森のどこか。
一人のオオカミ少女がとぼとぼ歩いていた。
「はぁ~、ウチ一人でこんなところ……」
そう、怖いの大嫌い、大神ミオ。
護身用なのか、中途半端な長さのそこそこ堅い木の枝を持って得意の注意力で周囲を見回しながらテキトーに歩く。
ここでは獣人の鼻も耳も全く役に立たない。
役に立つのは夜行性動物として備わった暗視だけ。
「途中までフブキと一緒に逃げてたはずなのにぃ~」
爆弾魔からの逃亡時、フブキと同じ方向に走り、途中までは背後にフブキの気配を感じていたが、足を止めて振り返ったときにはもういなかった。
訳あって方向を変えたのか、若しくは疲れて立ち止まったのか。
少なくとも爆弾魔に何かされた訳ではないだろう。
あやめとフレアが残って対処してくれたのを背後に感じていたから分かる。
「お願いします神様、怖い人とかお化けとかに合いませんように」
天の見ない中、天に祈る。
天は見えなくとも、神はいつでも見てくれているはず!
もう神頼み以外に術がない。
ここへ来る前にも、神頼みの一環として占ったが、出てきたのは塔の逆位置。
気持ちや心に区切りがつかないと言う意味がある。
これから向かう場所が塔だと言うこと意外に特に繋がりはなさそうだ。
正直、微妙だった……。
ガサッ。
「何!」
一瞬揺れる草に機敏に反応するミオ。
神頼みした途端に何かの気配。
早速神に見放されたか……!
サッ、と草を揺らして何かが動く。
「……」
恐ろしくなり、息を潜める。
草の揺れる音は次第に近づく。
「……」
ガサッ、ヒュッ!
と、近づいた音は一瞬にしてミオの側を通り過ぎる。
その時、ミオは通り過ぎる黒い影を見た。
「ぁ……ぁ……」
もう目から涙が滲んでいる。
その影はミオに気付いていないのか、そのまま遠くへ駆け抜けていった。
そしてミオは、腰を抜かしてしばらく動けなくなった。
*****
独りぼっちで逸れてしまった者達が多い中、二人で同じ方向に逃げた者達もいる。
それは、偶然の産物だが、意外にも偶然ではないのかもしれない。
「ぺこら、よく道分かるね」
「そりゃ当然! ぺこーらには心強い味方がいるぺこだからな」
薄暗い森で地図のない中、サクサクと進むぺこらにるしあが感心する。
ゲームでも方向感覚微妙で、何事も自分から踏み込むことのない性格なのに、珍しい。
そう思っていたが、どうやら仲間がいるらしい。
「強い味方って?」
「それは秘密ぺこな」
「え、何で秘密にするの? 何で?」
「る、るーちゃん、声のトーンが怖いぺこ……」
るしあの圧力にぺこらが怯む。
「秘密にしないと不都合なことがあるぺこなんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
るしあの赤い瞳は、暗い森の中でも光る。
瞳は反射で光るため、暗いと反射できないはずだが、るしあの目は恐ろしい雰囲気に発光している。
ネクロマンサー特有の小さな力なのか。
正直どうでも良い力だ。
「それよりるーちゃん、浮遊できるんだから先に塔に行ってていいぺこなんだよ?」
ぺこらの背後を常に追いかけ、幽体にすらならない。
態々面倒くさい選択をしているように思える。
のだが、
「それがさぺこら、なんかこの森の木、幽体でも通り抜けられないの」
「マジぃ~、何で?」
「そんなのるしあ知らないよ」
どうやら既に一度試みたら失敗したらしい。
あくあとともに森に入り、歩幅を合わせていたが、爆弾魔により逸れる。
そして一度抜け出そうとしたが、まるで結界やバリアのように森の木々がすり抜けを妨害する。
爆弾魔がいたような空の見える空間であれば森の上へ行けるだろうが、戻り道は分からないし、他の似た空間がどこにあるかも分からない。
だからぺこらが自信を持って進むのに便乗して後方腕組みしている。
「ん~? これどこだー?」
不意にぺこらが立ち止まり、怪しい発言をする。
「ぺこら⁉ 迷子とかじゃないよね⁉」
ここで杞憂が発生。
本当に杞憂だったためよかったが、不安感は増した。
るしあの疑念に大丈夫と答えると、また歩き始めた。
しばらく歩いたが、一向に塔の気配はない。
真っ直ぐ歩いてきた感覚もなく、本当に不安。
更に歩いて、歩いて……。
「――! るーちゃん……」
「……? 何?」
突然ぺこらが険しい顔をしてるしあを呼ぶ。
「るーちゃん、もし塔について大量に見張りがいて、その人達に見つかったら、その人達を殲滅できる?」
急に物騒な仮定。
随分な内容にるしあは引き気味に多分と答えた。
「……るーちゃん、よく聞いて」
「う、うん……」
剣幕な視線に、るしあは首を引く。
そのるしあに、ぺこらはそっとあることを伝えた。
*****
二人で逃げたペアはあと二つ。
その内のワンペア、スバルとちょこ。
「スバルー、ちょっと待って-」
よたよたと千鳥足になりながら声だけで泣きつくちょこ。
「おいちょこ先もっと気張れ! 次またさっきみたいなことが起きたらもう庇ってくれる味方もいねえんだぞ!」
恐ろしい現実を突きつけちょこを激励する。
叱咤でも鼓舞でもない激励方法。
流石、マネージャー。
先生すらも奮い立たせる。
「ちょこもう無理ぃ~」
疲労の限界に達したちょこが足を止めてへたり込む。
「おいちょこ先、こんな森の中でへばんな。置いてくぞ」
「ちょっとくらい待ってよ~、スパルタ過ぎる」
「だってお前、こんな所でさっきみたいな奴とか獣とかに出会ったら一巻の終わりだぞ。万事が休するんだぞ」
「そんなこと言ったってさ~、ちょこもうへとへとで……」
スバルが危険信号を発するが、やはりもう体力がまずいらしい。
「じゃあ5分だけ休んだらまた歩くぞ」
「ええぇ~、5分~?」
「文句言うな、スバルだって疲れてるけど頑張ってんだぞ」
決して甘んじることなく、五分間の休憩を取る。
その休憩の間に、スバル達が来た方角からあやめが走ってきた。
「スバル、ちょこ先生。何してんのこんなとこで」
二人を見て、すぐに足を止める。
ぱっと見てちょこの疲労困憊は納得。
「ちょこ先が疲れた疲れたってうるさいからさぁ……」
困ったもんだとため息をつく。
だが、ちょこも、むしろ逆にそんな元気なのがおかしいのだと反論する。
言い分はどっちもどっち。
ちょこが音を上げるのは早すぎるが、スバルのようなド根性でこんな奇怪な森を平然と進むアイドルも普通ではない。
だが、あやめもどちらかと言えばスバル側の思想なためちょこの意見は不利な立場にある。
「よし、五分たったぞ」
スバルからの悲報に「もう?」と呟きながらゆっくりと腰を上げた。
「そもそも塔の場所も確実性に欠けるのに……」
「じゃあちょこ先が先頭行けよ」
「ま、まあまあ」
少し圧力を強め始めたスバルをあやめが宥める。
「余が先導するから」
正直何の解決にもならないが、話題をそらす意外に収束させる方法が浮かばなかった。
しかし意外にもあやめが先導することで二人とも落ち着き始めた。
もしかすると互いに、先の見えない道に感情が揺れていたのかもしれない。
そこにあやめという心強い味方がいることで、精神が安定したのだろう。
ここで言うあやめは、所謂精神安定剤。
「……」
「……あやめ様?」
しばらく先頭を行っていたあやめが立ち止まる。
真後ろにいたちょこがぶつかりそうになるがそれは回避。
そのちょこにスバルもぶつかりそうになる。
「偶然とはあるものですね。魔法士の集うこの地で巡り会う二人の剣士。素敵です」
あやめが立ち止まって見つめる視線の先から、紳士のような格好をした男性が綺麗な身なりを保って現れる。
草木が生い茂り、日の光すらまともに届かないこの森の中、地味な色の服のその男性を視認できたのは相当距離が詰まってからだった。
口調と服装により、ダンディーな顔つきが一層男前に見える。
紳士的ながら、機動力のありそうな服装。
だが、男性の言葉から推察するに、彼は剣士。
しかしながら刀のようなものが見受けられない。
代わりと言っては相当差があるが、フェンシングの剣――もっと正確に言えば、少し長めのサーブルのような細心の鉄の棒。
剣士のように見えぬ外見でも、ここは今述べられたように魔法士の集う土地。
刀が見えなかったり、体が刀だったり……若しくは別の何者かがここに潜んでいたり。
様々な方法で剣士を隠すことができる。
「好戦的ですね。そう言うの、好きですが」
二本の愛刀をおもむろに抜き、式神を呼び出す。
男性も一切驕ることなく腰の細すぎる剣を引く。
「おいあやめ!」
「あやめ様……」
後方に引きながらも、あやめの戦闘モードに警鐘をならすように名前を呼ぶ。
「大丈夫。剣士には弱点がある。この人にも、余にも、ほぼすべての剣士に……」
男性と見合い、牽制しながら口だけを動かす。
「それは一度に多人数を相手にできないこと」
「……」
男性が背筋を伸ばし、片手で細い剣先斜めに向けてそう語る。
まさにその通り。
剣士としては常識。
アニメや漫画を見る者にとっては頭にない常識。
「三刀流だろうが、九刀流だろうが、刀身が見えなかろうが、斬撃が飛ぼうが、相手が不死身だろうが何だろうが、一度に何人もの相手をすることは不可能」
「……そう」
常識は常識だし、事実だが、こうも見事に的中させてくると不気味だ。
まるで自分はその中に当てはまらない例外なのだと暗示しているようで……。
あやめは一層警戒心を高めて小さく頷いた。
「じゃあ、スバル達も手伝えって事か⁉」
「えっ、ちょこも⁉」
「逆では?」
「……」
協力要請と勘違いして動揺する二人を冷静にさせようとしたが、それを相手が行う。
「恐らく鬼神嬢は、私が一人しか相手できないから、その隙に……逃げろ、それとも進め?でしょうか」
どうやら心を読めるわけではないらしい。
最後の濁し方が本当に読めていなかった。
しかし、今の言葉で考えを改める。
ここまで心を当てられる中、相手が示すとおりの行動をすれば思うつぼだ。
「……いや、二人はここを離れて」
一度考えを改め、それをもう一度改める。
敵が何を考えているのか分からなければ、当初の作戦で突破すべきだ。
下手に作戦を変更して、苦手な行動をさせても、失敗を誘発するだけだ。
「でも……」
ちょこが紳士をちらと見て憂慮する。
スバルも同様だ。
「案外、渋るね」
あやめが意外そうに笑って、汗を流す。
久々に彼女の八重歯が光った。
「ご心配なさらずとも、私は無力な者を襲いません。それにたとえ襲ったとしてもっ――」
「――‼」
突如、紳士が剣を振るってスバルに斬りかかる。
速度が洗練されすぎており、尋常ではない。
到底逃げられる隙などない。
そのレーザービームのような剣撃をあやめが刀で受け止めた。
「このように、護られます」
涼しい顔であやめに斬撃を受け止めさせる。
これ以上の長居は無用だ。
「行きな!」
近い距離、あやめの叫びが木霊する。
怯んでいる二人。
「早よ!」
あやめの咆哮と共に剣撃の応酬合戦が始まる。
二人の動きに無駄はない。
もうこの場にはいられない。
「ちょこ先!」「スバル!」
ちょことスバルが同時に叫び、真逆の方向に走り出す。
「はあ? こっちだろ」
「ちょこの勘がこっちって言ってるのよ」
何故か意味のない喧嘩が勃発する。
あやめも紳士も、もう二人を気にとめる余裕はないというのに。
「ちょこ先が帰りたいって言うから逃げようとしてんだろ、スバル達はこっちから来たはずだ!」
「はあ⁉ スバルが気張れって言ったんじゃない。だから塔がありそうなこっちに行くって言ってるの」
しかも驚愕の事実。
なんと二人は先までの相手の考えを尊重し、相手の取りたがっていた行動を選択していた。
この場へ来て紳士と見合い、方向感覚がなくなったため、どこがどこか分からないが二人は脳内コンパスに自信ありげに各方向を指す。
その間も剣士二人の啀み合いは止まることがない。
寧ろ剣裁きや体術のキレが上昇しつつある。
次第に世界に入り込んで言っている。
「ちょこ先!」「スバル!」
言い合っても埒があかない。
その結論に至り、二人は近づいて右手を出し合う。
「「最初はグー、じゃんけんポンっ! あいこでしょっ! しょっ! しょっ!」」
勝敗は……
「おら、こっちだちょこ先!」
「分かったよ~!」
当初の自分の意見の道(多分)だというのに、少し不満そう。
不満満載で、文句垂ら垂らでもちょこはしっかりと走る。
あやめと紳士の拮抗した剣術勝負を背後に聞きながら。
どうも、作者でございます。
今回は一度に3場面を描きました。
目紛しく変化して申し訳ないです。
で、まずミオしゃ。
はあちゃまとアキロゼが見たと言う「黒い影」を彼女もまた見ました。
何でしょうね、本当に……。
その後ミオしゃは腰抜かしてますが、ちゃんと動きますよ、流石に。
次にうーぺーるーぺー。
正直自分、このペア好きなんですよね。
あ、関係ないですね。
でまあ、ぺこらが見たもの、そして見えているものとは何か。
最後にスバちょことお嬢。
お嬢の剣士対決はまあ、異世界的に言えば必然かなと……。
スバちょこはなんだかんだでいいですよね。
あの二人もどうなったのか……。
それで、ここで少しいくつかまた報告です。
今回もこの先もなのですが、ホロライブはメンバー全員がいて成り立つものです。それ故に、こう言ったバトル章などでは、もし一人でも欠けていたら誰かが死んでいたかも!という展開にしていくつもりです。
ですので、戦犯はいませんし、必ず一人に地味な形でも必須の花を持たせます。
どうかこの先もご期待を。
それでは。