歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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122話 ルイクロ、その絆の片鱗……?

 

 シャチとカメレオンが闘っている。

 普通に考えて、シャチが勝つ。

 

 でも、中々どうして、いい勝負。

 シャチの超音波で保護色もほぼ意味をなさない中で。

 

「お前マジで、進化しすぎだろ」

「はて、何の事?」

「とぼけんなよー」

 

 ぶんぶんと斧を振り回すクロヱ。

 対してカメレオンは壁面や天井を這い回って回避する。

 

「カメレオンってさ〜、ヤモリと違うから、この辺の壁や天井にはまず張り付けないんだって」

「俺はカメレオンじゃない、獣人。だからそう言う事」

「はー!」

「お前こそ、シャチは歩けないが、どう言う事だ?」

「ほ〜、煽るなぁー」

 

 天井に張り付くカメレオン目掛けて斧を振るう。

 その際、斧についたボタンをポチッと。

 

 すると、斧の先端――狂気となる部分が分離した。

 ぐるぐると回転し、勢いのままカメレオンへ。

 

 ジャキン、と天井に突き刺さる。

 どうやら避けたようだ。

 

 シュッ、と音速で細長い何かがクロヱに迫った。

 パシッ、と細長い何かが腕を捕まえた――但し、ルイの。

 

「なぁんで割り込むの!」

「流石に身体は嫌でしょ、コレ」

「――んー?」

 

 ルイが右腕に巻き付いたそれを見せつけた。

 腕でも嫌だが、身体よりはマシだろう。

 

「うぉぇ――!」

「可愛い女ならまだしも、得体の知れん男の舌とかさ」

 

 そうそれは、カメレオンの伸びた舌。

 さすが爬虫類。

 気持ち悪いな。

 

 ルイは踏ん張りを効かせて敵の動きを抑え込む。

 その時間で分離した斧が謎の原理で戻ってきた。

 斧を掴み、クロヱは舌を断ち切ろうとした。

 

 しかし――

 

「ん――!」

 

 ルイの身体が持ち上がり、舌の収縮に合わせて吹っ飛ぶ。

 飛んだ先には当然カメレオンがいる。

 ナイフを構えていた。

 ギリギリまで舌が絡みついていて、行動の制限が大きい。

 

「無理か――」

 

 人1人の体重を巻いてこの速度。

 パワーが凄い。

 もはや回避不能と判断したルイはギリギリまで無防備を装う。

 

 タカの瞬発力を舐めるなよ――。

 

 ザクッ――

 

「ッ――‼︎」

 

 振り下ろされたナイフは、高速で迫るルイの左腕に突き刺さった。

 腹部を狙った筈なのに。

 

「い゛っ――たいでしょうがー!」

 

 ルイは顔を顰めながら、反対の腕で鞭を振るった。

 今の出来事を敵にお返しするように、鞭でカメレオンの脚を捕まえた。

 

 天井から無理矢理引っぺがして、クロヱの方へ放った。

 

「なんたる事」

 

 斧を大きく振りかぶり、標的をロックオン。

 振り下ろす瞬間――カメレオンが再び舌を伸ばし、斧に巻きつけた。

 

「きったねぇ!」

 

 腕力と舌力。

 どうしてこんなに、力が拮抗するのだろう。

 

「ねえクロヱ、もう2対1でよくない?」

「えぇ〜……」

 

 このままタイマンを任せても、きっと進展しない。

 

「ポイントは全部クロヱ持ちでいいからさ」

「うーん……まあいっか」

 

 ポイントは建前で、クロヱのただのプライドだったが、まあいいか。

 1日で頂点を取れるなんて思えないし。

 まだまだ時間はある。地道に少しずつ、成長していこうか。

 

「じゃあ、私も全力出すよ」

「おっけー」

「――訳のわからん。という事」

「うちらの勝ち――」

「――そういう事〜」

 

 クロヱが思いっきり斧を引いた。

 カメレオンは逆方向に斧を引き、クロヱの動きを抑えようとするが、同時にルイの鞭が緩み、カメレオンがクロヱに向かって飛んだ。

 

 勢いに合わせてクロヱは斧を振るう。

 中々の速度だが、カメレオンの回避はきっと間に合う。だから――

 

「ぽちー」

 

 ボタンを押して斧の先端を分離。

 先端はルイの方へ飛んでゆく。

 ぶん、と先端が外れた斧の持ち手をフルスイング。

 

 カメレオンは右腕で斧の柄を受け止める。

 

 その背後で、ルイが分離した斧の先端に鞭を巻きつけた。

 実にしなやかに踊る鞭。

 

 ルイは空中を旋回しながら鞭を振り回す。

 

「present death」

「Oh〜、no thank you」

「Haha〜、don't hold back!」

「Uhm!」

 

 ルイからの死のプレゼントを拒否したカメレオン。

 一度は見事に身を翻したのだが……。

 クロヱが斧を再び結合させ、振るった。

 見事腹部に一撃。

 

「いた……」

 

 流れは途絶えた。

 

 クロヱは斧の先端を跪くカメレオンに突き出す。

 

「どうする?」

「…………」

 

 ルイは地に舞い降りると、先刻ナイフの刺さった左腕を再生させた。

 

「……魔法も使えるのか、勝ち目がないな」

「そう言う事」

 

 片一方ならどうとでもなるが、2対1では勝ち目がないと判断し、カメレオンは観念した。

 

「お前らは――総帥が好きか?」

「「――?」」

 

 唐突な質問に面食らう。

 他意は無いようだが……。

 

「俺はマクスウェルさんが好きだが、いつも手を焼いている」

「――」

「理由は明白な能力の差だ。あの人と俺は、見る世界もできる事も違う。だからこうやって、お前たちに負ける。と、言う事」

「――」

「いつかきっと、お前らにも来るぞ。己の弱さを呪う日が」

 

 ルイはカメレオンの腹部に手を翳した。

 

「知ってるよ。あの2人に比べて私らが弱い事は」

「沙花叉たちにも勝てない人は多い。現に、沙花叉1人じゃお前すら圧倒できない始末。世界征服なんて夢のまた夢」

 

 ルイ1人でも、カメレオンは倒せない。

 向き不向き、有利不利もある。

 得意不得意で、生きる道が変わる。

 

「でもアイツには――あの総帥には私たちが必要なの」

「そうそう、沙花叉たちがいないと、アイツ多分なーんもできねーから」

 

 恥ずかしいから、色々言わないけど。

 

「――羨ましいな、お前たちは」

「お前も悪い人じゃねぇじゃん」

「でも、不出来な人間だ」

「いいだろ、悪く無いだけで。臨みすぎなんじゃねぇの?」

「――――すきだからな、仕方ない」

 

 クロヱは強くなりたいと言うが、それは単なる意地。

 最悪今のままでも、まあいいかな、なんて思ってる。

 ルイだって、幹部である事を光栄に思う。

 

 勿論、アイドル活動とは別の話だが。

 アイドルは夢を追い、夢を届ける仕事なので、さらに高みを目指してゆくが、holoXの一員としては今のままでも十分。

 総帥が仲間に求めているものは、強さじゃないから。

 

「何とかしてみろよ、好きならさ」

「――――」

「じゃあクロヱと私は、他のメンバーと合流しに行くよ」

「――――俺もそうするか」

 

 2人とカメレオンは別方向へ歩き始めた。

 

 やがて互いに闇へと消えてゆく。

 

「……クロヱ、カッコつけてたね」

「鷹嶺ルイもね」

 

 ルイは身嗜みを整えて、クロヱはマスクを外した。

 

「はぁーあ、沙花叉もシオン先輩と一緒がいいな」

「だから私で我慢しろって」

「鷹嶺ルイだって、いるならマリン先輩とがいいくせにさ」

 

 照れ臭そうに視線を逸らした。

 図星のようで。

 

「いや、私は……クロヱを選……ぶ、よ?」

「信用できねぇ〜」

 

 葛藤しながら言葉を紡ぐその姿は、いかにも胡散臭い。

 

「下降りるよ」

「ほーい」

 

 2人はひとつ下の階へと降り、みっこよりと合流した。

 

 


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