織だから、強さもholoX程度はある。

 

 仕方ないのでマリンを担いだ。

 

「おわっ……と、風真いろは……優しくしてくだたーい」

「気をつけます」

 

 マリンを担いだので一先ず銃弾を回避しつつ拳に右足で対抗。

 なかなか重い。

 加護は持っていそうだ。

 

 全て受け切る事は可能だが衝撃がマリンに響くので上手く軌道を逸らして拳を地面に落とす。

 背が檻なので、出来れば離れたいが追撃に3つの斬撃。

 襲い方が上手いな。

 遅れてまた銃声が一つ。

 

 マリンを右肩に抱えているので、右腕は使えない。

 乱暴すれば使えるが、したくないので。

 

 という事で、迫る三つの刃を――

 

「きっ――」

 

 噛む、摘む、踏み潰す。

 

 刀一つは踏み砕いた。

 続けて咥えた刀を噛み砕く――。

 砕けた鉄が口内に散らばる。美味しくない。

 

 最後に摘んだ刀をへし折り、折れた部分を握った。

 そのまま身体を回し、折った刀の破片で銃弾を両弾。

 

 そこを二つの銃口が狙っているので、破片を投函し銃を一つ破壊。

 間近の鬼が足払いを掛けてきた。跳んで回避できるが次のモーションを制御される。

 

 足払いに左脚をぶつけて対応。回避せず受け止めた。

 鬼は併せて両手を軸に、倒立するような蹴り上げ。

 は、身軽にズレて避ける。

 倒立の態勢から、加えて両手をバネに天井まで跳躍。

 

「――」

 

 の間で、折れた刀2本と銃弾2発が押し寄せる。

 刀一本に自ら迫り、いろはは容易く奪い取る。

 

「ちょっと、疾風刃雷」

 

 マリンへの負荷を鑑み、半回転で止める。

 迫る危険と一般兵全てを切り裂くと同時に、手にした刀が粉のように消滅。

 

 これで1対1。

 

 天井から弾丸のように発射される拳。

 これも受ければ衝撃がマリンへ伝う。

 しかし、これ以上回避を続けても一辺倒な展開が続いてしまうだけ。

 どこかで一度マリンを下ろそう。

 

「パワーじゃなくスピード勝負かよ」

 

 矢継ぎ早に鬼の追撃が襲い、それを回避回避と連ねてゆく。

 

 0.3秒ほどの隙を探り、その隙間時間を見つけると、いろはマリンをそっと素早く地に降ろした。

 マリンが想像していた以上に優しい扱いだった。

 

「舐めプされてる気分だな」

「そんなつもりはないけど……本気ではないでござるな。現にチャキ丸使えてないし」

 

 愛刀の有無は実力に大きく作用する。

 あの刀が無いだけで、いろはの戦力は30%減って所。

 

「兎に角とっとと、檻の中に戻ってもらうぞ」

「それはいやだ」

 

 鬼の態度に僅かな焦りが見え始めた。

 時間をかけて2人の確保を試みているものの、進展どころか次第に味方が減っている。

 負けの色が濃い。

 いや、確実に負ける。

 

「……」

 

 鬼は真正面からいろはへ飛びかかる。

 無謀な事だと分かっているはずだが、なぜ?

 

「――!」

 

 いろはの迎撃体制を目視した途端、懐から拳銃を取り出し、マリンへ向け発砲。

 0.2秒判断が遅れた――!

 無理やり止めるしかない。

 

「――ぃっ」

 

 右足を伸ばして自ら銃弾を受ける。

 いろはだって人間。

 銃弾は十分ダメージになる。

 

 ピチュんと小さく血が跳ねる。

 

 痛みと咄嗟の判断による不均衡で一瞬全身がふらついた。

 そんな隙を鬼は絶対に見逃さない。

 

 強く握った右拳をいろはの鳩尾に打ち込む。

 

「だぁーー――!」

「――⁉︎」

 

 いや、打ち込めなかった。

 不均衡状態だったいろは。

 理由は右足で地面に踏み込めば激痛が走るから。

 それさえ我慢すれば――問題無し。

 

 ピシャッと傷が広がり、血が更に吹き出た。

 んな事お構い無し。

 イッテェ!

 でも、そんなこともどうでもいい。

 

「用心棒の、お仕事ぉー!」

 

 鳩尾を狙った鉄拳を、根性の踏ん張りで捕まえると、その勢いに乗せて鬼を地面に叩きつける。

 軸足は左足。

 ダァン、と軽い衝撃が響くが、相手は鬼だ。倒れるはずがない。

 

「っ、くっそ……こんにゃろ――ぉ!」

 

 だから倒れた鬼野郎の首根っこを掴んで、猛疾走。

 いろはの通り道に血痕が残る。

 そして、神速に乗せて、鬼の後頭部を、丁度いいダイヤの檻に衝突させた。

 

 ッカァ〜〜〜〜ん…………。

 

 未だ嘗て耳にした事ないような、美しい響き。

 宝石のように美しい音色と共に、鬼の意識も散ってゆく。

 

「ふぅ……マリン先輩、無事ですか?」

「いやこっちのセリフだが。大丈夫そうですね」

「痛いですけど、我慢できますよ、これこくらい、はい!」

 

 少し癪だが後でラプラスに治してもらおう。

 そう決めつつも口にはせず、根性論を見せつけた。

 

「いろはに背負ってもらおうと思ったけど、流石に無理っぽいし、歩くか」

「おんぶですか? いいですよ、しましょうか?」

「流石に遠慮するわ、足やられてんのに」

「よくある事なんで」

「じゃあ今後はよく起きないよう気をつけて……と言っても、原因は船長なんですけどね」

 

 先輩の役に立ちたいのか、いろはは痛みなど意にも介さない。

 だが、寧ろ肩を貸すべきはマリンである。

 

「いえいえそんな、風真たちが捕まったのが悪いんです」

「……んま、逆責任転嫁はもういいよ。早くここ出よう。上からの圧がやばい」

 

 2人とも魔力は持たないが、それでも感じるマクスウェルの存在感。

 普段側にいるラプラスからは感じたことが無いが、枷のおかげなのだろうか?

 

「そうですね。それじゃあ行きましょうか」

「…………」

「ねえいろは」

「はい」

「前と後ろってどっちが安全だと思う?」

「え〜……風真がいるからどっちも安全ですよ」

「それはそうかも知れんけど……前、いや、やっぱり船長が後ろ!」

 

 船長なのに?

 とは言わないでおいた。

 

 かわよいなぁ、と思いを心に留めつつ、いろは地上を目指し進みはじめた。

 その後ろからついてくるマリン。

 絶対守らねばならぬ。

 

 いろはは半有頂天になりつつ、歩みを進め続けた。

 

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