シャチとカメレオンが闘っている。
普通に考えて、シャチが勝つ。
でも、中々どうして、いい勝負。
シャチの超音波で保護色もほぼ意味をなさない中で。
「お前マジで、進化しすぎだろ」
「はて、何の事?」
「とぼけんなよー」
ぶんぶんと斧を振り回すクロヱ。
対してカメレオンは壁面や天井を這い回って回避する。
「カメレオンってさ〜、ヤモリと違うから、この辺の壁や天井にはまず張り付けないんだって」
「俺はカメレオンじゃない、獣人。だからそう言う事」
「はー!」
「お前こそ、シャチは歩けないが、どう言う事だ?」
「ほ〜、煽るなぁー」
天井に張り付くカメレオン目掛けて斧を振るう。
その際、斧についたボタンをポチッと。
すると、斧の先端――狂気となる部分が分離した。
ぐるぐると回転し、勢いのままカメレオンへ。
ジャキン、と天井に突き刺さる。
どうやら避けたようだ。
シュッ、と音速で細長い何かがクロヱに迫った。
パシッ、と細長い何かが腕を捕まえた――但し、ルイの。
「なぁんで割り込むの!」
「流石に身体は嫌でしょ、コレ」
「――んー?」
ルイが右腕に巻き付いたそれを見せつけた。
腕でも嫌だが、身体よりはマシだろう。
「うぉぇ――!」
「可愛い女ならまだしも、得体の知れん男の舌とかさ」
そうそれは、カメレオンの伸びた舌。
さすが爬虫類。
気持ち悪いな。
ルイは踏ん張りを効かせて敵の動きを抑え込む。
その時間で分離した斧が謎の原理で戻ってきた。
斧を掴み、クロヱは舌を断ち切ろうとした。
しかし――
「ん――!」
ルイの身体が持ち上がり、舌の収縮に合わせて吹っ飛ぶ。
飛んだ先には当然カメレオンがいる。
ナイフを構えていた。
ギリギリまで舌が絡みついていて、行動の制限が大きい。
「無理か――」
人1人の体重を巻いてこの速度。
パワーが凄い。
もはや回避不能と判断したルイはギリギリまで無防備を装う。
タカの瞬発力を舐めるなよ――。
ザクッ――
「ッ――‼︎」
振り下ろされたナイフは、高速で迫るルイの左腕に突き刺さった。
腹部を狙った筈なのに。
「い゛っ――たいでしょうがー!」
ルイは顔を顰めながら、反対の腕で鞭を振るった。
今の出来事を敵にお返しするように、鞭でカメレオンの脚を捕まえた。
天井から無理矢理引っぺがして、クロヱの方へ放った。
「なんたる事」
斧を大きく振りかぶり、標的をロックオン。
振り下ろす瞬間――カメレオンが再び舌を伸ばし、斧に巻きつけた。
「きったねぇ!」
腕力と舌力。
どうしてこんなに、力が拮抗するのだろう。
「ねえクロヱ、もう2対1でよくない?」
「えぇ〜……」
このままタイマンを任せても、きっと進展しない。
「ポイントは全部クロヱ持ちでいいからさ」
「うーん……まあいっか」
ポイントは建前で、クロヱのただのプライドだったが、まあいいか。
1日で頂点を取れるなんて思えないし。
まだまだ時間はある。地道に少しずつ、成長していこうか。
「じゃあ、私も全力出すよ」
「おっけー」
「――訳のわからん。という事」
「うちらの勝ち――」
「――そういう事〜」
クロヱが思いっきり斧を引いた。
カメレオンは逆方向に斧を引き、クロヱの動きを抑えようとするが、同時にルイの鞭が緩み、カメレオンがクロヱに向かって飛んだ。
勢いに合わせてクロヱは斧を振るう。
中々の速度だが、カメレオンの回避はきっと間に合う。だから――
「ぽちー」
ボタンを押して斧の先端を分離。
先端はルイの方へ飛んでゆく。
ぶん、と先端が外れた斧の持ち手をフルスイング。
カメレオンは右腕で斧の柄を受け止める。
その背後で、ルイが分離した斧の先端に鞭を巻きつけた。
実にしなやかに踊る鞭。
ルイは空中を旋回しながら鞭を振り回す。
「present death」
「Oh〜、no thank you」
「Haha〜、don't hold back!」
「Uhm!」
ルイからの死のプレゼントを拒否したカメレオン。
一度は見事に身を翻したのだが……。
クロヱが斧を再び結合させ、振るった。
見事腹部に一撃。
「いた……」
流れは途絶えた。
クロヱは斧の先端を跪くカメレオンに突き出す。
「どうする?」
「…………」
ルイは地に舞い降りると、先刻ナイフの刺さった左腕を再生させた。
「……魔法も使えるのか、勝ち目がないな」
「そう言う事」
片一方ならどうとでもなるが、2対1では勝ち目がないと判断し、カメレオンは観念した。
「お前らは――総帥が好きか?」
「「――?」」
唐突な質問に面食らう。
他意は無いようだが……。
「俺はマクスウェルさんが好きだが、いつも手を焼いている」
「――」
「理由は明白な能力の差だ。あの人と俺は、見る世界もできる事も違う。だからこうやって、お前たちに負ける。と、言う事」
「――」
「いつかきっと、お前らにも来るぞ。己の弱さを呪う日が」
ルイはカメレオンの腹部に手を翳した。
「知ってるよ。あの2人に比べて私らが弱い事は」
「沙花叉たちにも勝てない人は多い。現に、沙花叉1人じゃお前すら圧倒できない始末。世界征服なんて夢のまた夢」
ルイ1人でも、カメレオンは倒せない。
向き不向き、有利不利もある。
得意不得意で、生きる道が変わる。
「でもアイツには――あの総帥には私たちが必要なの」
「そうそう、沙花叉たちがいないと、アイツ多分なーんもできねーから」
恥ずかしいから、色々言わないけど。
「――羨ましいな、お前たちは」
「お前も悪い人じゃねぇじゃん」
「でも、不出来な人間だ」
「いいだろ、悪く無いだけで。臨みすぎなんじゃねぇの?」
「――――すきだからな、仕方ない」
クロヱは強くなりたいと言うが、それは単なる意地。
最悪今のままでも、まあいいかな、なんて思ってる。
ルイだって、幹部である事を光栄に思う。
勿論、アイドル活動とは別の話だが。
アイドルは夢を追い、夢を届ける仕事なので、さらに高みを目指してゆくが、holoXの一員としては今のままでも十分。
総帥が仲間に求めているものは、強さじゃないから。
「何とかしてみろよ、好きならさ」
「――――」
「じゃあクロヱと私は、他のメンバーと合流しに行くよ」
「――――俺もそうするか」
2人とカメレオンは別方向へ歩き始めた。
やがて互いに闇へと消えてゆく。
「……クロヱ、カッコつけてたね」
「鷹嶺ルイもね」
ルイは身嗜みを整えて、クロヱはマスクを外した。
「はぁーあ、沙花叉もシオン先輩と一緒がいいな」
「だから私で我慢しろって」
「鷹嶺ルイだって、いるならマリン先輩とがいいくせにさ」
照れ臭そうに視線を逸らした。
図星のようで。
「いや、私は……クロヱを選……ぶ、よ?」
「信用できねぇ〜」
葛藤しながら言葉を紡ぐその姿は、いかにも胡散臭い。
「下降りるよ」
「ほーい」
2人はひとつ下の階へと降り、みっこよりと合流した。