16話 シオンを追って
大型トラックの荷台に乗っている面々。
運転はなんとえーちゃん。
まさか大型車の免許を持っているとは思いもしなかった。
このトラックのコンテナは十分大きく、メンバーは全員入る。
しかもなんとこのトラック電気自動車で、機材持ち運びなどに使われているのだ。
人捜しに目は多い方が良い。
そして行く場所が危険ならみんなで乗り越えるべき。
話し合った結果、そう決まり今に至る。
移動手段はえーちゃんが率先してこの車を引っ張り出してきてくれた。
荷台には照明がないため、懐中電灯で明かりを灯し皆で話し合う。
本は一つしかないから、あくあが持ちコンタクトは基本的にスマホのグループ通話でとる。
危険な可能性があるため、行動は基本各期ごとに固まること。
危険な何かと遭遇した場合、とにかく逃げる。
などなど。
さあ、まもなく森。
えーちゃんが車を飛ばして、人気のない道を進む。
しかし、森の入り口に一人の男性が見える。
よく見えないが、果てしなく怪しい香りがする。
だが、アニメみたいに轢いて行く訳にはいかない。
良識のある人と願って車を止める。
一人の男……かとおもいきや、顔はお面で覆われているためどちらか分からない。
がたいから男とは思うが。
「――お嬢ちゃん方が来るとこじゃあないぞ」
「……魔法使いですね?」
「ん? まあ、もう昔の肩書きも捨てたただの森番だがな」
仮面の男は仮面の額の部分に触れる。
喜怒哀楽の表情を模した仮面。
えーちゃんが対応していたが、移動時間と停車時間から到着と勘違いして、あくあが先行してコンテナから降りてきた。
男がいるのを見てすぐに身を縮めるが……
「あ……嬢ちゃん、この仮面見てみな」
「――?」
言われるがまま仮面を見るあくあ。
見ていたが何が目的か分からず首をかしげた。
「そんなことより、ここを通してください。友人が一人この先にいるんです」
あくあが珍しく男に強く出る。
その様子にえーちゃんはこんな状況ながら大きく目を見開いて驚く。
「ちょっと本貸しな」
あくあの頼みを無視するようにスルーして、あくあの手にした本を魔法か何かで自分の下に寄せる。
それをパラパラめくりすべてを悟る。
「あいつ……やりやがったな」
「……? あいつ?」
男の呟きにあくあが反応する。
しかし、それへの返答はない。
「あ……嬢ちゃん達、俺の言葉を信じなくても良いが、参考までに色々言うから聞いときな」
本をあくあに投げると、そう言ってその場に座る。
「その紫の光の位置はこの森の中心の塔だ。かなり高層で主と嬢ちゃん達の友人がそのてっぺんにいる」
その言葉だけで、二人は仰天し顔を見合わせる。
だが、男の言葉は止まらない。
「だが肝心なのは友人の嬢ちゃんの目的だ。あの嬢ちゃんの目的は盗まれた本物の魔導書の奪還」
べらべらと話す。
そのため、なかなか頭に入ってこない。
「嬢ちゃんは塔の頂上で主とついさっき撃ち合い始めた。が、まずすることは本を奪い返すこと」
「でも、本を取り返すならどっちにしても主をどうにかしないと――」
「いや、ここの主はしょっちゅう盗みを働く野郎だ。ここから塔が見えないのは身を隠すため。そんな男が安直に自分の手元に置いたりしない」
「じゃあどこに――」
「灯台もと暗し――つまり、塔の地下だ」
「地下まであるんですか?」
「たった二階だがな」
非常に親切に解説をくれる。
非常に怪しいのに、何故か信じられる。
まさか魔法をかけられている、という発想も浮かばない。
「この先に進むとやがて道がなくなり、生い茂って空も見えないような森が塔を囲っている。だから車はこの先の森までだ」
「それから、所々に見張りもいる。出会ったら刺激せずに引け、敵う相手じゃない」
「あと、車にも見張りを数名残しておけ。襲撃の可能性もゼロじゃない」
と、計三つの指示を受けた。
全く掴めない謎の仮面男。
敵か味方かも定まらない。
それなのに、信用してしまう。
「嬢ちゃんらが死んだら、いろんな人が悲しむからな、気をつけな」
そう言うと、もう喋らない。
黙って道の脇に座り込むと眠り始めた。
「……えーちゃん」
「はい」
視線を合わせ、頷き合う。
二人は車に乗り込み見えない塔を目指し森の入り口を目指した。
*****
問題が発生した。
それはこの森内に電波が届いていないこと。
そして、闇因子が濃いこと。
闇因子は正直どうでも良いが、電波がなくスマホが使えないのは大変だ。
ひとまず、ゼロ期生とえーちゃんが男の指示通り車の見張り。
残りは全員距離をとりつつも固まって塔に直進。
この方向性で固まった。
「みんな、気をつけてね」
そらからの案じた言葉。
「そちらもお気をつけて」
それを最後に、二つのチームに分かれた。
あくあが臆病ながら、先導している。
「ノエルはなんか、何でも撃退できそうだな……」
「まあ団長は脳筋やからね」
「あやめちゃんも頼りになるね」
「いうてころねのグローブとかもぽいよ」
「いや、それ言ったら……えっと、えっと……マリリンだって海賊っぽい帽子と眼帯と錨のペンダントも強そうだでな?」
強そう!のパス回し。
最後のころねは無理矢理だったが。
「あー、このペンダントシオン先輩に貰いましたからね」
マリンが身につけたペンダントを儚げに見て呟いた。
「「……」」
空気が少し重くなる。
無言で森を進む。
しばらく進むと、少し開けた場所に出る。
開けたとは言っても、小さな開けた空間で、その部分だけ木がなく光が差し、一つの岩がある。
そこから空を見上げれば、雲にかかった塔が微かに見える。
一同は警戒しながら石の周りに歩み寄る。
石に触れたり、周囲を見回すが、人のいた形跡はない。
だが、ホロライブの一部の獣人達が一斉に鼻を鳴らす。
「火薬くさい」
ミオの発言に、鼻を鳴らした者すべてが声を揃えて頷く。
人間には臭わない火薬臭。
火薬とは全く縁のない人生だが、それが危険な臭いであることは誰しも分かる。
「臭い? 良い匂いだけど、分からないかなぁ~、僕じゃなきゃ」
「誰!」
茂みから、声が聞こえた。
妙に掠れた男の声。
不吉な声にも物怖じせず、誰かが声を上げた。
「僕? 僕は僕。僕以外の何者でもないよ? どう? 僕の顔? 怖くない?」
森の陰から現れた男は異常な顔つきをしていた。
顔や手足は一部が焼けただれており、目は左右で色も大きさも異なる。
髪はパサパサで清潔感がまるでない。
そんな自分の顔を指さして、怖さを見せびらかす。
良い趣味ではない。
「許可なく森に入ることは許されないことって知ってる?」
不清潔な男が、不吉な笑みを見せつける。
正直対話も躊躇するレベル。
だが、話し合いが必須のようだ。
まずは誤解を解くことから。
「許可は貰った。森番の仮面の男の人に」
「森番? あー、あの人ね? あの人はうちの人じゃないから、その許可は受け入れられないよ? あの人は勝手にこの森の番をしてる変態さんだからね」
変態はどっちか。
だがどうやら話は通じないらしい。
まさかだまされた?
どちらにせよ現状がまず危険だ。
もう話と意は決した。
全員走る準備に入る。
いつでも走って逃げられる。
「そういうことだから、不法侵入って事で良い? 良いよね? 良いよね? 良いよね?」
じりじりと歩みを寄せてきて気持ち悪い。
吐き気を催す様相に一同視線をそらす。
「良いよね? 良いね? 決まり? 決まり!」
「っ――散開ッ!」
「爆散‼」
「散開ッ‼」
男が手を空に掲げた途端、火薬臭が異常なまでに強烈になり、人の鼻でもつんとくるほどにまで達した。
その瞬間、一人の叫び声。
それを塗り重ねる男の一声を更に塗り替えてもう一度、あやめが叫んだ。
もう意味が分からない。
すべての者がそう思ったに違いない。
ただ、目的は変わらない。
目指すは塔。
最優先は命。
今は逃げろ。
空から爆弾が降ってくる。
地面から爆弾が生えてくる。
男の手から湧き出た爆弾が投下される。
「全員、逃げろー‼」
あやめが刀を抜いて仲間に叫ぶ。
既にほとんどは逃げ出していた。
その場に残ったのはあやめとフレアだけ。
「二刀流・神風」
あやめは抜いた二本の刀を敢えて一度鞘に収め、覇気を溜めると、もう一度、今度は勢いよく刀を抜き払った。
すると、見えない風が刃先から飛び出て男の投函した爆弾をすべて空中でなぎ払い爆発させる。
「百火・不知火」
フレアはきんつばに力を貰い自前の弓を構える。
弓に添える矢は一度に三本。
その先端は発火しており、それを宙に放つと天で弾けて百本もの矢に分裂?
それらが天から降り注ぐ爆弾を悉く射抜き、空中で爆破させる。
二人はそれぞれ一度の攻撃を終えるとアイコンタクトで意思疎通し、それぞれ別方向に走り去った。
「――ふひっ! しかしまさか、あいつが森に入れるとは、何考えてんだ? 珍しいね」
男は無傷の空間にある一つの岩の上に座り込んでくつろぎ始めた。
*****
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、っ」
走って走って走りまくった。
息を切らして駆け抜けた。
運動は大の苦手でも逃げなければならないとき。
火事場の馬鹿力は出なかったから、それは安心。
「はあっ、はあっ、ここまでっ、来ればっ……!」
分け目も降らず、振り返らず、一心不乱に走り続けたが、ここでようやく後ろを見た。
「……あれ?」
そこで発覚する恐怖の事実。
それは――
「みんな……?」
あれだけ大勢で散開して、この場に逃げたのがなんとあくあただ一人。
「……」
ぽつんと一人、暗い森の中で鍵を手に佇む。
なんと心細いことか……。
「YABE」
しかし、こんなところで挫けていられない。
あくあは一言呟いて、本を開くと、シオンにプレゼントしてもらった陰キャップを深く被り、更に奥に進んでいった。
どうも、作者でございます。
今回から新章の開幕です。
ホロライブから大きく逸脱して、異世界譚です。
当然バトルをこの先行いますが、出来る限りキャラが崩壊しないように頑張ります。
さて今回は、仮面の男と爆弾魔が出てきました。
爆弾魔は言うまでもなく敵ですが、果たして仮面の人は何者でしょうか?
実はこの作品、ホロライブメンバー以外で、超重要な男キャラも出てくるんですよねー。
お、匂わせか?
と言うより、もう核心に触れてますよね。
でも、重要=味方の思考はやめた方がいいです。
そして、最後にボッチと化したあくたん。
偽の魔導書という鍵を持ったあくたんが一人で進んでいきますが、果たして大丈夫でしょうか……。
あ、最後に一言。
作者はホロライブ好き故に、メンバーがあまりにも酷い仕打ちに遭うのは嫌なので、基本的にヤバい描写はないです。
ですが、意識を失ったり、少し怪我したり、などはストーリー上起きてしまうのでご理解を。
それではまた。